「フォーラム」カテゴリーアーカイブ

2010年度 第3回フォーラム開催記

■■ 日本管理会計学会2010年度第3回フォーラムは,10月23日(土)午後1時より福島大学において開催された。今回のフォーラムは,「中小企業経営と管理会計」という統一テーマに沿って,研究者と実務家が報告を行う興味深いプログラムであった。フォーラムでは,貴田岡信氏(福島大学)の司会のもと,藤井一郎氏(筑波大学大学院・みどり合同経営),奥本英樹氏(福島大学),板倉雄一郎氏(寺田共同会計事務所),佐藤英雄氏(福島信用金庫)の4名が報告を行い,フロアとの活発な議論が交わされた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。

■■ 第1報告:藤井一郎氏

「中小建設業における付加価値基準の活用について」

2010forum3_1.jpg 藤井氏は,最初にわが国の建設業の状況をマクロデータとともに示した後,建設業の特性と課題を述べた。そのうえで藤井氏は,建設業の抱える課題のうち,現状の会計処理に関する課題と人材上の課題とに焦点を当て,その問題点を明らかにしながら,課題解決に向けた提言を行った。会計処理に関する課題では,工事完成基準と工事進行基準とを対比させながら,それらを「期中の業績把握」,「予実管理」,「着地見込み」という3つのタテ軸となる評価視点と「正確性」,「スピード」,「その他の問題点」という3つの横軸となる評価視点によって形作られた9マスのマトリックスによって,それぞれのメリット,デメリットを指摘した。この結果,現状の会計処理上の視点となる工事完成基準および工事進行基準にはそれぞれ一長一短が存在するが,ともにマネジメントの視点からは問題が多く,受注判断や人材のコントロールにおいて誤った意思決定へと導く可能性のあることが指摘された。
評価方式の客観点がほぼ説明できてしまうことなどを指摘した。 藤井氏は,こうした現状の会計処理およびそれによる人材上の課題解決に向けて,新たに「工事別付加価値一覧表」の活用を提唱された。直接原価計算をベースとしたこの「工事別付加価値一覧表」を導入することによって,藤井氏は「期中の業績把握」と「予実管理」が容易になるだけでなく,現場代理人を中心とする人材の動機付けおよび業績評価に大きなメリットが生じることを指摘した。

■■ 第2報告:奥本英樹氏

「中小建設業における財務的特徴と総合評価方式の課題」

2010forum3_2.jpg 奥本氏は最初に,近年,国をはじめ多く地方で建設業における入札制度が従来の指名競争入札制度から市場原理に基づく一般競争入札制度にかわりつつあることを述べたうえで,平成19年度に一般競争入札制度を全面導入した福島県における建設業の状況と一般競争入札制度が抱える問題点をインタビューデータおよび財務データを用いた検証によって指摘した。福島県に本社を置く中小建設業者に対して行ったインタビュー調査による結果では,地方の一般公共土木建設市場が未成熟であること,業者間における経営品質が非均質であること,現行の一般競争入札制度が中小建設業者の適正な競争を導いていないことなどが指摘された。次に,奥本氏は,現行の条件付一般競争入札制度を支える総合評価方式の問題点に関して,福島県建設業協会に所属する243社の財務データとそのうちの40社に対して行ったインタビューデータとによる検証結果をもとに報告した。奥本氏は検証結果に基づき,現行の総合評価方式が企業規模に大きく依存してしまうこと,および建設業界が暗黙裡に保有する業界独自のソフトな情報によって,総合総合評価方式の客観点がほぼ説明できてしまうことなどを指摘した。

■■ 第3報告:板倉雄一郎氏

「中小企業の成長のための財務情報の活用-経営者に必要な情報について-」

2010forum3_3.jpg 板倉氏は,まず,中小企業の現状を各種の資料,データによって述べた後,中小企業会計の動向をわが国における会計ビックバン以降の会計基準の改定,新設などの経緯とともに報告した。そのうえで板倉氏は,企業のグローバル化によってわが国の会計基準がIFRSへと準拠する傾向に対し,そうした会計基準に基づく会計処理および会計情報が中小企業の経営実態とそぐわないことを指摘し,中小企業会計基準の設定が必要であることを提唱した。さらに板倉氏は,会計情報の特性として中小企業経営者にとっては,とりわけ理解可能性と目的適合性が重要であると指摘し,中小企業経営者の戦略的経営に役立つ情報が作成,報告される会計システムの構築が必要であると指摘した。

