日本管理会計学会 2026年度年次全国大会記

文責:飯塚隼光(日本大学)
写真:三井さな

 日本管理会計学会2026年度年次全国大会(準備委員長:伊藤克容氏〔成蹊大学〕)が,2026年8月23日(日)から25日(火)までの3日間,成蹊大学(自由論題報告を除いてzoom配信有)において開催された。参加者は212名であり、大会期間中は活発な交流が図られた。

大会1日目
 初日は、常務理事会、理事会および各種委員会が開催された。

大会2日目
 2日目は本年度新設の実務家セッションから開始した。株式会社亀山電機様、独立行政法人国際協力機構様、株式会社善光総合研究所様、武州工業株式会社様、株式会社ワークライフ・バランス様、計5社の報告が行われた。BSC、リスク資本の配賦、介護テクノロジーを導入・定着させるための仕組みづくり、ジャストインタイム損益計算書システム、人的資本活用型のマネジメント、等多様な管理会計実践が報告された。審査の結果、上記の5社に片岡賞が授与された。個別講評については「2026年度『片岡賞』授与について」を参照されたい。
 その後会員総会が開催された。大会実行委員長挨拶並びに会長挨拶のあと、議長の選出、昨年度事業報告、2025年度収支決算報告、監査報告、2026年度事業計画、2026年度収支予算書が審議され、承認された。報告事項として会員の異動、スタディ・グループ、産学共同研究グループ、「管理会計の日」記念フォーラム、『管理会計学』の発行状況、大学生グループ研究大会(管理会計インカレ)が報告された。また、2027年度年次全国大会は、近畿大学にて開催されることが報告された。さらに、米国管理会計士協会(IMA)とのMOU締結に伴い、IMA President and CEOのMike DePrisco氏よりビデオメッセージが寄せられた。
 最後に学会賞審査報告ならびに表彰式が執り行われた。受賞者は以下のとおりである。

[学会賞]
・特別賞:﨑章浩(東京国際大学)

・功績賞:飯島康道(愛知学院大学),今井範行(名古屋国際工科専門職大学),井上裕史(経営科学研究所),清水孝(早稲田大学),清水信匡(早稲田大学),杉山善浩(甲南大学),中村博之(横浜国立大学名誉教授),細海昌一郎(東京都立大学),三浦勝(株式会社メックスサポート)

・文献賞:内山哲彦(青山学院大学)『統合報告・統合思考による企業価値創造』中央経済社
天王寺谷達将(岡山大学)『経済・環境・社会価値を創造する会計 万能ではない数値との付き合い方』中央経済社
渡辺岳夫(中央大学)『アメーバ経営システム論―会計手続きと心理的影響メカニズムの探究』中央経済社
・奨励賞:榎本哲也(南山大学)「社会性と収益性の両立に向けたテンション・マネジメントを支援する業績測定システム―中電ウイング株式会社のケース―」『管理会計学』第34巻第1号,53-75ページ

