統一論題 「管理会計研究と方法論」
■■日本管理会計学会2012年度全国大会は、平成24年8月24日(金)から26日(日)の3日間、国士舘大学において開催された(準備委員長:白銀良三氏)。24日には、学会賞審査委員会、常務理事会、理事会、理事懇親会が開催された。25日は9時半から、6会場に分かれ、計18の自由論題報告がおこなわれ、その後、会員総会、記念講演に続き、統一論題報告がおこなわれた。統一論題報告終了後、午後6時すぎより、スカイラウンジで会員懇親会がおこなわれた。翌26日は9時半から前日と同じく6会場で計30報告がなされた後、統一論題の討論がおこなわれた。
■■プログラム
●2012年度 年次全国大会プログラム(PDF形式)
■■ 特別賞
■佐藤紘光氏
■■ 功績賞
■笠井賢治氏
■竹森一正氏
■■ 文献賞
■徳崎 進氏
『VBMにおける業績評価の財務業績効果に関する研究:事業単位の価値創造と利益管理・原価管理の関係性』
関西学院大学出版会,2012年2月刊。
■中島洋行氏
『ライフサイクル・コスティング:イギリスにおける展開』創成社,2011年10月刊。
■■ 奨励賞
■衣笠陽子氏
「病院経営における管理会計の機能:病院予算を中軸とした総合管理」
『管理会計学』2012年,第20巻第2号。
■山田哲弘氏
「報告利益と課税所得の関係が利益調整行動に与える影響」
『管理会計学』2012年,第20巻第2号。
■■■ 記念講演
25日午後2時半より、倉重英樹氏(株式会社シグマクシス)による記念講演がおこなわれた。テーマは「知識社会における組織運営」である。まず、司会の白銀良三氏より、倉重氏がこれまで日本管理会計学会副理事長を務められ、功績賞も受賞されるなど、日本管理会計学会に対して多大な功績のある方であることが紹介され、倉重氏の講演となった。 講演は、世界の変革が起こっている時代にあって、今後の企業および個人がどのように変革していかなければならないのかということがメインテーマであった。 世界の国々の人口とその経時の変化の様子から、今後社会は、工業社会から知識社会へ転換されることをドラッカーの言葉を引用して説明され、知識社会における企業のあり方について、倉重氏の持論をお話頂いた。知識社会においては、デジタルITの利用、人「財」の活用、未来管理の3点が必要であるとのことであった。 また、倉重氏は、これまでの経営者として、すばらしい手腕を発揮してこられたが、その要因は、従来の工業社会で用いられている「モノ作りモデル」と知識社会で必要となる「コト作りモデル」の融合によって、経営をおこなってきたことであるとお話し頂いた。 最後に、これからの知識社会においては、組織は「コト作りモデルの構築」、「ひとの動きを見る眼」、「可視化/未来管理」、個人は「自分の仕事の構築」、「自分のイノベーション」、「やるべきことよりやりたいこと」が必要であることを説明され、講演は終了した。倉重氏の「人」に注目をした講演が大変印象的であった。
■ レジュメ:「知識社会における組織 運営 」(PDF形式)
■■■ 統一論題報告
記念講演終了後、山本達司氏(大阪大学大学院)を座長として統一論題報告がなされた。テーマは、「管理会計研究と方法論」である。報告は、管理会計研究方法論から分析的研究、実証分析、実験研究、質的研究の4つについて、次のとおり報告がなされた。なお、報告の概要は報告者から頂いたものである。
■■ 統一論題報告(1) :渡邊章好氏(東京経済大学)「管理会計における分析的手法の意図と貢献」
本報告では、エージェンシー理論や産業組織論を応用した管理会計実務の説明理論構築を目指す分析的研究について、その意図とそれがもたらす貢献について述べた。このような分析的研究は、実務が機能する条件や現実に機能している実務に潜むメカニズムを明らかにすることを意図し、現実を簡略化したモデルを用いる点に特徴がある。そのため、分析的研究による成果を実務にそのまま適用することは難しく、このことが、分析的研究に対する批判の源泉となっている。しかし、分析的研究による成果を積み重ねることで、管理会計の伝統的知見という核の部分をより充実させることが期待できる。したがって、管理会計における分析的研究は、管理会計教育への貢献が大きいと言える。
