2025年度第1回(第68回)九州部会開催記

2025年5月17日(土)13:50~17:30

■■ 日本管理会計学会2025年度第1回(第68回)九州部会が、2025年5月17日(土)に、長崎県立大学佐世保校(長崎県佐世保市)にてハイブリッド方式で開催された(準備委員長:長崎県立大学教授・宮地晃輔氏)。長崎県立大学長の浅田和伸氏および準備委員長のご挨拶の後、特別講演および研究報告がおこなわれた。対面参加・オンライン参加合わせて40名近い研究者、実務家、および大学院生・学部生の参加を得て活発な質疑応答がおこなわれた。

宮地氏

 

■■ 特別講演は、株式会社佐々木冷菓代表取締役副社長の佐々木裕二氏により、「ニッチャー戦略から読み解く佐々木冷菓の軌跡と今後の物流機能強化」と題しておこなわれた。食品流通商社である佐々木冷菓は、常温・冷蔵・冷凍の三温度帯の食品を広く扱っており、2003年ごろからニッチャー戦略として「フローズン物流」という分野に特化し、アイスクリーム売場の棚割りや納品時の陳列などのリテールサポートにも強みを発揮していること、また物流2025年問題に対処するための働き方改革として、倉庫での荷物の積込み・荷下ろしや配送先店舗での納品陳列応援ではスポットバイトが活躍しており、その成果としてルートスタッフの帰社後滞在時間が大幅に短縮していること、さらに自社商品のみならず他社商品の一般貨物輸送にも進出することで地域物流インフラとしての存在価値を高めていること、などが紹介された。

佐々木氏

 

■■ 研究報告の第1報告は、⻆田幸太郎氏(佐賀大学教授)により、「プロスポーツ組織におけるマネジメント・コントロール・システムの事例研究」と題する報告が行われた。2020年に⻆田氏が出版した『プロサッカークラブにおけるマネジメント・コントロール・システム―オックスフォード・ユナイテッドFCの事例―』以降の同チーム(OUFC)におけるマネジメント・コントロール・システム(MCS)の変化やチーム成績との関係、さらにJリーグクラブおよびBリーグクラブなど国内のプロスポーツ組織の事例との比較を示された。チーム成績不振による解任や好業績(昇格)による引き抜き等によりサッカークラブの監督の交代サイクルは短いこと、オーナーよりも監督にMCSの決定権があり前監督のもとで有効に機能していたMCSであっても新監督が変更してしまうこと、⻆田氏が公刊したOUFCの事例を参考にしてインセンティブ・システムの改良を進めているJリーグクラブがあることなど、が紹介された。

⻆田氏

 

■■ 研究報告の第2報告は、水島多美也氏(中村学園大学教授)により、「スループット会計の基本モデルに関する一考察―ゴールドラットの所説を手掛かりに―」と題する報告が行われた。スループット会計の提唱者であるE.GoldrattのThe GoalThe Haystack Syndromeなどの原点に立ち返り、スループット・在庫・業務費用の3つの評価指標、コスト・ワールドとスループット・ワールド、時間の問題について再検討された。付加価値とは製造時に製品に付加されるものではなく製品の販売時に会社に付加されるものであること、コスト・ワールドが製品別のコストや利益に捕らわれるのに対しスループット・ワールドは制約の発見・解消と会社全体のスループット最大化に注視すること、制約によるタスクの遅れに起因する機会損失を1日の逸失スループット額×日数という考え方で表現することにより時間の問題を組み入れていること、などを紹介された。

水島氏

 

■■ 研究報告会終了後、九州部会総会が開催された。次回の九州部会は2025年10~11月に開催予定である(開催校未定)。

 

文責:丸田(西南学院大学)

日本管理会計学会 2025 年度第1回関西・中部部会のご案内

会員の皆さまにおかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、下記の要領にて、日本管理会計学会 2025 年度第 1 回関西・中部部会を京都大学(準備委員長:澤邉紀生)を開催校として、ハイブリッド方式(対面+オンライン) にて開催いたします。

