2015年度 第2回フォーラム開催記

■■ 2015年7月25日、東北大学片平キャンパスにおいて行われた。鎌田宣俊氏(株式会社エスネットワークス)、内出琢也氏(税理士法人青木&パートナーズ)、長谷部光哉氏(アーセプトコンサルティング)の3名の実務家から報告が行われ、最後にパネルディスカッションが行われた。

■第1報告 鎌田宣俊氏(株式会社エスネットワークス)
「中小企業における管理会計の運用状況及び事例について」
第1報告ではまず、破綻寸前の企業の再生について、運送業者に対するコンサルティング業務の事例等を採り上げて管理会計の役割を描いた。中小企業では、多くの場合社長ひとりで構成される経営陣は管理会計の役割や重要性を認識していない。こうした状況では、経営状態が悪化して経営を建て直す必要があるときでも、セグメント別の収益性を把握できないために事業再編がうまくいかないケースが多いことを鎌田氏は指摘した。また、中小企業の経営者は資金繰りには注目しているものの、計画策定の段階に問題があることが多いとの指摘もなされた。最後に、鎌田氏が関わった中小企業の多くで、社長がPDCAサイクルを強く意識して管理会計を理解・導入させ、また導入に強くコミットさせることが必要であったという見解が示された。

■第2報告 内出琢也氏(税理士法人青木&パートナーズ)
「中小企業のTKC管理会計ツールと活用事例」
第2報告は中小企業の全国的な経営状態の現状についての説明から始まり、コンサルティング業務を行う際に用いる戦略財務管理ツールについての紹介がなされた。我が国の中小企業の現状は年々厳しくなっており、以前は「黒字と赤字を交互に繰り返している」企業が6割であったのに対し、平成26年度末時点では「過去10年間継続的に赤字」の企業が6割になっていまっている。これらの赤字企業を内出氏は「構造的不況型企業」と呼び、構造的不況型企業の経営改善が重要な課題であることを強調した。こうした現状を踏まえ、内出氏が中小企業に対してコンサルティング業務を行う際、財務会計の仕組みを整備させることから始め、経営者が管理会計を導入・運用するための支援を行っていることを説明した。内出氏は中小企業では日々の経理業務を徹底して行わせることを強調した。これにより従業員による不正を発見・防止に役立てることもできる。さらに、不採算事業からの撤退、限界利益率の改善、固定費の削減といった意思決定や活動を行うにあたって、中小企業の経営者の管理会計の理解が不足しているために問題が生じていることが示された。また、経営者にとって利便性の高い業績評価システムが管理会計の利用を促進することも指摘した。最後に、経営計画の策定も含めた支援業務には、コンサルティング会社のコミットメントが必要であるという指摘をした。

■第3報告 長谷部光哉氏(アーセプトコンサルティング(株))
「戦略と業務の新PDCAサイクル – 中小企業へのBSCの導入 – 」
長谷部氏はバランスト・スコアカードを用いて中小企業のコンサルティングを数多く行ってきた。長谷部氏の報告では、バランスト・スコアカードを適用する方法と問題点について説明がなされた。長谷部氏は、最近のバランスト・スコアカードの議論では戦略策定がクローズアップされている点に注目している。中小企業の経営者は、様々な活動をしている。長谷部氏は1活動にかかる時間の中央値が9分であることを指摘し、戦略の実行に際しては経営者のフォローアップをこまめにしないと事前に描いた戦略マップ通りに行かない点を強調した。次に中小企業におけるBSC導入の阻害要因について、中小企業に固有の条件を考慮して整理した。固有の条件とは、人的資本、組織資本、情報資本といったインタンジブルズの不足である。こうした状況から、中小企業ではPDCAサイクルの前段階にLearningの段階があると長谷部氏は提唱し、中小企業にBSCをより効果的に導入する方法をまとめた。