■■ 第4報告:佐藤英雄氏

「中小企業金融の現状と財務格付けの課題」

2010forum3_4.jpg 佐藤氏は,最初にわが国の金融制度および金融機関の体系を述べ,わが国の金融機関の概要を業態別に金融データによって報告した。次に,佐藤氏は借り手たる企業と貸し手たる金融機関との間の業態を越えた多元的,複合的金融関係を示した後,わが国において欧米と異なり,金融に関する基準が規模を反映しないほぼ同一の基準となっている点を問題として指摘した。さらに,佐藤氏は中小企業向けの貸出状況をデータを用いて詳細に報告しながら,中小企業向け貸出における財務格付けの実態を現実の資料をもとに示された。最後に,佐藤氏は,借り手たる中小企業と貸し手たる金融機関との間に存在する情報非対称性に関して,アンケートデータとともに指摘し,中小企業金融の抱える問題点を明らかにした。

■■ 本フォーラムでは,わが国において決して研究蓄積が豊富であるとはいえない中小企業経営とその実態に対して,4つの興味深い報告がなされた。また,報告後の質疑応答ではすべての報告において活発なやり取りが行われた。とりわけ,第3報告および第4報告では,一般的には入手が困難であろう詳細な実態報告がなされ,フロアも熱気に包まれた。本フォーラムでは4つの報告の後,パネルディスカッションが予定されていたが,各報告中の質疑応答が白熱し,すべての報告が予定時間を超過したため,当該予定がキャンセルされるというハプニングが生じたことも付記しておく。ただし,パネルディスカッションで行われたであろう議論は,懇親会の場で活発になされていたようであり,非常に有意義なフォーラムであったと思われる。

奥本英樹 ( 福島大学 )

2010年度 第1回関西・中部部会(兼第2回フォーラム)開催記

■■日 時
2010年7月17日(土)
■■場 所
大阪学院大学2号館

■■実行委員長の大阪学院大学宮本寛爾教授の挨拶につづいて,公開講演(日本管理会計学会・大阪学院大学共催),パナソニック株式会社,常務取締役 上野山 実氏が演題「パナソニックの経営理念と経営管理制度」で講演された。

2010kansai1_1.jpg■■パナソニックの経営概念、経営理念の説明から,パナソニックの経営管理制度、資金管理制度,業績評価制度,グローバル経営管理,経理社員制度まで詳しく語られた。パナソニックの経営管理制度は,事業部による自主責任経営を基本理念に利益責任と資金責任を併せもつことが最大の特徴である。事業計画制度,月次決算制度、内部資本金制度は,この経営管理制度の骨子であり,独特のものである。事業計画制度は,社長の経営基本要綱とその目標心達を事業場長が契約したものである。経営基本要綱にはCO2削減量がふくまれる。また、内部資本金制度は,自主責任経営を裏付ける必要にして適切な資金を委ねるもので,事業場長は自己の責任において自由奔放にして独創的な経営を行うとされる。目的は,財務責任を実態づける,内部留保の明確化を通じ,経営のヨロコビを知る,借入金・内部留保など資金の源泉をハッキリさせる,ことである。業績評価制度は,CCM(パナソニック版EVA),成長性,環境を合計100点とし,報酬制度と連動させる仕組みとなっている。CCMは,資本コスト重視の経営であり,原価の計算の中にも資本コストを取り入れることも肝要とつけくわえられた。グローバル経営管理については,海外事業投資には本社から100%出資を基本としているなど詳細に説明された。  以上,貴重なお話にフロアからの質問が絶えず,退場後もいくつかの意見交換がもたれた。

■■つづいて,統一論題「管理と会計」が浜田和樹氏(関西学院大学)の司会により始まり,以下の3氏が報告された。まず,北田幹人氏(八木通商株式会社、常務取締役)より「専門商社の経営管理」という論題で報告がなされた。専門商社としての特性が説明された後,予算管理,与信管理また在庫管理が重点的に説明された。業界特有の変化が著しく,月次決算を予算管理の柱として毎月のローリング,つまり機動的に予算を修正すること,与信管理も週1回のチェツクがなされること,在庫管理は不良在庫を減らすために納品管理を徹底することなどが強調された。また,社内資本金制度の導入はしていないが,必要資金を社内貸借勘定で把握し,また金利を付加する形で損益計算表が作成されている。