■■ 統一論題報告(2 ):木村史彦氏(東北大学)
「管理会計研究における実証研究の特徴と課題―アーカイバルデータを用いた実証研究に争点を当てて―」
本報告では、アーカイバルデータを用いた実証研究(以下、実証研究とする)の特徴と課題を、一般的な実証研究の枠組みに沿って概説し、管理会計研究における今後の実証研究のあり方について検討した。近年、日本の会計研究においても実証研究が増加傾向にあり、これは管理会計研究においても顕著である。実証研究は様々な研究テーマ・課題の下で設定された仮説や命題を検証することができ、その知見の蓄積は、管理会計研究および実務に対して大きな貢献を果たしうるものである。 しかしながら、実証研究には多くの限界があり、それを把握しておくことは重要である。そこには、仮説設定におけるバイアス、変数を特定化する際の分析者の主観性、実証モデルの選択、検証結果の解釈の問題が含まれる。こうした限界を克服するためには、検証手続きの精緻化、適切な統計手法の適用とともに、他の研究方法とのコラボレーションが重要になると考えられる。
■■ 統一論題報告(3) : 田口聡志氏(同志社大学)「管理会計における実験研究の位置付けを巡って」
本報告では、管理会計における実験研究の方法論的な意義を整理すると共に、管理会計研究をより豊かにしていくために実験が担っていくべき役割について検討を行った。実験研究は、(1)データのハンドリングが容易、(2)事前検証が可能(意図せざる帰結の発見が可能)、(3)内的妥当性が高い、という優位性を持ち、また、2つのタイプがある(複数人間の意思決定を取り扱いメカニズムの検証が得意な経済実験と、個人単体の意思決定を取り扱いヒトの心理バイアスの検証が得意な心理実験)。管理会計では、主にマネジメント・コントロールの領域で実験が用いられ、また、特に心理実験のウェイトが高い。今後は、心理実験と経済実験との融合を図り、また、他の研究手法と良好なコラボレーションを図っていくことが望まれる。
■■ 統一論題報告(4) : 木村彰吾氏(名古屋大学)
「管理会計研究における質的研究方法論の意義:実務とのインタラクション」
本報告では、質的研究方法(Qualitative Research)あるいはフィールドワークと位置づけられるCase Study、Action Research、Ethnography、Grounded Theoryを取り上げ、その意義について管理会計研究目的に関わらせて考察した。 McKinseyが会計のマネジメントへの役立ちを体系化することを意図して著した「管理会計(Managerial Accounting)」を管理会計の原点と位置づけると、管理会計研究の原点は、管理会計実践を観察し体系化すること、そして管理会計手法を開発することであることを説明した。このように理解すると、質的研究方法は、管理会計技法の発見、新しい管理会計手法の開発、管理会計技法の運用にかかわる発見、管理会計プロセスの記述・説明・分析という貢献をなしたと言える。その一方で、理論の普遍化への制約や学術的厳密さの欠如という限界もあることを指摘した。こうした考察を踏まえて、実務との適度な距離感を保ちながら、マルチ・メソドロジーにより学術的厳密さを向上させる必要があることをまとめとして主張した。
■ なお、次回の日本管理会計学会年次全国大会は、立命館大学にて2013年9月13日(金)~9月15日(日)開催される予定である。
年次全国大会準備委員会 委員長 白銀良三(国士舘大学)
■■ 日本管理会計学会2012年度第2回フォーラムは,北海道大学を会場として,2012年7月21日(土)に開催された(実行委員長:篠田朝也氏)。今回のフォーラムでは,統一論題が設定されていなかったものの,管理会計と会計実務の関係を強く意識した研究報告と企業講演が行われ,活発な議論が展開された。第1部の研究報告では,丸田起大氏(九州大学),藤本康男氏(フジモトコンサルティングオフィス合同会社代表社員,税理士),長坂悦敬氏(甲南大学)の3名が報告された。第2部の企業講演では,北海道で活躍している元気な企業で,社会貢献活動を積極的に展開されている企業のなかから,実行委員長の篠田氏が株式会社富士メガネに講演を依頼した経緯が説明されたのち,大久保浩幸氏(株式会社富士メガネ取締役,人事・総務部長)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,夏の北海道でのフォーラムを惜しみつつ散会となった。