 昼食休憩をはさんで、特別公演が執り行われた。伊藤克容氏(成蹊大学)の司会のもと,江川雅子氏(成蹊学園学園長)が「企業価値創造とコーポレート・ガバナンス:資本市場改革の10年と日本企業の課題」というテーマで講演された。
 江川氏は,これまでのコーポレート・ガバナンス改革の流れを振り返りながら、日本企業の業績向上や資本市場における評価に直接的には結びついていない点を課題として指摘した。そのうえで,この課題への対応策として取締役会の実効性向上に向けた取り組みが重要であると述べ,経営陣と独立取締役がビジョンを共有し,パートナーシップの関係を保ちながら企業価値の向上を目指していくべきであるとの提言がなされた。
 特別講演後、統一論題報告・討論が行われた。今年度の統一論題のテーマは、「デジタル時代における収益創造とマネジメント・コントロールの再構築」(座長:専修大学 青木章通氏)である。最初に、青木氏から改題がなされた。デジタル技術の急速な進展が,企業がいかに収益を創造し,それをいかにマネジメントするかという管理会計の根幹に大きな影響を及ぼしていることが問題意識として共有された。
 今回の統一論題では報告の前に、統一論題基調講演が富士通株式会社執行取締役副社長CROの大西俊介氏より「CROによる収益創造システムの再設計とマネジメント・コントロールの進化」というテーマで行われた。
 大西氏は現在の同社の現況や組織図を説明した後、CRO(最高収益責任者)の役割について語られた。そのうえで、同社が、2026年5月従来の中期経営計画に代わって中長期経営ビジョン2035を公開したことに触れ、持続的な成長を実現するために、従来の過去実績をベースとした意思決定が行われる売上中心のマネジメント(バックミラー型)から、TCVを中心とした将来の成長を先読み、先手で投資・資源配分を行う未来予測型へマネジメントへと変革していると述べられた。
さらに昨今AIが多く用いられるようになってきたことから、コストベースのプライシングモデル(人月ビジネス)からの脱却を目指すValue Pricingへの挑戦についてお話をいただいた。
 まとめでは、revenueは「結果」から「設計・予測する対象へ」、Revenue Modelは「コスト起点」から「提供価値起点へ」と総括された。
 第1報告は、千葉友範氏(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)から「データドリブン経営時代におけるRevOpsとマネジメント・コントロール:顧客接点KPIの再設計と管理会計への貢献」というテーマで報告された。千葉氏は現状の日系企業が抱える課題として製品のコモディティ化によって利益率が圧迫されていることを指摘した。そのうえで、売り切り型ではなく、顧客とつながり続けるために、新規獲得収益だけではなく、既存顧客からの獲得収益をマネジメントするRevOpsという概念を紹介した。
 RevOps実践の課題がデータ取得の可能性にあることに触れ、それを解決しうる方法として、従来取得されてこなかった業務上発生した活動ログ(work log)をAI等でデータ分析・予測する(work agent)ことを提示された。
 さらにRevOpsの実践は無形資産を第5層KPIという先行指標を通じてストック要素まで可視化、結果管理から期中のドライバー管理へのマネジメント・コントロールの射程を拡張しうるということを指摘した。
 第2報告は、松岡孝介氏(山形大学)から「顧客エンゲージメントと管理会計」というテーマで報告された。マーケティングは通常その成果が把握しにくく、企業価値まで影響を与えるまでに複数の経路を経なければならないと指摘した。このマーケティングと企業価値の間を埋める概念としてマーケティング説明責任を取り上げた。
 そのうえで昨今のデジタル化によって、顧客の財務・非財務指標を測定する会計実践としての顧客会計が、顧客エンゲージメント、顧客経験(顧客ジャーニーを通じた最適化)、サブスクリプションを前提とした顧客サクセスといった点について、拡張しうることを指摘した。
 第3報告は、足立洋氏(県立広島大学)から「中小企業におけるデジタル化と管理会計」というテーマで報告された。本報告では、2社のケース・スタディから、管理会計がどのようにデジタル化されるのか、その段階や必要条件を検討した。
 その結果、検討段階では管理プロセスの公式化、設計・実装段階においては利用者参加と情報の設計、浸透段階では利用者参加と伴走支援、これらをトップが推進することといった必要条件が存在していることが提示された。
 統一論題討論では、上記の登壇者に藤原大豊氏(株式会社三菱総合研究所)が加わり,参加者からの質問に登壇者が回答する形式で,各報告の内容をさらに掘り下げる議論が展開された。
 大会2日目の最後に会員懇親会が成蹊大学六号館地下カフェ&ホールCOMMichiにて開催された。

