2013年度 第1回 フォーラム開催記

■■ 日本管理会計学会2013年度第1回フォーラムが,2013年4月13日(土)に南山大学において開催された。園田智昭氏(フォーラム担当副会長,慶應義塾大学)の開会の挨拶に続いて,第1部の研究報告が開始された。研究報告の部では,星野優太氏(名古屋市立大学)の司会のもと,孫美レイ(流通科学大学),木村史彦氏(東北大学),川野克典氏(日本大学)による報告が行われ,活発な議論が展開された。第2部の企業講演は,吉澤和秀氏(中京テレビ放送 常勤監査役)によって「テレビ局の経営と管理」というタイトルで講演が行われた。その後,会場を移して懇親会が行われた。

■■ 第1報告:孫美レイ氏(流通科学大学)

「内部統制制度の導入効果に関する一考察 -4社の事例-」

2013forum1_1.jpg 孫氏の報告は,アメリカの不正会計に端を発する内部統制という経済制度がアジアの経済的文脈のなかでどのような効果を果たしているのかについての日本企業を対象とした分析の報告であった。
孫氏は,企業へのインタビューによる質的研究方法を用いて内部統制制度の効果を明らかにしている。4社をインタビューし,当該企業において内部統制制度の効果が現れるとすればどこで効果が現れているのか,また効果が現れないのであれが問題の所在はどこにあるのかなどについて企業別に検討した。
孫氏は,インタビュー調査の結果について,次のようにまとめられた。A社は内部統制制度による不正防止の効果に対して懐疑的であるが,業務の有効性や効率性の向上効果に対しては肯定的な見解を持っている。B社は内部統制制度の導入に課題に感じており,制度対応に加えて自社独自の方法も取り入れながら不正の防止や業務効率の向上を図っている。C社は内部統制制度の導入前から業務のオペレーションが成熟化し,業務の効率性も高く,内部統制制度による業務効率性のさらなる向上は達成できていない。また不正防止の効果に対して懐疑的である。D社は内部統制制度による業務の効率性の向上に肯定的である。

■■ 第2報告:木村史彦氏(東北大学)

「利益マネジメントの業績間比較」

2013forum1_2.jpg 木村氏の報告は,日本の上場会社における業種ごとの利益マネジメントの傾向と,業種間の差異に影響する要因を明らかにしようとするものであった。研究方法は以下のとおりである。まず,各業種の利益マネジメントの傾向を国際比較研究の手法の方法を援用して定量化し業種間で比較する。その上で,業種ごとの利益マネジメントの水準に影響を及ぼす要因として,(1) 政治コスト,(2) 資金調達方法,(3) 投資機会集合,(4) 会計上のフレキシキビリティ,(5) 業種内の競争性,を取り上げ,業種ごとの利益マネジメントの水準との関係を分析する。分析対象は,2004年から2011年までの日本企業25,208社であった。
木村氏は,分析結果について次のようにまとめられた。業種間で利益マネジメントの水準に顕著な差異が見られる。さらに,政治コストが大きい,負債による資金調達のウエイトが高い業種では,利益マネジメントが実施される可能性が高い。また,この結果は,異なる業種分類を用いた場合でも頑健であった。

■■ 第3報告:川野克典氏(日本大学)

「進化を止めた日本企業の管理会計」

2013forum1_3.jpg 川野氏の報告は,2011から2012年に東京証券取引所上場会社に対して実施したアンケート調査(回答数は190社,回収率9.3%)にもとづいて行われた。
川野氏は,この調査結果を次のようにまとめられた。日本企業は,全体として極めて保守的であり,新しく提案された管理会計手法の採用には消極的である。一方で,外部からの圧力,すなわち,法律の改正や会計基準の公表等があると,日本企業はこれに対応すべく管理会計制度の見直しを行う。国際会計基準の日本への導入については,適用時期,範囲等,見通しがつかない状況が続いている。その結果,日本基準ベースの管理会計を構築すべきか,国際会計基準に対応した管理会計を構築すべきかの判断ができなくなってしまい,管理会計の見直しを進めようとする意志のある企業でも,見直しに着手すらできず,これらの結果,日本企業の管理会計の進化が止まってしまっている。
また,今後の日本企業の管理会計に求められるものとして,統合報告(Integrated Reporting)に学び,経営成績と財政状態の向上の最終結果(アウトカム)としての企業価値向上に結び付く,ストーリー化された統合的な管理会計体系の構築を指摘した。

■■ 企業講演:吉澤和秀氏(中京テレビ放送 常勤監査役)

「テレビ局の経営と管理」

2013forum1_4.jpg 吉澤氏の講演は,「経営と管理」の観点から,テレビ局の経営状況の推移とCSRの2点に絞って行われた。テレビ局の経営状況については,以下のように述べられた。テレビ業界は創業以来,日本経済の発展に伴って成長し放送事業の多様化を進めてきた。日本国内のメディアを広告費で見ると,2012年1年間の広告費は,およそ5兆9000億円で,その内マスコミ4媒体と言われるテレビ・新聞・雑誌・ラジオが47%,テレビは30%を占めている。テレビ業界は,創業以来日本経済の発展に伴って成長してきたが,WEBなどメディアの多様化の影響から売上は2006年度をピークに減少傾向に入り,リーマンショックの翌年は,ピーク時の87%まで落ち込んだ。長いトレンドで見れば漸減傾向を覚悟しなければならず,各局は,映画やDVD,アイスショーなど,放送を活用した事業収入の創出を工夫している。
CSRについては,テレビ局の経営にとって最も重要なのは放送倫理であるとして,次のように説明された。放送は,人の命や健康あるいは人権に係わる情報を取り扱い視聴者に届けているので,その情報が万一,誤っていたり,放送したことが何らかの被害を招く結果とならないよう放送に当たっては,番組制作の現場で2重3重のチェックをしている。また,放送倫理を専門とする部署でスクリーニングし,且つ放送法で定められた外部有識者による番組審議会で定期的に評価されている。放送倫理に関する規定集やマニュアルは各種整備・更新しているが,何と言っても日々の放送活動の中でスタッフが高い意識を持って業務に当たることが肝心で,スタッフへの放送倫理研修は頻繁に実施している。放送倫理の遵守はテレビ局のCSRの基本と言える。
最後に,BCPにふれ,次のように結ばれた。放送局は南海トラフを震源域とする巨大地震をはじめとした非常時に視聴者に情報を伝える放送機能の継続が最重要であることからBCP-B(Business Continuity Plan of Broadcasting)の概念を基本として,放送のための要員・設備の他,電力供給が停止した場合の非常用発電などの体制を整えるとともに,非常時を想定した訓練を行うなど社会的使命を果たすべく取り組んでいる。

斎藤孝一(実行委員長 南山大学)