統一論題「管理会計の拡張と実務適用の課題」
■■日本管理会計学会2017年度年次全国大会(大会実行委員長:田坂 公氏)が,福岡大学七隈キャンパスにおいて,平成29年8月27日(日)から29日(火)の3日間の日程で開催された.27日(日)には,学会賞審査委員会,常務理事会,理事会および業務分担委員会別の懇談会が開催された.28日(月)には,9:30から6会場に別れて,計20の自由論題報告が行われた.午後からは,会員総会が行われた.
会員総会では,大会実行委員長あいさつ,会長あいさつ,議長選出,審議事項および報告事項が確認された後,学会賞審査報告および表彰式が行われた.表彰式では,大島正克氏(亜細亜大学),白銀良三氏(国士舘大学)および吉岡正道氏(東京理科大学)の3氏が,学会賞(功績賞)を受賞された.山口直也氏(青山学院大学)(受賞業績:「メタ組織におけるマネジメント・コントロール-京都試作ネットの分析-」)が,学会賞(論文賞)を受賞された.福島一矩氏(中央大学)(受賞業績:「管理会計における急進的イノベーションの促進-管理会計能力に基づく考察-」)が,学会賞(奨励賞)を受賞された.その後,スタディ・グループ中間,最終報告および産学共同研究グループ最終報告,櫻井通晴氏による特別講演が行われ,スカイラウンジにて会員懇親会が開催された.
29日(火)には,9:30から6会場に別れて,計20の自由論題報告が行われ,13:00から統一論題報告が行われた.大会期間中,211名の参加者のもと,総じて盛会であった.
■■スタディ・グループ/産学共同研究グループ報告
会員総会に続き,大島正克氏(亜細亜大学)の司会で,スタディ・グループの中間報告および最終報告,産学共同研究グループの最終報告が行われた.
■スタディ・グループ中間報告(1):研究代表 青木章通氏(専修大学)
「サービス業における顧客マネジメント」
青木章通氏(専修大学)により,サービス業における顧客マネジネントにおいて,管理会計が果たすべき役割を再検討するという研究目的と研究概要について報告された.中間報告として,吉岡勉氏(東洋大学)により「管理会計パースペクティブに基づくサービスの再検討」として,サービスとサービス業の定義の再検討について,佐々木郁子氏(東北学院大学)により「スポーツビジネスにおけるレベニューマネジメントと顧客関係性-(株)楽天野球団の取り組みを通して-」として,サービス業の収益管理の新たな課題について,そして,谷守正行氏(専修大学)により「関係性に基づく顧客別原価計算」として,サービス業のコスト・マネジメントの新たな課題について,それぞれ報告された.
■スタディ・グループ中間報告(2):研究代表者 宮地晃輔氏(長崎県立大学)
「中小企業における管理会計の実践レベルに関する事例研究-長崎県・熊本県での訪問調査を基礎として-」
宮地晃輔氏(長崎県立大学)により,中間報告として,中小企業における管理会計の実践レベルの把握を目的とした調査と当該調査結果から導出される意義について報告するという報告目的,先行研究および本研究との位置づけについて報告された.続いて,F社の独自システムによる見える化の実現を中心とした同社管理会計システムの事例分析について報告された.吉川晃史氏(熊本学園大学)により,熊本県中小企業家同友会の会員企業における経営指針(経営理念・経営方針・経営計画)の計画に関する調査結果について,木村眞実(熊本学園大学)により,沖縄県内自動車解体企業で行われているマテリアルフローコスト会計の事例分析について,それぞれ報告された.
■スタディ・グループ最終報告:研究代表者 安酸建二氏(近畿大学),新井康平氏(群馬大学)
「販売費及び一般管理費の理論と実証」
新井康平氏(群馬大学)によりコスト変動の把握と変動の原因解明に向けた実証的研究について報告された.最終報告として,第1に,理論的基礎である資源消費モデルの概要を明らかにするという研究目的について報告された.第2に,研究開発費の費用収益対応度と変動要因について,費用収益対応度を時系列に確認し,研究開発費の時系列的な特徴を明らかにし,コスト変動モデルへの適合度を確認することにより,研究開発費のコスト変動特性を考察された.最後に,変動費化の程度の決定要因について,平均的には,企業は自社の売上高の変動状況を踏まえて固定費/変動費の割合を決定している証拠を得たことを報告された.