大会3日目
 3日目は、午前に11会場で40件の自由論題報告が行われた。午後は日本原価計算研究学会と共催の大学学部4報告、大学院2報告の学生報告会が執り行われた。参加者からの質疑も行われ、その後表彰が行われた。
 その後、スタディ・グループ中間報告として「管理会計教育の現状と課題」(研究代表者:西南学院大学 丸田起大氏)、産学共同研究グループ中間報告として「技術の進化が戦略的計画会計・現業統制会計の変化にもたらす影響」(研究代表者:中村学園大学 水島多美也氏)、スタディ・グループ最終報告として、「テンションのバランスをとるマネジメント・コントロールに関する研究」(研究代表者:南山大学 窪田祐一氏)、「管理会計の先駆者としての渋沢栄一の研究」(研究代表者:関西大学 水野一郎氏)が行われた。
 盛況のうちに2026年度年次全国大会が終了した。


﨑章浩氏(東京国際大学)

飯島康道氏(愛知学院大学)


今井範行氏(名古屋国際工科専門職大学)


清水孝氏(早稲田大学)


清水信匡氏(早稲田大学)


杉山善浩氏(甲南大学)


中村博之氏(横浜国立大学名誉教授)


細海昌一郎氏(東京都立大学)


三浦勝(株式会社メックスサポート)
 
内山哲彦氏(青山学院大学)


天王寺谷達将氏(岡山大学)


渡辺岳夫氏(中央大学)


榎本哲也氏(南山大学)


江川雅子氏(成蹊学園学園長)



大西俊介氏(富士通株式会社執行取締役副社長CRO)


千葉友範氏(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)

松岡孝介氏(山形大学)

足立洋氏(県立広島大学)

統一論題討論

 

日本管理会計学会 2026年度第2回関西・中部部会のご案内

日本管理会計学会会員各位

日本管理会計学会
2026年度第2回関西・中部部会のご案内

2026年9月吉日

拝啓
初秋の候、会員の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
下記の要領にて、日本管理会計学会九州部会2026年度第2回関西・中部部会を、同志社大学(京都市、準備委員長:中川優氏)を開催校として、ハイブリッド方式(対面参加+オンライン参加)にて開催いたします。会員の参加費は無料です。万障お繰り合わせのうえ、ご参加賜りますようご案内申し上げます。
参加される方は、準備の都合上、10月9日(金)までに、下記リンク先のフォームから、参加登録をお願いします。参加登録者全員に、10月15日(木)頃に、Zoom のURL をメールでお知らせいたします。

敬具

参加申し込みURL  https://forms.gle/xx1LBa21puhbes958
※懇親会については、会場の収容人数の都合上、先着順とさせていただきます。申込期間内でも定員を超過した場合には、ご参加できないこともあります。あらかじめご了承ください。

記

1.日時:2026 年10月17日(土) 13:30〜17:00
2.開催校:同志社大学今出川キャンパス(京都市上京区今出川通烏丸東入)
      良心館1階RY105教室
アクセスとキャンパス案内については、下記のホームページでご確認ください。
交通アクセス |同志社大学について|同志社大学
※京都市営地下鉄烏丸線 今出川駅北改札口を出て右手前方に良心館の地下2階に
直結している入口がありますので、そこから1階までお越しください。

3.プログラムは別紙の通り

【日本管理会計学会20026年度第2回関西・中部部会】
〒602-8580 京都市上京区今出川通烏丸東入
 同志社大学商学部 中川 優
 mnakagaw[at]mail.doshisha.ac.jp ([at]を@に変更ください。)

以上


日本管理会計学会2026年度第2回関西・中部部会プログラム

13:30~13:35 部会進行にあたっての説明 準備委員長 中川優氏(同志社大学)
13:35~13:40 開会の辞 関西・中部部会 部会長 窪田祐一氏(南山大学)
13:45~14:45 特別講演(質疑応答込み)
   喜多忠文氏(元同志社大学客員教授・広東松下エコシステムズ元社長)
   「海外子会社のマネジメント:中国現地法人での経験を通じて」

 <休憩15分>

研究報告 司会:山本達司氏(同志社大学)
15:00~15:35 研究報告①(報告25分、質疑応答10分)
  殷広為氏(近畿大学大学院博士課程)
「組織スラックと高い経営目標との組合せが投資行動に及ぼす影響 ―中期経営計画に基づく実証分析―」

