■■ 日本管理会計学会2015年度第2回(第46回)九州部会が、2015年7月25日(土)に九州産業大学(福岡市東区)にて開催された(準備委員長:浅川哲朗氏(九州産業大学))。今回の部会では、九州以外に関西・中部からもご参加をいただくなど、10名近くの研究者や実務家、大学院生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1報告は、田尻敬昌氏(九州国際大学)より、「組織スラックとフィードフォワード・コントロール―スラック形成とその戦略的展開」と題する研究報告がなされた。本報告は、組織スラックをフィードフォワード・コントロールの観点から再検討することを目的としたものである。
組織スラックの機能には、戦略的行動やイノベーションを促す機能があり、例えば、組織が利害対立関係下にあっても、組織スラックを利用することでイノベーションが起こる可能性がある。報告者は、フィードフォワード・コントロールにおいては見積値と目標値の差異を解消することに焦点があてられているものの、組織スラックの機能に焦点をあてた場合には、当該差異は解消するのではなく、「合意形成が得られるであろう次善的に適切な値」に設定すべきとして、会計情報の指標間において対立関係が生じていることに言及している。
■■ 第2報告は、緒方光行氏(福岡常葉高等学校)より、「キャリア教育の視点に立った管理会計の指導法について」と題する研究報告がなされた。本報告は、平成25年度の高等学校学習指導要領の改訂により、新たに導入された「管理会計」の現場での現状と課題を説明した上で、キャリア教育で重視されるようになった観点別評価の実態を紹介したものである。
観点別評価の導入背景には、検定試験合格の勉強に偏重しすぎている現状が問題視されていることがあり、観点別評価を導入することにより、会計指標の理解力や表現力が求められるようになっている。報告では、話し合い活動としてKJ法や、発表方法としてワールドカフェ方式など、様々な取り組みが紹介されているものの、管理会計では、高校生を対象にした管理会計の教材が不足している現状から、高大接続などによる指導の充実が求められていることがあげられている。
■■ 第3報告は、招聘講演として、今井範行氏(名城大学)より、「デュアルモード管理会計とプロアクティブスラック―予算スラックの順機能性に関する一考察―」と題する研究報告がなされた。本報告は、逆機能的な予算スラックとは異質の順機能的な予算スラックとして、トヨタ的業績管理会計の事例を取り上げ、その要諦について「プロアクティブスラック」として概念化をはかるとともに、その管理会計的意義について考察を加えたものである。
トヨタなどグローバルに事業展開する企業では、企業外部の想定 外の潜在リスクを予見することが難しい。そのためトヨタでは、為替レートや販売数量など収益ドライバーの前提を「保守的」な水準に置き換えた利益計画を提示して、その保守的に置き換えた分の利益減少分を、追加的なコスト低減策の策定でカバーすることが求められている。報告では、当該コスト低減策により、順機能的な予算スラックとしてプロアクティブスラックが形成されていることが、設例や図表を用いて紹介されている。
足立俊輔 (下関市立大学)
■■ 日本管理会計学会2015年度第1回(第45回)九州部会が、2015年4月18日(土)に中村学園大学(福岡市城南区)にて開催された(準備委員長:水島多美也氏(中村学園大学))。今回の部会では、九州以外に関西・関東からもご参加をいただくなど、10名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1報告は、谷守正行氏(専修大学)より、「サービス業における原価計算に関する研究―銀行のポストABCアクションリサーチを通して―」と題する研究報告がなされた。本報告は、わが国の銀行で導入されてきたABCによって算出される顧客別情報の問題点を解決するために、より現場感覚に合う顧客別情報を提供するABCの配賦方法をアクションリサーチに基づいて提示することを目的としたもの である。
従来の銀行ABCは、業務量が配賦基準に設定されており、事務をこなせばこなすほどコストになってしまうことに対して現場の違和感が高まっていた。そこで報告者は、顧客の関連性情報(年齢や職種、契約状況など)に基づいて必要資源量(窓口・ATM・ネット)と関連させて顧客別原価を算出する配賦手法を提示している。報告では、当該手法によるABCのアクションリサーチの結果が示され、関連性情報に基づく配賦手法は現場の納得感が高く、原価計算担当者の作業負担が軽減されたことが明らかにされた。
■■ 第2報告は、宮地晃輔氏(長崎県立大学)より、「造船業における人的資産・組織資産の高度化への取組みと課題」と題する研究報告がなされた。本報告は、長崎県佐世保地域で行われている造船人材活性化への取り組みについて、その現状と課題を明らかにしようとしたものである。
