2020年度第2回リサーチセミナー開催記

2020年10月31日
大阪大学 椎葉 淳

 2020年度第2回リサーチセミナーは,日本原価計算学会および京都大学との共催で,2020年10月31日(土)13時30分~17時にZoomを用いたオンラインで開催されました。当日の参加者は50名程度であり,澤邉紀生氏(京都大学)の司会により進められ,日本管理会計学会・副会長の椎葉淳氏(大阪大学)より開会の挨拶が,日本原価計算研究学会・副会長の中川優氏(同志社大学)より閉会挨拶がありました。第1報告は古井健太郎氏(松山大学)・飯塚隼光氏(一橋大学大学院生),第2報告は小山真実氏(神戸大学大学院生),第3報告は若林利明氏(上智大学)でした。また,ディスカッサントとして,第1報告に対しては篠田朝也氏(北海道大学),第2報告に対しては妹尾剛好氏(中央大学),第3報告に対しては森光高広氏(西南学院大学)から,それぞれ研究内容の要約と研究の改善に役立つコメントが数多くなされました。フロアからもコメント・質問が多くあり,活発な議論が行われました。
 なお,リサーチセミナーは例年6-7月に1回,10-11月に1回の開催を予定していますが,2020年度は新型コロナウィルスの感染拡大を受けて,第1回は中止となりました。このため,2020年度は第2回のみとなりました。

第1報告 古井健太郎氏(松山大学)・飯塚隼光氏(一橋大学大学院生)
報告論題:「シンプル」管理会計の探究−医療機関における設備投資の事例から−

 第1報告では,医療機関での設備投資の意思決定の事例をもとに,「シンプル」管理会計について提案しています。本研究ではまず,2つの病院における設備投資の意思決定の事例を詳細に紹介しています。これらの事例の共通点として,管理会計の実施そのものが未成熟であり,原価計算は実施しておらず,予算編成を実施しているのみであることを指摘しています。また,両事例ともに,設備投資の意思決定においては,回収期間を参考までに算出する程度で,洗練された経済性評価の方法を用いているとは言えないと指摘しています。
 そして,このように必ずしも洗練された意思決定を⾏なっているとは⾔えない医療機関の事例に基づき,洗練された投資意思決定について理解し活⽤できるようになるためのコストを⽀払うことよりも,理論的とは言い難いが簡単に理解・算出できる経済性評価と管理会計以外の要素を組み合わせる「シンプル」な管理会計が有用であることを主張しています。そして,このような「シンプル」管理会計の運⽤から,投資意思決定に有⽤な豊かな情報を得るとともに,医療機関での管理会計の普及やマネジメントに対する意識向上を⽬指していることを指摘しています。

第2報告 小山真実氏(神戸大学大学院生)
報告論題:チームにおけるラチェット効果に関する実験研究

 第2報告では,チーム生産という環境下におけるラチェット効果の理論予想を実験研究によって検証しています。ここでラチェット効果とは,今期良い成果を残すと次期目標はより達成困難な水準に改定されることを予想して,将来の目標を達成容易な水準に据え置くために,従業員がその能力を最大には発揮せず今期の成果を低める動機を持つことと説明しています。また,本研究のもう一つの特徴であるチーム生産とは,複数の従業員が相互依存的に仕事を行なう環境のことです。従来のラチェット効果に関する研究では,従業員がそれぞれ独立的に仕事を行なう環境を考察しており,この点で本研究は独自性のある状況を分析していると指摘しています。
 本研究の主たる結果としては,第1にチームにおいては,ラチェット効果のメカニズムが異なることを理論と実験の双方から示したことにあり,チームとして働く従業員の不平等回避が強い場合,経営者が特別なことをせずとも,ラチェット効果が生じないことを明らかにしていると指摘しています。また第2に,熟練者と未熟練者がチームを組むときに,未熟練者の能力が伸びる効果と熟練者が手を抜くことを抑制する効果があることを示しています。このことは,従業員の教育研修制度に関する研究・実務に新たな知見を提示しています。

第3報告 若林利明氏(上智大学)
報告論題:ITによる業務プロセスの効率化投資とインセンティブ契約

 第3報告では,ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)のようなITを利用した業務プロセス効率化の投資・支出は,どの程度の金額で,組織のどのレベルが投資意思決定権を有するべきであり,それに伴い業績評価はどうあるべきかを,事業リスクと組織成員のITリテラシーの観点から,契約理論に依拠した数理モデルを用いて明らかにしています。
 本研究の主たる結論として,第1にITリテラシーがある閾値より大きいのであれば最適なRPA等の導入水準が決まり,そのもとでの報酬契約が提示されるから,RPA等の導入と業績評価システムを統合的に,かつ業務や事業特性に応じて考えるべきであることを指摘しています。また,第2に人工知能(AI)とRPAには相補性があること,第3にITリテラシーが高いほど,組織内のIT教育は有意義であることを主張しています。また第4に本部の方がエイジェント(事業部)よりもITリテラシーが低かったとしても,RPA等の導入の決定権を本部が留保した方が良いケースが存在し,その傾向は事業リスクが高いほど高まることを指摘しています。

