2022年度第3回フォーラムは,2022年11月12日(土)14時00分から16時30分まで,北海学園大学豊平キャンパスにて対面形式で開催された。本学会の会長である伊藤和憲氏(専修大学)よる開催の挨拶のあと,関谷浩行(北海学園大学)の司会でフォーラムが開催された。
今回は,基調講演として西科純氏(公立芽室病院・事務長),研究報告として,吉見明希氏(北海道情報大学),古川原駿氏(専修大学大学院)による3名の報告が行われた。当日の参加者は33名で,いずれの講演者・報告者にも質問とコメントが多数あり,非常に活発なフォーラムとなった。
【第1報告】
講演者:西科純氏(公立芽室病院・事務長)
講演タイトル:自律経営システム(部門別原価管理会計制度)導入の背景とその展望:公立芽室病院
講演概要:
本講演は,病院経営を取り巻く現状と課題および公立芽室病院が導入した部門別原価管理会計システム(アメーバ経営)についてである。公立芽室病院は,1940年1月に村立芽室診療所して開設以来,入院施設(許可病床数120床(稼働病床数107床))を持つ町内唯一の医療機関として,地域医療を担っている。
講演者の西科氏は2018年8月に事務長に就任した。就任当時より,病院経営悪化による課題(内科医不足,医療構想424医療機関にピックアップ,産婦人科廃止,院内コロナクラスター等)が複雑に絡み合い,経営改革を迫られていた。
経営改善・再生に向けて,同院は①できることから始めようプロジェクト,②自律経営プロジェクトを実施した。後者の自律経営プロジェクトの中軸が,アメーバ経営の導入である。導入のキッカケは西科氏がメンバーとなっている中小病院の経営を考える事務プロジェクトチーム(全国自治体病院協議会)で,一緒に活動している公立邑智病院(島根県邑智郡邑南町)が先行して導入していたことにある。
病院経営では経営の視点だけでなく,医療の質の向上とあわせた運営が求められている。その目的のために,医師も巻き込んだ全職員による経営参加を目指す部門別原価管理会計システムは,病院経営にとって相性がよいと考えられる。公立芽室病院は部門別原価管理会計システムを2022年8月30日に導入することを決定したばかりであり,2023年度の本格稼働を目指して,現在,準備段階であるという途中経過の講演であった。
報告者:吉見明希氏(北海道情報大学)
報告タイトル:新製品開発の視点からみたコンテンツの製作
報告概要:
本報告の目的は,管理会計研究で今後議論されるべきコンテンツの範囲について,新製品開発における管理会計手法との比較を行うこと,また,事例研究をとおしてコンテンツが商業上どの範囲に影響を及ぼすかを明らかにすることにある。新製品開発にかかわる管理会計手法としては,製品の企画・設計段階という源流段階で機能とコストを作り込む全社的な原価低減と利益管理を図る原価企画,研究開発から処分に至るまで,資産のライフサイクル全体で発生するコストを測定し,伝達するためのツールであるライフサイクル・コスティングなどがある。
コンテンツとは情報の内容のことであり,コンテンツには一次流通(放送時点)と二次流通(再編集,関連商品の販売)が存在する。事例研究では,①放送番組,②商業アニメ,③消費者による価値創造(例:批評・ランキング,ファンカルチャー,ゲーム視聴等)の3つのタイプが紹介された。
分析の結果,コンテンツの制作においては,企画・設計段階では原価企画が,企画から処分に至るまではライフサイクル・コスティングが,製造・販売・消費においては品質原価計算といった既存の管理会計手法の適用可能性があることが示唆された。コンテンツは,一次流通後も情報の内容を再編集・付加することで,コンテンツの価値は増幅される。そのため,コンテンツは流通後も派生的に価値を発生し続ける財も含めて企業の管理対象になるため,今後は価値計算モデルの構築が必要であるとの提言があった。
報告者:古川原駿氏(専修大学大学院)
報告タイトル:統合思考と情報の結合性の本質:価値創造プロセスの視点から
報告概要:
本報告の目的は,統合報告における統合思考の価値創造を情報の結合性によって明らかにすることにある。統合思考とは企業内の様々な事業部及び部門と,企業が利用し影響を及ぼす資本との間の関係について,企業が能動的に考えることである。一方,情報の結合性とは,企業の長期的な価値創造能力に影響を及ぼす要因の組み合わせと相互関係の全体像を示すことである。
本報告では,統合思考と情報の結合性を扱った3つの文献(Barnabè and Nazir, 2022; Massingham et al., 2018; 伊藤和憲, 2021)を中心に検討が行われた。文献研究の結果,統合思考においては,価値創造に影響を及ぼす要因について,Value Reporting Foundation(2021)で示されているパーパス,リスクと機会などの6項目と組織階層を関連づけることが重要であることが示唆された。
一方,情報の結合性については,価値創造プロセスを通じて内容項目の可視化を行う必要があることが明らかになった。取り上げた文献では,①資本と活動の関係性の可視化(Barnabè and Nazir, 2022)と②財務目標と非財務目標の因果関係の可視化(Massingham et al., 2018; 伊藤和憲, 2021)の2つのタイプに分類することができることが示唆された。
2022年11月14日
北海学園大学 関谷浩行