「九州部会」カテゴリーアーカイブ

2016年度 第1回(第48回) 九州部会開催記

■■ 日本管理会計学会2016年度第1回(第48回)九州部会が、2016年5月14日(土)に下関市立大学(下関市大学町)にて開催された(準備委員長:島田美智子氏(下関市立大学))。今回の九州部会では、関西・九州以外に関東からもご参加をいただくなど、10名近くの研究者や大学院生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■  第1報告は、高梠真一氏2016kyuusyu1-1.jpg(久留米大学)より、「管理会計の生成・発展における投資利益率の役割」と題する研究報告がなされた。本報告は、19世紀中期の鉄道会社であるウェスタン鉄道、19世紀後期の鉄鋼会社であるカーネギー・スティール社、20世紀初期の火薬会社であるデュポン火薬会社、および20世紀中期の化学会社であるデュポン社を事例として取り上げ、各企業において投資利益率がどのように利用され、いかなる内容・意義をもっていたかを検証・考察したものである。
報告者は検証・考察の結果、投資利益率概念については、その分母と分子の構成要因が企業環境や利用目的に適合して変化してきたこと、および、その投資利益率は元来、株式投資ではなく、意思決定と業績評価という経営管理のために管理会計の技法・概念として利用されてきたと結論づけている。

■■ 第2報告は、足立俊輔氏2016kyuusyu1-2.jpg(下関市立大学)より、「クリニカルパスを介した病院TDABCの有用性について」と題する研究報告がなされた。本報告は、キャプラン=ポーター(Kaplan, R. S. & Porter, M. E. (2011))が、”How to solve the cost crisis in health care”をHBRで発表して以来、多くの病院でTDABCが試験的に導入されていることや、病院で標準診療計画を意味する「クリニカルパス」を活用することで病院TDABC導入の適切性確保や負担軽減できると指摘されていることに着目して、病院TDABCとクリニカルパスの関連性を文献レビューを通じて整理したものである。
報告者はレビューの結果、クリニカルパスは、病院TDABCのプロセスマップ作成時や、調査対象となる診療行為を選別する場合に用いられていることを指摘し、その背景にはコスト・ベネフィットの観点から病院全体にTDABCを導入することが困難となっていることに言及している。

■■ 第3報告は、水島多美也氏(中2016kyuusyu1-3.jpg村学園大学)より、「時間管理会計論とその発展」と題する研究報告がなされた。本報告は、管理会計や原価計算の個々のケースでは「時間」について一定の議論がされているとはいえ、どの時間の、どの管理会計技法を問題にしているかについては共通認識がないことに着目し、時間と管理会計・原価計算の関係性について体系的な整理を試みたものである。なお当該報告は、報告者が昨年度出版した『時間管理会計論』の成果に基づいたものである。
報告では、時間の視点からみた管理会計・原価計算の先行研究を、ビジネスプロセス、組織単位、期間、頻度の4つから分類整理を行った結果や(第2章)、標準原価の能率向上による過剰在庫の発生といった「時間からみた伝統的会計の問題点」(第4章)、業績評価会計と意思決定会計における時間概念の体系的な整理(第10章)などが、トヨタ生産システムやアメーバ経営と関連させながら紹介された。

■■ 研究報告会の後、臨時総会が開催された。臨時総会では、前年度の会計監査報告と今年度の九州部会開催が情宣された。今年度は、第2回の九州部会(第49回大会)を7月30日(土)に福岡大学で管理会計フォーラムと共同開催し、第3回の九州部会(第50回記念大会)を11月19日(土)に九州大学で開催する予定である。また、第50回記念大会にあたって部会開催補助を増額することとなった。
臨時総会後、大学生協にて懇親会が開催され、実りある交流の場となった。

足立俊輔 (下関市立大学)

2015年度第3回(第47回)九州部会 開催記

2015kyushu3.png■■ 日本管理会計学会2015年度第3回(第47回)九州部会が、2015年11月7日(土)に福岡大学(福岡市城南区)にて開催された(準備委員長:飛田努氏(福岡大学))。今回の部会では、九州以外に中部・関東からもご参加をいただくなど、15名近くの研究者や大学院生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■ 第1報告は、黒岩美翔氏(九州大学大学院博士課程)より、「社会責任戦略コントロールに関する一考察:全社的リスクマネジメントERMの可能性」と題する研究報告がなされた。本報告は、財務的コントロールと社会的コントロールの比較考察を通して、マネジメントコントロールやガバナンスシステム、また全社的リスクマネジメントがどこへ向かうのかについて、その手掛りを得ることを目的としている。
報告では、Moquet(2010)に基づいて、社会的責任戦略コントロールを行っているフランスのダノン社の事例を通じて、社会的責任の4つの特徴を分析しながら理論的提案を行っている。報告者は、Moquet(2010)を踏まえた理論的提案を踏まえて、企業が社会的責任戦略のコントロールを実現する方策として「CSRを考慮したERM」を提案している。

