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2022年度第1回リサーチセミナー開催記

2022年6月21日
大阪公立大学 新井康平

 2022年度第1回リサーチセミナーは, 2022年6月18日(土)13時30分~16時50分に対面・Zoomのハイブリッド形式で開催されました。当日の参加者はのべ65名(うち,ZOOM参加者は最大時33名)となりました。日本管理会計学会・副会長である椎葉淳氏(大阪大学)より開会の挨拶があり,準備委員長の新井より閉会挨拶を行いました。本リサーチセミナーでは,いわゆる若手研究者の研究報告および討論につづき,それらの研究報告に関連したチュートリアルセミナーが開催されました。コロナ対策のために紙での資料配布を避けるなど,参加者には事前にPDFファイルが配布されるなどの対応がなされました。
 第1報告は,岩澤佳太氏(東京理科大学)・石田惣平氏(立教大学),第2報告は牧野功樹氏(拓殖大学)でした。また討論者として,第1報告に対しては佐久間智広氏(神戸大学),第2報告に対しては庵谷治男氏(東洋大学)から,それぞれ研究内容の要約・評価と研究の改善に役立つコメントが数多く提示されました。
 チュートリアルセッション1では,井上謙仁氏(近畿大学)と濵村純平氏(桃山学院大学)を講師に迎えて,財務諸表データを利用した分析について,実際のデータベース(NEEDS-FinancialQUEST 2.0)の利用方法の解説が行われました。チュートリアルセッション2では,町田遼太氏(東京都立大学)と荻原啓佑氏(早稲田大学)を講師に迎えて,インタビューデータなどの定性的データについてソフトウェアを利用して分析するQDA(Qualitative Data Analysis)について,実際のソフトウェア(NVivo)を利用した解説および演習が行われました。チュートリアルセッションは,終了後も関連した質疑や議論がたえず,こちらから会場からの退出をお願いしなければならないほどの盛会となりました。

【第1報告】岩澤佳太氏・石田惣平氏(東京理科大学経営学部・立教大学経済学部)
報告タイトル:予算参加が業績予想におよぼす影響
報告概要:本研究の目的は,予算参加が,企業外部者に向けて公表される業績予想にどのような影響を及ぼすかを解明することにありました。データは日本の上場企業を対象とした郵送質問票調査とアーカイバルデータ,両者のデータを結合し,分析に利用しています。分析の結果,(1)ミドルマネジャーの予算参加の程度が高いほど業績予想は悲観的になること,(2)従業員の金銭的報酬と企業業績の関係が強い企業ほど予算参加と業績予想の関係性が強まることなどが明らかになりました。

岩澤佳太氏

佐久間智広氏

【第2報告】牧野功樹氏(拓殖大学商学部)
報告タイトル:中小企業における資本予算の採用―QDAによる中小企業へのインタビュー調査の分析―
報告概要:中小企業がどのようなマネジメント・プロセスを経て,投資を実行しているのかは,ほとんど調査されていない点を踏まえて,本報告では,中小企業の資本予算実務をインタビュー調査によって,記述することを目的とされていました。釧路・根室地区における中小企業を対象としたインタビュー調査の結果について,質的データ分析(Qualitative Data Analysis)を実施し,①戦略の変更,②大企業との関連の2点がマネジメント・プロセスのあり方に影響を及ぼしていることが明らかにされました。


牧野功樹氏

庵谷治男氏


■チュートリアルセッション1

井上謙仁氏

■チュートリアルセッション2


町田遼太氏

第1回リサーチセミナーの案内について

日本管理会計学会 会員各位

日本管理会計学会第1回リサーチセミナーについて,下記のとおりのプログラムで開催することになりましたので,再度ご案内申し上げます。
感染症予防のための対面参加の定員(約80名)にご注意ください。もしも定員の超過があった場合は先着順とし,定員外の方はZOOMでの参加をお願い致します。ただし,ZOOMの中継については,低品質であったり中断の可能性がございます。

