2009年度 第2回 フォーラム(兼 第28回 九州部会)開催記

2009forum2_1.jpg■■ 日本管理会計学会2009年度第2回フォーラム兼第28回九州部会が,2009年7月4日(土)に九州大学経済学部(福岡市東区箱崎)にて開催された(準備委員長:九州大学教授・大下丈平氏)。今回のフォーラムは,九州大学のOBや九州ご出身などいずれも九州にゆかりのある著名な講師陣をそろえ,管理会計研究においても内部統制・内部監査の議論を高めていこうというメッセージを九州から発信する画期的な企画となり,全国から40名を超える研究者・実務家の参加を得た。なお当フォーラムの開催案内や講師の紹介派遣にあたって,社団法人日本内部監査協会より多大なご後援を賜った。記して謝意を表したい。
■■ フォーラムでは西村明氏(別府大学学長,九州大学名誉教授)を座長として,「内部統制と企業経営 ―内部統制は企業経営にどのような影響を与えたか―」という統一論題のもとで,以下の3氏による報告がおこなわれた。

■■ まず富田昭仁氏(監査法人トーマツ マネージャー)から「内部統制報告制度の概要と実務上の対応」と題して,内部統制報告制度の概要,制度の施行にともなう実務上の課題,重要な欠陥の事例などが報告され,内部統制報告制度の構築運用を現場で支える公認会計士の立場から,内部統制報告制度の全体像や日本的な特徴,内部統制制度の構築・施行にあたっての社内での人材不足,リスク・コントロール・マトリクス(RCM)などのツールへの理解不足,および制度への対応における現場の経営者の苦労話などが臨場感をもって紹介された。

2009forum2_2.jpg■■ 次に伊藤龍峰氏(西南学院大学教授)から「内部統制監査をめぐる諸問題」と題して,財務諸表監査の目的と固有の限界,内部統制報告の制度化への歴史的経緯,実態監査と情報監査および会計監査と業務監査の相違点,内部統制の有効性の検証におけるダイレクト・レポーティングとインダイレクト・レポーティングという二つの形態,金融商品取引法における内部統制監査の特徴と問題点などが報告され,監査理論の観点や国際比較の観点から我が国の内部統制報告制度がもつ矛盾点や社会的な非効率性などが指摘された。

■■ 最後に別府正之助氏(中日本高速道路(株)顧問)から「CEOの内部統制への取り組み」と題して,内部統制に対して経営トップの関心が低かった理由,CEOに自覚してもらいたいこと,CEOが今なすべきこと,他社の不正事例などのケーススタディの有効性,不正経理(粉飾決算)の防止法,セグメント別リスク・マネジメントを徹底している総合商社の管理会計システムや業績評価制度の事例などが報告され,内部統制を支える内部監査の豊富なご経験を踏まえて,社員を疑うための内部統制ではなく自律性を高めるためのリスク・マネジメント体制として理解すべきこと,経営者が「居座る」リスクへの対処や監査役会・社外監査役・内部監査人への期待などについて具体的な提言が数多くなされた。

■■ 3氏の報告を受けて,西村座長から「内部統制の現代的視点 -管理会計の視点から-」と題して,フィードフォワード・コントロールをキーワードにしながら,内部統制に対する管理会計の視点からの期待や3氏の報告へのコメントが述べられた後,座長と報告者による円卓討論がおこなわれ,フロアからも研究者だけでなく現場で内部統制・内部監査の実務に携わる実務家の方々から,いまだに根強い監査アレルギーの問題,内部統制が経営者の利益平準化行動の余地を狭めることの是非,内部統制の啓蒙に対する内部監査人資格取得の意義などについて,活発に質疑応答がなされた。

丸田起大(九州大学)

2009年度 第1回関西中部部会開催報告

2009kansai1_1.jpg■■2009年6月6日(土)午後1時55分から、名古屋市立大学経済学部棟(3号館)にて、日本管理会計学会2009年度第1回関西・中部部会が開催された。今回の部会は、星野優太(名古屋市立大学)と斉藤孝一氏(南山大学)の司会により、院生と研究者とがそれぞれ日頃取り組んでいるテーマに沿って報告が行われ、テーマ的にも興味深い研究会となった。