15:40~16:15 研究報告②
 伊藤正隆氏(同志社大学)・窪田祐一氏(南山大学)・近藤隆史氏(京都産業大学)・中川優氏(同志社大学)
「日本企業におけるM&AプロセスとクロスボーダーM&Aの特徴:管理会計研究の視点に基づく実態調査」

16:25~17:00 研究報告③
 坂口順也氏(関西大学)・武山幸司氏(愛知県立芸術大学)
「組織間マネジメント・コントロールが組織能力に与える影響」

閉会の辞 準備委員長 中川優氏(同志社大学)

17:30~19:30 懇親会(学外、大学周辺)
 
参加申し込みURL  https://forms.gle/xx1LBa21puhbes958
※懇親会については、会場の収容人数の都合上、先着順とさせていただきます。申込期間内でも定員を超過した場合には、ご参加できないこともあります。あらかじめご了承ください。

 

2026年度『片岡賞』授与について

2026年9月24日

2026年度『片岡賞』授与について

 去る2026年8月24日、日本管理会計学会年次全国大会において実務家セッションが初めて開催され、以下の5団体に新設の『片岡賞』が授与されました。
 本賞は、本学会の創設者である片岡洋一先生のお名前を冠し、同先生が体現された「管理会計の理論と実践の往還」を促進することを願って設けられたものです。今回の受賞者が創出した管理実践の取組は、いずれも高い革新性と実務的価値を有し、理論と実践の往還の発展に大きく寄与するものです。そこで、『片岡賞』審査委員会における審査を経て、その功績を称え、日本管理会計学会より本賞を贈呈いたしました。
 受賞者と個別講評は以下のとおりです(五十音順)。

・株式会社亀山電機 様
 10数年にわたるBSCの実践事例であり、事業計画や予算と連動させるとともに、代表者や従業員の時間の使い方にBSCの4つの視点を入れる等、BSCの社内定着に格段の配意を行っている事例です。

・独立行政法人 国際協力機構 様
 管理会計の報告事例が少ない独立行政法人における、リスク・コントロールの管理実践の事例であり、同法人における今後の展開や、政府系金融機関等へのヨコ展開が期待される事例です。

・株式会社善光総合研究所 様
 先行事例の乏しい介護施設において、業務プロセスの見直しと介護テクノロジーの活用を通じた生産性向上の取組により、より質の高い介護の実現、更には介護報酬への反映を目指した事例です。

・武州工業株式会社 様
 管理会計のDXを進め、P/L情報のジャスト・イン・タイム化により、早期の問題発見と早期の対応が可能となった事例です。

・株式会社ワーク・ライフバランス 様
 同社が支援した高知県庁の取組であり、時間外割増賃金率の1.5倍化による管理者の意思決定の変化を通じてマネジメントを変革し、多様な人材を活用する人的資本経営の実現、更には人口減少の中での社会的インパクトにつなげる事例です。

日本管理会計学会 会長
伊藤克容

2026年度第2回(第71回)九州部会のご案内

2026年9月吉日

日本管理会計学会会員各位

日本管理会計学会
2026年度第2回(第71回)九州部会のご案内

拝啓 

 初秋の候、会員の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 下記の要領にて、日本管理会計学会九州部会2026年度第2回(第71回)大会を、中村学園大学(福岡市)を開催校として、ハイブリッド方式(対面参加+オンライン参加)にて開催いたします。参加費は無料です。懇親会は開催いたしません。万障お繰り合わせのうえ、ご参加賜りますようご案内申し上げます。
 参加される方は、準備の都合上、10月23日(金)までに、下記リンク先のMicrosoft Formsから、もしくは九州部会事務局宛メールにて、参加登録をお願いします。参加登録者全員に、10月29日(木)頃に、ZoomのURLと報告資料をメールで送付いたします。

 