2020年度九州部会フォーラム合同開催

日本管理会計学会会員 各位

謹啓 時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 日本管理会計学会2020年度第3回フォーラム・2020年度第1回九州部会合同開催を、11月14日(土)に、長崎県立大学佐世保校(佐世保市川下町123番地)を会場に下記の要領にて開催致します。万障お繰り合わせのうえ、ご出席を賜りますようお願い申し上げます。
 今回は、経営者主導でバランスト・スコアカード(BSC)導入を行い、経営品質を高める取り組みを実践されている株式会社亀山電機代表取締役会長の北口功幸氏をお招きしての特別講演、並びに新進気鋭の2名の方々の研究発表をご準備させて頂きました。
 なお、ご出席ご希望の皆様におかれましては、準備の都合上、お手数をおかけいたしますが、11月10日(火)までに、メールにて宮地あて、miyaji[at]sun.ac.jp([at]を半角の@に変更してください。) にお申込みを頂きますようお願い申し上げます。謹白

開催日: 2020(令和2)年11月14日(土)13:50 ~ 16:20
会場:  長﨑県立大学佐世保校  本館 101教室 
〒858-8580 長崎県佐世保市川下町123 TEL0956-47-2191(代表)
佐世保校への交通アクセス http://sun.ac.jp/access/

 

13:50~14:00 学会長ご挨拶

※ご講演30分 質疑10分 合計40分
特別講演 14:00~14:40「株式会社亀山電機のバランスト・スコアカード(BSC)」
      北口 功幸 氏 (株式会社亀山電機 代表取締役会長)

 

※ご報告30分 質疑10分 合計40分
第1報告 14:45~15:25「日本における統合報告の現状-インタビュー調査に基づいて-」 
      李  会爽(リホイシュアン)  氏(福岡大学兼任講師)

(10分程度の休憩)

第2報告 15:35~16:15「病院TDABCモデルの開発」   
      水野 真実  氏(九州大学専門研究員)

16:15~16:20      閉会ご挨拶  

 

<ご連絡事項>
①今回は、研究報告会終了後の懇親会は開催の予定はございません。

②本会にご参加の方に、長崎空港-長崎県立大学佐世保校との間で送迎用の貸切バス(マイクロバス)を運行いたします。詳細は以下のとおりでございます。ご乗車ご希望の方は、参加申し込み時に貸切バス利用のお申込みもご連絡をお願い致します。往路・復路のどちらか一方の利用も可能です。バスは3密を避けて15名まで乗車できます。お申込みの先着順でご利用者を決定させて頂きます。貸切バスご利用希望の方は、ご参加申し込みの際に往路・復路の利用のご希望、乗車場所・降車場所のご希望を添えてお申込みをお願いします。

〇長﨑空港お迎え:11月14日(土)10:20長崎空港到着口前集合 → 10:30長崎空港出発 → 11:10ハウステンボス迎え(前泊でハウステンボスに宿泊される方のお迎え)→ 11:35 JR佐世保駅迎え(東横イン佐世保駅前駐車場側でご乗車できます)→ 12:00長崎県立大学佐世保校着
〇長崎空港お送り:11月14日(土)16:30長崎県立大学佐世保校出発 → 16:55 JR佐世保駅(JR佐世保駅で降車希望の方)→  18:10 長崎空港着

③ 本会へのご参加の方で、前泊または後泊をご予定されておられる方は、JR佐世保駅前周辺に多数のホテル施設がございますので、こちらに宿泊されることをお勧めいたします。

④ 長崎県立大学佐世保校までの経路

各所~JR佐世保駅

JR佐世保駅~大学

JR博多駅から

○JR特急を利用する場合(1時間40分)

○高速バスを利用する場合(1時間50分)

JR佐世保駅から大学まで

 ○松浦鉄道(MR)を利用する場合(30分)
MR佐世保駅より乗車し大学駅にて下車後に徒歩

 ○バスを利用する場合(30分)
JR佐世保駅前西肥バス停留所で、日野経由又はSSK・大潟経由の相浦桟橋行、日野経由又は大野経由の大崎町行、日野経由水産市場前行、日野・ニュータウン経由佐々バスセンター行、日野経由小野町行のいずれかに乗車し、長崎県立大学前にて下車後に徒歩

○タクシーを利用する場合(20分)

                  

2020年度第3回フォーラム開催校委員長 宮地晃輔
2020年度第1回九州部会開催校委員長  田坂 公

 

