2017年度第2回リサーチセミナーは,2017年10月21日(土) 13:30-17:00に明治大学(駿河台キャンパスアカデミーコモン9F )309B教室において,日本原価計算研究学会との共催で開催されました。当日はあいにくの天気でしたが,40名程度の参加者でした。日本管理会計学会会長の水野一郎氏(関西大学)より開会の挨拶が,日本原価計算研究学会会長の尾畑裕氏(一橋大学)より閉会の挨拶がありました。河合久氏(中央大学)の司会によりリサーチセミナーが進められ,浅石梨沙氏(一橋大学大学院商学研究科博士後期課程),梅田宙氏(専修大学)の研究報告に対して,フロアから有益なコメント,質問が多くあり,活発な議論が行われました。
第1報告 浅石 梨沙氏(一橋大学大学院商学研究科博士後期課程)
報告論題 「顧客志向における価格決定についての考察」
司 会:挽 文子氏(一橋大学)
ディスカッサント:岡田 幸彦氏(筑波大学)
第1報告の浅石氏は,価格決定と顧客志向についてのこれまでの議論を整理し,従来の価格決定に関する議論は,先例が豊富な商品開発(マーケットベース)と,先例が少ない商品開発(コストベース)の対比で行われていることを指摘しました。その上で,「先例が少ない商品開発」における「価格の作りこみ」(マーケットベースの顧客志向)という論点を提示し,ヘルシア緑茶(花王株式会社)の価格決定に関する事例を紹介しています。
ディスカッサントの岡田氏は,浅石氏の報告に対し,[1]「何が本当の未解決問題なのか」,[2]「価格の作りこみという現象とは」という2つの論点を提示しました。岡田氏は,浅石氏の研究はHinterhuber, A.(2004)による価値基準の価格決定戦略の遂行へと導くフレームワークに当てはまるのではないかと指摘した上で,「価格の作りこみ」という現象は,Hinterhuber, A.(2004)のフレームワークや岡田(2010)他の収益モデル設計で説明できるのか,あるいはそもそも価格は作りこみが出来るのか議論が必要とコメントしました。
第2報告 梅田 宙氏(専修大学)
報告論題 「エマージェント組織のインタンジブルズ・マネジメント―A社のケーススタディ―」
司 会:澤邉 紀生氏(京都大学)
ディスカッサント:諸藤 裕美氏(立教大学)
第2報告の梅田氏は,マネジメント・システムの研究は蓄積されているが,インタンジブルズと組織の関係に関する研究は十分ではないと指摘した上で,インタビュー調査によって組織の意義とインタンジブルズ・マネジメントの関係を明らかにしようとしています。インタビュー先の組織を,迅速かつ創発的なチームの構築が可能なエマージェント組織と捉え,自律的組織(ミニプロフィットセンター:MPC)との対比を行いながら,エマージェント組織のインタンジブルズ・マネジメントにおいては,[1]レディネス評価による人的資源マネジメント,[2]BSCの観点を加味したパテント・マネジメント,[3]インタンジブルズへの投資に糊代を残すことが重要であると指摘しています。
諸藤氏は,梅田氏の報告に対し,ケースの選択と問題意識とのつながりを検討すること,具体的には,(1)なぜその事例を選択したのか,(2)インタンジブルズ(・マネジメント)と組織の関係で何を明らかにしようとしているのか,(3)なぜ自律的組織と比較するのかについて明確に示すことが必要であると指摘しました。
さらに,諸藤氏は,[1]なぜ自律的組織と比較するのか,チーム型組織との比較は必要ないか,[2]MPCの利益獲得の手段は,原価低減による利益向上と言い切っていいのか,[3]アートのためのアート問題があるため,研究開発部門に対して財務業績を意識させてもよいのではないか,[4]エマージェント組織が職能横断式とはいえ,研究開発部門のアメーバの特徴には言及しなくてよいのかという4点について議論が必要とコメントしました。
井上 秀一(追手門学院大学)