2026年度第1回(第70回)九州部会開催記

2026年6月6日(土)13:25~17:45

■■ 日本管理会計学会2026年度第1回(第70回)九州部会が、2026年6月6日(土)に、西南学院大学(福岡市)にてハイブリッド方式で開催された(準備委員長:西南学院大学教授・丸田起大氏)。準備委員長の挨拶の後、九州部会通算第70回大会を記念した講演会と研究報告会がおこなわれた。対面参加・オンライン参加合わせて40名近い研究者、実務家、および大学院生の参加を得て、活発な質疑応答がおこなわれた。

丸田氏

 

■■ 九州部会通算第70回大会を記念した講演会では、九州部会の発起人のお一人であり、西南学院大学教授(当時)として九州部会第1回大会の準備委員長を務められた浜田和樹氏(元・関西学院大学教授、元・岡山商科大学教授)から「不確実性下での仮説思考の有効性―会計による学習アプローチの重要性―」と題する講演がおこなわれた。冒頭で、九州の管理会計研究者の交流の場を作ろうという設立の趣旨や、第1回から九州の著名企業の経営者を招いた実務家講演を積極的に継続するなど、九州部会設立当時の思い出を語られた。これからの研究に期待することとして、管理会計の分野で確率やローリングなど不確実性を考慮した多くの研究がなされてきたが、不確実性下での意思決定の実施にはフィードフォワードとダブルループ・フィードバックを組み合わせた組織学習が必要であり、それを助けるものとしてリアルオプションや逆損益計算書により仮説の設定・検証を繰り返し実施する仮説思考計画法などの手法が有望であること、などを解説された。

浜田氏

 

■■ 研究報告会の第1報告では、藤田志保氏(慶應義塾大学大学院後期博士課程)により、「日本企業における中期経営計画の類型化」と題する報告がおこなわれた。日本企業の中期経営計画は、策定の志向性に大きな多様性があり、中期経営計画の策定の起点となる目標設定パターンが、その後の実行プロセス(戦略共有・モニタリング・業績評価)の成熟度にどのような影響を及ぼすかを実証的に解明された。東証上場企業を対象に、クラスター分析および多変量解析を実施した結果、日本企業は4つ(総合重視型、外部志向型、年度整合型、発展途上型)に類型化され、外部報告と内部管理の両面を追求する「総合重視型」において実行プロセスの成熟度が最も高く、目標設定の志向性がその後の実行の質を規定していることを明らかにされた。



藤田氏

 

■■ 第2報告では、水野真実氏(熊本学園大学准教授)により、「病院TDABCの適用可能性―タスクシフトの効果検証―」と題する報告がオンラインでおこなわれた。TDABC(時間主導型活動基準原価計算)を医療機関に適用する先行研究が増えている現状のもと、TDABCの適用によるタスクシフトの効果検証といった収益性分析の研究が不十分であることを指摘したうえで、実在病院での人工膝関節置換術に関する5年間の電子カルテや手術システムのデータを用いて、同病院での整形外科医師から手術室看護師へのタスクシフトの効果検証をおこなった。分析の結果、手術時間長期化といった患者への負担を生じさせることなく利益率の向上をもたらしていることが実証され、さらに同病院の執刀医師や経営者へのインタビューにもとづいて病院TDABCの有効性を考察された。



水野氏

 

■■ 第3報告は、手嶋竜二氏(岡山商科大学准教授)により、「コントロール・レバーの測定構造の予備的検討―透明性との関連に着目して―」と題する報告が行われた。Simons(1995)のコントロール・レバー(Levers of Control: LOC)と情報の透明性との関係に着目し、その測定構造を探索的に検討された。LOCの4側面(信念システム、境界システム、診断型コントロール、インタラクティブ・コントロール)と、心理学における透明性の3要素(共有可能性・明確性・正確性)を、ミドル・マネジャーの知覚にもとづく質問票によって測定し、探索的因子分析をおこなった結果、インタラクティブ・コントロールと情報の透明性の間には強い相関が観察された。またLOCの内的一貫性では、診断型コントロールとインタラクティブ・コントロールが因子として明確に分かれない傾向がみられ、両概念がマネジャーの知覚の水準では一体となって理解されている可能性を示された。



手嶋氏

 

■■研究報告会終了後、九州部会総会が開催された。次回の九州部会は、2026年10月に中村学園大学(福岡市)にて開催予定である。

 

文責:丸田(西南学院大学)
写真:⻆田幸太郎氏(佐賀大学)

2026年度第1回リサーチセミナー開催記

 2026年度第1回リサーチセミナーは,滋賀大学を開催準備校(準備委員長:滋賀大学 加藤大智氏)として,2026年6月13日(土)14時00分~16時10分にオンライン形式で開催されました。当日の参加者は約20名でした。開会の挨拶,司会および閉会の挨拶は加藤大智氏(滋賀大学)により行われました。研究報告の第1報告は殷広為⽒ (近畿大学大学院)・早川翔氏(京都産業大学),第2報告は片岡亮太氏(松山大学)でした。いずれの報告についても,討論セッションや質疑セッションにて積極的な質問やコメントがなされ,活発な議論が行われました。

【研究報告1】
報告タイトル:「経営課題に応じた予算目標修正の違い」
報告者: 殷広為氏(近畿大学大学院), 早川翔氏(京都産業大学)

