■■日本管理会計学会2014年度第1回関西・中部部会が、2014年11月15日(土)に関西学院大学上ケ原キャンパス G号館(兵庫県西宮市)にて開催された(準備委員長:徳崎進氏(関西学院大学))。今回の部会では、中国・四国・北陸・中部などのほかに、関東からご参加下さる方もおり、参加者は全体で21名であった。いずれの報告でも、研究報告の後には活発な質疑応答が行われた。
■■統一論題関連セッション「経営情報とマネジメント」
■第1報告 伊佐田 文彦氏(関西大学)
「企業の社会性と収益性に関する予備的研究:電機業界の事例をもとに」
本報告は、民間企業が行っているサステナビリティ活動が、長期的に企業収益に貢献しているか否かを実証的に調査したものである。企業が行うCSR活動と企業収益との関係については、これまで様々な研究が行われてきたが、その結果は、正の相関とするものから、負の相関、そして無相関とするものまであり、全くのばらばらであった。伊佐田氏は、この先行研究の様々な結果はCSR活動の中には企業収益に貢献する活動もあれば、そうでない活動も含まれているからである、との考えに基づき、CSR活動の中でもとりわけ企業収益に直結していると思われるサステナビリティ活動と企業収益との関連性についての調査結果を報告された。
■第2報告 平山 賢二氏(株式会社アットストリーム会長)
「業務改革のためのKPIマネジメント:
業務の可視化および重要業績指標による業務プロセス改革に関する研究」
本報告は、業務プロセス改革の現場において具体的にどのような課題があり、またそれに対してどのような解決が行われているのかについて、実際にコンサルティングを行っている専門家の立場から説明したものである。近年の日本企業の海外進出では、生産活動の移転にとどまらず、生産管理、購買、販売から売掛金の回収まで、現地企業の担当する業務範囲が次第に拡大している。そのような状況では国内事業と海外事業を一体で考えるために業務プロセスを改革する必要がある。平山氏は、この改革を効率的・効果的に進めるためには、効率的・効果的な現状業務の可視化、業務プロセス改革に最適な重要業績指標の設定、および戦略・戦術に紐づいた業務プロセス改革対象業務の抽出、の3要素が重要であると指摘され、また実際のコンサルティング活動で使われている経営ツールの実演も行われた。
■■自由論題
■第1報告 東 壮一郎氏(関西学院大学大学院生)
「半導体企業の設備投資に関する実証研究:日米半導体協定の影響について」
本報告は、日本の半導体企業の設備投資がどのように行われてきたか、特に1986年から1996年まで締結されていた日米半導体協定が日本企業の設備投資にどのような影響を与えたかについて実証的に調査したものである。半導体市場は、40年以上にわたって継続的に成長している、習熟効果による価格低下が激しい、4年程度で好不況が周期的に変化する、技術進歩が激しい、などの特徴を持ち、その結果として継続的な多額の設備投資が必要な市場となっている。東氏は、1986年から1996年まで締結されていた日米半導体協定が日本半導体企業の設備投資の意思決定に与えた影響についての調査結果を報告された。
■第2報告 佐久間 智広氏(神戸大学大学院生) 安酸 建二氏(近畿大学)
三矢 裕氏(神戸大学)
「組織内で行われる実体的利益調整行動:
ビジネスユニットレベルで生じるコストの調整に関する実証研究」
本報告は、企業組織内部のマネージャーが利益調整を行っているかどうかを調査したものであり、三氏を代表して佐久間智広氏が報告された。企業は様々な理由により、利益を増大(減少)させて利益を調整するインセンティブを持っている。このような利益調整行動は、経営者に止まらず、組織内部のマネージャーも行っている可能性がある。例えば、目標設定に前期業績を用いた場合、良い業績を上げた翌期には目標業績が引き上げられてしまう。これを避けるため、組織内部のマネージャーは、目標値を達成した場合、それ以上業績を上げようとはしなくなるかもしれない(ラチェット効果)。佐久間氏は、インストアベーカリー社のデータを調査し、店長がこのラチェット効果に基づいた利益調整行動を行っているかどうかを分析した結果を報告された。
■第3報告 朴 鏡杓(香川大学)
「環境に配慮した製品開発と原価企画:質問票調査による実態分析」
本報告は、原価企画活動において環境コストの考慮を促進する要因を探索し、また環境に配慮した原価企画活動とその効果について分析したものである。原価企画の対象とすべき原価は、理想的には、メーカーとユーザーの双方で発生する全ライフサイクルコストであるにもかかわらず、実際には環境コストはあまり考慮されないことが多い。朴氏は、東証一部上場の機械、精密機器、電気機器、輸送用機器に属する企業への質問票調査を行い、環境コストの内部化にはプロアクティブな企業、サプライヤーとの協力関係、3R設計を重視する企業、といった要因が重要とする分析結果を報告された。
緒方勇(関西学院大学)
■■ 2013年6月15日(土)13:30から,甲南大学岡本キャンパス5号館2階521教室 において,2013年度 第1回 関西・中部部会が開催された。小菅正伸部会長の挨拶の後,自由論題で4つの報告,統一論題で3つの報告が行われた。いずれも興味深い研究成果の報告で,報告者とフロアとの活発な議論が交わされた。大会参加者は47名を数え,盛況のうちに大会は終了した。以下はその概要である。
