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日本管理会計学会2025年度第2回関西・中部部会開催記

2025年11月28日 尾花忠夫(愛媛大学)

日本管理会計学会2025年度第2回関西・中部部会は、2025年11月15日(土)に愛媛大学(愛媛県松山市)を主催校として開催された。部会準備委員長から進行方法の説明があり、続いて窪田祐一関西・中部部会長から開会の挨拶が行われた。

今回の部会は対面(来会)とWeb(Zoom)を併用したハイブリッド形式であり、対面参加者は10名、Web参加者は7名であった。以下、各報告の概要と特別講演について簡単に紹介する。

第一部〔研究報告〕 司会:尾花忠夫氏(愛媛大学)
第1報告 
報告者:近藤隆史氏(京都産業大学)
論題 :「創造的タスクにおけるインセンティブ効果の条件依存性:NKモデルを用いた数
値実験」

近藤氏による報告は、創造的タスクにおけるインセンティブの効果を数値実験により定量的に分析することを目的とし、創造的な成果に対するインセンティブ設計の課題について、シミュレーションを通じた理論的な考察を提供した。

先行研究は、インセンティブが量を促すと発散を助長する一方で質が低下し、質を促すと収束を促す一方で提出行動が抑制されるという「発散と収束のトレードオフ構造」を指摘している。本研究の目的は、このトレードオフを解消し、統合的なパフォーマンスを高めることが期待されるハイブリッド・インセンティブの効果を、タスクの複雑さ(低・中・高の3水準)や探索戦略の違い、さらには内在するバイアス(心理的・構造的)を考慮した上で検証することにあった。検証手法として、管理会計分野では珍しいNKモデルを用いた数値実験が採用された。NKモデルを用いることで、タスクの複雑性を操作し、発散と収束の探索を再現できるランドスケープが構築され、ランダム探索を行うエージェントの成果(質、量、複合指標CP)が測定された。

結論として、ハイブリッド・インセンティブの効果は「バランス調整として控えめに理解しておく」べきであり、相乗効果は単純なタスクに限定される可能性が示された。中程度の複雑さにおける不安定性や心理的バイアスに対処し、その効果を最大限に引き出すためには、共通理解の徹底や追加的な調整操作が必要であると提言された。本研究は、ラボ実験では操作や誘発が難しい要因をモデル化することで、インセンティブ行動との関係を体系的に理解する仕組みを提供した点で、理論的な貢献を果たしている。

第2報告 
報告者:森本和義氏(羽衣国際大学)
論題:「サステナビリティ経営と管理会計」

森本氏の報告は、従来の管理会計研究が株主価値最大化と事業部長の業績目標の整合性をいかに確保するかという課題から、現代的なサステナビリティの要請へと関心を移してきた経緯を示した。従来、プリンシパル=エージェント関係を前提に、最適なインセンティブ設計が探求され、会計利益から導かれる残余利益(RI)が、事業部長に最適投資を誘導する最適指標とされた。しかし、現代では「Profit、People、Planet」というサステナビリティの要請が強まる中、金銭的インセンティブだけでは不十分であるとの問題意識が示された。ボールズのモラルエコノミーに基づき、金銭的誘因の過度な利用が倫理的、他者考慮的な動機を弱める点が指摘され、日本の自動車産業に見られる互恵的な慣行が非金銭的動機の重要性を示す事例として紹介された。

さらに、サステナビリティにおける取締役会の役割に焦点を移し、現行のコーポレートガバナンス・コードが株主第一主義の影響を残しつつもサステナビリティを課題としている点、またエージェンシー理論と対立するスチュワードシップ理論が経営者のエンパワーメントを重視する点が論じられた。株式会社をコミットメントの装置と捉えるメイヤーの議論や、CSR経営を許容する日本の会社法の例外規定も確認された。

結論として、今後の管理会計は物的資本だけでなく、自然資本や労働者の福祉、コミュニティへの貢献といった非金銭的資本を取り込む必要があると強調され、経済人モデルと自己実現人モデルの共存、従業員のエンパワーメント、非金銭的インセンティブ設計が課題であると示された。

第二部〔特別講演〕 司会:尾花忠夫氏(愛媛大学)
講演者:水口皓介氏(水口酒造株式会社 代表取締役社長)
講演テーマ:「道後から世界へ、世界から道後へ 水口酒造の挑戦」