 第1報告では,殷氏より企業のライフサイクルが売上高および利益の予算目標修正に与える影響に関する研究報告が行われました。導入期・成長期の企業では,市場シェア獲得や成長投資が重要であるため,有利差異が生じると売上高目標を大きく引き上げられるが,費用増加を見込むため利益目標の引き上げは相対的に抑えられると考えられる一方で,不利差異が生じた場合には,成長期待を維持するため売上高・利益目標とも下方修正されにくいと考えられます。殷氏らは,こうした予想について日本企業が公表する経営者業績予想のデータを用いて実証的な分析を行いました。分析の結果,企業ライフサイクルによって売上高および利益目標の差異が次期の目標に与える影響が異なることが明らかになりました。この結果は,予算目標の修正行動が企業の直面する経営課題に依存するという重要な研究課題を示唆すると考えられます。
 
【研究報告2】
・報告タイトル:「目標の期中調整に関する研究:期中調整は業績にどのような効果を与えるか」
・報告者:片岡亮太氏(松山大学)

 第2報告では,片岡氏より企業で行われる目標の期中調整が与える影響に関する研究報告が行われました。目標の期中調整に関する先行研究では,期中調整が努力を高めるのか低下させるのかについて理論的・実証的な対立が生じていました。片岡氏はその原因として,調整が行われるという事前の告知の効果と,実際に目標を調整するという実施の効果が区別されていなかった点を指摘し,それらを区別するために実験を行いました。実験の結果,期中調整の告知の効果は明確な効果は確認されませんでした。一方で,期中調整の実施には正の効果があることが確認されました。また,期中調整の実施は手続き的公正・分配的公正の認知を高め,それを通じて業績に間接的な正の影響を与えていたことが明らかになりました。片岡氏の報告は,先行研究で混同されていた告知と実施の効果を初めて区別して検証した点で学術的に貢献し,期中調整の実務に示唆をもたらすと考えられます。

文責:加藤大智 (滋賀大学)

第1回リサーチセミナー再登録のお願い

日本管理会計学会 会員各位

先日ご案内申し上げました2026年度第1回リサーチセミナーにつきまして、申込フォームに不手際がございましたため参加申込期限を下記のとおり延長させていただきます。
大変お手数をおかけしますが、5月31日までに参加申込みいただいた先生方につきましても、今一度ご登録いただけますと幸いです。

開催日:2026年6月13日(土)
開始時刻:14時から16時(予定)
開催方法:オンライン(Zoom)
参加費:無料
参加申込方法:6月7日(日)までに下記のリンクからお申し込みください。
申込リンク:https://forms.gle/ModdA7K3UXRdJTT47

参加の申し込みをされた方に、開催数日前にオンラインミーティングのURLとフルペーパーをお送りします。

【プログラム】
14:00-14:05 開催挨拶
14:05-15:00 研究報告1(報告30分、討論15分、フロア質疑10分)
15:00-15:55 研究報告2(報告30分、討論15分、フロア質疑10分)
15:55-16:00 閉会挨拶

【研究報告1】(報告30分、討論15分、フロア質疑10分)
14:05-14:35 研究報告1
・報告タイトル: 「経営課題に応じた予算目標修正の違い 」
・報告者: 殷広為氏(近畿大学大学院博士後期課程)、 早川翔氏(京都産業大学准教授)
・概要:本報告では、企業のライフサイクルが売上高および利益の予算目標修正に与える影響を検討する。具体的には、業績差異が生じた際の売上高目標と利益目標の修正幅の違いに着目し、経営課題の相違が目標設定に及ぼす影響を解明する。導入期と成長期では、有利差異が生じた際にシェア拡大に向けた投資を優先するため、利益目標よりも売上高目標を大幅に引き上げ、その違いが拡大する。そして、不利差異が生じた際は、成長シナリオの維持や資本市場への負のシグナルの回避から、売上高および利益の下方修正が抑制され、その違いが縮小する。本研究は、予算目標の修正行動が企業の直面する経営課題に依存することを明らかにするものである。
14:35-14:50討論(研究報告1)
・討論者:黒木淳先生(神戸大学)
14:50-15:00 質疑(研究報告1)

【研究報告2】(報告30分、討論15分、フロア質疑10分)
15:00-15:30 研究報告2
・報告タイトル:「目標の期中調整に関する研究:期中調整は業績にどのような効果を与えるか」
・報告者:片岡亮太氏(松山大学講師)
・概要:本研究は、環境変化により目標達成が困難な状況下で目標の期中調整が業績に与える効果を告知と実施の2つの要素に区別してオンライン実験によって検証した。その結果、告知による業績への効果は確認されなかった一方で、目標の達成が困難な環境下での期中調整の実施は正の効果をもたらし、期中調整がモチベーションを回復させる機能を持つことが示された。また、期中調整の実施は手続き的公正・分配的公正の認知を高め、それが業績に間接的に正の影響を与えることが確認された。本研究は先行研究で混同されていた告知と実施の効果を初めて区別して検証した点で学術的に貢献し、期中調整の実務に示唆をもたらすものである。
15:30-15:45 討論(研究報告2)
・討論者:西居豪先生(専修大学)
15:45-15:55 質疑(研究報告2)

15:55-16:00 閉会挨拶

問合せ先:滋賀大学 加藤大智(daichi-katobiwako.shiga-u.ac.jp)