コンティンジェンシー理論とは「あらゆる状況に適用できる唯一最善の方法というものは存在せず、状況が異なれば、有効な方法は異なる」という考え方を 示唆するものであり、古くからこの理論のもとで数多くの実証分析(サーベイとケース)が行われてきた。初期のコンティンジェンシー研究は組織論の視点に基づくものであったが、1972年のKhandwallaの研究を契機として、管理会計 的視点を取り入れるようになった。本報告では、組織論の視点に基づくコンティンジェンシー研究ならびにコンティンジェンシー理論を援用した会計学研究に関する文献を渉猟することで、コンティンジェンシー理論の歴史をたどり、 さらにはコンティンジェンシー研究の貢献と限界を論じた。
従来、企業は基幹業務のトランザクション・データをコアにしたデータ分析を行い,コスト・マネジメントなどへの連携を図ってきたが,ビッグデータ関連のテクノロジーの進化に伴い,各種ソーシャル・データを取り入れたマネジメントが可能になりつつある。本報告では,ビッグデータのイノベーションが,IT投資,マーケティング活動、経営意思決定、コスト・マネジメントなどへどのようなインパクトをもたらすかについて検討した。
経済効果の予測値は,そのインパクトから経営課題の直視や根本策検討を促進できるが,投資等の判断材料としては限界がある。理由は,根本策への投資額の算出に直結しないこと,非現実性(例 予測値に外部不経済が反映しない)等である。 本報告では,経済効果予測の「脱問題先送り」への活用について,限界克服の事例が報告された。事例は,「同予測から投資等の許容額を導出する際に,産業連関分析の限界克服方法の仮説を設ける」という自治体の「脱農業衰退」政策の形成過程である。
近年,企業経営における環境意識の高揚を背景に環境管理会計が興隆し,とりわけ生産・物流プロセスを対象とするマテリアルフローコスト会計(MFCA)が発展する傾向にある。一方,日本を代表する効率的生産方式であるトヨタ生産システム(TPS)に関しては,その環境貢献性について,従来,指摘がなされてきた。しかしながら,TPSと環境管理会計との関係に関する考察,および,両者の整合化・統合化に関する視点や枠組みは,従来,明確には存在しなかった。本報告では,TPSとMFCAとの関係に関する考察をおこない,両者の統合的進化を促進し得る新たな管理会計概念として,「マテリアルフロータイムコスト(MFTC)」の概念を提唱した。
本報告では,APMAA Research Initiativesについて解説した。冒頭にAPMAAの概要を簡略に述べ,第1節 APMAA Past and Future Conferences: Dates and Locationsに,年次大会の発展史と2015年までの予定の説明があった。第2節は、APMAA学会誌であるAsia-Pacific Management Accounting Journal (APMAJ)への論文投稿、掲載論文の分布などの説明であった。第3節ではIndustrial-Academic Cooperationの可能性を,また第4節ではInternational Research Collaborationの方向を示された。昨今,アジアの時代と喧伝されているが,社会科学研究の世界は,今日まで、欧米ないしAnglo-Saxonが主導していると述べられ,APMAA Research Initiativesは,会計の世界でアジアから世界に向けた発信が増えればという思いで,展開しているとのことであった。
本報告は,日本的管理会計の国際的展開という脈絡の中で,中国における日本的管理会計に対する認識をサーベイしたものであった。具体的には,CNKIという中国語のデータベースを用いて中国の学術誌に掲載されている管理会計論文を検索し,90年代に続いて2000年以降も日本の管理会計を議論する論文が中国で増え続けていることを示された。また、中国では,日本の管理会計の特徴として,市場志向と源流管理が,日本の管理会計の手法として原価企画とジャストインタイム生産方式が,広く多く取り上げられているとのことであった。日本の管理会計における,環境に適応する管理会計の運用,市場志向の考え方が,中国で注目されていることも紹介された。今回のサーベイでは,中国での日本の管理会計に対する認識を紹介できたが,その認識に至るプロセス(認識のルート)の考察は今後の研究課題であると述べ,報告を終えられた。
