2012年度 第1回九州部会 開催記

■■日本管理会計学会2012年度第1回(第36回)九州部会が,2012年4月21日(土)に九州大学経済学部(福岡市東区箱崎)にて開催された(準備委員長:九州大学教授・大下丈平氏)。今回の九州部会は,関西中部部会からも多数のご参加をいただき,雨天にもかかわらず16名の研究者と実務家の参加があった。

2012kyusyu1_1.JPG■■第1報告では,高梠真一氏(久留米大学教授)より,「デュポン社のベンチャー事業分析におけるキャッシュ・フローの役割」と題する報告があり,1970年代のデュポン社におけるベンチャー事業投資の評価・管理に対するキャッシュ・フロー情報の活用に関する詳細な一次資料が紹介され,デュポン社において1960年代までは投資利益率による投資評価が中心であったが,1970年代以降はキャッシュフローモデルのフレームワークを確立し,割引キャッシュ・フローにもとづいた投資評価も実践されていた事実を指摘された。

2012kyusyu1_2.JPG■■第2報告では,蒋益鳴氏(熊本学園大学院生)より,「中国病院管理会計―「績効工資」(変動給)制度の限界―」と題する報告があり,中国史における「会計」の起源や歴代の帝王が会計を活用して統治してきた歴史などが紹介された後,WTO加盟後の現代中国における病院経営では成果主義報酬制度としての「績効工資」が重要な役割を果たしており,病院の医師や看護師の動機付けや人材確保に機能している反面,近視眼的行動の助長による長期的業績の犠牲,人材の流出や組織内での権力格差,ストライキなどの反発も生じている実態が紹介された。

2012kyusyu1_3.JPG■■第3報告では,浅川哲郎氏(九州産業大学教授)より,「福岡県における病院組織の変遷」と題する報告があり,米国の病院経営の背景にある医療・保険制度の変遷や,米国の先行研究にもとづいて,機能別組織,事業部制組織,マトリックス組織,パラレル組織,プログラム組織という病院組織の基本モデルが紹介された後,福岡県の麻生飯塚病院と聖マリア病院の組織構造の変遷に関する聞き取り調査の結果にもとづいて,地域における病院間の競争状況と病院の組織構造の戦略的な変更との関係などが考察された。

2012kyusyu1_4.JPG■■第4報告では,出水秀冶氏(?出水・コンピュータ・コンサルティング)より,「商品市場適合率の考察」と題する報告があり,現在の好業績企業のケースとしてロック・フィールド社を取り上げ,管理会計情報にもとづく需給ギャップの解消が好業績の鍵であるとの主張にもとづいて,市場の詳細で柔軟なセグメント化および顧客イメージの具体的なプロファイリングの必要性と,ターゲット市場における商品売上の成功度を測る「商品市場適合率」という指標が提唱された。

各報告に対して活発な質疑応答がなされ,報告会終了後には定例の部会総会も開催された。次回の九州部会は7月に西南学院大学で開催の予定である。

丸田 起大 (九州大学)