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2016年度年次全国大会開催記

■■ 日本管理会計学会2016年度全国大会は、2016年8月31日(水)から9月2日(金)の3日間、明治大学駿河台キャンパスにおいて開催された。8月31日には、学会賞審査委員会、常務理事会、理事会、理事懇親会が開催された。9月1日は、午前9時30分から5会場に分かれ、計17の自由論題報告が行われた。午後には、会員総会、スタディ・グループ報告、産学共同研究グループ報告、特別講演が行われた。特別講演終了後、午後6時すぎより、駿河台キャンパス リバティタワー23階の岸本辰雄・宮城浩蔵ホールにて会員懇親会が開催され、会員の懇親を深めた。翌2日は、午前9時30分から5会場に分かれ、計16の自由論題報告と計4のスタディ・グループセッションが行われた。午後には、統一論題の報告と討論が行われた。これと並行して、スタディ・グループと産学共同研究グループによる報告が行われた。

■■ 学会賞特別賞:淺田 孝幸氏(立命館大学)
功績賞:菊井 高昭(上智大学)、西村 優子氏(青山学院大学)
文献賞:辻 正雄氏(名古屋学院大学大学院)
『会計基準と経営者行動–会計政策の理論と実証分析–』中央経済社.
奨励賞:佐久間 智広氏(松山大学)
「マネジャーの個人差が意思決定・業績に与える影響
–株式会社ドンクの店舗データを用いた定量的検証–」
『管理会計学』第24巻第1号.
北田 智久 氏(神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程)
「日本企業におけるコストの反下方硬直性」『管理会計学』第24巻第1号.

■■特別講演
淺田 孝幸氏(立命館大学)の司会のもと、今給黎 真一氏(株式会社日立製作所)による「日立の業績管理の変遷」と小林 哲夫氏(神戸大学名誉教授)による「戦略的管理会計研究の論点」の特別講演が行われ、質疑がなされた。

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■■ 統一論題・討論「管理会計の新展開」
辻 正雄氏(名古屋学院大学大辻先生.jpg学院)を座長とする統一論題報告が行われた。テーマは、「管理会計の新展開」であった。辻 正雄座長による開題の後、次の3つの報告が行われた。

 

■ 統一論題報告(1) :青木 章通氏(専修大学)
「サービス組織におけるマネジメント・コントロールの新展開」青木先生.jpg
本報告では、管理会計の中核的な概念であると考えられるマネジメント・コントロールを取り上げ、対人的なサービス組織において質の高いサービスを生み出すためのマネジメント・コントロール・システムとはどのようなものかについて、隣接領域であるサービス・マネジメントの研究成果を検証しながら考察した。

■ 統一論題報告(2) :堀井 悟志氏(立命館大学)
「管理会計の常識的知識への接近」
本報告では、管理会計の「常識的知識」に着堀井先生.jpg目して管理会計実践を理解することで、これまでの管理会計の科学的知識では明らかにされなかった管理会計の役割やありように光を当て、新たな理論構築の方法をin-depthケーススタディ研究やアクション・リサーチの事例をもとに考察した。

■ 統一論題報告(3) :前田 陽氏(明治大学)
「管理会計におけるミクロ・マクロ・ループの意義と課題」
本報告では、ミクロ・マクロ・ル前田先生.jpgープ(MMループ)が取り上げられた。MMループに焦点を当てた研究は近年、自律的組織の経営システムやその情報的相互作用の重要性から盛んに行われている。MMループ自体は管理会計固有の概念ではなく、システム全般に関わる一般的な概念である。前田氏は、 MMループを企業内に生むようシステムを設計するにはどうしたら良いのだろうかを出発点に、中国に進出した大手小売業のI社の事例を通じて、MMループを構築することの意義およびその課題を考察した。

■ 統一論題討論
統一論題報告の後、続けて統一論題討論が行われた。辻 正雄座長の司会のもと、フロアからの質問に発表者が答える形で討論が進められ、活発な意見交換が行われた。
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■■ 次回の日本管理会計学会年次全国大会は、福岡大学において2017年8月27日(日)から29日(火)にかけて開催される予定である。

2016年度全国大会実行委員会  委員長 森久(明治大学)