<参加登録用フォーム>https://forms.cloud.microsoft/r/UqKieXYWUi

敬具

 

記

1.日時:2026年10月31日(土)13:25~17:15
2.開催校:中村学園大学(福岡市城南区別府5-7-1)

アクセスとキャンパス案内については、下記のホームページでご確認ください。

(https://www.nakamura-u.ac.jp/outline/access.html)(https://www.nakamura-u.ac.jp/outline/map.html)

3.プログラムは別紙の通り

 

【日本管理会計学会九州部会事務局】
〒814-8511 福岡市早良区西新6-2-92
西南学院大学商学部 丸田起大研究室内
TEL:092-823-4320
email: o-marutaseinan-gu.ac.jp


日本管理会計学会
2026年度第2回(第71回)九州部会プログラム

 

開催日時:2026年10月31日(土)13時25分~17時15分
参加方法:対面およびオンライン(ハイブリッド方式)
対面会場:中村学園大学 4号館 6階 4603教室
オンライン参加(Zoom)用URL:参加登録者にお知らせします

 

■13:25~13:30 開会挨拶 大会準備委員長 水島多美也氏(中村学園大学教授)

 

第1報告 13:30~14:15
報告者:大下丈平氏(九州大学名誉教授) 
論 題:「管理会計・パラドックス・ガバナンス
―アンリ・ブッカンのコントロール論を手掛かりに―」

 

第2報告 14:30~15:15 ※オンライン報告
報告者:吉原弘起氏(広島商船高等専門学校講師) 
    谷光透氏(川崎医療福祉大学講師) 
    金宰煜氏(広島大学講師)
論 題:「管理会計の視点からみたValue-Based Health Care研究の知識構造
―テキストマイニングと機械学習によるTDABCの位置づけの解明―」

 

第3報告 15:30~16:15
報告者:根本萌希氏(鹿児島国際大学講師)
    宗田健一氏(鹿児島県立短期大学教授)
    大野直也氏(鹿児島国際大学准教授)
論 題:「事業承継における会計コミュニケーション
―“相談できる関係”と“数字の読み方”の継承―」

 

第4報告 16:30~17:15
報告者:鄭煜浩氏(九州大学博士後期課程)
論 題:「産業クラスター協働ネットワークにおけるキャパシティ・マネジメント」

 

■閉会挨拶 大会準備委員長 水島多美也氏(中村学園大学教授)

以上

「管理会計の日」記念フォーラム開催記

 日本管理会計学会「管理会計の日」記念フォーラムは,2026年9月13日(日)14時00分から16時50分まで,専修大学神田キャンパスにおいて対面形式で開催された。今回,第2回目の「管理会計の日」フォーラムは「渋沢栄一の経営思想の探求と継承」をテーマとし,フィランソロピー,企業経営,経営学,そして富岡製糸場における経営管理という異なる視角から,渋沢栄一の経営思想が多面的に探求された。開会にあたり,本学会会長 伊藤克容氏(成蹊大学)より挨拶が行われ,奥倫陽氏(東京国際大学)の司会によりプログラムが進行した。

伊藤克容氏

奥倫陽氏

 

〔フォーラム開催の趣旨と経緯〕
 スタディ・グループ「管理会計の先駆者としての渋沢栄一の研究」の研究代表である水野一郎氏(関西大学名誉教授)より,フォーラム開催の趣旨と経緯について説明がなされた。水野氏は,2023年に9月13日が「管理会計の日」として制定された経緯を紹介した。この日付は,渋沢栄一の経営思想を代表する『論語と算盤』の初版刊行日である1916年9月13日に由来する。昨年のテーマ「渋沢栄一の経営思想の意義と継承」から,本年は「意義」を「探求」へと改め,渋沢の多様な側面や活動に光を当てることによって,その豊かな経営思想をより深く捉えることが企図された。