■パネルディスカッション 青木雅明(東北大学)、鎌田宣俊氏、内出琢也氏、長谷部光哉氏
青木雅明氏(東北大学)の司会でパネルディスカッションが行われた。まず、コンサルティング会社が経営支援を行うにあたって、何がキーとなるのかが議論され、報告者たちからは経営者のコミットメントの強さ、PDCAサイクルへの注目、財務状態を考慮に入れた利益計画といったポイントが示された。次に、どういった業績指標に注目すべきか、あるいは経営者が注目しやすいかが議論された。やはり中小企業では借入金返済に対する意識が非常に強く、損益分岐点分析や限界利益概念、キャッシュフロー関連の業績評価が重要であることが議論された。根本的な問題点として、中小企業はマネジメントを事実上経営者ひとりだけが行っている場合が多く、コンサルティング会社と税理士だけが経営者に相談・指導を行うことができることが指摘された。その他様々な議論が1時間以上にわたって行われた。中小企業のコンサルティングにテーマを絞った本フォーラムのパネルディスカッションでは、問題点が明確であったため非常に活発な議論が行われた。

東北大学 松田康弘

2015年度 第1回リサーチ・セミナー開催記

2015seminar.jpg■■ 2015年度第1回リサーチ・セミナーは、2015年6月20日(土)に名古屋大学経済学部文系総合館7階カンファレンスホールにおいて開催された。今回のリサーチ・セミナーは、メルコ学術振興財団との共催で開催され、講演と研究報告という2部構成で行われた。日本管理会計学会の木村彰吾副会長の司会のもと、日本管理会計学会の原田昇会長、メルコ学術振興財団の上總康行代表理事の挨拶をいただいた後、井上眞一氏(トヨタ自動車生技管理部)の講演および小林英幸氏(名古屋大学大学院)の研究報告が行われ、いずれも参加者から活発な質問や意見があり、有意義な議論が展開された。

■ 【講演】井上眞一氏(トヨタ自動車生技管理部)
「自動車ボデーの生産準備とDE活用?生産技術の役割?」

井上眞一氏による講演では、「自動車ボデーの生産準備とDE活用?生産技術の役割?」と題して、トヨタ自動車における生産準備の役割について、具体的な生産技術の変遷などを交えて解説していただいた。講演ではまず、アナログ時代の生産準備としてFBL(フレキシブルボデーライン)の意義や導入効果について言及された。その後、デジタル時代の生産準備としてDE(デジタル・エンジニアリング)を取り上げ、その意義や効果、活用事例について説明された。井上氏は、DEの導入によって迅速な製品検討が可能となり、研究開発期間の短縮などのメリットを享受できる一方で、デジタル化に伴うリスクも発生することを指摘した上で、現地現物による知識と経験に基づいたデジタルを実践する必要性を最後に主張された。

■【研究報告】小林英幸氏(名古屋大学大学院経済学研究科後期博士課程3年)
「原価企画に対するエンジニアの受容」

小林英幸氏は、トヨタ自動車の原価企画において、マネジメント・コントロールはどのように働いているのかを明らかにするため、アンケートおよびインタビュー調査を用いた研究報告を行った。小林氏はまず、トヨタ自動車の原価企画について説明した上で、3つの観点(CE、設計者、関係5部署)からのアンケート・インタビュー調査の概要と結果を説明された。次に、それらのアンケート・インタビュー結果の解析を行い、3つの観点では、原価企画の捉え方が異なっていることを明らかにしている。その上で、(1)Simons(1995)の4つのコントロール・レバー、(2)Malmi and Brown(2008)のパッケージとしてのマネジメント・コントロール・システム、(3)Ouchi(1979)のクラン・コントロール、という3つの先行研究を用いて、トヨタ自動車の原価企画のマネジメント・コントロール・システムについて検討している。その結果、上記の先行研究を用いると、トヨタ自動車の原価企画のマネジメント・コントロール・システムの働きは概ね説明できると主張された。最後に、CE制度を「是」として捉え、その長所を活かし課題を克服するヒントを述べ、トヨタ自動車の製品開発および原価企画のあり方への提言としてまとめられた。

青山学院大学 楠 由記子