6月6日までに申込みをされた方には,論文ファイルなどをダウンロードできるドロップボックスのアドレスを6月11日までに順次,案内する予定です。もし,開催日の前日までに連絡がない場合,お手数ですが新井までご一報ください。6月7日以降の申込みの場合,案内が直前になる予定です。ご容赦ください。
なお,セミナー前日までに,関連資料はこちらのドロップボックスに順次アップロードされる予定です。感染症対策のため,紙資料の配布を控えるように大学側から指示されておりますので,こちらのデータを利用されますよう,ご注意ください。

開催日時:2022年6月18日(土)13時30分開始 17時00分終了
開催方法:対面
(ZOOMによる中継も予定。ただし,質疑などは対面が優先されます。また,中継は低品質であったり中断の可能性があります。)※1
場 所:大阪公立大学なかもずキャンパス(https://www.osakafu-u.ac.jp/info/campus/nakamozu/)
B1棟 第2講義室(予定)※2
※1 新型コロナの感染状況によっては,全面的にZOOMなどに移行する可能性があります。
※2 大阪公立大学は,2022年4月に大阪市立大学と大阪府立大学の合併により誕生する新大学です。
学会会場は,商学部がある旧大阪市立大学のキャンパスではなく,旧大阪府立大学のキャンパスです。

<概要>
【第1報告】13:35-14:20(報告時間20分,討論25分)
報告タイトル:予算参加が業績予想におよぼす影響
概要:本研究の目的は,企業内の予算管理実践,中でも多くの企業で採用されている予算参加が,企業外部者に向けて公表される業績予想にどのような影響を及ぼすかを解明することにある。データは日本の上場企業を対象とした郵送質問票調査とアーカイバルデータを活用している。分析の結果,(1)ミドルマネジャーの予算参加の程度が高いほど業績予想は悲観的になること,(2)従業員の金銭的報酬と企業業績の関係が強い企業ほど予算参加と業績予想の関係性が強まることなどを明らかにした。
氏名:岩澤佳太・石田惣平(東京理科大学経営学部・立教大学経済学部)

討論者:佐久間智広先生(神戸大学大学院経営学研究科)


【第2報告】14:30-15:15(報告時間20分,討論25分)
報告タイトル:中小企業における資本予算の採用―QDAによる中小企業へのインタビュー調査の分析―
概要:従来の大企業の資本予算を対象とした研究では,経済性評価技法やマネジメント・プロセスに着目し,採用要因やパフォーマンスへの影響が質問票調査によって検証されてきた。一方で,中小企業がどのようなマネジメント・プロセスを経て,投資を実行しているのかは,ほとんど調査されていない。そこで,本研究は中小企業の資本予算実務をインタビュー調査によって,記述することを目的とする。そして,インタビュー調査の結果について,質的データ分析(Qualitative Data Analysis)を実施し,中小企業における資本予算の採用の決定要因を探求する。
氏名:牧野功樹(拓殖大学商学部)

討論者:庵谷治男先生(東洋大学経営学部)


【チュートリアル・セミナー1】15:30-16:05
担当:井上謙仁先生(近畿大学経営学部),濵村純平先生(桃山学院大学経営学部)
セミナータイトル:管理会計研究における日経NEEDSデータの利用入門
概要:第1報告の岩澤・石田報告にあるように,近年,管理会計分野でも財務諸表データを利用した研究が増加している。本セミナーでは,これまで日経NEEDSデータを利用したことがない研究者へ向けて,
・質問票と財務諸表データを利用した論文の事例紹介
・日経NEEDSによるデータ取得の解説・実演
を行う。


【チュートリアル・セミナー2】16:15-16:50
担当:町田遼太先生(東京都立大学経済経営学部),荻原啓佑先生(早稲田大学商学学術院)
セミナータイトル:管理会計研究におけるインタビューデータのQDA入門
概要:第2報告の牧野報告にあるように,近年,管理会計分野でもインタビューデータをQDAソフトウェアにより分析するというアプローチが増加している。本セミナーでは,これまでQDAを利用したことがない研究者へ向けて,
・QDAを利用した論文の事例紹介
・Nvivoによるデータ取得の解説・実演
を行う。なお,Nvivoは14日間無料トライアルが可能なので,インストールしたPCを持参すると,より理解が深まるものと思われる。


