■■ 日本管理会計学会2013年度第2回フォーラムが,2013年7月13日土曜日に法政大学市ヶ谷キャンパスにおいて開催された。今回のフォーラムでは、統一論題の設定をしないで、すべて自由論題にてご報告いただく形式を採った。大会準備委員会委員長である福多裕志先生(法政大学)の開会の挨拶の後、福田淳児先生(法政大学)の総合司会の下で約3時間にわたって4名の先生方による意欲的な研究報告が行われ、活発な議論が展開された。その後、法政大学富士見坂校舎地下1階「カフェテリア」において、懇親会が開催された。各先生方の報告の概要は以下のとおりである。
■■ 第1報告(自由論題報告) 司会者:藤崎晴彦氏(横浜市立大学)
報告者:尻無濱芳崇氏(一橋大学大学院)
「介護事業における組織の公益志向と業績測定尺度の利用」
介護事業において、組織の公益志向(利益最大化以外の目的をもつ)が高い場合、それらが業績評価にどのように影響しているのかについて、千葉県で介護施設を運営する法人を対象とした調査の結果が報告された。報告では2つの仮説が示され、アンケート調査に基づく分析と考察が示された。第1の仮説は、組織の公益志向が強いほど使命達成測定尺度(利益以外の業績測定尺度)の利用度が高まるというものであり、これについては一部の使命達成尺度に対してしか影響は見られず、その影響も限定的であることが明らかにされた。また、規範的に示されてきた一般的見解とは差異が認められることも指摘された。第2の仮説は、組織の公益志向が高いほど、財務的業績尺度の重視度が低下するというものであった。これについては、先行研究と同様に公益志向が高いほど会計的コントロールを軽視していることが裏付けられた。
■■ 第2報告(自由論題報告) 司会者:藤崎晴彦氏(横浜市立大学)
報告者:青木章通氏(専修大学)
「ホテル業における収益管理-レベニューマネジメントに関する実証研究-」
まず、レベニューマネジメントの定義および成果尺度について説明があり、本研究は、キャパシティに制約があるサービス産業を前提としていること、短期的な収益最大化を目的とした管理手法であること、そのため経営構造の変革を前提としていないこと、コストには言及しないことなどが示された。次に、ホテル業を対象として、どのような事業環境および収益管理の下であれば、レベニューマネジメントの短期的な財務尺度(成果尺度)を向上させることに繋がるのかについて検討がなされた。報告では、事業環境、収益管理に関する変数について因子分析、信頼性分析が示され、因子得点を説明変数とし、短期的な財務尺度および顧客関連尺度を被説明変数とした多重回帰分析が行われた。その結果、繁忙期と閑散期では財務尺度の向上に繋がる要因が異なることが明らかにされた。また、顧客関連尺度については、特にレベニューマネジメント導入環境の整備状況、販売価格コントロールの程度から影響を受けることが指摘された。
■■ 第3報告(自由論題報告) 司会者:森光高大氏(日本経済大学)
報告者:近藤大輔氏(法政大学大学院)
「アメーバ経営の導入研究」
サービス業においてアメーバ経営がどのように導入され機能しているのか、レストラン運営会社の事例を例にとって報告された。まず、製造業で生成・発展してきたアメーバ経営とはいかなるものか、その特徴である時間当り採算およびフィロソフィーの概念について先行研究を取り上げながら詳細な説明がなされた。時間当り採算は、会計的な利益意識を強く持たせる役割があるが、一方で部分最適に陥る危険性があるので、その欠点を補う形でフィロソフィーを浸透させていくと適切な形でアメーバ経営が機能することが説明された。報告では、レストランを運営している「株式会社ぶどうの木」におけるアメーバ経営の事例が紹介され、時間当り採算とフィロソフィーのパッケージが、当該レストランにおけるフロントラインの高効率および高効果を両立させるよう機能していることが示された。
■■ 第4報告(自由論題報告) 司会者:森光高大氏(日本経済大学)
報告者:妹尾剛好氏(和歌山大学)・横田絵理氏(慶應義塾大学)
「機能別組織における戦略的業績評価システムの考察」