2016年度 第1回企業研究会開催記

■■2016年11月14日(月),日本管理会計学会2016年度第1回企業研究会(工場見学)が,北海道において開催された(企業研究会担当:亜細亜大学・大島正克氏,現地世話役:苫小牧駒澤大学・川島和浩氏)。
今回の企業研究会には,原田会長,水野次期会長を初め14名の先生が全国より北海道に参集した。川島和浩先生(苫小牧駒澤大学)の協力で,株式会社Jファームと北海道キッコーマン株式会社の2社の訪問が実現した。企業研究会開催の数日前には札幌市付近ではこの時期ではありえない23cmの積雪があったが,当日は大変良い天候に恵まれた。
10時過ぎ新千歳空港の到着出口にて集合の後,貸し切りバスにて現地に向かった。

■■株式会社Jファーム
苫小牧市は,豊富な日照量・少ない積雪・温暖な気候,広大で安価な用地等,kigyo2016-1.jpg好条件が揃っているということで,苫小牧東部には大規模な工業団地が形成されつつある。その一角にJFEエンジニアリンググループの一員でスマートアグリプラントによりトマトやベビーリーフを生産している(株)Jファームがある。
(株)Jファームは2013年11月28日に設立。新千歳空港からバス移動で約20分,敷地面積6.2ヘクタールを有し,オランダ式の高度環境制御システムとトリジェネレーション(後述)を活用した最先端の植物工場(スマートアグリプラント)により農産物の生産および販売を行う企業である。企業の新規農業参入には様々な制約があるため,JFEエンジニアリング(株)は,既存の農業生産法人に出資する形態をとっている。(株)Jファームは,資本金500万円で,株主は(株)アド・ワン・ファーム50%,JFEエンジニアリング(株)49%(2016年4月施行の改正農地法で企業の農業生産法人への出資比率の上限が25%から50%未満に引き上げられた)である。
今回の(株)Jファームの企業説明等には同社参事の若松亮氏にお世話戴いた。学会員一同心から御礼申し上げる。若松氏の説明によれば,企業理念はロゴマークの4色で表わされ「オレンジは農と工の”知恵”,グリーンは地域の豊かな”自然”,レッドは”情熱”,ブルーは”品質”を意味している」ということであった。同社は,オランダ式の高度栽培環境制御技術とガスエンジン,バイオマスボイラ,温泉熱等のエネルギー利用技術を駆使し,多様な作物の通年栽培に取り組んでいるとのことであったが,今回は以下の3つの工場及びバイオマスボイラ棟・エネルギー棟・温泉熱施設を視察した。

■第一工場:ベビーリーフ栽培棟
温室型植物工場によるベビーリーフの通年栽培を行う。温室の外装仕様は旭化成の樹脂フィルム張り(耐用年数20年)を使用。温室は高さ4mあり,オランダPriva社製の高度栽培環境制御システムにより,温度,湿度,日射量,CO2,肥料等はすべてコンピュータ制御され,植物栽培に最適な環境が保持されている。
温室面積は1ヘクタール(幅127m×奥行80m)で,最大定植株数は110万株,栽培ベッド数は144床,収穫量は115t / 年。1.種まき,2.発芽,3.育苗,4.育成,5.収穫のプロセスで作業を行い,収穫に際しては静岡産のお茶収穫機の改良機を利用していた。従業員15名,基本作業時間は8時から17時までとなっている。12種類のベビーリーフは,「NaNa(hokkaido)」という自社ブランドで毎日出荷されている。

■第二工場:トマト栽培棟
温室型植物工場によるトマトの通年栽培を行う。温室システムは第一工場(オランダPriva社製)と同様。温室は高さ5m,面積は0.57ヘクタール(幅72m×奥行80m)で,9種類(中玉,ミニ)のトマトを最大1万2千株栽培し出荷している。なお,第一工場より約半分の面積であるが,トマト栽培は手間がかかるため,従業員は第一工場と同数の15名を充てている。

■第三工場:南国フルーツ,高糖度ミニトマト栽培実験棟
温室型植物工場の面積は1ヘクタール(幅128m×奥行80m)で,温室の仕様は他と同様(オランダPriva社製)。8割を高糖度ミニトマト,2割を熱帯性果実(チェリモヤ,マンゴー,スターフルーツ,アボカド,ドラゴンフルーツ,パッションフルーツ)を栽培している。南国フルーツはまだ試作品段階であるが,高糖度ミニトマトの栽培手法では土を使わない養液固形培地栽培法を採用しており,栽培面積は既存施設と合わせて2倍に拡大している。高糖度ミニトマトは糖度10度以上,酸度0.8%以上とされ「レッドジュエル札幌」のブランドを持つ。この高付加価値トマトの販売価格は1kg 4-5千円で,従来は道内のスーパーや百貨店(例:北海道大丸)向けが中心であったが,最近では新千歳空港から空輸により,首都圏やシンガポール等まで販売網を広げている。