参加申込:新井康平(旧所属:大阪府立大学経済学研究科,新所属:大阪公立大学商学部)
件名を「リサーチセミナー参加希望(対面 or ZOOM)」として,下記の内容をメール本文に記載の上,お申し込みください。
arai[at]omu.ac.jp,[at]を@に変更のこと。
(新井の旧大阪府立大学のアドレスは,近日中に連絡が出来なくなる予定ですので,使用しないでください。)
・お名前
・ご所属
・連絡先メールアドレス
・対面 or ZOOMでのどちらの参加希望か

2022年第1回リサーチセミナーの報告者募集について

管理会計学会 会員各位

日本管理会計学会は,第1回のリサーチセミナーを下記のとおり開催することになりましたのでご案内申し上げます。報告をご希望の方は,下記の応募要領をご参考の上,ご応募をいただきますようお願い申し上げます。
本リサーチセミナーは若手研究者の研究水準向上の機会として開催されるものです。報告希望多数の場合には,ご希望に添えない場合もあることをご了解の上,お申込み下さい。
参加申込の案内につきましては後日,プログラム(予定)の確定後にもう一度連絡いたします。

 記

 開催日時:2022年6月18日(土)13時30分開始(予定)
開催方法:対面
 (ZOOMによる中継も予定。ただし,質疑などは対面が優先されます。また,中継は低品質であったり中断の可能性があります。)※1
 場 所:大阪公立大学なかもずキャンパスB1棟 第2講義室(予定)※2

 ※1 新型コロナの感染状況によっては,全面的にZOOMなどに移行する可能性があります。
 ※2 大阪公立大学は,2022年4月に大阪市立大学と大阪府立大学の合併により誕生する新大学です。

 学会会場は,商学部がある旧大阪市立大学のキャンパスではなく,旧大阪府立大学のキャンパスです。

 

 <応募要領>

  1. 締切日:2022年4月29日(金)

  2. 応募方法:標題に「リサーチセミナー報告希望」と記載し本文中に下記を明記のうえご応募ください。

 (1) 報告タイトル・概要(200-300字程度)・言語(日本語または英語):
 (2) 氏名:
 (3) 所属機関:
 (4) 職名:
 (5) 連絡先:
なお,御報告者には,日本語と英語のいずれのご報告の場合にも,6月上旬頃までにFull paperまたはExtended Abstractの提出をお願いいたします。

  1. 応募先:新井康平(旧所属:大阪府立大学経済学研究科,新所属:大阪公立大学商学部)
    件名を「リサーチセミナー報告希望」として,下記にお申し込みください。
    arai[at]omu.ac.jp,[at]を@に変更のこと。
    (新井の旧大阪府立大学のアドレスは,4月中に連絡が出来なくなる予定ですので,使用しないでください。)

 敬具

2021年度第3回フォーラム開催記

2021年12月18日
神奈川大学 平井裕久,小村亜唯子

 2021年度第3回フォーラムは、2021年12月18日(土)13時30分~16時05分にZoomを用い、オンラインで開催されました。当日は、30名前後の先生方のご参加をいただきました。日本管理会計学会・副会長の椎葉淳氏(大阪大学)に開催の挨拶をしていただきました。
水口剛氏(高崎経済大学)による特別講演、北田真紀氏(滋賀大学)による研究報告(第1報告)、北田皓嗣氏(法政大学)・北田智久氏(近畿大学)・木村麻子氏(関西大学)による研究報告(第2報告)がありました。いずれの報告においても、フロアから質問やコメントがあり、活発な議論が行われました。