今回はゲストスピーカーとして野田正史氏(株式会社プラス代表取締役社長)をお招きし、ご講演を頂きます。また、自由論題報告として多様なテーマにて2件のご報告を予定いたしております。

なお、部会参加費は無料です(懇親会は開催いたしません)。万障お繰り合わせのうえ、ご参加賜りますようご案内申し上げます。

参加をご希望の方は、準備の都合上、6月1日(日)までに、下記のリンク先 Google フォームからお申込みください。オンライン参加の皆さまには、別途、Zoom ID を送信させていただきます。

(参加申込フォーム)

https://forms.gle/wv81ztSiEk8XBMen6

1.日時: 2025 年 6 月 14 日(土) 13 時 30 分~16 時 50 分

2.開催場所:京都大学吉田キャンパス(京都府京都市左京区吉田本町)

3.報告会場:総合研究2号館1階講義室1

4.お問い合わせ先: 京都大学大学院経済学研究科 セルメス鈴木寛之

E-mail:hiroyuki.suzuki[at]econ.kyoto-u.ac.jp([at]を@に変換してください。)

※交通アクセスおよびキャンパスマップについての詳細は以下をご覧ください(会場は34番の建物になります)。

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/yoshida/map6r-y

 

プログラムのダウンロードは、こちら

2025年度第1回フォーラム開催記

 2025年度第1回フォーラムは,2025年4月26日(土)14時00分から16時30分まで,日本大学商学部において対面形式で開催された。開会に先立ち,本学会会長 﨑章浩氏(東京国際大学)よりご挨拶を賜り,引き続き,関谷浩行(日本大学)の司会によりプログラムが進行した。

﨑章浩会長挨拶

 本フォーラムでは,特別講演として飛田甲次郎氏(株式会社Goldratt Japan・パートナー)をお迎えし,あわせて根本萌希氏(鹿児島国際大学)・梅田充氏(金沢星稜大学)による共同研究報告,および友寄隆哉氏(産業能率大学)による研究報告の計3件が行われた。
 当日は,非会員,学部生・大学院生17名を含む70名の参加があり,いずれの特別講演・研究報告に対しても活発な質疑応答が交わされ,大変有意義な議論が展開された。フォーラム終了後には懇親会も催され,参加者間の親睦が一層深まった。盛況のうちに本フォーラムは無事に閉会した。

〔特別講演〕
◎講演者:飛田甲次郎氏(株式会社Goldratt Japan・パートナー)
◎講演題目:全体最適の意思決定に資するスループット会計

飛田甲次郎氏による特別講演

 飛田氏は,制約理論(TOC)に基づくスループット会計をテーマに講演を行い,企業活動における全体最適の意思決定の重要性を説いた。まず,組織の目的を「現在から将来にわたってお金を稼ぎ続けること」,さらに「すべてのステークホルダーにとっての価値を上げること」と定義され,その実現には,オペレーションの主要な目的をフロー(リードタイム)の改善におくべきであると主張した。
制約理論の基本的な考え方として,部分最適を排除し,全体の流れを阻害する制約(ボトルネック)に集中すべきことが必要である。作業の過剰投入やマルチタスクの弊害が生産性や品質に与える悪影響について,具体例を交えて説明された。
 続いて,スループット会計の特徴について解説された。スループットとは「販売によって,システム(企業)がお金を作り出すレート」であり,「販売するまでカウントしない」,「配賦を一切しない」,「スループットは制約によって律速される」といった特徴を有する点が強調された。このような仕組みによって,従来の会計手法では捉えにくかった収益性や意思決定基準を,より明快かつ直感的に把握できることが示された。とりわけ,「制約消費時間当たりのスループット」を指標とすることで,製品別の収益性比較,内製か外注かの判断,投資の優先順位づけが合理的に行えることが示された。
 具体的な実践例として,株式会社ユニフローの事例が紹介された。同社の主な販売製品はスイングドアで,マーケットシェアは約8割である。同社では,設計部門がボトルネックとなり,受注後の設計変更や手戻りが多発し,リードタイムの長期化と市場機会の逸失が課題であった。そこで同社は,限界利益率だけでなく制約資源の使用量を加味して意思決定を行い,フローの最適化を図った。その結果,売上高は40%増加し,営業利益率は0.5%から8.4%へと16倍にまで向上した。
 講演の締めくくりとして飛田氏は,今後の経営には専門的な会計知識がなくとも直感的に理解でき,現場でも活用可能なシンプルかつ全体最適志向の意思決定会計が必要不可欠であると述べられ,スループット会計と制約理論の積極的な導入を呼びかけた。