特別講演では、地域密着型酒造会社が直面する課題、グローバル展開に向けた具体的戦略、そして現代的な経営手法の導入について語られた。まず、企業の強みとして、道後温泉に隣接する希少な立地と、愛媛県産「さくらひめ酵母」を用いた日本酒が海外コンテストでも高く評価されている点が挙げられた。また、日本酒以外にもクラフトビール、焼酎、ジンなど多様な製品を製造し、長期サイクルの日本酒事業を補完していることが説明された。

経営課題としては、売上の約85%が松山市内(道後周辺を含む)に依存している点が最大の弱みであり、地域外・海外への販路拡大が不可欠と説明された。そのため、財務会計中心の経営から脱却し、原価管理や予実管理を可能とする管理会計への移行を進めているとの説明があった。また、近年の原材料費や最低賃金の上昇に対応するためにも、迅速な経営判断を支える管理会計の重要性が強調された。このことに加え、外部人材の登用や学生インターンの活用、社内のDX化やプロジェクト管理能力を組織に浸透させる取り組みも紹介された。

今後の水口酒造の戦略として、「道後から世界へ、世界から道後へ」というビジョンのもと、輸出増加を通じてブランド価値を高め、最終的には海外顧客を道後に誘客すること、長期的には、酒蔵の一部移転を行い、体験型施設・テーマパーク化の構想、高付加価値な観光体験の提供と収益拡大を図る方針が示された。また、科学的データと杜氏の官能評価データを蓄積し、品質の再現性を高めることが今後の重要課題であると述べられた。

以上の自由論題2報告、講演会のいずれにおいても報告後の質疑応答では参加した研究者と報告者との間で活発な議論が交わされ、盛会のうちに、全プログラムが終了した。

日本管理会計学会第2回関西・中部部会の開催について

会員の皆さまにおかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、下記の要領にて、日本管理会計学会 2025 年度第2 回関西・中部部会を愛媛大学(準備委員長:尾花忠夫)を開催校として、ハイブリッド方式(対面+オンライン)にて開催いたします。

今回はゲストスピーカーとして水口皓介氏(水口酒造株式会社 代表取締役社長)をお招きし、ご講演を頂きます。また、自由論題報告として2件のご報告を予定いたしております。

なお、部会参加費は無料です(公式での懇親会は開催いたしません)。万障お繰り合わせのうえ、ご参加賜りますようご案内申し上げます。

参加をご希望の方は、準備の都合上、11月10日(月)までに、下記のリンク先 Googleフォームからお申込みください。オンライン参加の皆さまには、別途、Zoom ID を送信させていただきます。

(参加申込フォーム)
https://forms.gle/h5gf1b73awcjdodaA

1.日時:2025年11月15日(土)13時30分~16時45分
2.開催場所:愛媛大学城北キャンパス(愛媛県松山市文京町)
3.報告会場:社会共創学部本館4階ラーニングコモンズ1
4.お問い合わせ先:愛媛大学社会共創学部 尾花忠夫
E-mail:obana.tadao.bp[at]ehime-u.ac.jp([at]を@に変換してください。)

※交通アクセスおよびキャンパスマップについての詳細は以下をご覧ください。
https://www.ehime-u.ac.jp/about/access/#sc-01

関西・中部部会プログラム ⇒ ダウンロード

2025年度第2回リサーチセミナー報告者募集のご案内

日本管理会計学会・会員各位

2025年度第2回リサーチセミナーを2025年12月6日(土)にオンラインにより開催いたしますので,スケジュールのご案内を申し上げます。報告をご希望の方は,下記の応募要領をご参考の上,ご応募をいただきますようお願い申し上げます。
本リサーチセミナーは若手研究者の研究水準向上の機会として開催されるものです。
報告希望多数の場合には,ご希望に添えない場合もあることをご了解の上,お申込み下さい。またその場合,若手研究者を優先するものといたします。

参加申込の案内につきましては後日,プログラムの確定後に,もう一度連絡いたします。

              記

開催日:2025年12月6日(土)
開始時刻:14時より(予定)
開催方法:オンライン(Zoom)
進行:報告30分,討論15分,フロア質疑10分(予定)