 また,会場となった専修大学と渋沢家との関わりについても紹介された。渋沢栄一の次女・琴子と結婚した坂谷芳郎は,大蔵大臣,東京市長,貴族院議員などを歴任するとともに,1924年から1934年まで専修大学第2代学長,1934年から1941年まで同大学初代総長を務めた人物であり,竜門社理事長としても渋沢の経営思想の継承に関わった。このような歴史的な縁を有する専修大学を会場として,渋沢栄一の経営思想を改めて探求する本フォーラムが開催されたことにも意義が見いだされた。

 さらに水野氏は,渋沢を,論語に基づく健全な倫理観と計数管理とを結びつけた「管理会計の先駆者」と位置づけるとともに,その経営思想が渋沢一代にとどまるものではなかったことを指摘した。とりわけ,次世代経営者の育成を担った竜門社や,労資協調と労使関係の近代化を目指した協調会の活動に着目し,渋沢亡き後,その理念や活動がどのように戦中・戦後へと受け継がれていったのかが示された。そこでは,渋沢敬三,明石照男,石坂泰三,植村甲午郎,諸井貫一をはじめ,戦後日本の経済界を担った歴史上の人物たちの活動が紹介され,竜門社や協調会を通じて形成された人的・思想的な系譜が,戦後の日本的経営の発展にもつながっていったことが提示された。こうした「継承」の側面を視野に入れることによって,渋沢栄一の経営思想を歴史上の一個人の思想として捉えるのではなく,後世の経営者や組織へと受け継がれていく経営思想として検討することが,本フォーラムのもう一つの重要な趣旨として示された。

水野一郎氏

 

〔特別講演〕
◎講演者:木村昌人氏(東アジア文化交渉学協議会理事・元渋沢栄一記念財団研究部部長・研究主幹)
◎講演題目:渋沢栄一とフィランソロピー

 木村氏は,渋沢のフィランソロピーを,①福祉社会作り,②人材育成と教育,③地域の持続的成長,④国際交流の促進,⑤宗教への支援という五つの領域から捉え,これらの活動を支えた基本的な考え方として「論語と算盤」「民主化」「合本主義」を提示した。「論語と算盤」とは,道徳と経済を対立させるのではなく,正しい道理や倫理に基づかない富は長続きせず,他方で経済的な豊かさがなければ道徳の実践も困難になるという,両者を不可分のものとして捉える考え方である。また,「民主化」については,自主,平等,参画,熟議,公論を重視し,身分を越えて人々が自由に参加し,議論を通じて公益を追求する社会を目指すものとして整理された。さらに「合本主義」は,公益を追求する使命や目的のために,最適な人材と資本を集めて事業を推進する考え方として位置づけられた。

 木村氏は,こうした思想を具体的なフィランソロピー活動との関係から検討した。福祉の領域では,経済活動によって豊かな社会を形成する一方,格差の拡大によって困窮する人々を救済する必要があり,「官」だけではなく「民」が協力して公益を担うことの重要性が示された。教育についても,商業教育,女子教育,児童への教育,漢学教育,農業教育,国際交流など幅広い活動が取り上げられ,公益を担う「民」を育成することが渋沢の社会構想において重要な位置を占めていたことが示された。また,地域の持続的成長については,都市と地方の均衡や協力,地域のインフラ整備や商業会議所を介した事業ネットワークの形成が論じられた。

 さらに,渋沢が20世紀初頭に4度にわたり米国を訪問し,企業経営だけでなく,政治,外交,文化,教育,思想,宗教などを幅広く観察していたことにも言及された。なかでも,実業家が私財を投じ,政府や地方自治体だけでは担いきれない公益事業を支える米国のフィランソロピーに強い関心を寄せていたことが紹介された。その一方で,西洋の思想や制度をそのまま導入するのではなく,日本の儒教,神道,仏教などとの関係を考慮しながら受容していた点も指摘された。