2010kansai1_2.jpg■■つぎに,横山俊宏氏(株式会社竹中工務店、常勤監査役)より「建設業におけるプロジェクトをベースとした経営管理」という論題で報告がなされた。竹中工務店の紹介,建設業における「プロジェクト」,プロジェクトの採算管理,経営理念について順次説明された。上場していない数少ない大手企業で,建設業では受注高がきわめて大きな要素となり,社員一人当たり年1億円の受注高を目指している。プロジェクトの決定は,進行基準決算がとられており,工事価格と利益の推定が鍵となる。企業の継続・安定・成長は次の100年というごとくレンジが長いのが建設業の特徴などなどが力説された。

■■最後に、大下丈平氏(九州大学)より「不況の管理会計学:「管理と会計」に寄せて」のテーマで報告がなされた。不況のおけるリスクをさけるための施策は、内部統制をブレーキに、企業価値創造のベースに向けていかにアクセルできるか、という大きな視点から管理会計のメッセージが発信された。経済、社会、政治のバランスのとれた市場社会の形成が肝要というスタンスから、リスクマネジメントと企業価値創造のマネジメントを支援するガバナンス・コントロールの可能性が提案された。具体的にどういうガバナンスが必要かは今後の課題となるとされた。

■■それぞれの報告の後、フロアにおいて活発な質疑応答がなされた。40名を超す参加者の熱のこもった議論が行われ、有意義な関西・中部部会であった。

関西・中部部会 実行委員 古田隆紀氏(大阪学院大学)

2010年度 第1回フォーラム開催記

2010forum1_1.jpg■■ 日本管理会計学会2010年度第1回フォーラムは,4月17日(土)午後に横浜国立大学において開催された。
 本フォーラム実行委員長の溝口周二氏による開会挨拶に続き,同氏の司会により,古田清人氏(キヤノン株式会社 環境本部 環境企画センター),竹原正篤氏(マイクロソフト株式会社 環境・グリーンIT担当部長),河野正男氏(横浜国立大学名誉教授)の3名が報告をされた。次いで行われたパネルディスカッションでは,壇上の司会者及び報告者の4名とフロアーの参加者の間で活発な議論が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ散会となった。

統一テーマ : 「環境マネジメントと管理会計」

■■ 第1報告:古田清人氏

「キヤノンの環境経営について(管理会計手法の活用)」

2010forum1_2.jpg 古田氏は,最初に環境がもたらす企業活動への制約とインセンティブについて一般的な説明を行った上で,キヤノンの環境ビジョンについて述べた。そこで示されている具体的な考え方は,ライフサイクル全体の環境負荷を視野に入れて,豊かさ(製品の高機能化)と地球環境(環境負荷の最小化)を同時に実現することである。
 次に,製品における環境保証の3本柱が示された。それは「省エネルギー」「有害物質廃除」「省資源」からなり,製品ライフサイクルを通じて環境負荷を最小化し,法規制の先取りで製品競争力につなげるという考え方である。その具体的な取り組みとして,製品開発段階における二酸化炭素情報の把握と低環境負荷材料の採用が挙げられた。
前者においては,3次元CADでコストテーブルを使用したライフサイクルコストの集計が行われており,原価情報と二酸化炭素情報が連動していることが強調されていた。そこでは,エネルギー原単位の単価への換算における精度が低いことや二酸化炭素削減の要因の明確化が今後の課題として示された。  続いて,事業所(工場)活動における環境保証の3本柱が示された。それは「地球温暖化防止」「有害物質廃除」「省資源活動」からなり,ISO14001による環境管理と,ムダの排除という考え方が根幹にある。その具体的な取り組みとして,マテリアルフローコスト会計の分析結果からロスの改善への展開が挙げられた。ここでは,硝子レンズの研削工程において作業屑をマテリアルロスとして顕在化し,作業屑そのものを削減する改善案が検討されている。なお,マテリアルフローコスト会計はキヤノングループの主要生産拠点で導入され,億円単位の経済効果を挙げている。
 最後に,キヤノンが目指す環境経営が示された。それを要約すると「経営への貢献と,地球環境保護の両立」であり,換言すると「環境活動を進めることによって,収益を上げ成長する会社,会社も個人も尊敬される会社」を目指すということである。