特別講演 水口剛氏(高崎経済大学)
講演論題 タクソノミーとトランジションファイナンス
 特別講演では、気候変動問題がなぜ企業価値に影響を与えると考えられているのかについて、脱炭素社会の実現に向けた昨今の世界情勢や基準の整備状況を踏まえながら、解説されました。
 企業が脱炭素を行うに当たり資金調達をするための手段として、グリーンボンドの発行がありますが、どのような活動(あるいは事業)であればグリーン、すなわち気候変動問題の解決に資する活動(あるいは事業)であると判断するか、その基準が曖昧であるという問題が指摘されていました。この問題に対し、欧州委員会がEUタクソノミーを制定しました。EUタクソノミーでは、複数の分野(業界)に対し、どのような技術・活動が気候変動の緩和に資するかについて、その基準(数値)を定めており、EUタクソノミーに合致すれば、それはグリーンな技術・活動として認められ、グリーンボンドを発行することが可能になると説明がありました。反対に、EUタクソノミーに合致しない場合にはグリーンボンドの発行が制限されるだけではなく、石油や石炭については、将来的に使用できなくなることから座礁資産と呼ばれ、石油産業や石炭産業に属している企業の企業価値は低下します。
 次に、金融機関や株主・投資家が脱炭素社会を実現するため、投資先を選定する(例えば、石油産業に属している企業を投資対象から外す等:ダイベストメント)、あるいは、株主・投資家の立場から経営陣と脱炭素に向けて対話する(エンゲージメント)の2つの手法があると示されました。ただし、この2つの手法では今すぐに脱炭素を実現することは難しいが、中長期的に脱炭素することが可能になると考えられる企業に対して投資ができないという問題があり、これに対応するためにトランジションファイナンスが提案されることとなったとの説明がありました。
 最後に、脱炭素を実現するためには、技術革新を企業に強いる(そのための投資やコストがかかってしまう)ことや、経済力の疲弊、石油・石炭産業等にこれまで従事していた従業員のリストラクチャリング等、様々な問題が絡むために、社会全体のトランジション戦略の策定が求められているとして、特別講演を結ばれました。

第1報告 北田真紀氏(滋賀大学)
報告論題 日本の製造業における環境配慮型活動の実態と成果に関する研究-質問票調査と聞き取り調査に基づいて-

 第1報告では、質問票調査と聞き取り調査による、日本の製造業を対象とした環境保全活動の実態とその取り組みの成果に関する調査結果が示されました。
 質問票調査からは、環境配慮型製品を製造していたり、事業所全体の環境負荷の計測・評価を行っていたり、CSR報告書・環境報告書を毎年作成し、公表している企業が多数存在していることが明らかにされました。ただし、同業種・異業種の企業と環境問題解決に向けた実用技術や基礎研究を共同で進めているか、という業務提携の程度は、低水準であることが示されました。
 聞き取り調査からは、上記の業務提携の程度が現状では低水準であることに対し、将来的には可能になるだろうとの見込みがあり、問題視していないことがわかりました。これに対し、社内における環境・CSR担当の人員不足や、従業員環境教育の体制整備、環境会計についての社内での理解が不十分であるといった、質問票調査では明らかにできなかった具体的な課題が、聞き取り調査によって明らかにされたと報告がされました。

第2報告 北田皓嗣氏(法政大学)・北田智久氏(近畿大学)・木村麻子氏(関西大学)
報告論題 個人の資質が業績評価に及ぼす影響-Sustainable Balanced Scorecardsの利用-

 第2報告では、個人レベルのCSRに関する規範(norm)や信念(belief)が、サステナブルバランスドスコアカードおよび戦略マップの表示形式を通じて、サステナビリティ業績評価の意思決定に与える影響について、実験室実験によって検討されました。
 「CSRに対する規範(個人の資質・選好)とBSC等のフォーマットの表示形式の相互作用が、業績評価の意思決定にどのような影響を与えるのか」というリサーチ・クエスチョンを検討するにあたり、理論的枠組みの検討を踏まえ、CSRに関する規範がサステナビリティ指標への意思決定のウェイトを高める、その関係をSBSCフォーマットの利用が調整すると操作化されました。
 実験室実験の結果、SBSCフォーマットを提示された被験者のほうが、サステナビリティ指標へのウェイトを大きくするという傾向があることが示されました。ただし、CSRに関する規範がサステナビリティ指標のウェイトに与える影響と、CSRに関する規範とSBSCフォーマットの利用の交互作用がサステナビリティ指標のウェイトに与える影響は確認されませんでした。今後の課題として、実験室実験において、CSRに関する規範をどのように測定するかがあると指摘をされました。