            <本件に関するお問い合わせ先>

長崎県立大学 宮地晃輔
 E-mail   miyaji[at]sun.ac.jp
([at]を半角@に変更してください。)
研究室直通 0956-47-6796
                                                     以上

本九州部会・フォーラムについては、長崎県立大学のホームページ(http://sun.ac.jp/event/92380/)にも掲載されています。

2020年度スタディ・グループ決定

2020年8月27日に名古屋商科大学で開催された常務理事会において、2020年度スタディ・グループの選考が行われ、審議の結果、以下のグループの設置が承認されましたので、ここでお知らせいたします。

■スタディ・グループ
研究課題:「DDP(仮説指向事業計画)の導入効果に関する研究」
研究期間:2020年9月1日~2022年8月31日
研究概要:PDF
代表者 伊藤克容(成蹊大学経営学部教授)
池側千絵( 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科 後期博士課程、一般社団法人日本CFO協会 主任研究委員)
新江孝( 日本大学商学部教授)
井上慶太(成蹊大学経営学部助教)

『管理会計学』への投稿について

2020年9月5日

日本管理会計学会
会員の皆様

 残暑の候,会員の皆様におかれましてはご清祥のことと存じます。
 さて,日本管理会計学会ニュース第50号において,本学会学会誌『管理会計学』への投稿は随時受け入れており,特段の締め切りがないことをアナウンスしました。投稿にあたって本学会の大会または部会等での報告も義務付けられておりませんので,あらためてご案内申し上げます。
 第29巻第1号・第2号は,例年通り年度内の発行を予定しております。そのため,査読のプロセスについても,学会誌編集委員会運営規程を遵守すべく,引き続き力を注いでまいります。
 この場を借りて,会員の皆様には学会誌への投稿と査読 について,より一層のご協力をお願いいたします。

日本管理会計研究学会
学会誌編集委員会

 

     投稿先:f.hiki[at]r.hit-u.ac.jp ([at]→@)
         〒186-8601 東京都国立市中2-1
         一橋大学大学院経営管理研究科
         日本管理会計学会学会誌編集委員長 挽文子

日本管理会計学会 2020年度第2回フォーラム 開催記

■2020年度第2回フォーラム(フォーラム担当:伊藤 和憲氏[専修大学])は、2020年7月18日(土)、専修大学神田校舎10号館で開催された。本フォーラムでは、会長の挨拶、司会の中村博之氏[横浜国立大学]による講演者の紹介に続き、オムロン株式会社グローバル理財本部企画室(兼)イノベーション推進本部CTO室の水本智也氏より「オムロンのROIC経営・技術経営」という題目でご講演いただいた。
■講演では、オムロン(株)の会社紹介の後、本題のROIC経営・技術経営について説明された。オムロン(株)では、技術経営とROIC経営を両輪に企業理念の実践を加速することで、ソーシャルニーズの創造に挑戦し、事業を通じた社会的課題の解決に取り組んでいると述べられた。具体的に、技術経営については、社会的課題を解決するため、技術革新をベースに近未来をデザインし、その実現に必要な戦略を明確に描き、実行する経営スタンスであること。その原点は、創業者が1970年に提唱した未来予測理論、サイニック理論にあること。「近未来デザインを起点としたバックキャスト型のソーシャルニーズの創造」をプロセスとして形式知に変えて、組織に落とし込んでいることを説明された。また、ROIC経営については、ROICを各部門のKPIに分解して落とし込むことで、現場レベルのROIC向上を可能にする「ROIC逆ツリー展開」と、全社を事業ユニットに細分し、ROICと売上高成長率の2軸で経済価値を評価する「ポートフォリオマネジメント」の2つで構成されているとし、事業特性が異なる複数の事業部門を持つオムロン(株)にとってROICは各事業部門を公平に評価できる最適な指標として活用されていることを説明された。またROIC経営の浸透に向けROICの定性的な「ROIC翻訳式」を使用し、普段は財務諸表に縁のない営業や開発部門などの担当者が、ROIC向上の取り組みを具体的にイメージできるようにしていることを述べられた。さらに、企業理念の実践を強化する取り組みとして、グローバル全社員が参加し、企業理念の実践事例を共有し、称え合い、共鳴の輪を社内外に広げる運動である「TOGA(The OMRON Global Awards)」を紹介された。
■最後に参加者との積極的な質疑応答が行われた。講演後も参加者個別に熱心な質疑応答が続き、本フォーラムは盛会のうちに終えた。なお、フォーラム開催前に常務理事会が開催され、本フォーラムの参加者は31名であった。

(会長挨拶)

 

 

 

(水本智也氏による講演)

 

 

 

令和2年7月20日
奥 倫陽(東京国際大学)