2009kansai1_2.jpg■■まず、中富香苗氏(名古屋市立大学大学院生)が、「移転価格の設定とその比較可能性」というテーマで報告された。移転価格税制は、1995年のOECD移転価格ガイドラインが国際規範となっており、移転価格の設定には、同業他社との比較に基づいて独立企業間価格を算定する方法が採用されているという。この比較に基づく独立企業原則には、二重課税の危険性などのいくつかの問題点が挙げられ、一方、比較可能性を困難にする原因として、無形資産価値の算定の困難性、為替変動の影響、多国籍企業の組織形態の多様化、経済環境の急激な変化などが考えられることが指摘された。中富氏は、その上で、最近のOECDによる比較可能性の議論やEUの税制統合の動向を紹介しながら、現行の独立企業原則に基づく制度から定式による分配を活用する方法の可能性についての議論をした。

2009kansai1_3.jpg■■次に、木下徹弘氏(龍谷大学)により「Cost structure changes of Japanese man‐ufacturers amidst global competition」と題するテーマで報告があった。本報告は、日本製造業企業がグローバリゼーションの影響をうけてコスト構造をどのように変化させたかについて、上場企業746社の1980年から2006年の財務データを用いて分析した研究報告であった。グローバリゼーションが日本の製造業企業に与える影響は、世界中からの競合者の市場参入と加速度的なイノベーションによってもたらされる市場の縮小とデフレ圧力と定義される。こうした圧力をうけて、1990年代央以降、売上を頻々に減少させた企業は売上に対する原価の弾力性を高めたが、売上を順調に増加させた企業は原価の弾力性を緩和して規模の経済の利益を獲得しようとした傾向が強いことが実証された。

2009kansai1_4.jpg■■最後に、河田信氏(名城大学大学院教授)による、「「利益」から「利益ポテンシャル」概念へ- 財務分析の新たな可能性を探る」というテーマで報告があった。従来の経営理論は、投資家のために利益を拡大することを基礎としてきたが、今後は社会全体に利益をもたらすための理論を構築すべきであるという。このパラダイムシフトを考えたとき、従来のマネジメントの手法では無意識に部分最適化を選択してしまい、全体最適化に結びつかない場合も多い。TPSの導入は全体最適化に有効であるが、TPSの導入は容易ではない。そこでTPSとリンクした指標として、[売上総利益/棚卸資産]として表される「利益ポテンシャル」を提案する。これは利益率要素である[売上総利益/売上原価]とリードタイム要素である[売上原価/棚卸資産]を掛け合わせたものである。河田氏は、この指標ならば、TPSとリンクした業績評価が可能であり、財務分析の新たな視点として有用であるとする。

■■それぞれの報告の後には、フロアから興味深い質問が提出され、非常に活発な質疑応答がなされ、35名を越える参加者が熱のこもった議論を行い、有意義な関西・中部部会となった。

関西・中部部会大会運営委員長 星野優太

2008年度 年次全国大会の大会記

 日本管理会計学会2008年度全国大会は,甲南大学を会場として,8月29日(金)から31日(日)までの日程で開催された(大会準備委員長:上埜進氏)。
 自由論題報告は,テーマ・セッションやワークショップという形式のもとで,2日目午前中に8会場で22件,3日目午前中に7会場で19件,合計41件の報告が行われた。また,司会者のほかに,報告者に有益な研究改善提案を行う役割とフロア参加者の理解を深める役割を担う討議者が加わり,活発な議論が展開された。
 2日目の特別講演では,淺田孝幸氏(大阪大学)を司会に,林守也氏(株式会社クボタ代表取締役副社長,機械事業本部長)が講演をされた。また,統一論題報告は,原田昇氏(東京理科大学)を座長として,統一論題「インタンジブルズ(intangibles)と管理会計」のもとで,まず,伊藤邦雄氏(一橋大学)が基調講演され,次いで,青木茂男氏(青山学院大学),山本達司氏(名古屋大学),古賀健太郎氏(University of Illinois)の3名が報告された。懇親会は非常に多くの参加者があり盛会であった。
 3日目の統一論題シンポジウムでは,原田氏を座長に,青木氏,山本氏,古賀氏の3名をパネリストに,小倉昇氏(筑波大学)をコメンテーターに加え,活発な議論が行われた。
なお,今回の大会に参加した会員および非会員は総勢で246名(この他に甲南大学大学院生15名の参加)であり,また,すべての報告が日本公認会計士協会からCPE単位の対象に認定された。
以下は特別講演と統一論題報告の要旨である。