2021年度第2回リサーチセミナー開催記

2021年11月22日
成蹊大学 伊藤克容

 2021年度第2回リサーチセミナーは、日本原価計算学会および大阪大学との共催で、2021年11月20日(土)14時00分~16時40分にZoomを用いて、オンラインで開催されました。当日の参加者は30名前後でした。日本管理会計学会・副会長である、椎葉淳氏(大阪大学)に、全体の司会を御担当頂きました。日本原価計算研究学会・会長の挽文子氏(一橋大学)より開会の挨拶が、椎葉淳氏(大阪大学)より閉会挨拶がありました。
 第1報告は、吉見明希氏(北海道情報大学)、第2報告は濵村純平氏(桃山学院大学)でした。また、ディスカッサントとして、第1報告に対しては伊藤克容(成蹊大学)、第2報告に対しては呉 重和氏(摂南大学)から、それぞれ研究内容の要約・評価と研究の改善に役立つコメントが数多く提示されました。フロアからもコメント・質問があり、活発な議論が行われました。

第1報告 吉見明希氏(北海道情報大学)
報告論題 コンテンツ制作における工程管理の分析
 第1報告では、インタビュー調査による事例分析に依拠して、コンテンツ制作における管理会計実務に関する特徴、問題点についての考察がなされました。
 通常の製品やサービスの生産においては、原価計算をはじめ、マネジメント・コントロールの視点を包含した原価企画やリーン生産といった手法によって、工程管理の研究が進められてきたのに対して、コンテンツの制作においては、とくに通常の製造業とは異なる、独自の工程管理が必要であることがあきらかにされました。
 コンテンツの制作においても、企画から流通まで、製造業と似た価値連鎖をたどることから、リーン会計のシステムに類似した生産管理手法の適用可能性が示されました。その一方で、コンテンツの制作は、知的かつ無形の創造物を生産するという観点から、そのプロセスは製品開発活動にも性格が近いものと考えられ、両者の異同が検討されました。
 制作進捗の管理手法を具体的に検討するために、本報告では東京都に本社を置く地上テレビ放送局およびその関連番組制作会社に対し、半構造化インタビューを実施しました。その結果をふまえて、組織構造、予算管理の実状、プリプロダクション段階における原価企画的な調整行動、プロダクション段階における納期管理、ポストプロダクションでの取り組みなどが詳細に説明されました。コンテンツの品質を確保するという、非財務的な達成目達を、脚本と日程の調整を介して、制作費という財務的要素に落とし込む作業がなされていたことが発見事項として報告されました。

 

第2報告 濵村純平氏(桃山学院大学)
報告論題 Manufacturer encroachment in a product market and common ownership between supply chain parties
 第2報告では、バイヤー(小売業者)とサプライヤー(メーカー)に共通のオーナー(機関投資家などを想定)がいるとき、サプライヤーの製品市場への進出(encroachment=侵略)が消費者余剰や総余剰にどう影響するかを、独自のモデルを用いて理論的な分析が行われました。具体的なリサーチ・クエスチョンとしては、次の①~③が検討されました。
① common ownership(共通オーナーの存在)の状況が、メーカーのencroachment decision(製品市場への直販の意思決定)にどのように影響するか。
② 小売り業者の利潤にメーカーのencroachmentはどのような影響を及ぼすか。
③ メーカーと小売り業者間のcommon ownership は余剰にどのような影響を与えるのか。
モデルによる分析の結果、サプライヤーの侵略がバイヤーの利得を改善することがあること、サプライヤーの侵略による販路の拡大が消費者余剰を悪化させることがあること、オーナーの支配が強まると総余剰を改善するケースがあることが示されました。
 この結果に関する解釈として、メーカーに対するownership の程度が大きい場合は、小売は数量を増やし、メーカーが数量を減らすケースがある可能性が提示されました。このときは卸売価格も低いと予想されます。その帰結として、encroach しないケースよりも小売の利得は改善することが起こり得ます。
 また、encroachment があるケースとないケースでは、encroachment がないケースの方が市場に多くの製品が供給される場合があります。これは、メーカーのownershipの程度が大きいケースであることから、common ownership が共謀のデバイスとして機能している可能性が示唆されました。