2013年度第1回リサーチ・セミナー開催記

2013research_1.jpg■■ 2013年度第1回リサーチセミナーは, 2013年6月15日(土)10:30~12:20に甲南大学岡本キャンパス5号館2階521教室において開催されました。リサーチセミナーは,若手研究者による発表の場として,2002年度から毎年度続けて開催されてきました。今年度第1回リサーチセミナーは,2013年度関西中部部会(同日午後)と同時開催となりました。当日のリサーチセミナー出席者は38名であり,日本管理会計学会の浜田和樹副会長から開会の挨拶の後、星法子(白鴎大学)の司会によりリサーチセミナーが進められました。2件の意欲的な研究発表に対して,フロアから有益なコメント、質問が数多く出て,活発な議論が展開されました。

■ 第1報告 尾花 忠夫氏(関西学院大学大学院商学研究科博士後期課程)

「振替価格の設定に関する研究-ミクロ経済学的研究を中心に-」

2013research_3.jpg 尾花忠夫氏による第1報告では,以下の順序によって進められ,振替価格のミクロ経済的なアプローチを用いた研究が報告された。
1 研究目的
2 振替価格研究の背景
3 博士論文における問題意識
4 ミクロ経済における振替価格研究とその焦点
5 おわりに
尾花氏は,博士論文の問題意識とミクロ経済学的アプローチによる振替価格設定に関する研究のレビューについて報告を行った。問題意識は、R.G.Eccles(1985)による研究では今日の企業が行っている振替価格実務を説明するには不十分であるという点にある。彼が対象とした当時の企業と今日の企業では、取り巻く環境や戦略など多くの点で異なると考えられる。そこで、博士論文では彼の研究の洗練を目指す。
また、ミクロ経済学的なアプローチを用いた今日の振替価格設定に関する研究が何を焦点としているのかを明らかにした。この点については椎葉(2002)、Gox&Schillar(2007)による分類を参考に考察を行った。すなわち、伝統的なミクロ経済学的アプローチ、エイジェンシー理論、不完備契約、戦略的振替価格設定である。これらの分類よりHirhsleifer(1956)の研究から今日に至るまでの流れを示し、各研究の貢献について述べた。その上で、研究の焦点が企業の戦略を達成するために振替価格の設定をどのように利用するのかという点に当てられていることを明らかにした。最後に企業の様々な戦略に適合した振替価格設定の利用に着目した研究が必要であることを述べ、今後の課題とした。

2013research_4.jpg■ 第1報告コメンテーター
椎葉 淳氏(大阪大学大学院経済学研究科准教授)
尾花氏の報告に対し,椎葉氏は第一に,本研究の個別具体的な問題意識を特定することの必要性を指摘した。特に,尾花氏がとりあげた振替価格の先行研究には,さまざまな観点からなされた研究が混在しており,具体的なリサーチ・クエスチョンをまずは明確化しなければ,それらの先行研究と本研究との関係が不明瞭になることを指摘した。第二に,「戦略」という語が,経営戦略,事業戦略といった経営学や管理会計の分野で一般に用いられる内容を意味する場合と,ミクロ経済学,特にゲーム理論で定義されているところの「戦略」とが混ざっており,その点を明確に区別する必要があることを指摘した。

■第2報告 金 紅花氏(新潟大学大学院現代社会文化研究科博士後期課程)

「日本企業におけるBSC導入事例について-戦略策定機能を中心に-」

2013research_5.jpg 金紅花氏による第2報告では,以下の順序によって進められ,BSC導入企業の事例が報告された。
1 問題意識と研究目的,先行研究
2 アンケート調査の概要と結果
3 T社の事例研究
4 むすびに
金氏の報告は、アンケート調査と聞き取り調査を通じて、日本企業において、既に導入されている目標管理を前提して、これらに加えてBSCを併用することを念頭に置いた関係性(補完性)について考察することを目的としている。
アンケート調査より、既存に目標管理の実施を前提とし、マネジメント・ツールしての運用上、新しくBSCを導入し、両手法を併用することで、BSCが目標管理を補完し、両手法間には「補完性」が存在していたことが分かった。
一方、聞き取り調査より、BSCと目標管理の実施前後が逆となっていて、 既存に実施していたBSCによりカスケードされる戦略目標に対して、従業員がコミットメントを行うために新しく目標管理を導入し、両手法を併用することで、目標管理がBSCを補完し、両手法間には「補完性」が存在していたことが分かった。
すなわち、事業セグメントBSCによる戦略策定機能と目標管理による業績評価機能は、戦略マネジメント・システムの枠で相互関連性が存在し、マネジメント・ツールの実効性が強化されていて、BSCと目標管理間には「補完性」が存在していると考えられる。

