■■ 日本管理会計学会2014年度第43回九州部会が、2014年7月26日(土)に九州大学(福岡市箱崎)にて開催された(準備委員長:大下丈平氏(九州大学教授))。今回の部会では、九州以外に関西・中部・関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1報告は、角田幸太郎氏(別府大学講師)より、「英国プロサッカークラブにおける人的資源の会計と管理の事例研究」と題する研究報告がなされた。報告は、プロサッカークラブの人的資源の測定・評価の先行研究(Morrow(1992)、Risaliti and Verona(2013)など)が財務会計の分野が中心であることを指摘した上で、人的資源に関する管理会計/マネジメント・コントロールの側面からの分析を目的としたものである。報告は文献研究のほか、英国・日本のプロサッカークラブへのヒアリング調査に基づいたものである。
報告では、(1)英国プロサッカークラブでは、企業外部に向けて積極的に選手価値の会計と開示を行っており、選手の移籍金を巡る1995年のボスマン判決以降、その評価方法に変遷が見られること、(2)Oxford United FC Ltdや(株)大分フットボールクラブへのヒアリング調査から、選手の業績評価システムと給与査定システムの実態や相互関係の情報を得ることができたことが明らかにされた。
■■ 第2報告は、黒瀬浩希氏(九州大学大学院博士後期課程)より、「グループ子会社におけるCSRマネジメント・コントロールの事例研究」と題する研究報告がなされた。本報告は、グループ子会社(飲料製造・販売グループの物流子会社X社)におけるCSRマネジメント・コントロールについての事例研究である。具体的には、Epstein and Roy(2001)やDurden(2008)、細田・松岡・鈴木(2013)の先行研究をグループ子会社に適応した場合、フォーマル・コントロールシステム(FCS)やインフォーマル・コントロール・システム(ICS)にどのような影響が生じるかを明らかにしたものである。
報告では、(1) Epstein and Roy(2001)のSLiM(サステナビリティ・リンケージ・マップ)分析は、グループ子会社においてもサステナビリティ業績と財務業績の双方を向上させる有効な手段となりうること、(2)FCSにおいて指標化が困難な「コンプライアンス」や「リスク管理」といったCSR業績は、研修や人権学習などのICSを通じて補完されていることが明らかにされた。
■■ 第3報告は、木村眞実氏(沖縄国際大学准教授)より、「自動車静脈系サプライチェーンへの試案MFCA」と題する研究報告がなされた。本報告は、自動車の静脈産業(使用済自動車の解体・製錬を行う業者)に試案MFCA(マテリアルフローコスト会計)を適応することで、廃棄物の削減と資源の有効利用につなげる生産プロセスの検討を目的としたものである。具体的には、使用済自動車の付着物ワイヤーハーネスに解体加工を施すプロセスに試案MFCAを適応し、そのプロセスの「見える化」を図ろうとしたものである。
報告では、(1)使用済自動車(ELV)の組成データは自動車メーカーからは開示されていないため、静脈産業にインプットされる製品が資源として有効利用できるかどうかは実証試験を実施しないと判断は難しいこと、(2)しかしながら、静脈産業にとって、生産プロセスにおける物量情報と金額情報が提供できるMFCAは有用なツールとなり得ることが明らかにされた。
■■ 第4報告は、西村明氏(九州大学名誉教授)より、「企業経営戦略とリスクマネジメント」と題する研究報告がなされた。報告は、企業が抱える様々なリスクの態様を、経営活動全体の中に位置づけて管理するために、管理会計がどのように貢献することができるかを明らかにしようとしたものである。
報告では、リスク管理の手順と構造を、フィードバック統制とフィードフォワード統制の側面で分析することで、利益機会の開発・実現から企業価値創造に向かうプロセスが明らかにされた。その上で、リスクを経営管理全体の中に位置づけるためには、戦略リスク・経営財務リスク・業務リスクそれぞれに対応したリスク対応が必要であり、そのためにはリスク尤度と期待損失額の関係でリスク態様を描き、そのリスクの経営対応を具体的に検討する。報告者は以上のプロセスを、企業が実際に抱えるリスク問題と関連させながら明らかにしている。
■■ 研究報告会の後、総会が行われた。総会では、前年度の会計報告と今年度の九州部会開催の議題が出され、双方とも承認を得た。また、次回の九州部会は、11月22日に西南学院大学にて行われることが情宣された。
下関市立大学 足立俊輔