■■ 日本管理会計学会2011年度第2回フォーラムが,2011年7月16日(土)13:00から成城大学において開催された(実行委員長:成城大学教授 塘 誠氏)。今回のフォーラムは,鈴木研一氏(明治大学教授)の司会のもと,境 新一氏(成城大学教授),磯崎 哲也氏(磯崎哲也事務所代表,公認会計士),山田有人氏(大原大学院大学教授 吉本興業監査役),そして川上昌直氏(兵庫県立大学准教授)の計4名から報告が行われた。フロアからも活発な質問が寄せられ,有意義な討議が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。
■■ 第1報告:境 新一氏(成城大学教授)
「感動創造の価値と価格に関する考察-アート・プロデュースの視点から-」
境氏は,アート・プロデュースの視点から感動創造の生み出す価値を反映した価格設定に関する現状と課題について報告された。最近のデジタル・IT技術の進展やソーシャル・メディアの台頭を背景として,産業に活用される発明や技術のみならず,アートの経済的価値が高まりつつある。とりわけアートは社会的な価値づけが重要であるため,保護と普及を一組に考える必要があり,その意味で,知的財産と似た属性を持つとされる。芸術・技術・特許などがアートとして融合し,創造性を発揮しながら文化的・経済的価値を創出するためには,アート・プロデュースという包括的な取り組みが必要であることが指摘された。
感動創造の生み出す価値とその価格の関係性については,多様な価値評価尺度が求められる。従来型の製造業やサービス業と違い,アートに代表される感動創造の生み出す価値については,その価値と価格の関係性の検証が難しいことが特徴とされる。管理会計は,使用価値,交換価値,文化的価値,美的価値,芸術価値,経済的価値,商品価値などの多様な価値評価尺度を包括して,価格と対置できる仕組みの構築について貢献が期待されることが示唆された。
■■ 第2報告:磯崎 哲也氏(磯崎哲也事務所代表,公認会計士)
「起業のファイナンス」
磯崎氏は,日米のベンチャーファイナンス事情の比較検討を通じて,日本のベンチャー界における「生態系」の充実の重要性が指摘された。生態系とはつまり,上場やバイアウトを経験した企業家や,ベンチャー支援をするエンジェルやベンチャーキャピタルなどの投資家,弁護士や会計士などの専門家,CFOやCTOなど鍵となる役員の候補者などのネットワークのことである。日本はアメリカから遅れること四半世紀,1990年代の終わりに証券ビッグバンを迎えるに至った。つまり日本の本格的なベンチャーファイナンスはまだ,始まってから10年少ししか経っていない。ベンチャー企業が活躍する素地を作るためには,良いベンチャー企業の卵が存在するだけではなく,それらを育てる生態系の充実が必要となる。ベンチャー投資は縮小しているように見えるが,ここ10年で日本においてもこの生態系は大きく発達した。米国では,国内市場での成功だけでなく,世界全体での成功に向けたプランがベンチャーキャピタルから求められる。日本においても,楽天やDeNA,グリーのように国内市場で成功を収めたベンチャー企業が世界市場へ進出する動きがあるが,最近では当初から海外市場での活躍を目指すベンチャー企業も出始めている。今後10年で時価総額数千億円以上の企業が10社出てくるようであれば,日本のベンチャーへの関心も好転を期待できるのではないかとの指摘があった。さらに,昨今の米国における上場前後のベンチャー企業の事例を踏まえて,米国におけるベンチャー投資が局所的にバブル気味であることを指摘し,生態系発達のためには「盛り上がり」も重要であることが指摘された。
■■ 第3報告:山田有人氏(大原大学院大学教授,吉本興業監査役)
「製作委員会方式による資金調達の功罪」