 国際交流についても,排外主義ではなく国際主義の立場から,実業界による民間外交,国際的な情報発信,災害救援などに取り組んだことが示された。加えて,宗教そのものへの帰依とは異なる立場から,社会的活動を担う宗教者・宗教団体への支援を行ったことも,渋沢のフィランソロピーの一側面として取り上げられた。講演の最後には,国家財政に制約がある21世紀において,「民」が主体となり「官」と協力して社会を形成すること,さらに経営者が寄付や慈善活動を先導することの重要性が示され,渋沢の思想を現代社会の課題と結びつけて考える視座が提示された。

 

木村昌人氏

 

〔パネル・ディスカッション〕
 水野氏をモデレーターとして,「渋沢栄一の経営思想の探求と継承」をテーマとするパネル・ディスカッションが行われた。

 最初に,トレードマークであるシルクハットを被って登壇した坂本久氏(株式会社渋沢 代表取締役社長)から,「株式会社渋沢の経営理念と取り組み」について報告がなされた。株式会社渋沢は,埼玉県本庄市に本社を置き,高齢者・障がい者福祉施設,賃貸マンション,戸建賃貸住宅,一般住宅,倉庫,工場等の企画・設計・施工を手掛ける建設会社である。とりわけ福祉施設の建設に強みを有し,高齢者施設・障がい者施設を合わせて183棟・3,724室の建築実績を有するなど,北関東トップクラスの実績を積み重ねていることが紹介された。

 坂本氏からは,はじめに渋沢家の家系図をもとに,渋沢栄一と株式会社渋沢との関わりが紹介された。同社は,渋沢栄一の父・市郎右衛門(元助)の叔父にあたる渋沢龍助(仁山)の系譜につながる家系を背景として創業された会社であり,渋沢栄一が掲げた「論語と算盤」の精神を今日の企業経営に生かしている。同社では,「論語」を道徳・倫理,「算盤」を経済・利益と捉え,そのいずれかを選ぶのではなく,両者を「両立させる」ことを経営の基本に据えている。具体的には,「お客様の利益を優先」することを経営理念の中心に置き,お客様の満足と信頼を通じて会社の利益を確保し,それを地域・社会へ還元するという考え方が示された。

 こうした理念は,同社の事業展開にも一貫している。創業以来,賃貸マンションや戸建賃貸住宅による土地活用から,高齢者・障がい者施設,医療施設,幼児施設,商業施設,倉庫などへと事業領域を拡大してきた。坂本氏が示した「変わったのは商品。変わらなかったのは考え方。」という言葉は,社会環境や顧客ニーズの変化に応じて事業を変化させながらも,その根底にある経営理念を継承してきた同社の歩みを端的に表すものであった。さらに,利益の社会への還元として継続的な寄付や社会貢献活動に取り組むとともに,人材育成やDXも積極的に推進していることが紹介された。

 報告の最後には,「論語」として,顧客,社員,地域を大切にし,誠実な仕事と社会貢献を追求する一方,「算盤」として,適正な利益の確保,生産性向上,事業の継続と成長を図るという,同社における「論語と算盤」の具体像が示された。また,「論語と算盤」を現代的に「論語とスマホ」と捉え,AIを含む新たな技術の活用を進める姿勢も紹介された。「変わらない理念×変化への挑戦」を掲げる同社の実践は,経営思想の継承とは過去の方法をそのまま踏襲することではなく,理念を軸として時代の変化に応じて経営のあり方を更新し続けることであることを示す報告となった。

坂本久氏

 

 続いて,内山哲彦氏(青山学院大学)から「バウンダリー・スパナーとしての渋沢栄一」と題する報告が行われた。内山氏は,渋沢が数多くの企業・組織の設立や運営に関与した背景を,その多面的な経験と人的ネットワークに着目して検討した。渋沢は,農業に加えて藍玉の製造・販売など工業・商業にも関わる生家に育ち,農民,職人,商人,武士,さらには官僚という異なる立場を経験するとともに,国内外で幅広い活動を展開した。こうした経験によって,異なる立場にある人々の論理や価値観を理解し,それらを結びつける基盤が形成されたと捉えられる。そこで内山氏は,組織の内外や異なる組織・領域の境界を越えて人々を結びつける「バウンダリー・スパナー(境界連結者)」という概念を用いて,渋沢の活動を捉え直した。異なる文化,価値観,規範,慣行などの「制度ロジック」が併存する状況では,戦略,業績指標,コントロールの整合を図ることが困難となる。渋沢は,こうした異なる制度ロジックの間に立ち,それぞれの正当性や評価基準を理解しながら,人,資本,組織を結びつける役割を果たした可能性が示された。