丸田氏は,わが国における管理会計研究の発展に向けて,実務家と研究者との間で共同研究・共同開発が活発化されることの期待を表明するとともに,アクションリサーチに代表される関与型研究(interventionist research)にもとづいて実践されている共同研究「ソフトウェア開発における品質コストマネジメントの適用」の事例を紹介された。
藤本氏は,地域に根差した企業を支援することによって地域経済の活性化に貢献するというミッションを実現するためには,中小製造業に管理会計を導入させることが重要であると主張された。氏が経営するコンサルタント会社では,経営者の意思決定に役立つ情報網の構築=「見える化」と,それを利用した経営改善のしくみを社内に定着させることを目的としており,経営者のみならず社員一人ひとりが「戦略」と「データ」にもとづいて考え行動する集団になることを目指しているという。氏は,この文脈から,オホーツク紋別にある水産加工(かまぼこ)会社に対する管理会計導入の事例を紹介された。
長坂氏は,製造関係との産学連携という視点から大学研究者として産業界にどのようなアクションが起こせるかという問題意識のもとで,管理会計のフレームワークやコントロール概念を深化・発展させる手掛かりとして,「融合コストマネジメント」(Fused Cost Management)というアプローチを提唱された。また,実務にインプリメントできる具体的なアクション研究をソリューションと捉えて,産学官の共同プロジェクトから開発・提案されたソリューションの事例を紹介された。
大久保氏は,メガネは医療用具であるという立場からお客様にメガネを提供していること,そのための人材養成をしていることを強調された。また,お客様の「見る喜び」という企業理念の具現化やノウハウの蓄積を一定のサービスレベルで保持して,売上を向上させていくためのソフトの開発が不可欠であると主張された。このソフトが富士メガネ総合情報システム(Fuji Total Information System,以下「FTIS」という。)であり,その導入経緯と機能の概要について説明された。
■■ 関谷浩行氏による第1報告では,以下の順序に従って進められ,戦略のカスケードと方針展開に関する事例研究が報告された。
▼ コメンテーター(荒井耕氏)のコメント
■■ 妹尾剛好氏による第2報告では,以下の順序に従って進められ,戦略マップがマネジャーという個人の心理に及ぼす影響に関する文献レビューを中心とした研究について報告された。
▼ コメンテーター(新江孝氏)のコメント
■■ 第1報告 第1報告では,井上和子氏(立教大学大学院)より「工業簿記と原価計算との有機的な結合による原価管理事例の考察」と題する研究報告がなされた。本報告では,標準原価計算を取り巻く現状を整理した上で,企業における事例,標準原価計算による原価差異分析,標準原価計算の活用による原価管理,標準原価を基軸とする労務管理の展開について考察が行われた。これらの考察を踏まえ,長期の企業経営という視点に立脚した場合,会計・原価計算は,本来,将来へ向けての実績計算にこそ意味を持つものであることが主張された。
■■第1報告 第1報告は,威知謙豪(中部大学)より,「特別目的事業体の連結会計基準の厳格化と実体的裁量行動」と題する研究報告がなされた。本報告では,一定の要件を満たす特別目的事業体を連結範囲から除外する例外規定の厳格化に伴い,その影響が相対的に高い企業においては,例外規定を利用した取引を取りやめる傾向にあることが確認された。一方で,早期適用や,今後の経営目標として採用される各種指標の算定の際に,一定の要件を満たす特別目的事業体を連結範囲に含めるか否かについては,例外規定の厳格化の影響の高低との一貫した関係は見られないことが報告された。
という評価指標が提案された。