■■2009年6月6日(土)午後1時55分から、名古屋市立大学経済学部棟(3号館)にて、日本管理会計学会2009年度第1回関西・中部部会が開催された。今回の部会は、星野優太(名古屋市立大学)と斉藤孝一氏(南山大学)の司会により、院生と研究者とがそれぞれ日頃取り組んでいるテーマに沿って報告が行われ、テーマ的にも興味深い研究会となった。
■■まず、中富香苗氏(名古屋市立大学大学院生)が、「移転価格の設定とその比較可能性」というテーマで報告された。移転価格税制は、1995年のOECD移転価格ガイドラインが国際規範となっており、移転価格の設定には、同業他社との比較に基づいて独立企業間価格を算定する方法が採用されているという。この比較に基づく独立企業原則には、二重課税の危険性などのいくつかの問題点が挙げられ、一方、比較可能性を困難にする原因として、無形資産価値の算定の困難性、為替変動の影響、多国籍企業の組織形態の多様化、経済環境の急激な変化などが考えられることが指摘された。中富氏は、その上で、最近のOECDによる比較可能性の議論やEUの税制統合の動向を紹介しながら、現行の独立企業原則に基づく制度から定式による分配を活用する方法の可能性についての議論をした。
■■次に、木下徹弘氏(龍谷大学)により「Cost structure changes of Japanese man‐ufacturers amidst global competition」と題するテーマで報告があった。本報告は、日本製造業企業がグローバリゼーションの影響をうけてコスト構造をどのように変化させたかについて、上場企業746社の1980年から2006年の財務データを用いて分析した研究報告であった。グローバリゼーションが日本の製造業企業に与える影響は、世界中からの競合者の市場参入と加速度的なイノベーションによってもたらされる市場の縮小とデフレ圧力と定義される。こうした圧力をうけて、1990年代央以降、売上を頻々に減少させた企業は売上に対する原価の弾力性を高めたが、売上を順調に増加させた企業は原価の弾力性を緩和して規模の経済の利益を獲得しようとした傾向が強いことが実証された。
■■最後に、河田信氏(名城大学大学院教授)による、「「利益」から「利益ポテンシャル」概念へ- 財務分析の新たな可能性を探る」というテーマで報告があった。従来の経営理論は、投資家のために利益を拡大することを基礎としてきたが、今後は社会全体に利益をもたらすための理論を構築すべきであるという。このパラダイムシフトを考えたとき、従来のマネジメントの手法では無意識に部分最適化を選択してしまい、全体最適化に結びつかない場合も多い。TPSの導入は全体最適化に有効であるが、TPSの導入は容易ではない。そこでTPSとリンクした指標として、[売上総利益/棚卸資産]として表される「利益ポテンシャル」を提案する。これは利益率要素である[売上総利益/売上原価]とリードタイム要素である[売上原価/棚卸資産]を掛け合わせたものである。河田氏は、この指標ならば、TPSとリンクした業績評価が可能であり、財務分析の新たな視点として有用であるとする。
■■それぞれの報告の後には、フロアから興味深い質問が提出され、非常に活発な質疑応答がなされ、35名を越える参加者が熱のこもった議論を行い、有意義な関西・中部部会となった。
関西・中部部会大会運営委員長 星野優太