■■ 第2報告は、木村眞実氏(沖縄国際大学)より、「自動車解体業への試案MFCAー樹脂を対象としてー」と題する研究報告がなされた。本報告は、MFCAを使用し、静脈産業の生産プロセスには改善の可能性があることを示すことを目的としたものである。
報告では、静脈産業である自動車解体業A社を対象にして、安城・下垣(2011)に基づいて作成された「試案のMFCAバランス集計表」のエクセルの計算例や、リサイクルフロー図が示された。A社では従来、使用済自動車由来の樹脂部品(バンパーなど)は代替加炭材の原料として処理されていたが、この樹脂部品を樹脂ペレットという形でマテリアルリサイクルを行うという生産プロセスの改善がされている。報告者は、試案のMFCAバランス集計表を作成した結果、こうした生産プロセスの改善の効果が金額や物量ベースで「見える化」できたことを示している。

■■ 第3報告は、新茂則氏(中村学園大学)より、「日本版スチュワードシップ・コードとROE投資」と題する研究報告がなされた。本報告は、企業の収益向上に向けた政策と株価動向の実証分析を行うことを目的としている。
報告者は、日本の株式市場の最大の投資家は外国人投資家であること、ROEについて経営者と投資家の意識のズレがあること、JPX日経インデックス400(JPX400)の創設により企業経営者の意識にROE経営に重きをおく環境が整ったことなどを問題意識に置いている。報告では、quickやヤフーファイナンスのデータの分析結果が示され、東証時価総額上位企業のROEとPBRには正の相関(0.68)がみられること、JPX400と為替レートは強い正の相関(0.88)があること、JPX400の投資収益率のパフォーマンスはベンチマーク(TOPIX)よりも高いことが示された。

■■ 第4報告は、西村明氏(九州大学名誉教授)より、「管理会計におけるデリバティブとものづくり」と題する研究報告がなされた。本報告は、リスク一般ではなく、最も現実的で企業経営に影響するリスクと管理会計との関係を明らかにすることで、現代における管理会計の特徴と問題点の解明を目的としている。
報告者は、Nishimura(2015)で提案したCOLCモデル(Comprehensive Opportunity and Lost Opportunity Control Model)は強い金融経済の中で、リスク管理や持続的な収益性に確報する方法であるとしても、デリバティブの投機性を処理することはできないため、企業経営と管理方法がその社会的な運用において、社会との対話や批判を組み入れ、公正かつ客観的なものでなければならないとしている。その意味での管理会計は、国際会計基準、とりわけコーポレートガバナンスや内部統制と強い連携を持つと共に、公開制・透明性・管理責任制をより強く意識し、システムとしてそれらを確立しなければならないと結論づけている。

■■ 報告会終了後には開催校のご厚意で、大学周辺の居酒屋で懇親会も開催され,実りある交流の場となった。

足立俊輔 (下関市立大学)

2015年度 第2回(第46回) 九州部会 開催記

■■ 日本管理会計学会2015年度第2回(第46回)九州部会が、2015年7月25日(土)に九州産業大学(福岡市東区)にて開催された(準備委員長:浅川哲朗氏(九州産業大学))。今回の部会では、九州以外に関西・中部からもご参加をいただくなど、10名近くの研究者や実務家、大学院生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■  第1報告は、田尻敬昌氏(九州国際大学)より、「組織スラックとフィードフォワード・コントロール―スラック形成とその戦略的展開」と題する研究報告がなされた。本報告は、組織スラックをフィードフォワード・コントロールの観点から再検討することを目的としたものである。
組織スラックの機能には、戦略的行動やイノベーションを促す機能があり、例えば、組織が利害対立関係下にあっても、組織スラックを利用することでイノベーションが起こる可能性がある。報告者は、フィードフォワード・コントロールにおいては見積値と目標値の差異を解消することに焦点があてられているものの、組織スラックの機能に焦点をあてた場合には、当該差異は解消するのではなく、「合意形成が得られるであろう次善的に適切な値」に設定すべきとして、会計情報の指標間において対立関係が生じていることに言及している。