2013research_6.jpg■第2報告コメンテーター
徳崎進氏(関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授)
徳崎氏はまず、BSC研究の萌芽期のアジェンダともいえる「BSC-目標管理-方針管理の補完的な関係性」を、金氏が”相互排他性”を前提にあえてこの時点でアンケート調査と事例研究を用いて検証しようとした意図をただし、併用の妥当性が開発者を含む多くの研究者によって過去に論証されている点に鑑みれば十分な文献研究を踏まえた問題意識とテーマ設定であったのか顧みる必要があるとした。徳崎氏はまた、本研究ではリサーチ・クエスチョンが検証可能な仮説の形で設定されていない点や、質問調査データに定量的な分析が施されていないことによって、想定に反して目標管理をBSC導入後に併用している1社の事例研究が本来の追加的証拠収集手段として機能せず帰納的な普遍化に貢献し得るものに至らなかった点、BSCと方針管理の補完性の検証の議論が中途で消失している点、を要改善事項として指摘した。そのうえで徳崎氏は、質問調査の回答率低迷による度数の制約が所期の研究目的が果たされなかった主因であり、インタビュー企業の内情リポート部分にはいくらかの経営の効率や有効性を高めるための実践的な経営上のガイドラインの提起は見られたとして、金氏に、こうした研究の問題や限界・貢献を踏まえて、どのように今後の研究課題を展開していくのかに関して、展望を新たにするよう求めた。

長坂悦敬(甲南大学)、星法子(白鴎大学)

2012年度 第2回企業研究会開催記

2012kigyo_fuji_1.JPG■■ 2012年度第2回企業研究会は、2013年5月17日(金)に富士ゼロックス株式会社・富士ゼロックスマニュファクチュアリング株式会社の竹松事業所で行われました。当日は初夏らしい清々しい天気のもと、16名の参加があり、工場見学と生産革新活動の取り組みについての講演が行われました。

■■ 富士ゼロックス株式会社総務部竹松中井総務センター長の本多力様のご挨拶の後、はじめに富士フイルムビジネスエキスパート株式会社の下田千恵様より、竹松事業所の概要や複写機の仕組み、トナーの研究開発、富士ゼロックスの資源循環システムなどについて丁寧にご説明いただきました。その後、複写機に使われるトナーの充填包装ラインと、マーキングユニットの組み立てラインの見学が行われました。製造ラインの概要や改善活動の取り組み、部品・完成品のスムーズかつ無駄のない流れなどについてのわかりやすい説明を交えながら、製造現場を案内していただきました。参加者はさまざまな質問をしながら熱心に見学していました。

2012kigyo_fuji_2.JPG■■ 見学の後、富士ゼロックスマニュファクチュアリング株式会社部材生産グループの保坂圭一様より、竹松事業所における生産革新活動についてご講演いただきました。お話のなかで、近年行われてきた、需要に基づくPull型の生産プロセスへの変革や、それを実現するXerox Production Wayの仕組み、重要な役割を果たす「かんばん」や「戻りかんばんポスト」の機能、そして今後の課題について詳しくご説明いただきました。参加者からは多数の質問が寄せられ、生産革新活動の実施にあたっての目標項目や実施の具体的成果、生産部門と設計部門との情報のやり取りなど、丁寧にご回答いただきました。

■■ 製造の現場を間近に見学させていただき、課題発見と工夫の積み重ねによって製造活動の改善がなされていることや、働く人や地球環境にも配慮した製造活動が行われていることについて一層理解が深まり、参加者一同有意義な一日になったことと思います。工場見学を快くお引き受けいただきました富士ゼロックス株式会社・富士ゼロックスマニュファクチュアリング株式会社の竹松事業所の皆様、工場見学の実施にあたり調整にご尽力いただきました富士フイルムビジネスエキスパート株式会社の関係各位に心より御礼申し上げます。

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 参事 内山哲彦(千葉大学)

2013年度 第2回 国際学会参加費の助成について(公募)