◎参考ホームページ:『ザ・ゴール』アニメオンデマンドURL:
https://www.goldrattchannel.net/premiere

〔研究報告〕
第1報告
◎報告者:根本萌希氏(鹿児島国際大学)・梅田充氏(金沢星稜大学)
◎報告題目:BSCの導入が離職率と従業員エンゲージメントに与える影響:混合研究法に基づくシングルケーススタディ

根本萌希氏による研究報告

 本報告では,医療機関における人材確保の難しさや,従業員エンゲージメントに対応する手法として,バランスト・スコアカード導入の効果を検証したシングルケーススタディの成果が紹介された。リサーチサイトは,東京都清瀬市にある社会福祉法人慈生会ベトレヘムの園病院(許可病床数96床)であり,混合研究法に基づき,定量・定性の両面から長期的に分析が行われた。
 研究は3段階で構成され,第1にバランスト・スコアカード導入と体制整備,第2に運用と研修プログラムの実施,第3に人的資源の成果との関係性の検討が行われた。特にバランスト・スコアカードのコミュニケーション機能に注目し,戦略のカスケードや部門間の情報共有,外部ステークホルダーとの関係構築といった組織的効果が取り上げられた。分析手法には中断時系列分析,ウィルコクソン符号順位検定,スピアマン順位相関分析を用いられ,導入前後の統計的変化が検証された。
 結果として,病院全体および看護師の離職率は有意に低下し,エンゲージメントスコアは明確に向上したことが示された。両者の間には強い負の相関が確認され,バランスト・スコアカードが人材マネジメントに資する有効な手段であることが示唆された。一方で,単一事例に基づく一般化の限界や,指標変更といった方法論的制約も指摘されている。今後は複数の医療機関を対象とした比較研究や,医療の質や患者安全性との関連性の検討,さらには職員の意識変容プロセスに焦点を当てた研究の展開が期待される。

第2報告
◎報告者:友寄隆哉氏(産業能率大学)
◎報告題目:企業価値創造プロセスの可視化

友寄隆哉氏による研究報告

 産業能率大学は,90年以上にわたって企業の研修に講師を派遣し,実務家教育に豊かな実績を築いてきた。友寄氏は,同大学における企業研修での経験を出発点として,管理会計を中核に据えた企業価値創造プロセスの可視化に取り組み,新たな教材および講座の開発を進めている。
 本報告ではとくにバランスト・スコアカードと統合報告を連携させることにより,企業価値創造の構造を体系的に捉え,戦略の策定と実行を一体的に支援するマネジメントの枠組みについての文献研究の成果が報告された。具体的には,エーザイ株式会社の統合報告書(2021年度より「価値創造レポート」に改称)を分析対象とし,戦略マップの活用により,財務情報と非財務情報の因果関係が可視化され,社内における情報の結合性が向上している点が指摘された。
現在,日本企業におけるバランスト・スコアカードの導入率は依然として低水準にあるものの,エーザイで実践されたように統合報告との組み合わせにより,統合思考の醸成,情報の結合性の向上,ステークホルダーとの関係強化,そしてマテリアリティの可視化など,多面的な効果が期待できることが示された。
 結論として,統合報告は単なる情報開示の手段にとどまらず,ステークホルダーによる戦略的情報活用を支えるマネジメント・ツールとして再定義されるべきであると提言された。戦略マップを活用した情報の開示と情報利用の意義が強調され,経営戦略の実行と社会課題の解決とを両立させる重要性が指摘された。

文責:関谷浩行(日本大学)