2017年度第3回(第53回)九州部会開催記

■■ 日本管理会計学会2017年度第3回(第53回)九州部会が、2017年11 月11 日(土)に中村学園大学(福岡市城南区)にて開催された(準備委員長:水島多美也氏(中村学園大学))。今回の九州部会では、関西・九州か201711131.JPGらご参加をいただき、10名近くの研究者及び商業高校教諭の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また、管理会計のほかに国際経営学の分野の研究者の参加によって、分野横断的な議論が研究会や懇親会で交わされた。
なお本部会は、九州部会の先生方が中心となって進められている日本管理会計学会スタディグループの報告(研究課題「地域中小製造企業の管理会計・原価計算活用実態解明と経営改善への接続に関する研究」、研究代表者:宮地晃輔氏)の中間報告という位置づけである。当該スタディグループでは、長崎・熊本・沖縄といった九州の中小企業の管理会計実践をインタビュー調査や参与観察、アクションリサーチなどを行っている。

■■ 第1 報告は、宮地晃輔氏(長崎県立大学)より、「中小企業における管理会計の実践レベルに関する研究-長崎県での調査を基礎として-」と題する報告が行われた。本報告は、長崎県の産業用機械装置メーカーF社の経営者が、どのような考えやプロセスに基づいて自社に適合する管理会計システムの構築を図ったかを明らかにした上で、そこから導出される意義について論究したものである。201711132.JPG
F社では、2013年にSQLサーバー・マネジメントシステムを導入して、自社開発によって、管理会計システムの構築と業績評価指標等の「見える化」を実現させている。報告では、受注から製造までのプロセスをオープンして工事番号ごとに損益分析が可能となっていることや、伝票入力ルールが徹底されることで収支・損益情報の信頼性が向上したことなどが紹介されている。

■■ 第2報告は、吉川晃史氏(熊本学園大学)より、「中小企業における管理会計の実践レベルに関する研究-熊本県での調査を基礎として-」と題する報告が行われた。本報告は、中小企業が経営改善目的で管理会計情報を含めた経営情報をいかに利活用できるようにするのかについて、ビジネス・エコシステム(複数の企業や団体が、それぞれの技術や強みを生かしながら業界の垣根を越えて連携し共存共栄する仕組み)の観点から明らかにすることを目的としたものである。201711133.JPG
報告では、熊本県中小企業家同友会に対する参与観察や入手資料に基づき、当該同友会で開催された「経営指針を創る会」(全6回)を中心に、セミナー参加企業の現状や課題が紹介された。報告者は、参加した中小企業では経営理念や経営方針、経営計画などを実際に提示することに至ることの難しさゆえに、「経営指針作成運動を推進するリーダー」を育てることを重視していることや、同友会には「受講者アンケートの実施」などフィードバックが求められていることなどを説明している。

■■ 第3報告は、木村眞実氏(熊本学園大学)より、「中小企業における管理会計の実践レベルに関する研究-沖縄県での現場改善-」と題する報告が行われた。本報告は、沖縄県で自動車解体業を営む中小企業を対象に、破砕・選別・洗浄工程においてMFCAバランス集計表を作成して工程改善を行うまでの一連のプロセスが、報告者の現地調査と入手資料から提示された。201711134.JPG
調査対象企業では、使用済自動車由来の樹脂部品を回収・破砕・選別・洗浄し、樹脂リサイクルメーカーに原料として提供するための技術開発を行っており、採算がとれるような樹脂リサイクルの実現を目指している。報告者は、当該工程を対象にMFCAバランス集計表を作成して工程改善が行われたことを紹介している。報告者は、当該企業が高磁力ダストや水槽ダストで発生するロスを減らす取り組みなど工程改善に着手するようになった要因の一つには、担当者に負の製品割合を「kg当たりの金額」で提示したことが影響していることを指摘している。

■■ 研究報告会の後、開催校のご厚意により大学近隣の居酒屋で懇親会が開催され、実りある交流の場となった。

足立俊輔 (下関市立大学)