■■ 第2報告 :竹原正篤氏

「グリーンITと環境管理会計」

2010forum1_3.jpg 竹原氏は,最初に世界及び日本の二酸化炭素排出量の統計情報を示した上で,情報化社会の進展がIT機器による消費電力の増大をもたらすことを特に問題視している。その一方で,IT技術の進展が電気機器の省エネをもたらすことを指摘し,ITによって社会全体の省エネを支えるという考え方を提示している。 論題である「グリーンIT」とは,増大するIT機器の省エネ(Green of IT)を推進するとともに,ITを活用して社会全体の省エネを推進(Green by IT)し,低炭素社会の実現を加速させようとする取り組みである。グリーンITの重要な課題の1つが効果測定であり,会計的手法を活用してその効果を「測定」「評価」するモデル開発へのニーズは高いことが強調された。
 Green of ITの事例として,クラウドコンピューティングが挙げられた。そこでは,大規模データセンターにリソースを集約することでエネルギー消費が最適化することにより,クラウド導入企業のエネルギー消費量は一般的に低下することが予想されると考えられるが,マクロレベルでエネルギー消費量が減少したかどうかを検証することは非常に難しいことが指摘された。また,Green by ITの事例として,ITを活用して供給側と需要側の電力のバランスを自動的に制御する次世代送電網であるスマートグリッドが挙げられた。これは,太陽光や風力等の再生可能エネルギーの導入拡大と電力品質の安定維持の両立に欠かせない技術といわれている。
 次に,グリーンITの測定・評価の問題が挙げられた。ITの環境負荷評価では,国際規格化された手法であるライフサイクルアセスメント(LCA)が活用されているが,管理会計の手法は援用されていないことが指摘された。次に,具体的な評価手法として「機能単位」と「システム境界」の設定が挙げられた。前者は評価する製品の主要な性能や機能を定量化することであり,後者は調査範囲を設定することである。これにより,従来のシステムと新しいシステムの比較を可能にしている。また,ITの環境効率は,「ITが提供する価値」を「ITの機能単位当たりの環境負荷」で除した値で定義される。  最後に,グリーンITへの貢献を評価する枠組みについて検討が行われ,生産から使用,更にはリサイクルに至るLCA全体で環境貢献を評価すべきであると結論づけている。

■■ 第3報告: 河野正男氏

「環境マネジメントの進展と管理会計」

 河野氏は,最初に環境マネジメントの内部化について言及している。その一つは「質の内部化」であり,環境問題への対応に当たっての経営環境の革新,換言すると環境保全活動を評価の対象とすることである。もう一つは「量の内部化」であり,環境マネジメントの結果を貨幣単位及び物量単位で把握することである。そして,質の内部化の進展が量の内部化を促進するとしている。
 次に,環境マネジメントの内容の変化について,リコー,グリーンマネジメントプログラム・ガイドライン,國部委員会の各ケースを挙げながら説明している。そして,環境マネジメントシステムの役割が廃棄物,エネルギー使用量,水使用量等の削減からより広範かつ経営の根幹に関わる内容に変化していることを指摘している。
環境マネジメントの意図が環境負荷物質の削減にあることから,その排出量及び削減量等の物量情報によって評価されることが不可欠である。また,環境マネジメントの費用対効果の把握の視点からは,環境関連のコストや収益等の貨幣情報も必要である。そして,環境マネジメントでは,ISO14000シリーズ関係,環境会計,環境報告書,カーボンオフセット,カーボンフットプリントなどの手法が用いられる。
 環境会計はミクロ環境会計とマクロ環境会計に大別され,前者はさらに外部環境会計と環境管理会計に分類される。環境管理会計の手法を対象別に分類すると,企業サイトを対象とした手法と製品を対象とした手法に分類される。前者の例として,マテリアルフローコスト会計,環境配慮型投資決定法,環境予算マトリックス,環境配慮型業績評価が挙げられる。また後者の例として,ライフサイクルコスティング,環境配慮型原価企画,環境品質原価計算が挙げられる。 環境マネジメントは,環境対応,環境保全,環境経営という3段階で進展してきた。その中でも最上位のレベルである環境経営の段階は,製品のエコ化から産業のエコ化への段階であり,環境管理会計の本格的取組がされていると指摘している。
 最後に,リトルトンの会計進化説を引用し,その本質はイタリア式資本利益会計に秘められた会計職能(測定,保全,伝達)の再発見であるとし,管理職能の発展なくして伝達機能の発展はないと論じている。そして,環境管理会計の発展が外部環境会計の発展を促進すると結論づけている。