■バイオマスボイラ棟,エネルギー棟及び温泉熱施設kigyo2016-2.jpg
(株)Jファームは,プラントの熱源として,天然ガス,木質バイオマス,温泉熱を活用していることに特色がある。
バイオマスボイラ棟からは,木質チップによる温水とCO2を各温室型植物工場へ供給している。エネルギー棟からは,JFEエンジニアリング(株)のガスエンジンを利用したトリジェネレーションシステムにより,電気,熱,CO2が供給され,また同棟には蓄熱タンクも設置されている。温泉熱施設では地下800mから汲み上げた30度の温泉熱をヒートポンプを用いて昇温し利用している。以上の3種のエネルギーを利用して,エネルギーの地産地消を実証するとともに省エネで環境負荷を軽減した植物栽培を行っている。通常の植物工場と比較すると,環境や製品原価(すなわち栽培される植物の栽培原価)の面で優位性が見られる。
JFEエンジニアリング(株)はエンジニアリング技術により次世代の農業を創造することを目標に,スマートアグリプラントを国内だけでなく,世界へも発信している。最近では,ロシアやモンゴル等から同社への見学や引き合いが相次いでいる。

(株)Jファームの工場と施設の見学の後,同社の敷地内にあるカフェにて,同社にて収穫された野菜サラダ等も戴いた。昼食後,企業見学担当等が予め作成した資料も参照しながら,30分あまり話し合いの場を持った。