<報告応募要領>
1.締切日:2025年10月31日(金)
2.応募方法:標題に「リサーチセミナー報告希望」と記載し本文中に下記を明記のうえご応募ください。
(1) 報告タイトル・概要(200-300字程度)・言語(日本語または英語):
(2) 氏名:
(3) 所属機関:
(4) 職名:
(5) 連絡先(E-mail):

 なお,ご報告者には,日本語と英語のいずれのご報告の場合にも,11月中旬を目途にFull paperまたはExtended Abstractの提出をお願いいたします。

  1. 応募先:帝塚山大学 松木智子
    matsugitezukayama-u.ac.jp
    件名を「リサーチセミナー報告希望」としてメールにてお申し込みください。

2025年度第2回日本管理会計学会関西・中部部会 報告者募集のお知らせ

2025年8月22日

日本管理会計学会会員各位

2025年度第2回日本管理会計学会関西・中部部会
報告者募集のお知らせ

謹啓 
 残暑の候、会員の皆様にはますますご健勝のことと拝察申し上げます。
 さて、2025年11月15日(土)に、愛媛大学(愛媛県松山市)にて、2025年度第2回日本管理会計学会関西・中部部会を対面とweb(Zoom)との併用にて開催いたします。
 つきましては、自由論題報告における報告者を募集いたします。ご報告をご希望の方は、2025年9月22日(月)までに、下記の要領で、奮ってご応募の程、宜しくお願い申し上げます。
 以上、何卒宜しくお願い申し上げます。

謹白

開催日:2025年11月15日(土)
開催校:愛媛大学(愛媛県松山市)
応募方法:下記の(1)から(5)を明記の上、e-mailにてご応募ください。
 (1)氏名:
 (2)所属:
 (3)職名:
 (4)連絡先:
 (5)報告タイトルと要旨:
応募締切日:2025年9月22日(月)
応募先:愛媛大学社会共創学部 尾花忠夫
    e-mail;obana.tadao.bpehime-u.ac.jp

以上

2025年度第2回日本管理会計学会関西・中部部会
準備委員長 尾花忠夫

 

 

2025年第1回関西・中部部会 開催記

2025年6月14日 

 日本管理会計学会2025年第1回関西・中部部会が、2025年6月14日(土)に京都大学(吉田キャンパス)を主催校として開催された。今回の部会も、対面とWeb(Zoom)を活用したハイブリッド開催となった。
 部会の開催にあたり、まず、澤邉紀生部会準備委員長からプログラムや進行方法に関する説明があり、次いで、窪田祐一関西・中部部会長から開会のご挨拶をいただいた。

 その後、プログラムにしたがって、特別講演1件及び自由論題報告2件の発表がなされ、活発な質疑応答が行われた。参加者は43名(対面28名、オンライン15名)であった。以下、特別講演、各報告の概要を簡単に紹介する。

第一部[特別講演] 司会:セルメス鈴木寛之(京都大学大学院経済学研究科 准教授)
講演者:野田 正史氏(株式会社プラス 代表取締役社長)
講演テーマ:「農業所得向上に貢献する 農産物直売所野田店舗経営」