報告では、段階的な人口減少により地域衰退が懸念される長崎県の現状と、地域雇用の側面から造船業の再浮揚の必要性が説明された上で、新造船事業の競争力を高めるための人材育成が求められていることが示された。報告者は、日本の新造船事業の外注化率は約85%であることから、地元協力先企業との連携強化も国際競争力を高める上で必要不可欠であり、こうした現状を経営者階層(地元地方金融機関からの人材など)に理解させるための意識改革をサポートしていくことが課題であると指摘している。
■■ 第3報告は、西村明氏(九州大学名誉教授)より、「企業リスクマネジメントと機会/機会原価統制システム」と題する研究報告がなされた。本報告は、近年グローバル企業が抱えるリスクに対して管理会計が果たすべき役割について、利益機会とリスク管理の構造から明らかにしようとしたものである。
報告では、リスク管理と管理会計の有機的な統合を実現するための機会・機会原価統制システムが提示され、当該システムによる企業価値創造とガバナンスの側面から最適利益を算出するための統制プロセスが、図表や設例によって提示された。報告者は、これからの管理会計には、事前行為的視点を強化しなければならないことや、リスク管理の透明性を高めるために財務会計との融合が求められていること、そして社会経済的な視点が必要とされていることが指摘された。
■■ 研究報告会の後、総会が行われた。総会では前年度の会計報告と今年度の九州部会開催の議題が出され、双方とも承認を得た。今年度の九州部会については、第46回大会は7月25日に九州産業大学にて、第47回大会は福岡大学にて11月に開催予定である。報告会終了後、開催校のご厚意により懇親会が開催された。懇親会は有意義な研究交流の場となり、盛況のうちに大会は終了した。
足立俊輔 (下関市立大学)
■■ 日本管理会計学会2014年度第44回九州部会が、2014年11月22日(土)に西南学院大学(福岡市早良区)にて開催された(準備委員長:高野学氏(西南学院大学))。今回の部会では、九州以外に関西・関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1報告は、吉田栄介氏(慶應義塾大学)および徐智銘氏(慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程)より、「日本企業の品質コスト志向性:実態調査に基づく探索的分析」と題する研究報告がなされた。本報告は、高品質と低コストの両立を志向するといわれてきた日本企業の管理活動実態について、郵送質問票調査(有効回答 会社数130社、回収率15.3%)の結果に基づいて考察を加えたものである。
報告では、4つの仮説((1)日本企業は高品質と低コストを同時的に実現しているのか、(2)日本企業における高品質・低コストの実現と業績管理はどのような関係があるのか、(3)日本企業における高品質・低コストの実現と関係する管理・活動はどのような関係があるのか、(4)日本企業における高品質・低コストの優先性について、どのような全体的傾向があるのか)が提示された。(1)については、高品質と低コストを同時的に実現している傾向があること、(2)については、事業戦略と業績目標、特にプロセス指標との整合性が、高品質・低コストの実現のために重要であること、(3)については、高品質と低コストの実現に対して、多様なコストマネジメントが機能していることが明らかにされた。また、(4)については、品質・コスト志向性に基づいて企業群を4つに分類し、仮説的に発展モデルが提示された。
■■ 第2報告は、高野学氏(西南学院大学)より、「東日本大震災以降の電気事業における総括原価方式の役割」と題する研究報告がなされた。本報告は、電気事業で電気料金総収入を算定する際に、従来から採用されてきた「総括原価方式」が、東日本大震災による福島第一 原発の事故により新たに発生した原発事故費用を考慮するようになってから、どのように役割変化がみられたのかについて考察を加えたものである。
報告では、(1)原発被害者への損害賠償の財源となる一般負担金は、新たな営業費項目を追加することによって総原価の中に算入し、原子力事業者の利用者から徴収していることや、(2)福島第一原発の廃炉費用である減価償却費ならびに解体引当金は、その算定方法を変更することにより、廃炉後も総原価の中の営業費に算入することが認められ、電気料金で廃炉費用が回収されていることなどが明らかにされた。
■■ 第3報告は、浅川哲郎氏(九州産業大学)より、「オバマ改革以降の病院マネジメントシステムの変化について」と題する研究報告がなされた。本報告は、アメリカのオバマ政権によって2010年に立法化された医療保険制度改革法(ACA)により、病院規模や病院組織に変化が生 じているのか、また、病院の経営形態にどのような変化がみられているのかについて、報告者の現地調査に基づいて明らかにしようとしたものである。
