日本管理会計学会 2026年度年次全国大会記

文責:飯塚隼光(日本大学)
写真:三井さな

 日本管理会計学会2026年度年次全国大会(準備委員長:伊藤克容氏〔成蹊大学〕)が,2026年8月23日(日)から25日(火)までの3日間,成蹊大学(自由論題報告を除いてzoom配信有)において開催された。参加者は212名であり、大会期間中は活発な交流が図られた。

大会1日目
 初日は、常務理事会、理事会および各種委員会が開催された。

大会2日目
 2日目は本年度新設の実務家セッションから開始した。株式会社亀山電機様、独立行政法人国際協力機構様、株式会社善光総合研究所様、武州工業株式会社様、株式会社ワークライフ・バランス様、計5社の報告が行われた。BSC、リスク資本の配賦、介護テクノロジーを導入・定着させるための仕組みづくり、ジャストインタイム損益計算書システム、人的資本活用型のマネジメント、等多様な管理会計実践が報告された。審査の結果、上記の5社に片岡賞が授与された。個別講評については「2026年度『片岡賞』授与について」を参照されたい。
 その後会員総会が開催された。大会実行委員長挨拶並びに会長挨拶のあと、議長の選出、昨年度事業報告、2025年度収支決算報告、監査報告、2026年度事業計画、2026年度収支予算書が審議され、承認された。報告事項として会員の異動、スタディ・グループ、産学共同研究グループ、「管理会計の日」記念フォーラム、『管理会計学』の発行状況、大学生グループ研究大会(管理会計インカレ)が報告された。また、2027年度年次全国大会は、近畿大学にて開催されることが報告された。さらに、米国管理会計士協会(IMA)とのMOU締結に伴い、IMA President and CEOのMike DePrisco氏よりビデオメッセージが寄せられた。
 最後に学会賞審査報告ならびに表彰式が執り行われた。受賞者は以下のとおりである。

[学会賞]
・特別賞:﨑章浩(東京国際大学)

・功績賞:飯島康道(愛知学院大学),今井範行(名古屋国際工科専門職大学),井上裕史(経営科学研究所),清水孝(早稲田大学),清水信匡(早稲田大学),杉山善浩(甲南大学),中村博之(横浜国立大学名誉教授),細海昌一郎(東京都立大学),三浦勝(株式会社メックスサポート)

・文献賞:内山哲彦(青山学院大学)『統合報告・統合思考による企業価値創造』中央経済社
天王寺谷達将(岡山大学)『経済・環境・社会価値を創造する会計 万能ではない数値との付き合い方』中央経済社
渡辺岳夫(中央大学)『アメーバ経営システム論―会計手続きと心理的影響メカニズムの探究』中央経済社
・奨励賞:榎本哲也(南山大学)「社会性と収益性の両立に向けたテンション・マネジメントを支援する業績測定システム―中電ウイング株式会社のケース―」『管理会計学』第34巻第1号,53-75ページ