戦略的業績評価システムは機能部門において効果的であるのか、それはキャプランとノートンが主張するバランスト・スコアカードの仕組みと同じであるのか、という研究課題について、文献レビュー及び事例研究の経過が報告された。文献レビューでは、一般的なバランスト・スコアカードの仕組みについて解説がなされた後、とくにマーケティング部門で行われている戦略的業績評価システムの概要について検討がなされた。次に事例研究では、現在、報告者が進めているバランスト・スコアカードに関する調査の途中経過について説明があった。これらの考察に基づいて、1. 機能部門では、因果関係を伝達する仕組みとして戦略マップは効果的ではないのではないか、また、2. 機能部門では、相対評価で報酬とリンクしている戦略的業績評価システムが効果的であるのではないか、という2つの新たな仮説が提示された。
梅津亮子(法政大学)
■■ 2013年度 第1回 企業研究会は、2013年7月26日(金)に大阪ガス株式会社・泉北製造所 とガス科学館(大阪府堺泉北コンビナート)で行われました。34度の真夏日でしたが、院生の参加を含め10名で、液化天然ガス(LNG)・マルチエネルギー基地(都市ガス×電気×冷熱)を訪ねました。
■■ 田井館長は講話で、西日本エリア最大の供給事業者として製造から消費段階まで地域に果たす役割の大きさ、環境技術開発、ガスの利便性と経済性などについて触れられ、地球環境を視野に1975年から16年をかけて完了した大プロジェクト・石炭石油原料から天然ガス転換事業の意義を強調されました。また中東・東南アジア等からの安定導入や高効率な都市ガス製造フロー、総延長61、000km(地球1周半超)・700万戸に広がる近畿サービスエリアの運営、もう一方の重要事業である110万kw営業運転の天然ガス発電(ガスタービンコンバインドサイクル発電方式。)、冷熱利用によるCO2抑制、コージェネ開発など持続的な地域貢献、液化炭酸製造(ドライアイス・清涼飲料水等の炭酸)などの関連ビジネスまで興味深いお話を紹介いただきました。
■■ 見学後、活発な質疑が行われ、ガス料金の原価の考え方、原料費リスクや価格安定化戦略、品質原価、製造間接費の低減に向けた取り組み、プラント・エンジニアリングなどが話題にのぼり、丁寧な解説をいただきました。最後に園田副会長の謝辞で企業研究会は終了しました。参加者一同エネルギー事業経営への理解が深まり多くの収穫を得たことと思います。快くお引き受けいただきました大阪ガス株式会社・ガス科学館の田井様、調整にご尽力いただいたアイさぽーとの仲澤様、関係者の皆様に心よりお礼を申し上げます。
■■第1報告は,足立洋氏(九州産業大学准教授)より,「管理会計と目標利益達成の柔軟性」と題する研究報告がなされた。報告は,管理可能性原則の遵守を志向した予算管理システムにおける柔軟性確保の可能性と,どのようなプロセスを経てそれが発揮されるのかを,ケーススタディを中心に明らかにしたものであった。ケーススタディは,各種繊維製品の繊維加工などを取り扱うセーレン株式会社に対する半構造化インタビューに基づいたものであり,(1)管理可能な業績範囲の拡大として,月次で決まっている業績をより広範な年次という範囲で決定する「管理可能性の時間拡大」がみられていること,(2)水平的コミュニケーションだけでなく,現場と管理者の「垂直的コミュニケーション」によっても予算管理システムの柔軟性が確保されることが証明された。
■■第2報告は,丸田起大氏(九州大学准教授)より,「アメーバ経営の導入効果の検証―コミュニケーション活性化を中心に」と題する研究報告がなされた。報告は,アメーバ経営の導入効果として,採算意識・使命感・情報共有などの向上によりコミュニケーションの活性化が達成されるかを,製造業K社の工場に対する質問票調査に基づき分析したものであった。質問票調査は,リーダーとメンバーに区別をしたアメーバ経営導入の半年後と1年半後の二時点で行ったものである(サンプル数:半年後116、1年半後115)。報告では,(1)アメーバ経営の導入効果は,リーダーだけでなくメンバーにも現れていたこと,(2)アメーバ経営の導入効果の程度は,リーダーの方がメンバーよりも効果が高かったこと,(3)情報共有はコミュニケーションと直接的に正の関連をもっていた一方で,採算意識と使命感は間接的に正の関連をもっていたことが示された。