報告では、ACA以前に皆保険を実施したマサチューセッツ州の病院として、マサチューセッツ総合病院のほか、ハーバード大学医学部、ジョスリン糖尿病研究所、ボストン子供病院などが紹介された。そして、(1)オバマ医療制度改革は、米国の医療システムを劇的に変える可能性があることや、(2)マサチューセッツ州では、ハーバード大学の関連病院のような最先端病院においても、時間主導型活動基準原価計算(TDABC)のような原価計算システムを導入し、業務改善を図っていることが示された。
■■ 第4報告は、田坂公氏(久留米大学)より、「フルーガル・エンジニアリングと原価企画」と題する研究報告がなされた。本報告は、インドで考案されたフルーガル・エンジニアリング(FE)と原価企画の関連性を検討し、開発の現地化の新たな方向性を考察しようとしたものである。報告は、原価企画とFEの関係性を、(1)支援体制 と(2)設計開発プロセスの面から明らかにしている。
報告では、FEは新興国で生まれた手法であるが、先進国への逆輸入まで考えているリバース・イノベーションとは異なると捉え、FEを活用した原価企画は、(1)空洞化には関係していないこと、(2)開発を完全に現地化すれば、ノウハウの技術流出を抑えられること、(3)新製品を新興国市場で生産・販売し成功を収めるための効果的な手段になりうることが、その展望として明らかにされた。
■■ 研究報告会終了後、懇親会が西南クロスプラザ(ゲストルーム)にて開催された。懇親会は有意義な研究交流の場となり、盛況のうちに大会は終了した。
下関市立大学 足立俊輔
■■ 日本管理会計学会2014年度第43回九州部会が、2014年7月26日(土)に九州大学(福岡市箱崎)にて開催された(準備委員長:大下丈平氏(九州大学教授))。今回の部会では、九州以外に関西・中部・関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1報告は、角田幸太郎氏(別府大学講師)より、「英国プロサッカークラブにおける人的資源の会計と管理の事例研究」と題する研究報告がなされた。報告は、プロサッカークラブの人的資源の測定・評価の先行研究(Morrow(1992)、Risaliti and Verona(2013)など)が財務会計の分野が中心であることを指摘した上で、人的資源に関する管理会計/マネジメント・コントロールの側面からの分析を目的としたものである。報告は文献研究のほか、英国・日本のプロサッカークラブへのヒアリング調査に基づいたものである。
報告では、(1)英国プロサッカークラブでは、企業外部に向けて積極的に選手価値の会計と開示を行っており、選手の移籍金を巡る1995年のボスマン判決以降、その評価方法に変遷が見られること、(2)Oxford United FC Ltdや(株)大分フットボールクラブへのヒアリング調査から、選手の業績評価システムと給与査定システムの実態や相互関係の情報を得ることができたことが明らかにされた。
■■ 第2報告は、黒瀬浩希氏(九州大学大学院博士後期課程)より、「グループ子会社におけるCSRマネジメント・コントロールの事例研究」と題する研究報告がなされた。本報告は、グループ子会社(飲料製造・販売グループの物流子会社X社)におけるCSRマネジメント・コントロールについての事例研究である。具体的には、Epstein and Roy(2001)やDurden(2008)、細田・松岡・鈴木(2013)の先行研究をグループ子会社に適応した場合、フォーマル・コントロールシステム(FCS)やインフォーマル・コントロール・システム(ICS)にどのような影 響が生じるかを明らかにしたものである。
報告では、(1) Epstein and Roy(2001)のSLiM(サステナビリティ・リンケージ・マップ)分析は、グループ子会社においてもサステナビリティ業績と財務業績の双方を向上させる有効な手段となりうること、(2)FCSにおいて指標化が困難な「コンプライアンス」や「リスク管理」といったCSR業績は、研修や人権学習などのICSを通じて補完されていることが明らかにされた。
■■ 第3報告は、木村眞実氏(沖縄国際大学准教授)より、「自動車静脈系サプライチェーンへの試案MFCA」と題する研究報告がなされた。本報告は、自動車の静脈産業(使用済自動車の解体・製錬を行う業者)に試案MFCA(マテリアルフローコスト会計)を適応することで、廃棄物の削減と資源の有効利用につなげる生産プロセスの検討を目的としたものである。具体的には、使用済自動車の付着物ワイヤーハーネスに解体加工を施すプロセスに試案MFCAを適応し、そのプロセスの「見える化」を図ろうとしたものである。
報告では、(1)使用済自動車(ELV)の組成データは自動車メーカーからは開示されていないため、静脈産業にインプットされる製品が資源として有効利用できるかどうかは実証試験を実施しないと判断は難しいこと、(2)しかしながら、静脈産業にとって、生産プロセスにおける物量情報と金額情報が提供できるMFCAは有用なツールとなり得ることが明らかにされた。