 特別講演では、株式会社プラス代表取締役社長の野田正史氏より直売所の経営を中心にお話を頂いた。はじめに、会社の概要が説明された。店舗数は33店舗(和歌山17店舗 大阪府9店舗 奈良県6店舗 兵庫県1店舗)、登録している生産者数は約9,000名で本社は田辺市に構えているとの説明があった。続いていくつかの店舗の様子が写真で紹介されたが、どれも工夫された店構えであることが鮮明に見てとれた。そして話は店舗が誕生した経緯へと移っていった。1号店開業当初にはなかなか知名度や売上が伸びないなどご苦労も多くあったが、「手間ひまかけて作っても、従来の出荷ルートでは誰が生産者か分からないため、他の人と同じ扱いをされる」ことに不満を感じていた生産者にとってはやりがいを感じられるビジネスモデルとなっていることが分かり、手応えを感じたことなどが説明された。
 次に、スーパーと比較したときの直売所の違いを述べながら、同社が運営する直売所の特徴が詳述された。例えば、品揃えに関しては、スーパーは幅広い商品を揃えているのに対して、直売所ではナショナルブランドを敢えて置かない場合が多いことや、地元産を中心とし、肉や魚は店舗毎の置かれた状況に応じて取り扱いの有無を柔軟に使い分けていることが紹介された。また、売れ残り品に関しては、スーパーでは自店舗が負担するのに対して、直売所では生産者が負担する点が大きな違いとして紹介された。さらに、多店舗展開を行うことで個々の生産者の売上高増大に大きく貢献できるようになったことが幾つかの事例と共に紹介され、流通の部分は同社が担うことで生産者の負担を抑えていることや、それでも中には自分が出品している店舗の一つ一つを見て回るような意欲的な生産者もいることなどが併せて説明された。最後に、比較を通じて浮き彫りとなる直売所のメリット・デメリットがまとめられた。特に、大きなメリットとして、流通を大幅に省略することで生産者にとっては手取り額が増え、同時に消費者にとっても価格が抑えられる点や、生産者にとっては消費者の声がよりダイレクトに感じられるようになり、消費者の声がモチベーションとなる点が挙げられた。これに対し、デメリットとして、同社の運営する直売所ではないものの、補助金を活用した一部の道の駅や直売所では非効率と思われるような運営がなされているケースもあることが紹介された。
 また、スーパーと直売所の違いについて、会計的な数値からの考察も示された。具体的に、上場されている同規模のスーパーおよび直売所が実際に公開している財務諸表を比較し、費用構造や資産構造の違いが対比された。とりわけ、損益計算書おいては販管費に大きな違いが見て取れ、この理由として、スーパーでは肉を加工する段階などに多くの人材を要する一方、直売所はそうした人材が不要なため比較的人件費が抑えられることが挙げられた。また、貸借対照表においては在庫リスクの有無により棚卸資産に如実な違いがみられ、その結果として棚卸資産回転率や総資産回転率にも大きな差が表れていることが数字をもって示された。これらの違いにより、直売所はスーパーよりも効率的な経営ができる可能性が高いと結論づけられた。
 講演後は、多店舗経営によるカニバリゼーションの有無や、スーパーの中にある直売コーナーと直売所の違い、直売所のより詳細な利益構造、他の直売所との差別化のポイントなどの多くの質問が挙がり、非常に活発な質疑応答となった。

 

第二部 司会:セルメス鈴木寛之(京都大学大学院経済学研究科 准教授)
第1報告
報告者:矢野 厚登氏(京都大学経営管理大学院博士後期課程)
論題:中小病院におけるマネジメントコントロールシステム

 本研究では、中小病院の6事業所の理事長・事務長に対するインタビュー結果に基づく考察、病院のマネジメント・コントロール・システム(以下MCS)に関するフレームワークの検討、および厚労省「医療施設経営安定化推進事業報告書」における17事業所の調査結果に基づく分析が示された。
 分析の結果として、中小病院におけるMCSは「会計・組織・文化・クラン」のパッケージとして機能しており、また、その浸透・定着には事務長の役割が極めて重要であることが示された。特に、事務長が管理会計の知識と病院業務の理解を充実させた上で経営会議に参加することで、トップ(理事長)と現場をつなぐ“連結管”としての役割を果たすことになり、これらの要素を備えることが中小病院におけるMCSの浸透・定着に寄与することが示された。

 

第2報告 
報告者:重田 直人氏(The University of Information Technology and Management Rzeszow, Doctor of Business Administration)
論題:「Relationship Between Outside Director and Corporate Value Improvement Strategy」

 本研究では、近年、企業による不祥事の多発を背景として導入例が増えている社外取締役が企業価値の向上に資するか否かの検証がなされた。具体的には、企業価値の代理変数としての企業による開示の質、コーポレートガバナンス構造、および社外取締役比率に関する3つの仮説を導出し、日本企業3,500社を母集団とするデータソースから100サンプルを抽出して検証を行った。
 分析の結果、仮説2は2022年のデータでは棄却されたものの2015年のデータでは支持され、仮説1および仮説3はいずれのデータにおいても支持された。以上の結果を踏まえ、社外取締役は少なくとも部分的には企業価値向上に寄与していると結論した上で、それ以外の企業価値向上要因についても探索的な検討が示された。


 なお、以上の2報告いずれにおいても報告後の質疑応答では参加した研究者・院生や実務家などと報告者との間で活発に議論が交わされ、盛会のうちに部会の全プログラムを終了し、澤邉準備委員による挨拶をもって閉会した。