■■ 2015年度第1回リサーチ・セミナーは、2015年6月20日(土)に名古屋大学経済学部文系総合館7階カンファレンスホールにおいて開催された。今回のリサーチ・セミナーは、メルコ学術振興財団との共催で開催され、講演と研究報告という2部構成で行われた。日本管理会計学会の木村彰吾副会長の司会のもと、日本管理会計学会の原田昇会長、メルコ学術振興財団の上總康行代表理事の挨拶をいただいた後、井上眞一氏(トヨタ自動車生技管理部)の講演および小林英幸氏(名古屋大学大学院)の研究報告が行われ、いずれも参加者から活発な質問や意見があり、有意義な議論が展開された。
■ 【講演】井上眞一氏(トヨタ自動車生技管理部)
「自動車ボデーの生産準備とDE活用?生産技術の役割?」
井上眞一氏による講演では、「自動車ボデーの生産準備とDE活用?生産技術の役割?」と題して、トヨタ自動車における生産準備の役割について、具体的な生産技術の変遷などを交えて解説していただいた。講演ではまず、アナログ時代の生産準備としてFBL(フレキシブルボデーライン)の意義や導入効果について言及された。その後、デジタル時代の生産準備としてDE(デジタル・エンジニアリング)を取り上げ、その意義や効果、活用事例について説明された。井上氏は、DEの導入によって迅速な製品検討が可能となり、研究開発期間の短縮などのメリットを享受できる一方で、デジタル化に伴うリスクも発生することを指摘した上で、現地現物による知識と経験に基づいたデジタルを実践する必要性を最後に主張された。
■【研究報告】小林英幸氏(名古屋大学大学院経済学研究科後期博士課程3年)
「原価企画に対するエンジニアの受容」
小林英幸氏は、トヨタ自動車の原価企画において、マネジメント・コントロールはどのように働いているのかを明らかにするため、アンケートおよびインタビュー調査を用いた研究報告を行った。小林氏はまず、トヨタ自動車の原価企画について説明した上で、3つの観点(CE、設計者、関係5部署)からのアンケート・インタビュー調査の概要と結果を説明された。次に、それらのアンケート・インタビュー結果の解析を行い、3つの観点では、原価企画の捉え方が異なっていることを明らかにしている。その上で、(1)Simons(1995)の4つのコントロール・レバー、(2)Malmi and Brown(2008)のパッケージとしてのマネジメント・コントロール・システム、(3)Ouchi(1979)のクラン・コントロール、という3つの先行研究を用いて、トヨタ自動車の原価企画のマネジメント・コントロール・システムについて検討している。その結果、上記の先行研究を用いると、トヨタ自動車の原価企画のマネジメント・コントロール・システムの働きは概ね説明できると主張された。最後に、CE制度を「是」として捉え、その長所を活かし課題を克服するヒントを述べ、トヨタ自動車の製品開発および原価企画のあり方への提言としてまとめられた。
青山学院大学 楠 由記子