 さらに,渋沢の「合本主義」についても,公益を追求する使命・目的のもとに,その実現に適した人材とネットワーク,資本を集め,事業を推進する仕組みとして捉え直された。渋沢は,自らがすべての企業を直接経営するのではなく,事業の創設を促し,出資者として関与しつつ,経営を適切な人材に委ねることによって,多数の企業や事業の形成に関与した。こうした活動をバウンダリー・スパナーという視角から検討することにより,渋沢の企業設立・運営や経営者育成を,単なる広範な人的ネットワークの形成としてではなく,異なる制度ロジックを架橋し,公益,人材,資本を結合する経営実践として再評価する方向性が提示された。

内山哲彦氏

 

 最後に,梅田宙氏(高崎経済大学)から,「渋沢栄一の構想を実践した尾高惇忠―富岡製糸場の運営に着目して―」と題する報告が行われた。梅田氏は,渋沢が設立に関与した最初の工業事業である富岡製糸場を取り上げ,渋沢が構想した近代的な製糸工場を,10歳年上の従兄で初代場長の尾高惇忠がいかに具体化したのかを検討した。富岡製糸場には,生糸の品質向上と大量生産に加え,技術者の育成と器械製糸を全国へ普及させる使命が課されていた。尾高は,建設段階から地元住民の協力を取り付け,煉瓦やセメントの問題にも対応したほか,外国人に生血を飲まれるとの風説から工女の募集が難航するなか,自らの娘・勇を第一号の工女として入場させた。また,工女には製糸技術だけでなく,習字,裁縫,読書などの教育も行い,知育・徳育を重視した。

 一方,工場運営では,輸入石炭から国内産石炭への切替えによる燃料費の削減,高額な外国人技師との契約終了による費用負担の軽減など,採算性を重視した経営が行われた。さらに,1876年には国内の繭価格が暴落する一方,中国とフランスが凶作であるとの情報を踏まえ,繭の購入予算を5万円から10万円へ増額し,その後10万円余りの純益を計上したことが紹介された。また,能率給を採用しつつ,生産量を過度に増やすと生糸の品質が低下するため,8時間労働を前提として生産量に一定の基準を設けるなど,生産性と品質の両立も図られていた。梅田氏は,これらを原価管理,購買管理,業績管理の実践として捉え,富岡製糸場が技術移転・人材育成の場であると同時に,収益獲得を目指す経営体でもあったことを指摘した。さらに,尾高の「至誠如神」という思想にも着目し,渋沢の構想が具体的な経営管理へと展開され,「技術伝習」と「収益獲得」という二つの使命の両立が図られていたことが示された。

梅田宙氏

 

 当日は,38名(非会員を含む)の参加があり,いずれの特別講演,パネル・ディスカッションに対しても活発な質疑応答が交わされ,大変有意義な議論が展開された。管理会計は単なる計算技法ではなく,いかなる理念や目的のもとで組織を運営するのかという経営思想と不可分である。本フォーラムは,「論語」と「算盤」の両立という原点に改めて立ち返り,管理会計の理論と実務のあり方を考える有意義な機会となった。フォーラム終了後には懇親会も催され,参加者間の親睦が一層深まった。盛況のうちに本フォーラムは無事に閉会した。

文責:関谷浩行(日本大学)

 

この度のフォーラムは、株式会社渋沢様のホームページにもご紹介いただいております。URLは、以下の通りです。
https://e-shibusawa.jp/information/post-12335/