山田氏は,映画製作における資金調達について,日米の比較を通じてその現状と課題について整理された。日本の映画製作において採用されることの多い製作委員会方式は,委員会に加入する多数のメンバーから資金調達が可能となり,リスク分散を期待できるメリットがある。しかし一方で,メンバー間の責任・権限関係のあいまいさから,コンテンツビジネス全体の戦略を不明確にし,意思決定プロセスが明示化できない点に課題があることを指摘された。例えば,日本映画はリメーク権ビジネスにおいては多くの原石が存在すると思われるが,製作委員会方式という責任と権限関係があいまいな共同事業体により,海外企業の参入を困難にしている。また,製作委員会のメンバーは出資者であると同時にコンテンツ販売の窓口権を有するため,純粋な出資者の受け入れが困難であること。さらに,製作委員会方式を前提とすると,実積のない新規の参入者が割り込む余地がないことも指摘された(この問題に対してハリウッドにおいては,新規の参入者であっても,完成保証会社との間で完成保証契約を締結することで,銀行からの融資を通じた製作資金の調達を可能にしていることが報告された)。また,日本映画産業の全体的な問題点として,ネット化・成熟化した社会における収益獲得モデルの構築,広告宣伝投資等の意思決定会計の充実,製作予算における管理システム機能の強化の必要性が提示された。
■■ 第4報告:川上昌直氏(兵庫県立大学准教授)
「ビジネスモデルの新たなフレームワーク-実際の変革事例から-」
川上氏は,顧客満足と利益の両立を図るために求められる価値創造について,たざわ湖スキー場の事例を用いながら報告された。第一に,価値創造を図る仕組みの体系化にあたり,事業の仕組みを設計する思考方法としてのビジネスモデルと,結果として形成された事業の仕組みであるビジネスシステムの違いを,明確に認識することの重要性を指摘した。第二に,ビジネスモデルを考えるためには,デザインのフレームワークが必要であることを指摘した。すなわち,顧客価値を創造し,それを実現する提供の仕組み,そして目標とする利益を達成するための体系が必要とされる。その価値創造の鍵は,価値のオーナーである顧客の取り分としてのWTP(Willingness-to-pay)をいかに高めるかにあり,WTPを超えた価格設定は成立しえない。この具体例として,たざわ湖スキー場でのビジネスモデル変革を取り上げた。当該事例は顧客不満足の源泉を探り,コストに見合った形で問題を解消するビジネスモデルがいかに構築されるのか明らかにするものであった。そこでは,価値を保証し,乏しい資源でも実現可能な活動を通じてサービスを実現し,すべての顧客を対象にするのではなく課金対象をずらすことで価値創造を実現するに至ったとのことである。この事例を通じて,価値創造を可能にするための顧客価値創造・利益創出・価値提供の3要因を体系化させたビジネスモデルの構築の必要性が改めて示唆された。
塘 誠 (成城大学)
■■第1報告では,田尻敬昌氏(九州大学博士課程)より「組織スラック形成と利益マネジメントに関する一考察」と題する報告があり,負債選択企業による会計保守主義の採用はビッグバスによる利益マネジメントではなく,救済機能を担う銀行のモニタリング下におけるリストラクチャリング行動の一環であるとの解釈を提示し,会計保守主義として棚卸資産の低価法や固定資産の減損などの条件付き保守主義と研究開発費の即時費用化や加速償却などの無条件保守主義を取り上げ,日経NEEDSによる製造業のサンプルで検証した結果,負債選択企業では条件付き保守主義および無条件保守主義のいずれを採用している場合でも銀行によって成長機会が保証されていることを確認し,財務危機時においても企業は組織スラックを形成できることが主張された。
■■第2報告では,木村眞実氏(徳山大学准教授)より「自動車解体業への試案MFCA」と題する報告があり,静脈産業におけるマテリアルフローコスト会計(MFCA)の適用の意義と可能性を検討するために,静脈産業における正の製品と負の製品の定義を示し,静脈産業は動脈産業からの負の製品を正の製品へと転換する生産プロセスを担っているとの理解のもと,静脈産業においてMFCAを導入することによって産業全体におけるリサイクル率が向上することを主張し,実在のある自動車解体業者における数値にもとづいて,静脈産業の生産プロセスへのインプットである負の製品100%からアウトプットとして残る廃棄物などの負の製品はわずか5.6%に過ぎなくなるとの検証結果が提示された。
