■■ 日本管理会計学会2018年度第1回(第54回)九州部会が、2018年6 月23 日(土)に久留米大学御井キャンパス(久留米市)にて開催された(準備委員長:高梠真一氏)。今回の九州部会では、関西・北陸・九州からご参加をいただき、20名近くの研究者や院生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また、管理会計のほかに財務会計の分野の研究者の参加によって、分野横断的な議論が研究会や懇親会で交わされた。
■■ 第1 報告は、新改敬英氏(九州大学大学院博士後期課程)より、「組織の構造的特性に関連する『マネジメント・コントロールの罠』についての探索的研究」と題する報告が行われた。本報告は、マネジメント・コントロール・システム(MCS)の特性やコスト負担が組織の構造的慣性(外部環境に対する組織対応が緩やかなこと)と結びつくことで、気づかないうちに全体のパフォーマンスを低下させている可能性に着目した研究である。報告では、マクロミル社のデータベースに登録のある国内本社の上場・非上場の経営者を対象にしたパイロット研究の一部が紹介された(2018年4月実施、最終回答数633件、うち革新的イノベーション業績の関連項目に「あり」と回答した500件を対象)。
報告では、Simons(2000)のMCSと革新的・漸進的イノベーションとの関連性を、組織の構造的慣性の有無で区分した重回帰分析の結果が示され、(1)境界コントロール(C)と革新的・漸進的イノベーションの関連性が確認できたものの、「構造的慣性」が機能する状況下では革新的イノベーションと負の関連性があったことや、(2)双方向Cは漸進的イノベーションとの間に正の関連性が確認できても、これは構造的慣性に正の調整効果があることに起因していることなどが明らかにされた。
■■ 第2報告は、丸田起大氏(九州大学)・篠田朝也氏(北海道大学)より、 「原価企画の実験研究―パイロットテストの結果と課題―」と題する報告が行われた。本報告は、Everaert and Swenson(2014)やGopalakrishnan et al. (2015)が実施したレゴブロックを用いた原価企画の実験研究のトライアルについて報告したものである。先行研究では、原価目標が全般的・特定的な場合と、設計指示の伝達が順次的(事前に全て伝えられる)・並行的(段階的に伝えられる)な場合の4分類で実験が行われている。
報告者らは、参加者を「絶対額目標(180万円以下にコストを下げる)」、「差額目標(20万円以上コストを下げる)」、「原価目標なし」の3グループに分けて実験を行っている(九州大学・北海道大学の学生39名、全12チーム、2018年2月19日実施)。実験の仮設としては、「特定的な原価目標を与えたほうが全般的な原価目標を与えるよりも原価低減効果が大きい」、「絶対額目標を与えた場合と差額目標を与えた場合では原価低減効果は異なる」の2つを設定している。しかしながら実験結果では、いずれの仮設も支持されず、その要因として、原価目標の設定が容易すぎたことや、原価低減を一番達成したグループに与えられるインセンティブが全グループの目標となってしまったことが紹介され、管理会計研究における実験研究の課題が明らかにされた。
■■ 研究報告会終了後、九州部会の総会が行われた。総会では前年度の会計報告、今後の部会運営、今年度の九州部会開催の議題が出され、双方とも承認を得た。第55回大会は長崎県立大学にて10月20日(土)に開催予定である。
報告会終了後、開催校のご厚意により、古賀久六ツ門本店(久留米市)にて懇親会が開催され、実りある研究交流の場となった。
平成30年6月25日 足立俊輔 (下関市立大学)