■■第3報告は,矢澤信雄氏(別府大学教授)より,「CSR報告書の評価基準とその課題」と題する研究報告がなされた。報告は,日本における環境報告書からCSR報告書へのシフトが社会にどのような影響を与えるかを問題意識に,CSRの歴史とCSR報告書の評価基準を明らかにしようとしたものであった。報告では,(1)我が国では最初,環境報告書を公表していた企業が報告書のタイトルを「CSR報告書」へと変更し,CSR報告書の一部が実質「環境報告書」になっているケースが多いこと,(2)そのため,報告書の評価基準に占める環境のウェートが減少することにより,企業の環境に対する取り組みの努力が分散してしまう危険性があることが指摘された。また,企業の社会貢献活動の成果を報告するに当たって,成果をなるべく定量的に明示することが望ましいが,その点を意識したCSR報告書の評価基準は現状では少数派であることが指摘された。
■■第4報告は,招聘講演として宮本寛爾氏(大阪学院大学教授)より,「グローバル企業の経営管理と管理会計」と題する研究報告がなされた。報告は,C.A.Bartlet, et al.(1989)のトランスナショナル戦略を採用する企業における管理会計の利用可能性に中心に,グローバル企業の管理会計システムを捉えようとしたものであった。報告では,グローバル企業の組織構造の歴史や経営管理が紹介された上で,トランスナショナル戦略を採用する企業が,経営資源を分散し,事業を専門化し,相互依存関係を構築することが必要となり,世界中の専門化した組織単位を結びつける統合ネットワークを構築することが説明された。その上で,(1)為替リスクに晒されている通貨の金額を明らかにする多通貨会計情報の利用のほか,(2)本国への送金の最大化を志向する場合は「本国通貨」を採用するのが望ましいものの,グローバルな立場からの存続・成長を志向する場合には「合成通貨」を採用することが望ましいことが指摘された。
孫氏の報告は,アメリカの不正会計に端を発する内部統制という経済制度がアジアの経済的文脈のなかでどのような効果を果たしているのかについての日本企業を対象とした分析の報告であった。
木村氏の報告は,日本の上場会社における業種ごとの利益マネジメントの傾向と,業種間の差異に影響する要因を明らかにしようとするものであった。研究方法は以下のとおりである。まず,各業種の利益マネジメントの傾向を国際比較研究の手法の方法を援用して定量化し業種間で比較する。その上で,業種ごとの利益マネジメントの水準に影響を及ぼす要因として,(1) 政治コスト,(2) 資金調達方法,(3) 投資機会集合,(4) 会計上のフレキシキビリティ,(5) 業種内の競争性,を取り上げ,業種ごとの利益マネジメントの水準との関係を分析する。分析対象は,2004年から2011年までの日本企業25,208社であった。
川野氏の報告は,2011から2012年に東京証券取引所上場会社に対して実施したアンケート調査(回答数は190社,回収率9.3%)にもとづいて行われた。
吉澤氏の講演は,「経営と管理」の観点から,テレビ局の経営状況の推移とCSRの2点に絞って行われた。テレビ局の経営状況については,以下のように述べられた。テレビ業界は創業以来,日本経済の発展に伴って成長し放送事業の多様化を進めてきた。日本国内のメディアを広告費で見ると,2012年1年間の広告費は,およそ5兆9000億円で,その内マスコミ4媒体と言われるテレビ・新聞・雑誌・ラジオが47%,テレビは30%を占めている。テレビ業界は,創業以来日本経済の発展に伴って成長してきたが,WEBなどメディアの多様化の影響から売上は2006年度をピークに減少傾向に入り,リーマンショックの翌年は,ピーク時の87%まで落ち込んだ。長いトレンドで見れば漸減傾向を覚悟しなければならず,各局は,映画やDVD,アイスショーなど,放送を活用した事業収入の創出を工夫している。