 昼食休憩をはさんで、特別公演が執り行われた。伊藤克容氏(成蹊大学)の司会のもと,江川雅子氏(成蹊学園学園長)が「企業価値創造とコーポレート・ガバナンス:資本市場改革の10年と日本企業の課題」というテーマで講演された。
 江川氏は,これまでのコーポレート・ガバナンス改革の流れを振り返りながら、日本企業の業績向上や資本市場における評価に直接的には結びついていない点を課題として指摘した。そのうえで,この課題への対応策として取締役会の実効性向上に向けた取り組みが重要であると述べ,経営陣と独立取締役がビジョンを共有し,パートナーシップの関係を保ちながら企業価値の向上を目指していくべきであるとの提言がなされた。
 特別講演後、統一論題報告・討論が行われた。今年度の統一論題のテーマは、「デジタル時代における収益創造とマネジメント・コントロールの再構築」(座長:専修大学 青木章通氏)である。最初に、青木氏から改題がなされた。デジタル技術の急速な進展が,企業がいかに収益を創造し,それをいかにマネジメントするかという管理会計の根幹に大きな影響を及ぼしていることが問題意識として共有された。
 今回の統一論題では報告の前に、統一論題基調講演が富士通株式会社執行取締役副社長CROの大西俊介氏より「CROによる収益創造システムの再設計とマネジメント・コントロールの進化」というテーマで行われた。
 大西氏は現在の同社の現況や組織図を説明した後、CRO(最高収益責任者)の役割について語られた。そのうえで、同社が、2026年5月従来の中期経営計画に代わって中長期経営ビジョン2035を公開したことに触れ、持続的な成長を実現するために、従来の過去実績をベースとした意思決定が行われる売上中心のマネジメント(バックミラー型)から、TCVを中心とした将来の成長を先読み、先手で投資・資源配分を行う未来予測型へマネジメントへと変革していると述べられた。
さらに昨今AIが多く用いられるようになってきたことから、コストベースのプライシングモデル(人月ビジネス)からの脱却を目指すValue Pricingへの挑戦についてお話をいただいた。
 まとめでは、revenueは「結果」から「設計・予測する対象へ」、Revenue Modelは「コスト起点」から「提供価値起点へ」と総括された。
 第1報告は、千葉友範氏(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)から「データドリブン経営時代におけるRevOpsとマネジメント・コントロール:顧客接点KPIの再設計と管理会計への貢献」というテーマで報告された。千葉氏は現状の日系企業が抱える課題として製品のコモディティ化によって利益率が圧迫されていることを指摘した。そのうえで、売り切り型ではなく、顧客とつながり続けるために、新規獲得収益だけではなく、既存顧客からの獲得収益をマネジメントするRevOpsという概念を紹介した。
 RevOps実践の課題がデータ取得の可能性にあることに触れ、それを解決しうる方法として、従来取得されてこなかった業務上発生した活動ログ(work log)をAI等でデータ分析・予測する(work agent)ことを提示された。
 さらにRevOpsの実践は無形資産を第5層KPIという先行指標を通じてストック要素まで可視化、結果管理から期中のドライバー管理へのマネジメント・コントロールの射程を拡張しうるということを指摘した。
 第2報告は、松岡孝介氏(山形大学)から「顧客エンゲージメントと管理会計」というテーマで報告された。マーケティングは通常その成果が把握しにくく、企業価値まで影響を与えるまでに複数の経路を経なければならないと指摘した。このマーケティングと企業価値の間を埋める概念としてマーケティング説明責任を取り上げた。
 そのうえで昨今のデジタル化によって、顧客の財務・非財務指標を測定する会計実践としての顧客会計が、顧客エンゲージメント、顧客経験(顧客ジャーニーを通じた最適化)、サブスクリプションを前提とした顧客サクセスといった点について、拡張しうることを指摘した。
 第3報告は、足立洋氏(県立広島大学)から「中小企業におけるデジタル化と管理会計」というテーマで報告された。本報告では、2社のケース・スタディから、管理会計がどのようにデジタル化されるのか、その段階や必要条件を検討した。
 その結果、検討段階では管理プロセスの公式化、設計・実装段階においては利用者参加と情報の設計、浸透段階では利用者参加と伴走支援、これらをトップが推進することといった必要条件が存在していることが提示された。
 統一論題討論では、上記の登壇者に藤原大豊氏(株式会社三菱総合研究所)が加わり,参加者からの質問に登壇者が回答する形式で,各報告の内容をさらに掘り下げる議論が展開された。
 大会2日目の最後に会員懇親会が成蹊大学六号館地下カフェ&ホールCOMMichiにて開催された。

大会3日目
 3日目は、午前に11会場で40件の自由論題報告が行われた。午後は日本原価計算研究学会と共催の大学学部4報告、大学院2報告の学生報告会が執り行われた。参加者からの質疑も行われ、その後表彰が行われた。
 その後、スタディ・グループ中間報告として「管理会計教育の現状と課題」(研究代表者:西南学院大学 丸田起大氏)、産学共同研究グループ中間報告として「技術の進化が戦略的計画会計・現業統制会計の変化にもたらす影響」(研究代表者:中村学園大学 水島多美也氏)、スタディ・グループ最終報告として、「テンションのバランスをとるマネジメント・コントロールに関する研究」(研究代表者:南山大学 窪田祐一氏)、「管理会計の先駆者としての渋沢栄一の研究」(研究代表者:関西大学 水野一郎氏)が行われた。
 盛況のうちに2026年度年次全国大会が終了した。


﨑章浩氏(東京国際大学)

飯島康道氏(愛知学院大学)


今井範行氏(名古屋国際工科専門職大学)


清水孝氏(早稲田大学)


清水信匡氏(早稲田大学)


杉山善浩氏(甲南大学)


中村博之氏(横浜国立大学名誉教授)


細海昌一郎氏(東京都立大学)


三浦勝(株式会社メックスサポート)
 
内山哲彦氏(青山学院大学)


天王寺谷達将氏(岡山大学)


渡辺岳夫氏(中央大学)


榎本哲也氏(南山大学)


江川雅子氏(成蹊学園学園長)



大西俊介氏(富士通株式会社執行取締役副社長CRO)


千葉友範氏(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)

松岡孝介氏(山形大学)

足立洋氏(県立広島大学)

統一論題討論