■■北海道キッコーマン株式会社
北海道キッコーマン株式会社は資本金3億5,000万円kigyo2016-3.png,敷地面積は8.8万ヘクタール。従業員は50名(内女性18名),キッコーマン株式会社の子会社である。1985年3月,キッコーマン(株)は千歳工場建設に着工し,1987年1月,ライン稼働し,初出荷を実現した。2005年4月,北海道キッコーマン(株)を設立し,2017年1月には工場設立30周年(初出荷後)を迎える。商品開発はキッコーマン食品(株)が担っており,北海道工場はその指示に従って製品の製造管理を実施している。
醤油の原材料は大豆,小麦と食塩である。北海道キッコーマン(株)での大豆は北海道産大豆,輸入大豆及び輸入脱脂大豆を使用,小麦は創立以来,北海道産を100%使用している。また食塩は赤穂の塩を100%使用している。北海道キッコーマン(株)で製造する製品は70種類以上あるが,代表する商品には「特選丸大豆しょうゆ」や濃縮倍率5倍の北海道限定商品「めんみ」(2017年は発売55周年)がある。
従来,醤油は中国の「醤」が起源とされており,大和朝廷の時代に大豆を発酵させてつくる「唐醤(からびしお)」が伝来。これが日本で発展し現在のような大豆と小麦からつくられる醤油となった。「キッコーマンしょうゆの醸造工程では,原料処理(原料受入から原料の加熱処理まで),製麹(せいきく,麹製造),仕込み(麹+食塩水⇒諸味の発酵・熟成),圧搾(熟成諸味を搾る)がある。製成工程では清澄・濾過(生しょうゆをきれいにする),規格調整・火入れ(醤油の色・味を整える),検査がある。最後のプロセスは詰めラインで容器に詰められ商品に仕上がる」と,北海道キッコーマン(株)の説明には同社社長の佐久間滋氏自ら当たって戴いた。学会員一同心から御礼申し上げる。
キッコーマンの前身である野田醤油株kigyo2016-4.jpg式会社は1917年に野田の茂木6家と高梨家,流山の堀切家の計8家の合同で設立された老舗である(「一族8家による経営が生み出す”強さ”―茂木友三郎,キッコーマン名誉会長,創業97年」『経済界』2014/5)。佐久間氏の解説によると「野田で醤油がつくられるようになったのはおよそ400年前からといわれる。醤油製造の立地戦略では,野田は利根川と江戸川に面していることから,原料や製品はそれらの川によって運ばれたという立地優位がある。大豆は茨城県から,小麦は群馬県,千葉県から,食塩が行徳から調達され,醤油製品は江戸川を使って半日で江戸に届けられた。」ということである。また,商標については「キッコーマン」に統一したのは1940年のことであるが,キッコーマン社史には「〈亀(きっ)甲(こう)萬(まん)〉は千葉県佐原の香取神宮の山号である〈亀甲〉をいただき,亀甲形は同神宮の神宝である〈三盛亀甲紋松鶴鏡〉よりデザインし,〈亀は萬年〉の故事によって〈萬〉の字を配したといわれ,天明時代(1714-1789年)から使い始めた,と伝えられている。」と書かれているという説明を受けた。
キッコーマン(株)の海外売上(連結)は,2014年に国内売上を初めて上回った。戦後Sonyと吉田工業(YKK)と共に対米進出の第一陣となったキッコーマンは1957年に北米に進出し,現地で醤油メーカーとしての地位を築いてきたのである。「しょうゆの言語ソイ・ソース(Soy Sauce)のソイは日本語の醤油(ショウユ)がオランダ語に転嫁してソヤ(Soya)になり,英語のソイになったのである(田中則雄(1999)『醤油から世界を見る』崙書房)」という説もある。また,周知のごとく,現在Kikkomanは,アメリカでは醤油の代名詞になるほど浸透している。
キッコーマン(株)の連結売上高及び連結営業利益を見ると年々増加している。2016年3月期の決算では,前期比売上高は10.0%増の4,083億円,営業利益も28.5%増の326億円と大幅に増えている。その内,海外事業では売上高57%,営業利益73%を占めている。キッコーマン(株)が好業績となった理由は「海外での和食の浸透と,円安の好影響の二点が大きい」と佐久間氏は指摘している。
1974年9月30日,ハーバード・ビジネス・スクールで日本の企業としては初めてキッコーマンの経営戦略がケース・スタディの教材として取り上げられたが,キッコーマン元会長茂木啓三郎氏はコメンテーターとして出席し,学生と討論を行った(佐藤良也(1975)『キッコーマンの経営』読売新聞社)。かつて親族であり,ライバルでもある8家が1917年には1つのまとまった経営体(野田醤油株式会社,1964年にキッコーマン醤油(株),さらに1980年にキッコーマン(株)と改名)へ移行したこと,キッコーマンが,1920年代にそれまで経験していなかった218日間のストライキを経験したこと(W. Mark Fruin, 1983, Kikkoman : company, clan, and community, Cambridge, Mass. : Harvard University Press.)を取り上げた。また,「私の履歴書:茂木友三郎」(『日本経済新聞社』2012/7)では,1970年代,米国での工場建設は当時の同社の資本金の36億円を超える40億円に及ぶ投資を決定したこと,プロダクト・マネジャー制度の導入を行ったこと等,絶えず積極的に経営課題に取り組む社風に言及している。「創業8家から入社するのは〈1家から1世代で1人〉,〈ただし役員にする保証はしない〉という不文律がある。」(「一族8家による経営が生み出す”強さ”―茂木友三郎,キッコーマン名誉会長,創業97年」『経済界』2014/5)というキッコーマン(株)は,一般的な同族経営とは異なる同社の強み,長年にわたって競争に勝ち残ってきたこと等,管理会計研究から見ても興味深いテーマを提供している企業といえる。

今回の企業研究会は予定通り16時頃に終え,16時20分,貸し切りバスにて新千歳空港に移動した。それぞれが飛行機の時間や列車の時間等を待つ間,空港のレストランにて反省会兼歓談を行った後,自然散会となった。

仲 伯維(亜細亜大学・非常勤講師)

2016年度第3回(第50回記念大会)九州部会 開催記

■■ 日本管理会計学会2016年度第3回九州部会(第50回記念大会)が、2016年11月19日(土)に九州大学(福岡市東区)にて開催された(準備委員長:大下丈平氏(九州大学))。今回の九州部会では、関西・九州以外に関東からもご参加をいただくなど、総計20名を超える研究者や実務家、大学院生・学部学生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。
本大会では統一論題のテーマとして、「グローバリゼーションの下での管理会計の課題と展望―不確実性・モノづくり・CSR―」を掲げ、不確実性の高い情勢下での企業経営の土台をなす管理会計やマネジメント・コントロールのあるべき姿を追究する形で報告がなされた。