日本管理会計学会会員各位

会員の国際的活動を支援する一環として、標記の件について、下記の要領で公募いたします。

■ 助成対象 ■
管理会計に関連する海外の学会(2013年9月1日から2014年3月31日の間に開催される学会)において、研究発表をする場合または当該学会と本学会との交流を促進するため活動を行う場合。

■ 助 成 額 ■
航空運賃(往復)が5万円未満の場合には全額を、航空運賃(往復)が5万円を 超過する場合には、5万円にその超過額の1/2を加算した額を助成する。ただし1 件あたり10万円を限度とし、予算総額は年間20万円とする。

■ 応募方法 ■
別紙書式に学会開催要項等を添付し、学会事務局に送付すること。
書式(Ms-Word2003:文書名「2013rsdEntrySheet」)

<学会事務局>
〒525-8577 滋賀県草津市野路東1丁目1-1
立命館大学経営学部
日本管理会計学会事務局 宛
e-mail:jama-infoあっとsitejama.org (あっと→@)

■ 応募締切■
2013年7月31日《期日厳守》

■ 選考方法 ■
選考委員会で選考し、常務理事会(2013年9月13日開催予定)で決定

2013年度学会賞(論文賞、文献賞、奨励賞)候補者募集のお知らせ

拝啓 会員の皆様には、ますますご健勝のことと存じます。
さて、下記に示した2013年度学会賞の候補者を「日本管理会計学会学会賞規程」 に基づいて、以下の要領で募集いたします。
会員の皆様には学会賞にふさわしい 候補者を積極的に推薦していただくようお願い致します。

1. 募集する学会賞  論文賞、文献賞、奨励賞(各賞とも若干名)
2. 審査対象業績   2012年4月1日から2013年3月31日まで に刊行されたもの。
3. 応募書類業績等  候補者の略歴、審査対象業績、業績リスト、及び推薦理由書
※応募関係書類、図書は返却いたしません。審査終了後、適切に保管、廃棄致します。

4. 推薦方法      会員の自薦及び他薦による。
5. 推薦締切日     2013年6月25日まで(当日必着)
6. 学会賞授与式   2013年9月14日(年次全国大会の会員総会)
7. 業績等の送付先  〒662‐8501 兵庫県西宮市上ヶ原一番町1?155
関西学院大学 商学部 浜田和樹 宛
Eメール:k-hamadaあっとkwansei.ac.jp (あっとを半角@マークに変更してください)

なお、学会賞の種類、その他の詳細な内容に関しては、「日本管理会計学会学会賞規程」をご参照ください。

以上

学会賞(論文賞、文献賞、奨励賞)審査委員会 委員長浜田和樹

JAMAスタディ・グループの新設について(公募)

日本管理会計学会会員各位

昨年7月の理事会で日本管理会計学会の共同研究グループの創設が承認されて以降,その具体化に向けて昨年12月の第4回常務理事会そして本年4月の第1回常務理事会で慎重に検討,審議してきた結果,別掲のようなスタディ・グループ規程および産学共同研究グループ規程が確定しました。
前者は,会員からの自主的な申請で組織するもので,日本会計研究学会のスタディ・グループに相当するものです。後者は,会長を中心とする学会執行部が主導性を発揮して,実務家の方にも入っていただき,事例研究なども含む産学共同研究グループとして組織する学会提案型の研究グループです。
さて,今回はスタディ・グループ規程に基づき,2013年度のJAMAスタディ・グループを広く会員の皆様に募集いたします。応募される会員は,規程にしたがって,1.研究課題と研究計画の説明書,2.研究グループの代表者および構成員の氏名ならびに所属機関を明記して,「JAMAスタディ・グループ申請書」として管理会計学会事務局宛(jama-info”あっと”sitejama.org)にメールで申し込んで下さい。規程では5月末が申請期日になっていますが,本年度の申請期日は特例として6月15日(土)にしております(締切厳守)。申請書については7月13日の第2回常務理事会で審議し,選考の結果はグループ代表者に通知いたします。
なお,申請書の様式としては,以下の内容を記載して下さい。

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JAMAスタディ・グループ申請書

研究代表者の所属・氏名・連絡先
(住所,電話番号,E-mail)

I  研究課題
II  研究目的(意義・概要・構想)
III 研究計画(方法・実施状況・期待される成果など)
IV 本研究に関する国内外の研究の現状と本研究計画の特徴
V  各共同研究者の所属と氏名,役割分担
VI 研究代表者および共同研究者の過去5年間の主な研究業績


日本管理会計学会 副会長 水野一郎