■■ 第2報告は、緒方光行氏(福岡常葉高等学校)より、「キャリア教育の視点に立った管理会計の指導法について」と題する研究報告がなされた。本報告は、平成25年度の高等学校学習指導要領の改訂により、新たに導入された「管理会計」の現場での現状と課題を説明した上で、キャリア教育で重視されるようになった観点別評価の実態を紹介したものである。
観点別評価の導入背景には、検定試験合格の勉強に偏重しすぎている現状が問題視されていることがあり、観点別評価を導入することにより、会計指標の理解力や表現力が求められるようになっている。報告では、話し合い活動としてKJ法や、発表方法としてワールドカフェ方式など、様々な取り組みが紹介されているものの、管理会計では、高校生を対象にした管理会計の教材が不足している現状から、高大接続などによる指導の充実が求められていることがあげられている。

■■ 第3報告は、招聘講演として、今井範行氏(名城大学)より、「デュアルモード管理会計とプロアクティブスラック―予算スラックの順機能性に関する一考察―」と題する研究報告がなされた。本報告は、逆機能的な予算スラックとは異質の順機能的な予算スラックとして、トヨタ的業績管理会計の事例を取り上げ、その要諦について「プロアクティブスラック」として概念化をはかるとともに、その管理会計的意義について考察を加えたものである。
トヨタなどグローバルに事業展開する企業では、企業外部の想定2015kyusyu2-1.jpg外の潜在リスクを予見することが難しい。そのためトヨタでは、為替レートや販売数量など収益ドライバーの前提を「保守的」な水準に置き換えた利益計画を提示して、その保守的に置き換えた分の利益減少分を、追加的なコスト低減策の策定でカバーすることが求められている。報告では、当該コスト低減策により、順機能的な予算スラックとしてプロアクティブスラックが形成されていることが、設例や図表を用いて紹介されている。

足立俊輔 (下関市立大学)

2015年度 第1回(第45回)九州部会 開催記

■■ 日本管理会計学会2015年度第1回(第45回)九州部会が、2015年4月18日(土)に中村学園大学(福岡市城南区)にて開催された(準備委員長:水島多美也氏(中村学園大学))。今回の部会では、九州以外に関西・関東からもご参加をいただくなど、10名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■  第1報告は、谷守正行氏(専修大学)より、「サービス業における原価計算に関する研究―銀行のポストABCアクションリサーチを通して―」と題する研究報告がなされた。本報告は、わが国の銀行で導入されてきたABCによって算出される顧客別情報の問題点を解決するために、より現場感覚に合う顧客別情報を提供するABCの配賦方法をアクションリサーチに基づいて提示することを目的としたもの2015kyuusyu1-1.jpgである。
従来の銀行ABCは、業務量が配賦基準に設定されており、事務をこなせばこなすほどコストになってしまうことに対して現場の違和感が高まっていた。そこで報告者は、顧客の関連性情報(年齢や職種、契約状況など)に基づいて必要資源量(窓口・ATM・ネット)と関連させて顧客別原価を算出する配賦手法を提示している。報告では、当該手法によるABCのアクションリサーチの結果が示され、関連性情報に基づく配賦手法は現場の納得感が高く、原価計算担当者の作業負担が軽減されたことが明らかにされた。

■■ 第2報告は、宮地晃輔氏(長崎県立大学)より、「造船業における人的資産・組織資産の高度化への取組みと課題」と題する研究報告がなされた。本報告は、長崎県佐世保地域で行われている造船人材活性化への取り組みについて、その現状と課題を明らかにしようとしたものである。2015kyuusyu1-2.jpg
報告では、段階的な人口減少により地域衰退が懸念される長崎県の現状と、地域雇用の側面から造船業の再浮揚の必要性が説明された上で、新造船事業の競争力を高めるための人材育成が求められていることが示された。報告者は、日本の新造船事業の外注化率は約85%であることから、地元協力先企業との連携強化も国際競争力を高める上で必要不可欠であり、こうした現状を経営者階層(地元地方金融機関からの人材など)に理解させるための意識改革をサポートしていくことが課題であると指摘している。

■■ 第3報告は、西村明氏(九州大学名誉教授)より、「企業リスクマネジメントと機会/機会原価統制システム」と題する研究報告がなされた。本報告は、近年グローバル企業が抱えるリスクに対して管理会計が果たすべき役割について、利益機会とリスク管理の構造から明らかにしようとしたものである。2015kyuusyu1-3.jpg
報告では、リスク管理と管理会計の有機的な統合を実現するための機会・機会原価統制システムが提示され、当該システムによる企業価値創造とガバナンスの側面から最適利益を算出するための統制プロセスが、図表や設例によって提示された。報告者は、これからの管理会計には、事前行為的視点を強化しなければならないことや、リスク管理の透明性を高めるために財務会計との融合が求められていること、そして社会経済的な視点が必要とされていることが指摘された。