■■  第1報告は、今井範行氏(名城大学)氏より、「管理会計はどこまで企業現場の競争力を練磨し得るか?―実務視点からの考察―」と題する研究報告がなされた。本報告は、上記の統一論題の趣旨を踏まえ、「管理会計はどこまで企業現場の競争力を練磨し得るか?」という点について、企業経営の視点、とりわけトヨタの実務的視点から考察したものである。
報告では、近年のトヨタの動きとして、大規模な組織改編が行われたことや、ハイブリッド車の販売台数の伸び悩み、それにカーシェア・ライドシェアの勃興などの概略が説明され、企業経営の現場ではグローバリゼーションの意味を広く捉えて、市場統合の深化、金融資本の蓄積、先進国成長率の下方屈折、人の価値観の成熟化、これら4つの特性を意識して経営を行わなければならないと結論付けている。そして、試論として、「潜在利益」と「顕在利益」および「想定内リスク」と「想定外リスク」の概念を提唱された。

■■ 第2報告は、西村明氏(別府大学客員教授、九州大学名誉教授)より、「不確実性・リスクの中で管理会計を考える」と題する研究報告がなされた。本報告は、管理会計の基礎概念として、「もの作り」・「科学的管理」・「調和」の3つに着目して、20世紀初頭に提唱された企業理論や企業家理論のなかでの経営管理と管理会計について考察を加えたものである。
報告者は、「不確実性」は企業経営に強い影響を与えているばかりか、スパイラル現象を強めていることに言及し、「管理」や「会計」、それに「管理会計」もまたその中で成長しており、その運用を誤るとスパイラル現象を助長してしまうことを指摘する。報告では、当該状況下においても、「環境やサプライチェーン、安心安全、リスクに配慮した原価企画」や「社会関連的な管理会計」が企業界からも生まれていることに着目して、理論の垣根を超えた「調和に向かう管理会計システム」を構築し、またその意味の重要性を認識すべきであると結論付けている。

■■ 第3報告は、田中雅康氏(広島都市学園大学、東京理科大学名誉教授)より、「日本の主要企業の節目管理」と題する研究報告がなされた。節目管理とは、開発設計の主要な区切り(節目)において、原価企画の責任者が開発設計諸目標の達成可能性を評価し、「製造活動に入る前に開発設計諸目標を達成させる管理」のことを意味する。
報告者によれば、原価企画における節目管理はフィード・フォワード・コントロール(FFC)であっても、日本の主要な企業でも十分に行われているとはいえない。しかし、報告者の研究チームが2012年に実施したアンケート調査によれば、原価企画を長期間導入してきた企業では、FFCの充実度は高まっていることが判明している。その上で報告者は、望ましい節目管理を行うためには、開発設計者と原価企画推進チームの有機的な活動や技術、それに原価に関する新しい情報の入手と共有が不可欠であると結論付けている。

■■ 各報告者の報告の後、3人の報告者を座長が囲む形で円卓討論が行われた(座長:大下丈平氏)。円卓討論では、座長やフロアからの質問について報告者がそれぞれの立場から意見が述べられ、統一論題のテーマを再考する形で討論は締めくくられた。
また研究報告会の後、大学近くのホテル(福岡リーセントホテル)にて懇親会が行われ、実りある交流の場となった。懇親会では、50回大会を記念して野瀬誠一先生(元日本経済大学)からご祝儀をいただき、最後は記念撮影をして和やかな雰囲気で記念大会は終了した。
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足立俊輔 (下関市立大学)

2016年度 第2回関西・中部部会 開催記

■■2016年度第2回関西・中部部会が.10月22日(土)に香川大学にて開催された(準備委員長:朴鏡杓(香川大学),準備委員:宮脇秀貴(同),中村正伸(同)).関東その他地域から学会員諸氏,実務家の方々の参加を頂いた(院生・学生含め出席者21名).4つの自由論題報告と企業講演を行い,活発な質疑応答が行われた.