本報告ではまず,報告者によりこれまでの中国管理会計に関する研究の紹介がなされ,そのうえで今回は中国会計学会の機構と構成,特徴,中国の公認会計士試験科目における管理会計内容と日本の公認会計士の管理会計科目との比較、検討がなされ,最後に最近の中国において活発な活動を展開している中国IMAの活動について紹介された。 なお,同報告では,結論を以下のようにまとめられた。 1.最近の中国における管理会計の動向としては,国際化,グローバル化が一層進展し,とりわけアメリカへの傾斜が一段と強化されていること。 2.中国IMAが提唱している「管理会計の日」の設定に象徴されるように管理会計の導入に対してきわめて積極的な姿勢が見られること。 3.中国の公認会計士試験の改革(国際化、コンピュータ化)なども参考になり,「財務原価管理」,「会社戦略とリスク管理」という中国の科目設定は興味深いものであり,財務管理と原価計算,管理会計の枠組みも再度考え直すことも必要。 ちなみに,当日の資料で中国会計学会の創立年が1990年となっていたが,1980年の誤りであることが報告者から伝えられた。
本報告の目的は、企業の経営管理目的から倒産予測モデル研究を行い,日本の紡績業界およびアパレル業界における安全性の管理指標を明らかにすることである。管理指標として,個別企業の倒産確率が推定可能な確率統計技法を用いるとともに、使用する説明変数には企業の自助努力で改善ができること、リスクを低減するための多様な対策が可能であることといった特徴を持つ「安全性指標」に焦点をあてた分析のプロセスと分析結果が報告された。また,個別企業の倒産予測という微視的な視点により近づけるために,紡績業界およびアパレル業界という細分化した業界を各々調査対象とし,企業の類似性を維持したクラスター視的な統計的知見が示された。
従来の不確実性下におけるCVP分析の研究では,特定時点における操業度等を確率変数とする確率的CVP分析が検討されてきた。これに対して,本報告ではCVPの時系列を対象とした動学的視点からの確率的CVPモデルが提示された。
現在,バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard;以下BSC)研究は、欧米のみならず,わが国においても管理会計領域の主要テーマの一つとして位置づけられている。しかしながら、BSCは,さまざまな研究者によって,多様な観点から研究されてきたため,BSC研究の蓄積状況について全体像を把握することは容易ではないのが現状である。
本報告では,危機的状況において,管理会計がどのような意義と役割をもつのかについて考察された。第1に,リスクマネジメントと危機管理を定義し,危機管理はリスクの顕在化を防止することよりも,危機発生後の損失の最小化と復旧のための対応に重点があることが述べられた。そして,欧米と日本の危機管理に関する管理会計領域の先行研究のレビューを踏まえて,危機管理に関する研究は,重要なのにもかかわらず,管理会計ならびに経営情報とコントロールシステムに関連する領域で,まだほとんど行われていないことが報告された。第2に,東日本大震災時のJR貨物の対応事例から得られた知見が紹介された。すなわち,震災前と被災・復旧時とでは以下のような変化があった。(1)組織構造が集権的かつ機能分化した専門組織だったのが,現業部門の指揮命令系統は確保しながらも,有機的・自律的な職能横断的,自律的なチーム活動,インフォーマルなコミュニケーションが盛んに行われた。(2)たとえば,予算管理は危機的状況において,どのように柔軟に対応できるかということが課題なのであるが,平時の経営計画に基づいた地域別の損益予算から,通常のPDCAに基づいた予算管理とは異なる形での管理会計情報の生成と運用が観察された。第3に,Hopwood(2009),Van derStede(2011)による金融危機からの知見と本事例を比較して,危機に直面した組織において,組織内,組織間の会計情報の利用形態に変化がみられた点では一致していたこと。その背景には組織構造の変化があった。第4に,本研究の限界として危機管理は地域固有のコンテクストに依存する可能性が高い点で学術的研究としては困難を伴うこと,そして,従来からの管理会計の既存研究の流れの延長上で研究を展開する可能性を検討していきたいという見解が表明された。
本報告では,事業投資意思決定におけるリスクの考慮方法について,理論と実務との間にかい離があるという報告がなされた。すなわち,ファイナンス理論に基づいた計算結果だけで意思決定が行われるのではないという事実が紹介された。日本の某大手総合商社では(1)定量基準と(2)定性基準があるが,投融資委員会においては,(1)を見極めながらも(2)が重視されているのではないかという実務家ならではの体験に基づく見解が表明された。また,中小を含む多くの一般事業会社でも,キャッシュフローで判断することの意義を理解しつつも,純資産法での意思決定がなされる事例が多いのではないかという見解が示された。実務で利用される技法には「分かりやすさ」という点が重要であること,ファイナンス理論に基づく合理的な意思決定だけでは説明のつかない事象があるとのことである。これらについては,さらなる研究に期待したいとの意見が述べられた。
本報告では,意思決定会計と業績管理会計という2つの観点から管理会計とリスクの問題が扱われた。意思決定会計における投資決定では,理論上,資本コストとしての割引率にリスクが反映されることになる。このリスクは,予測される将来キャッシュフロー(以下,CF)の期待値のまわりのバラツキである。したがって,将来CFの期待値に対する実現値がバラツクことは,意思決定時点のリスクを反映する資本コストとしての割引率に織り込み済みである。