2010forum1_4.jpg■■ パネルディスカッション
 最初に挙げられた議論は,情報量の増大とそれに伴うコスト負担の問題である。古田氏は外部報告書で想定される読者に着目している。すなわち,有価証券報告書は株主や投資家,環境報告書は環境関連の専門家である。また,溝口氏は人的コストと社会コストに着目し,その効果はエコファンド及びCSRファンドへの投資や市場の評価であると述べている。
次の議論は,本フォーラムのテーマである環境会計と,河野氏の研究テーマである生態会計との関連性に関するものである。河野氏は,生態会計は水・森林・エネルギー資源,CSR,環境会計をすべて含むものであり,そこでは企業以外もすべてシステムであると述べている。
 最後に,外部から環境情報を利用する立場から,比較可能性と正確性に関する議論が行われた。有価証券報告書に環境報告書が含まれると利便性が増すが,その方向性についてどう考えるかという質問に対して,3人の報告者から次のような見解が示された。河野氏は,企業は比較可能性について考えていないとしている。それに対して竹原氏は,比較可能な資料が存在しないために困ったことがあると述べている。また古田氏は,環境情報の利用者が専門家から一般へと広がってきていると指摘している。  ここで所定の時刻になったため,この議論をもってパネルディスカッションを終了することとなった。

2010年4月30日|山下功氏 (新潟国際情報大学)

2009年度 第3回フォーラム開催記

2009forum3_4.jpg■■ 日本管理会計学会2009年度第3回フォーラムが,2009年11月28日(土)に愛知東邦大学(名 古屋市名東区平和が丘)にて開催された(実行委員長:愛知東邦大学教授・山本正彦氏)。今回のフォーラムは,崎 章浩副会長(明治大学)の司会のもと「商品企画と管理会計‐商品開発力強化への管理会計の貢献‐」という統一テーマに沿って,田中雅康常務理事・前会長(目白大学),谷彰三氏(シャープ株式会社経理本部経理部副参事),渡辺美稔氏(いすゞ自動車株式会社原価企画部VE・TDグループリーダー)の3氏の報告が行われた。

2009forum3_5.jpg■■ まず,田中雅康氏(目白大学)より「製品コンセプトづくりと管理会計」というテーマで報告がなされた。同報告では,製品コンセプトづくり,製品コンセプトの決定活動,標準的売価の設定法,原価見積の方法,製品コンセプトづくりにおける経済性評価について説明がなされた。田中氏によれば,新製品開発の動向として製品企画段階により多くのエネルギーが費やされ,開発設計段階のリードタイムを短縮していく傾向があるので,製品コンセプト段階から管理会計も積極的に関わることが重要であると述べられていた。

2009forum3_6.jpg■■ 次に,谷 彰三氏(シャープ株式会社経理本部経理部副参事)より「製品コンセプト・メーキングの方法-CMVE(Concept Making VE)を活用して-」というテーマで報告がなされた。同報告では,コンセプト・メーキングVE開発の背景,商品企画VEの必要性,コンセプト・メーキングVE概論,コンセプト・メーキングVEの進め方,適用事例について説明がなされた。CMVE(Concept Making VE)とはVEアプローチにより潜在的なニーズを顕在化させる技法であり,本報告ではコンセプト・メーキングVEの進め方を中心に同社の適用事例についても紹介がなされた。

2009forum3_7.jpg■■ 最後に,渡辺美稔氏(いすゞ自動車株式会社原価企画部VE・TDグループリーダー)より「生産性設計支援システム(Design For Assembly)による商品競争力比較と原価低減活動」というテーマで報告がなされた。生産性設計支援システム(DFA)は,製品を設計段階で生産しやすいように支援するソフトウエアで,たとえば組み付け性の定量的な評価,組み付け工数,コストの推定,改善ポイントの提示等設計段階で生産性を評価できることが特徴である。同報告では,生産性設計支援システム(DFA)の概要とその活用事例について紹介がなされた。

■■ 3氏の報告の後,円卓討論をはじめるにあたって報告者のとりまとめとして田中雅康氏より3報告についてのコメントが述べられた後,フロアから活発な質疑応答がなされた。40名を超える参加者にとっても大変有意義な時間となったフォーラムであった。

飯島康道 ( 愛知学院大学 )