■■ 第4報告は、西村明氏(九州大学名誉教授)より、「企業経営戦略とリスクマネジメント」と題する研究報告がなされた。報告は、企業が抱える様々なリスクの態様を、経営活動全体の中に位置づけて管理するために、管理会計がどのように貢献することができるかを明らかにしようとしたものである。
報告では、リスク管理の手順と構造を、フィードバック統制とフィードフォワード統制の側面で分析することで、利益機会 の開発・実現から企業価値創造に向かうプロセスが明らかにされた。その上で、リスクを経営管理全体の中に位置づけるためには、戦略リスク・経営財務リスク・業務リスクそれぞれに対応したリスク対応が必要であり、そのためにはリスク尤度と期待損失額の関係でリスク態様を描き、そのリスクの経営対応を具体的に検討する。報告者は以上のプロセスを、企業が実際に抱えるリスク問題と関連させながら明らかにしている。
■■ 研究報告会の後、総会が行われた。総会では、前年度の会計報告と今年度の九州部会開催の議題が出され、双方とも承認を得た。また、次回の九州部会は、11月22日に西南学院大学にて行われることが情宣された。
下関市立大学 足立俊輔
■■ 日本管理会計学会2014年度第1回関西・中部部 会及び第42回九州部会が、2014年4月19日(土)に下関市立大学(下関市大学町)にて開催された(準備委員長:島田美智子氏(下関市立大学教授))。今回の合同部会では、関西・中部・九州以外に関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また研究報告に先立ち、関西・中部部会役員会が開催された。
■■ 第1報告は、水島多美也氏(中村学園大学)より、「アメーバ経営における時間当り採算での時間の意味」と題する研究報告がなされた。報告は、京セラアメーバ経営を対象に、1.どのような時間が扱われているのか、2.時間と管理会計・原価計算との関係、3.業績評価会計や意思決定会計といった管理会計体系論からの検討の3点を、文献レビューに基づき明らかにしようとしたものである。
報告では、1.アメーバ経営の「総時間」には、「共通時間」や「振替時間」が加味されているため、「時間」は広範な概念となっていること、2.各アメーバだけの指標ではなく、全社的な視点から時間当り採算を考えなければならないため、「利益連鎖管理」や「速度連鎖効果」の概念が存在していること、3.期間計画の重要な要素として時間が使われていることから、時間を中心に業績評価会計や意思決定会計が展開されていることが指摘された。
■■ 第2報告は、岡本健一氏(タスクサポート株式会社)より、「小規模事業者への管理会計の仕組みの導入の実情」と題する研究報告がなされた。本報告は、小規模事業者に管理会計の仕組みを導入させるにあたり生じる問題点と、その具体的な解決策やポイントが提示された。 大企業で導入される高度な管理会計システムは、小規模事業者にとってコストと手間がかかり導入は難しいものの、部門別独立採算制でサブリーダーを育成することや、事業の採算性をあげて会社 を生存させることは必要不可欠であるため、管理会計システム導入は必要である。
報告では、こうした時間・スタッフ・資金の面で苦労する小規模事業者でも管理会計の導入に意欲をもたせるためには、「1人時間当り粗利」を用いるなど、分かりやすく感覚がつかみやすい指標を実際に提示することの重要性が指摘され、また、そうした資料を作成するための会計ソフトが紹介された。
■■ 第3報告は、島田美智子氏(下関市立大学)より、「財務報告の”Managerialisation”と会計変化の今日的意味ーZambon [2011]の解釈を通じてー」と題する研究報告がなされた。本報告は、Zambon [2011]の所説を手がかりとしながら、財務報告と管理会計の関連性に関する検討を新しいディメンジョンで展開することを目的として、「財務報告と管理会計の相互作用的進化」の現状について論点整理を行い、当該現状の今後の展開方向を洞察しようとしたものである。
報告では、財務報告の”Managerialisation”の諸側面とその進展過程、財務報告の”Managerialisation”の外的作用因についてのZambon [2011] の解釈が説明された上で、Zambon [2011]の問題提起が有する含意として、1.財務報告の”Managerialisation”が不可避的な現象であるとするならば、当該現象の進展を前提としたうえで、財務報告のレレバンス・リゲインに向けた制度設計を構想する必要があることや、2.財務報告と管理会計が密接に絡み合う近年の会計変化は、財務報告の中心的問題点を改めて炙り出し、財務報告の概念と役割の再定義が求められていることなどが、報告者の総括的な解釈として提示された。
■■ 研究報告会の後、大学生協にて懇親会が開催され、実りある交流の場となった。
足立俊輔(下関市立大学)
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