<特別講演>
林守也氏「『ドメスティック企業』から『グローバル企業』へ‐経営革新とグローバル化‐」
 林氏は,トラクターやコンバインといった農業機械を取り扱う国内指向の強い会社というイメージが定着しているが,クボタは,実際には,北米市場を中心に欧州市場やアジア市場において事業活動を展開する日本でも有数のグローバル企業に成長していることを始めに強調された。 グローバル化とは,今ある商品を海外に売ることではなく,一つ一つの地域や市場を発見することであり,各国の文化,歴史,経済,ライフスタイルに合わせた商品ないしビジネスを開発・構築することこそがグローバル化であると指摘された。具体例として,日本のトラクターが農機具ではなく家庭の草刈り機械として需要があることを調査したうえで,クボタが北米で富裕層向けの市場に合致する販売戦略を展開してきたことを示された。また,アジアを中心とした新興国の経済発展が加速化していることに鑑み,グローバル化にともなう事業拡大のチャンスを企業革新のチャンスと捉え,企業自ら改革し変化していくことが重要であると主張された。

<統一論題報告>
基調講演:伊藤邦雄氏「インタンジブルズと企業価値」
 伊藤氏は,コーポレートブランド,特許・知的財産権,人的資産・知的資本,IT投資・ソフトウェアなどの企業経営上きわめて重要な無形資産の多くが貸借対照表に計上されないものの,近年それらへの投資額が増大しており,企業価値の決定因子がIT化,サービス化の進展にともなって有形資産から無形資産にシフトしている事実に注目され,無形資産研究の重要性を,始めに指摘された。
 次いで,無形資産を構成するコーポレートブランド(以下,「CB」という。)に着目し,企業価値創造企業(株式時価総額を増大させた企業)はCB価値を増大させること,また,純資産と経常利益を所与としてもCB価値は企業価値を追加的に説明する能力をもつこと,などを定量的な分析結果にもとづいて示された。また,CBをコントロールするためには,CBの「見える化」(測定)が必要であることを強調され,伊藤氏が日本経済新聞社の協力を得て2001年に開発されたCB価値測定モデルである「CBバリュエーター」を解説された。終わりに,真の企業価値は,ステークホルダー(株主,従業員,顧客)の価値の総和である,と主張された。

統一論題報告(1):青木茂男氏「企業価値の意味するもの」
 青木氏は,始めに,企業価値という概念がどのように使用されているかを整理され,企業価値を測定する計算式「企業価値=事業価値+非事業価値」を示された。そして,この企業価値から負債価値(有利子負債)を差し引いて株主価値を求め,さらに株主価値を株主資本(資本金・資本剰余金・利益剰余金),評価・換算差額,R&D資産計上額,そして株主価値からこれら3項目を控除した残余であるブランド価値,に区分された。
 次いで,ブランド価値の測定に際して,日本の製造業135社と米国の製造業194社のデータにもとづき,DCF法,モンテカルロ・シミュレーション,リアルオプションなどいくつかの方法によって推計した事業価値と,その理論的問題点を紹介された。そのなかで,抽出された51社について,経済産業省のブランド価値報告書にもとづく「ブランド価値」と,その対応概念である,青木氏が推定された「R&D価値+ブランド価値」とを検討され,両モデルの間には比較可能性が存在しないと言明された。また,企業価値の測定について,統計処理でもって画一的に行うのではなく,企業価値のあいまいさゆえに個別企業の特性を考慮した測定を行うべきとの提言をされた。

統一論題報告(2):山本達司氏「M&Aにおける企業価値 ‐行動ファイナンスの視点から‐」
 山本氏は,日本の経済発展のためには,企業価値を高める重要な手段であるM&Aを円滑に実行できる環境が必要であると述べ,TOBの観点から,日本の株式市場の非効率性を分析された。氏は,株式市場の非効率性を形成する要因として,投資家の心理的要因などの行動ファイナンス的要因と日本独自の株式所有構造である株式相互持合に注目され,それらがTOBの実現にどのような影響を与えるかを,ゲーム理論の手法を用いて分析された。そして,その分析結果を確認するために,北越製紙に対する王子製紙のTOBの事例を紹介された。 山本氏の研究報告の結論は,敵対的TOBとなった場合,市場の非効率性がTOBの大きな阻害要因となり,TOBの成功確率が低下するということである。最後に氏は,インタンジブルズの評価の不完全性によって市場の非効率性が生じていることを指摘され,制度会計の立場からは,市場の効率性を確保するためにインタンジブルズの完全な評価に向けて努力すべきであるが,管理会計の立場からは,インタンジブルズの完全な評価方法を模索するよりも,市場の非効率性を前提として企業は最適行動を考えるべきであると主張された。