■第1報告は,近藤隆史氏(京都産業大学)1.jpg・石光裕氏(同)による,「マネジメント・コントロール研究におけるテキスト分析の可能性の検討」であった.企業レベルのマネジメント・コントロールの財務成果への影響を,有価証券報告書の定性的・非財務データ情報を用いて定量的に検証することを目的に,テキスト分析をマネジメント・コントロール研究へ適用しようとする研究であった.先行研究に基づき仮説として,1:トップマネージャーの環境不確実性の認識の程度が,組織全体のマネジメント・コントロールへの意識の程度へ正の相関を持つこと,2:トップマネージャーのマネジメント・コントロールに対する意識の高さが将来業績に結び付くこと,を設定した上で,分析手法として,計量テキスト分析と呼ばれる,質的データを数値化して計量的分析を適用,データを整理・分析する方法が採用された.分析対象として,国内自動車メーカー10社の2004年3月期から2016年3月期決算までの有価証券報告書を対象とし,有価証券報告書の中でも,「事業の状況」項目の「事業等のリスク」,「提出会社の状況」項目の「コーポレートガバナンスの状況」に出現する単語に注目し,MeCabを解析ソフトとして採用して形態素解析を行った.まず語彙の多様性(複雑性)を意味するTTRを測定した後に,マネジメント・コントロールに関係する単語を抽出した上で,出現回数を考慮した重み付け出現頻度(TF-IDF)を算定,文章の長さを調整しての正規化まで行った上で,統計解析を行った.結果として仮説1は支持されるものの,不確実性への認識水準が上昇しても,3年後にはマネジメント・コントロールへの意識は低下すること,仮説2についても概ね支持されるものの,トップの不確実性の認知からマネジメント・コントロールへの意識の高まり,財務上の成果までは3年程度のラグが見られたとのことであった.最後に今後の課題として,今回の分析対象に含まれていない有価証券報告書内の記載事項を分析対象にすること,形態素間の共起・ネットワークを考慮したマネジメント・コントロール上のキーワードの精緻化の必要性等を指摘した上で,有価証券報告書をもとにした計量テキスト分析のマネジメント・コントロール研究への適用の可能性が示されたとして,報告を締め括った.

■第2報告は,大西靖氏(関西大学)2.jpgによる「持続可能性報告による組織の正統化」であった。環境報告や統合報告をその内容とする持続可能性報告を対象とする定量的研究について,組織についての正統性理論の観点からレビューを行い,その現状と課題を明らかにする研究であった.環境情報開示の説明を巡って,正統性理論と自発的情報開示理論の間で対立が見られるとした上で,まず正統性理論に基づく定量的研究のレビューを行い,企業が情報開示を行うことで,社会のその企業への認識を変化させようとしていることを前提に研究が進められていることを指摘した上で,環境パフォーマンスの高低と財務情報・非財務情報の開示量の間に関連性が見られるといった研究や,環境パフォーマンス,環境情報開示量と環境レピュテーションの間の関連性についての研究が進められていることを指摘している.一方自発的情報開示理論に基づく定量的研究については,完全情報開示均衡,部分情報開示均衡の2つの均衡についての検討をベースに研究が進められていることが指摘されている.この両者の研究を踏まえ,企業の環境パフォーマンス状況,正統化の圧力,制度的側面の影響度合いの3者の関連をさらに分析していくことの必要性が述べられた.具体的な今後の研究の方向性としては,組織における正統性理論そのものを再度検討する余地があり,制度論を援用しながら,組織の正統化のための手段として持続可能性報告の同型化に着目する必要があること,さらにその前提にある産業横断的な組織フィールドについても,その内容や形成プロセスにも着目する必要があることが言及され,報告が締め括られた.

