2025年6月14日
日本管理会計学会2025年第1回関西・中部部会が、2025年6月14日(土)に京都大学(吉田キャンパス)を主催校として開催された。今回の部会も、対面とWeb(Zoom)を活用したハイブリッド開催となった。
部会の開催にあたり、まず、澤邉紀生部会準備委員長からプログラムや進行方法に関する説明があり、次いで、窪田祐一関西・中部部会長から開会のご挨拶をいただいた。
その後、プログラムにしたがって、特別講演1件及び自由論題報告2件の発表がなされ、活発な質疑応答が行われた。参加者は43名(対面28名、オンライン15名)であった。以下、特別講演、各報告の概要を簡単に紹介する。
第一部[特別講演] 司会:セルメス鈴木寛之(京都大学大学院経済学研究科 准教授)
講演者:野田 正史氏(株式会社プラス 代表取締役社長)
講演テーマ:「農業所得向上に貢献する 農産物直売所野田店舗経営」
特別講演では、株式会社プラス代表取締役社長の野田正史氏より直売所の経営を中心にお話を頂いた。はじめに、会社の概要が説明された。店舗数は33店舗(和歌山17店舗 大阪府9店舗 奈良県6店舗 兵庫県1店舗)、登録している生産者数は約9,000名で本社は田辺市に構えているとの説明があった。続いていくつかの店舗の様子が写真で紹介されたが、どれも工夫された店構えであることが鮮明に見てとれた。そして話は店舗が誕生した経緯へと移っていった。1号店開業当初にはなかなか知名度や売上が伸びないなどご苦労も多くあったが、「手間ひまかけて作っても、従来の出荷ルートでは誰が生産者か分からないため、他の人と同じ扱いをされる」ことに不満を感じていた生産者にとってはやりがいを感じられるビジネスモデルとなっていることが分かり、手応えを感じたことなどが説明された。
次に、スーパーと比較したときの直売所の違いを述べながら、同社が運営する直売所の特徴が詳述された。例えば、品揃えに関しては、スーパーは幅広い商品を揃えているのに対して、直売所ではナショナルブランドを敢えて置かない場合が多いことや、地元産を中心とし、肉や魚は店舗毎の置かれた状況に応じて取り扱いの有無を柔軟に使い分けていることが紹介された。また、売れ残り品に関しては、スーパーでは自店舗が負担するのに対して、直売所では生産者が負担する点が大きな違いとして紹介された。さらに、多店舗展開を行うことで個々の生産者の売上高増大に大きく貢献できるようになったことが幾つかの事例と共に紹介され、流通の部分は同社が担うことで生産者の負担を抑えていることや、それでも中には自分が出品している店舗の一つ一つを見て回るような意欲的な生産者もいることなどが併せて説明された。最後に、比較を通じて浮き彫りとなる直売所のメリット・デメリットがまとめられた。特に、大きなメリットとして、流通を大幅に省略することで生産者にとっては手取り額が増え、同時に消費者にとっても価格が抑えられる点や、生産者にとっては消費者の声がよりダイレクトに感じられるようになり、消費者の声がモチベーションとなる点が挙げられた。これに対し、デメリットとして、同社の運営する直売所ではないものの、補助金を活用した一部の道の駅や直売所では非効率と思われるような運営がなされているケースもあることが紹介された。
また、スーパーと直売所の違いについて、会計的な数値からの考察も示された。具体的に、上場されている同規模のスーパーおよび直売所が実際に公開している財務諸表を比較し、費用構造や資産構造の違いが対比された。とりわけ、損益計算書おいては販管費に大きな違いが見て取れ、この理由として、スーパーでは肉を加工する段階などに多くの人材を要する一方、直売所はそうした人材が不要なため比較的人件費が抑えられることが挙げられた。また、貸借対照表においては在庫リスクの有無により棚卸資産に如実な違いがみられ、その結果として棚卸資産回転率や総資産回転率にも大きな差が表れていることが数字をもって示された。これらの違いにより、直売所はスーパーよりも効率的な経営ができる可能性が高いと結論づけられた。
講演後は、多店舗経営によるカニバリゼーションの有無や、スーパーの中にある直売コーナーと直売所の違い、直売所のより詳細な利益構造、他の直売所との差別化のポイントなどの多くの質問が挙がり、非常に活発な質疑応答となった。
第二部 司会:セルメス鈴木寛之(京都大学大学院経済学研究科 准教授)
第1報告
報告者:矢野 厚登氏(京都大学経営管理大学院博士後期課程)
論題:中小病院におけるマネジメントコントロールシステム
本研究では、中小病院の6事業所の理事長・事務長に対するインタビュー結果に基づく考察、病院のマネジメント・コントロール・システム(以下MCS)に関するフレームワークの検討、および厚労省「医療施設経営安定化推進事業報告書」における17事業所の調査結果に基づく分析が示された。
分析の結果として、中小病院におけるMCSは「会計・組織・文化・クラン」のパッケージとして機能しており、また、その浸透・定着には事務長の役割が極めて重要であることが示された。特に、事務長が管理会計の知識と病院業務の理解を充実させた上で経営会議に参加することで、トップ(理事長)と現場をつなぐ“連結管”としての役割を果たすことになり、これらの要素を備えることが中小病院におけるMCSの浸透・定着に寄与することが示された。
第2報告
報告者:重田 直人氏(The University of Information Technology and Management Rzeszow, Doctor of Business Administration)
論題:「Relationship Between Outside Director and Corporate Value Improvement Strategy」
本研究では、近年、企業による不祥事の多発を背景として導入例が増えている社外取締役が企業価値の向上に資するか否かの検証がなされた。具体的には、企業価値の代理変数としての企業による開示の質、コーポレートガバナンス構造、および社外取締役比率に関する3つの仮説を導出し、日本企業3,500社を母集団とするデータソースから100サンプルを抽出して検証を行った。
分析の結果、仮説2は2022年のデータでは棄却されたものの2015年のデータでは支持され、仮説1および仮説3はいずれのデータにおいても支持された。以上の結果を踏まえ、社外取締役は少なくとも部分的には企業価値向上に寄与していると結論した上で、それ以外の企業価値向上要因についても探索的な検討が示された。
なお、以上の2報告いずれにおいても報告後の質疑応答では参加した研究者・院生や実務家などと報告者との間で活発に議論が交わされ、盛会のうちに部会の全プログラムを終了し、澤邉準備委員による挨拶をもって閉会した。