■■ 研究報告会の後、総会が行われた。総会では前年度の会計報告と今年度の九州部会開催の議題が出され、双方とも承認を得た。今年度の九州部会については、第46回大会は7月25日に九州産業大学にて、第47回大会は福岡大学にて11月に開催予定である。報告会終了後、開催校のご厚意により懇親会が開催された。懇親会は有意義な研究交流の場となり、盛況のうちに大会は終了した。

足立俊輔 (下関市立大学)

2014年度 第3回(第44回)九州部会 開催記

■■ 日本管理会計学会2014年度第44回九州部会が、2014年11月22日(土)に西南学院大学(福岡市早良区)にて開催された(準備委員長:高野学氏(西南学院大学))。今回の部会では、九州以外に関西・関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■  第1報告は、吉田栄介氏(慶應義塾大学)および徐智銘氏(慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程)より、「日本企業の品質コスト志向性:実態調査に基づく探索的分析」と題する研究報告がなされた。本報告は、高品質と低コストの両立を志向するといわれてきた日本企業の管理活動実態について、郵送質問票調査(有効回答会社数130社、回収率15.3%)の結果に基づいて考察を加えたものである。
報告では、4つの仮説((1)日本企業は高品質と低コストを同時的に実現しているのか、(2)日本企業における高品質・低コストの実現と業績管理はどのような関係があるのか、(3)日本企業における高品質・低コストの実現と関係する管理・活動はどのような関係があるのか、(4)日本企業における高品質・低コストの優先性について、どのような全体的傾向があるのか)が提示された。(1)については、高品質と低コストを同時的に実現している傾向があること、(2)については、事業戦略と業績目標、特にプロセス指標との整合性が、高品質・低コストの実現のために重要であること、(3)については、高品質と低コストの実現に対して、多様なコストマネジメントが機能していることが明らかにされた。また、(4)については、品質・コスト志向性に基づいて企業群を4つに分類し、仮説的に発展モデルが提示された。

■■ 第2報告は、高野学氏(西南学院大学)より、「東日本大震災以降の電気事業における総括原価方式の役割」と題する研究報告がなされた。本報告は、電気事業で電気料金総収入を算定する際に、従来から採用されてきた「総括原価方式」が、東日本大震災による福島第一原発の事故により新たに発生した原発事故費用を考慮するようになってから、どのように役割変化がみられたのかについて考察を加えたものである。
報告では、(1)原発被害者への損害賠償の財源となる一般負担金は、新たな営業費項目を追加することによって総原価の中に算入し、原子力事業者の利用者から徴収していることや、(2)福島第一原発の廃炉費用である減価償却費ならびに解体引当金は、その算定方法を変更することにより、廃炉後も総原価の中の営業費に算入することが認められ、電気料金で廃炉費用が回収されていることなどが明らかにされた。

■■ 第3報告は、浅川哲郎氏(九州産業大学)より、「オバマ改革以降の病院マネジメントシステムの変化について」と題する研究報告がなされた。本報告は、アメリカのオバマ政権によって2010年に立法化された医療保険制度改革法(ACA)により、病院規模や病院組織に変化が生じているのか、また、病院の経営形態にどのような変化がみられているのかについて、報告者の現地調査に基づいて明らかにしようとしたものである。
報告では、ACA以前に皆保険を実施したマサチューセッツ州の病院として、マサチューセッツ総合病院のほか、ハーバード大学医学部、ジョスリン糖尿病研究所、ボストン子供病院などが紹介された。そして、(1)オバマ医療制度改革は、米国の医療システムを劇的に変える可能性があることや、(2)マサチューセッツ州では、ハーバード大学の関連病院のような最先端病院においても、時間主導型活動基準原価計算(TDABC)のような原価計算システムを導入し、業務改善を図っていることが示された。

■■  第4報告は、田坂公氏(久留米大学)より、「フルーガル・エンジニアリングと原価企画」と題する研究報告がなされた。本報告は、インドで考案されたフルーガル・エンジニアリング(FE)と原価企画の関連性を検討し、開発の現地化の新たな方向性を考察しようとしたものである。報告は、原価企画とFEの関係性を、(1)支援体制と(2)設計開発プロセスの面から明らかにしている。
報告では、FEは新興国で生まれた手法であるが、先進国への逆輸入まで考えているリバース・イノベーションとは異なると捉え、FEを活用した原価企画は、(1)空洞化には関係していないこと、(2)開発を完全に現地化すれば、ノウハウの技術流出を抑えられること、(3)新製品を新興国市場で生産・販売し成功を収めるための効果的な手段になりうることが、その展望として明らかにされた。

■■ 研究報告会終了後、懇親会が西南クロスプラザ(ゲストルーム)にて開催された。懇親会は有意義な研究交流の場となり、盛況のうちに大会は終了した。

下関市立大学 足立俊輔