■■ 2011年度第1回企業研究会は,2011年7月15日(金)に株式会社明治の坂戸工場で行われました。当日は30度を越える猛暑のなか16名の参加があり,工場見学と明治ビジネスサポート株式会社におけるシェアードサービスの取組みについての講演が行われました。
■■ 見学の後,参加者からは多数の質問が寄せられ,坂戸工場事務部長の都築訓佳様から,チョコレートの製造工程と業界における分業体制,工程における機械化と設備の更新,新奇性が求められる新製品開発と設備投資の関係など,丁寧にご回答いただきました。
■■ 身近な製品ではありますが,その製造にはさまざまな配慮や経営上の考慮がなされていることを知り,またシェアードサービスにおける業務効率化や人材教育について一層理解が深まり,参加者一同有意義な一日になったことと思います。工場見学を快くお引き受けいただきました株式会社明治の坂戸工場の皆様,貴重なご講演をいただきました明治ビジネスサポート株式会社社長浅野敏孝様に心より御礼申し上げます。
本報告では、BSCを中小企業へ導入するプロセスが事例に基づいて検討された。中小企業の場合、大企業に比べ経営資源・資金・時間といった制約が大きいことが指摘され、中小企業へBSCを導入する際の学習プロセスに焦点を当てる必要性が議論された。
部門管理者による利益操作行動に関して実施した探索的インタビュー調査の結果が報告された。インタビューデータの分析の結果、(1)部門管理者レベルにおいて利益操作が観察されること、(2)これまで認識されてきた利益操作方法以外に部門管理者レベルに固有な利益操作方法や行動が存在すること、(3)利益操作が多様な動機で行われること、(4)部門管理者が直面するコンテクストにより、利益操作方法や動機が異なることなどが明らかにされた。
三浦氏は,戦略的な意図から組織間で取り組まれる協調行動について,そのモニター,業績評価などに関する管理会計の役割・意義を報告された。仮説として「合弁などの戦略的アライアンスによる事業価値育成には管理会計固有の支援・貢献が求められる」,「アライアンスの要素である組織間学習を促進・継続するためにはパートナーとの会計的信頼が重要である(失敗例も多いため)」,「業種・成熟度などの企業の非対称性,業界の水平・垂直関係などの条件と提携の効率には個別の特徴(相関等)が予測される」等を挙げ,有効性や安定性に対し管理会計のロジックを検討し,これをIBM他のケースにより検証された。
内山氏は,「統合的業績管理システム」の深化と拡張に向けた課題を提示された。まずインタンジブルズとしての人的資産について,企業の戦略に対して整合的な構築が必要であることが説明された。これには,特に採用や能力開発といった人材育成と業績評価の問題が重要で一層の柔軟的対応や,報酬付与と業績管理,そしてその下での人材育成について,戦略・業績への貢献にリンクした人材育成と人的資産の貢献性の細分化が必要であることが報告された。質疑においては,成果主義の捉え方やERPとの関連といったことまで討議された。
芝尾氏は,まず製薬企業の事例により,予算制度の抱える問題について報告された。ここでは,従来の予算制度の限界として,プロジェクトに対する予算の柔軟性について部門で予算を守ろうとするために生じる問題や,予算費目の弊害として戦略費と組織維持費の混在により戦略費を組織維持費が浸食し予算が硬直化していることが説明された。次に変化への対応力について,外部環境への対応力を上げるためにコントロールサイクルの強化やイノベーション予算の分離が必要であることを指摘された。その上で,三段階予算制度の導入やプロジェクト予算と組織予算の連携,そしてポートフォリオマネジメントによる投資配分などの必要性を明示された。
中嶌氏は,マテリアルフローコスト会計(MFCA)に関して,特に原価計算制度との関係について焦点をあて実務的な課題を明らかにされた。報告では,まずMFCAのこれまでの展開について説明され,MFCAによるコスト削減をもたらす情報に関して,マテリアルロスの分類や材料歩留まりと差異について報告された。またオムロン倉吉の事例により標準原価による原価管理プロセスに関して検討された。