■第3報告は,宮脇秀貴氏(香川大学)3.jpgによる「エンパワーメント研究のブラックボックスの透明化」であった.管理会計分野でエンパワーメント研究が増えてきているものの,エンパワーメントそのものについては所与のものとして扱われ,明確なエンパワーメントの定義をすることなく,その効果が考察されてきたことが問題であることが指摘された上で,管理会計分野,および管理会計分野以外での経営学分野等でのエンパワーメント研究を踏まえて,そもそものエンパワーメントの定義を行った上で,関係性概念と心理的概念から構成されるエンパワーメント概念とフレームワーク構築を目的とする研究であった.この研究は論題にもあるように,組織成員間,組織成員とマネジメント,およびそれらと組織単位の関係性の変容が起こると,なぜ彼らの心理状態を変えることができるのかは,ブラックボックス化されたままであり,関係性概念が心理的概念に与える影響,心理的概念そのものに関する研究が残ったままであり,エンパワーメントされた組織成員がなぜ行動を起こすのか,その部分を今後研究する必要があるとする.この課題に取り組む手段の一つとして提示されているのは,脳科学を用いた無意識への働きかけであり,この仕組みを解明・活用することで,従来からエンパワーメント研究が対象にしてきた「関係性の変容→心理状態の変化」の範囲を超えて「関係性の変容→心理状態の変化→行動」に至る一連のメカニズムを明らかにできる可能性が高まるとする.彼は今後の具体的に研究について,関係性概念と心理的概念の関係性の精緻化,心理的概念におけるメカニズムの詳細な分析,企業の現場での参与観察,インタビュー等を通じて,関係性の変容から心理的状態の変化,さらに行動に至るまでのプロセスを解明する必要があるとして,報告を締めくくった.

■第4報告は,吉田栄介氏(慶應義塾大学)4.jpg,桝谷奎太氏(慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程)による「予算目標の厳格度と業績評価方法が財務業績におよぼす影響」であった.公式的なルールに基づく業績評価の限界が指摘される中で,評価者の主観的な業績評価が取り扱われ,定性的な非財務指標の利用,業績指標の柔軟な重み付け,裁量的な調整が着目され,主観的業績評価の効果が研究対象になってきていることに言及した上で,財務的な達成目標も評価対象としては存続しており,予算のような財務目標の厳格度と主観的な業績評価がどのように関係しあい財務業績にどのような影響を与えるかを実証的に解明することを目的とする研究であった.環境の不確実性,主観的業績評価,予算目標の厳格度(硬直性)に着目した先行研究を踏まえ,仮説として「主観的業績評価は,環境不確実性が高く,予算目標の厳格度が低い状況で,業績評価を高める」が設定され,東証一部1,822社を対象に郵送質問票調査が行われた.結果として,環境の不確実性のようなコンテクスト要因のみでなく予算目標の厳格度も主観的業績評価の効果に影響を及ぼすこと,主観的業績評価がその内容によっては財務業績に影響を及ぼすこと,業績評価のスタイルと予算厳格度を区分して財務業績への影響を考察する必要があること,が明らかになったとする.最後に,限界,また今後の研究課題として,主観的業績評価と客観的業績評価の組み合わせ効果をどう分析に組み込むか,財務業績と組織階層の関係におけるノイズをどう考慮するか,海外企業へ如何に展開して一般化するか,といった点が言及され,報告が締め括られた.

■企業講演は,冨岡徹也氏(あなぶき興kouen.jpg産(株)専務取締役)による「あなぶき流グループ経営と予実分析」であった.あなぶきグループの経営理念,理念実践の為の基本路線と価値観,事業概要,多角化方針や事業ポートフォリオをまず説明された.その中で,従来からの不動産業を柱としながらも,将来に向けてのシルバー,医療,エネルギー,リフォーム等を今後の事業の柱として成長させていくことに注力している旨報告された.また財務ハイライトも紹介されたが,ROEに執着せず,短期的な利益を求めるだけでなく,将来も見据えて投資・利益を考えていることが重要である旨説明され,総資本回転率,ROA,自己資本比率,有利子負債比率を重要な指標として位置付けている旨も説明された.続いて,予実管理と経営分析についての実践を発表された.3年間を期間として策定される中期経営計画は毎年ローリング方式で見直され,常に3年先のゴールを意識した最新計画をベースに,年間計画が月次ベースで管理されるというのが,基本的な経営計画・予算の管理サイクルであることが示された.予実管理は毎月の取締役会での報告をベースに行われ,四半期に一度の経営会議にて四半期報告・通期見込みが分析され,中期利益計画の見直しが図られるとのことであった.しかし同じ数字であっても,その数字をどう見るかによって経営の判断も違ってくる,との実態が紹介された.また企業そのものがオーナー企業であるとともに急激に成長してきたので,次世代の経営層を含む人材育成には特に注力していることも報告された.最後に会社の存続について,社会に価値を提供していく限り会社は存続していくと述べられるとともに,新規事業については黒字見通しが確実かどうかを見極めたうえで,難しい撤退の判断をしていく必要があるとして,発表を締め括られた.

香川大学 中村正伸