■産学共同研究グループ最終報告:研究代表 清水信匡氏(早稲田大学)
「KPIと予算の設定及び業績予測に関する産学共同研究」
清水信匡氏(早稲田大学)により,冒頭,最終報告として,研究概要について報告された.分析枠組みとして,マイルズ&スノー理論を用いた戦略特性の測定方法について説明された.続いて,矢内一利氏(青山学院大学)より,質問票調査の概要と分析結果について報告された.受身型の特性が強まると,会計的裁量行動による利益増加型の報告利益管理と,売上高操作による利益増加型の報告利益管理を行う傾向が強まることが報告された.最後に,清水信匡氏(早稲田大学)によりROEを重視する傾向と,裁量的費用の調整による報告利益管理額との間に有意な正の相関が見出されたことが報告された.
■■特別講演 櫻井通晴氏(専修大学名誉教授)
「契約価格,原価,利益の研究-研究アプローチの変遷と防衛省の「訓令」の批判的検討-」
辻 正雄氏(名古屋商科大学)の司会で,櫻井通晴氏(専修大学)による特別講演が行われた.冒頭,防衛省におけるパフォーマンス基準の導入を提案することであるという本講演の目的を述べられた.続いて,本研究に至ったこれまでの研究アプローチについて説明された.また,「訓令」の課題として,調達契約での利益,加工費率での製造間接費の配賦,利子の非原価性という3つの課題を指摘された.最後に,それらの問題点を改善する方向性として,パフォーマンス基準に基づく契約制度について提案された.質疑応答も含め,終始,活発な講演会であった.
■■統一論題報告・討論
伊藤和憲氏(専修大学)を座長とする統一論題報告が行われた.テーマは,「管理会計の拡張と実務適用の課題」であった.冒頭,座長による開題が行われ,統一論題である管理会計の拡張と実務適用の課題の概要について報告された.続いて,関連する4つの報告が行われた.
■統一論題報告(1):伊藤武志氏(株式会社価値共創, 専修大学大学院)
「社会に貢献する企業の経営管理-オムロンの事例研究を中心として-」
本報告では,「企業はどのように社会に貢献する存在なのか」という現代的な問いに対して,経営管理,管理会計の立場から切り込むために,立石一真が創業して以来90年間,社会貢献に基づき経営されてきたオムロン社の事例を考察された.同社では,ベンチャー精神を醸成するために,小規模組織制や小規模事業部制がとられてきており,ベンチャー精神こそが,日本企業おかれた状況を打開する要素であると述べられてきた.カンパニー制,事業部,そしてオムロンのような小事業部がそれぞれESG情報を含む長期的なステークホルダー志向を持つことで,意欲やベンチャー精神につなげるという提言を報告された.
■統一論題報告(2):伊藤克容氏(成蹊大学)
「マーケティング管理会計の展開:顧客動向の追跡と動線設計」
本報告では,顧客に対する影響活動の影響として,多くの企業で導入されているマーケティングオートメーション(Marketing Automaton:MA)に着目し,伝統的なマーケティング領域での管理会計との間で比較検討され,マネジメントコントロールの発展という観点からMAにおける顧客への影響活動について考察された.現在では,個別顧客の動向の追跡,個別対応をシステム的に実施することが技術的に可能となっており,どのような「動線」を設計し,実現するかに関心が集まっており,管理会計において,顧客行動に対する影響活動が重要になっていることを報告された.
■統一論題報告(3):内山哲彦氏(千葉大学)
「管理会計研究・実践と人的要素の管理-統合報告を中心に-」
本報告では,企業価値創造における経済価値と社会価値・組織価値がともに求められる経済基盤への変化を前提に,人的要素の管理に焦点をあて,管理会計研究・実践のかかわりについて検討された.その際,統合報告の考え方や実践が与える影響に着目して報告された.「先義後利」型経済において,管理上必要となるのは,(超)長期視点(持続可能性),統合的(複合的)企業価値観および企業価値創造の要素の統合的(複合的)管理が管理上必要となり,その解決の1つのツールとして,統合報告があることを報告された.
■統一論題報告(4):篠田朝也氏(北海道大学)
「資本予算実務の課題」
本報告では,資本予算領域に関連する実務の拡張とその課題についての論点を報告された.論点として,投資経済計算における評価技法の変化,評価技法の多様性,経過観察と事後監査の体制構築,定性的リスク項目を含むリスクマネジメント,撤退基準の設定,経済的効果の把握が困難な案件への対応および収益管理の問題について説明された.また,資本予算/意思決定会計のデータは”confidential matter”であるといった研究上の制約を指摘され,その制約を克服する提案について報告された.
■統一論題討論
統一論題報告の後,続けて統一論題討論が行われた.伊藤和憲座長から,どのような点が拡張されたのか,実務適用における課題とは何かをそれぞれ報告者に対して質問された.また,小倉 昇氏(青山学院大学),水野一郎氏(関西大学),浜田和樹氏(関西学院大学),櫻井通晴氏(専修大学),大下丈平氏(九州大学)からの質問があり,活発な討論が行われた.
奥 倫陽(東京国際大学)