統一論題報告(3):古賀健太郎氏「インタンジブルズに関する米国の視点と日本での適用可能性」
 古賀氏は,Roychowdhury and Watts(2007)の文献で示されている株式時価総額の4層構造に関して,経済学をベースとする米国実証研究では,第1層「個別資産の取得原価の合計」と第2層「確認計上される個別資産の経済価値の増加」の合計額である純資産簿価と,株式時価総額との差をもって,無形資産と定義していることを,始めに確認された。そして,無形資産は,第3層「(確認できない)個別資産の経済価値の増加」と第4層「資産の組合せによる経済価値の増大」とに大別できることを説明された。
 次いで,人的資産が無形資産を増大させるプロセスを日米間で比較された。日本では,同プロセスで,従業員間の協働を促す仕組み(暗黙知の共有)があるのに対して,米国では,従業員個人の能力を発揮させる仕組みが強調されていると主張された。こうした文化の違いを映し,米国の管理会計研究では,従業員個人の能力を発揮させる視点から意思決定を誘導する管理会計機能が重視されており,バランスト・スコアカードについても業績評価研究が主流であると述べられた。
管理会計が従業員間の協働を促すという視点は,米国の管理会計研究に欠けている視点であり,日本独特であると強調された。インターアクティブ・コントロールについては,日本の原価企画研究の蓄積は有用であるものの,業績評価が意思決定を誘導する状況では,意思決定支援に有用な情報を従業員が囲い込み,目標の不一致が高まる可能性があることを指摘された。

川島和浩氏 ( 苫小牧駒澤大学 )

2009年度 第1回フォーラム 開催記

■■ 2009年4月11日午後2時より,早稲田大学早稲田キャンパスにて,日本管理会計学会2009年度第1回フォーラムが開催された。今回のフォーラムは,田中雅康常務理事・前会長(東京理科大学)の司会のもと,研究者と実務家が統一テーマに沿って報告するという,非常に魅力のあるプログラムであった。
まず,田坂公氏(共栄大学)より,「原価企画研究アプローチの変遷 -わが国と欧米の文献比較-」というテーマで報告がなされた。わが国の研究では,原価企画の発展にしたがい,それぞれに対応した3つの研究アプローチ(順に,管理工学的アプローチ,原価低減活動アプローチ,戦略的コストマネジメント・アプローチ)が発展してきたことが明らかにされるとともに,それぞれのアプローチの境界を検討する際に,4つのメルクマール(目的・ツール・関連組織・戦略性)を利用できることが主張された。一方,欧米では,3つのアプローチを混在・並列させる形で発展してきたことが,文献研究を通じて確認された。

■■ 次の報告は,吉田栄介氏(慶應義塾大学)による,「原価企画におけるテンション・マネジメント」であった。この報告では,トヨタ自動車におけるケーススタディを基に,高度化した原価企画活動が伝統的設計活動とのテンション(緊張)を生み出すことが説明された。それに対し,マネジメント・コントロール研究からの知見を活かし,テンション(組織に本来的に内在する緊張状態)をダイナミック・テンション(組織業績を高めるテンション)へと仕向けるための,「テンション・マネジメント」の検討が提唱された。

■■ 休憩を挟み,後半は2名の実務家による報告であった。1人目の遠藤豊氏(株式会社小森コーポレーション・利益企画部CE課長)は「小森コーポレーションの原価企画」というテーマの報告をおこなった。そこでは,他社との競合の中で性能の良いものを作ることに注力してきた同社が,結果として「高すぎて買えない」製品を作り出してしまい,原価低減が最重要課題となっていることが指摘された。その状況に対応するため,新製品の企画・開発段階からのコスト作り込みを目指し,技術本部の下に利益企画部を設置していること,そして「人づくり」,「しくみづくり」,「道具づくり」という3つの活動を通して,全社的なVE活動を実践していることなどが紹介された。

■■ 最後は,三枝峰夫氏(いすゞ自動車株式会社・原価企画部長)から「いすゞの原価企画 -原価低減20%へのプロセス-」というテーマで報告があった。同報告では,同社において,従来的な組織の枠組みを越えたCFT(クロスファンクショナルチーム)が,品質・コスト・日程に関する目標達成活動を推進していることが紹介された。さらに,原価企画機能を14機能へ細分化し,個々の目標を設けることで,目標達成への計画・評価が容易になっている様子が示された。これらの施策について,具体的な開発活動を通じた事例が明らかにされ,実際の活用状況を知ることができる報告であった。

■■ それぞれの報告後には,活発な質疑応答がなされ,60名を超える多くの参加者にとっても,非常に有意義な時間となったフォーラムであった。

 

大鹿智基氏 ( 早稲田大学 )