2022年度第1回フォーラム開催記

産業能率大学 友寄隆哉

 報告が遅くなったが、2022年度第1回フォーラムは、2022年4月23日(土)14時から17時まで、産業能率大学自由が丘キャンパスにおいて開催された。長引くコロナ禍に対応するため、マスク着用、ソーシャルディスタンスの確保といった対策を十分に行い、44名の参加者のもと対面形式にて行われた。青木章通氏(専修大学)の司会により進められ、日本管理会計学会・会長の伊藤和憲氏(専修大学)の開会の挨拶により開始された。今回はサービス業、特にホテル業に関する3つの研究報告が行われ、いずれの研究報告にもフロアから多くの質問・コメントがあり、活発な議論が行われた。

第1報告 田中美里氏・梨羽雅氏・津島瑠那氏・深谷友理氏(明治大学大学院)・鈴木研一氏(明治大学)
報告論題:「方針管理が現場従業員の改善行動を促すプロセスに対する包摂的風土の影響
  ―ホテル業A社の従業員意識調査に基づく検証―」
 これまでのマネジメント・コントロール・システム(Management Control Systems:MCS)研究の多くがマネージャーの視点によって行われており、マネージャーによって示されるシステムを現場従業員がどのように認知し、行動が動機づけられるのかを考察する研究はなされてこなかったとの問題意識のもと、方針管理に着目し現場従業員の視点から行った実証研究の成果が発表された。
 この研究は、方針管理が部署目標達成に向けたコミュニケーションを通して、部署目標達成に向けた改善行動を促すという媒介関係に対する包摂的風土の認知の調整効果を定量的に検証することを目的とし、非財務型のMCSである方針管理がコミュニケーションを促す関係を包摂的風土がより高めることを発見し、研究蓄積の少ない現場従業員を対象としたMCS研究に貢献するものであった。


第2報告 小村亜唯子氏(神奈川大学)・深谷友理氏・田中美里氏(明治大学大学院)
報告論題:「国内ホテル業における顧客のリピート購買と利益の安定性の関係」
 「顧客のリピート購買が増えるほど、利益の安定性が高まる」を命題として設定し、リサーチサイトであるホテル業A社の顧客購買履歴データ(5,000人のランダム・サンプリング)を分析した実証研究の成果が発表された。
 分析は、遷移する離散潜在変数の状態によって、観測される事象の確率分布が異なる確率モデルを表現する手法である隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model)によって行われ、結論として、「顧客のリピート購買が増えるほど、利益の安定性が高まる」は部分的に支持されたものの、リピート購買に比例して限界利益の安定性が高まるとは限らないことが明らかとなった。そして新しい命題として「一定のリピート購買を超えると、顧客の限界利益の安定性が高まる」ことが導出された。
    

第3報告 吉岡勉氏(東洋大学)
報告論題:「ホテルにおける原価企画の実践に関するAI(人工知能)を活用した試論
  ―『ムリ・ムダ・ムラ』を削減し『モチマエ』を発揮するために―」
 日本の労働生産性の低さ、特に宿泊、料飲の労働生産性の低さを指摘した。そしてコロナ禍で観光産業は大打撃を受けているが、この労働生産性の低さはそれだけではない構造的な問題とし、解決されなければならないと考えた。そのため、ギルブレイスの動作研究に着想を得て、ホテルの防犯カメラ映像をAI技術(物体トラッキング)によって動画解析し、設備配置や人員配置に「ムダ」や「ムリ」が存在する可能性を示し、それらを取り除く必要性を指摘した。そして、これら分析を行うことで「フロント業務」「接客サービス」という「製品」、および、そのための「原価の作りこみ」(例:設備配置、人員配置)に貢献すると考えた。


2022年度第1回リサーチセミナー開催記

2022年6月21日
大阪公立大学 新井康平

 2022年度第1回リサーチセミナーは, 2022年6月18日(土)13時30分~16時50分に対面・Zoomのハイブリッド形式で開催されました。当日の参加者はのべ65名(うち,ZOOM参加者は最大時33名)となりました。日本管理会計学会・副会長である椎葉淳氏(大阪大学)より開会の挨拶があり,準備委員長の新井より閉会挨拶を行いました。本リサーチセミナーでは,いわゆる若手研究者の研究報告および討論につづき,それらの研究報告に関連したチュートリアルセミナーが開催されました。コロナ対策のために紙での資料配布を避けるなど,参加者には事前にPDFファイルが配布されるなどの対応がなされました。
 第1報告は,岩澤佳太氏(東京理科大学)・石田惣平氏(立教大学),第2報告は牧野功樹氏(拓殖大学)でした。また討論者として,第1報告に対しては佐久間智広氏(神戸大学),第2報告に対しては庵谷治男氏(東洋大学)から,それぞれ研究内容の要約・評価と研究の改善に役立つコメントが数多く提示されました。
 チュートリアルセッション1では,井上謙仁氏(近畿大学)と濵村純平氏(桃山学院大学)を講師に迎えて,財務諸表データを利用した分析について,実際のデータベース(NEEDS-FinancialQUEST 2.0)の利用方法の解説が行われました。チュートリアルセッション2では,町田遼太氏(東京都立大学)と荻原啓佑氏(早稲田大学)を講師に迎えて,インタビューデータなどの定性的データについてソフトウェアを利用して分析するQDA(Qualitative Data Analysis)について,実際のソフトウェア(NVivo)を利用した解説および演習が行われました。チュートリアルセッションは,終了後も関連した質疑や議論がたえず,こちらから会場からの退出をお願いしなければならないほどの盛会となりました。

【第1報告】岩澤佳太氏・石田惣平氏(東京理科大学経営学部・立教大学経済学部)
報告タイトル:予算参加が業績予想におよぼす影響
報告概要:本研究の目的は,予算参加が,企業外部者に向けて公表される業績予想にどのような影響を及ぼすかを解明することにありました。データは日本の上場企業を対象とした郵送質問票調査とアーカイバルデータ,両者のデータを結合し,分析に利用しています。分析の結果,(1)ミドルマネジャーの予算参加の程度が高いほど業績予想は悲観的になること,(2)従業員の金銭的報酬と企業業績の関係が強い企業ほど予算参加と業績予想の関係性が強まることなどが明らかになりました。

岩澤佳太氏

佐久間智広氏

【第2報告】牧野功樹氏(拓殖大学商学部)
報告タイトル:中小企業における資本予算の採用―QDAによる中小企業へのインタビュー調査の分析―
報告概要:中小企業がどのようなマネジメント・プロセスを経て,投資を実行しているのかは,ほとんど調査されていない点を踏まえて,本報告では,中小企業の資本予算実務をインタビュー調査によって,記述することを目的とされていました。釧路・根室地区における中小企業を対象としたインタビュー調査の結果について,質的データ分析(Qualitative Data Analysis)を実施し,①戦略の変更,②大企業との関連の2点がマネジメント・プロセスのあり方に影響を及ぼしていることが明らかにされました。


牧野功樹氏

庵谷治男氏


■チュートリアルセッション1

井上謙仁氏

■チュートリアルセッション2


町田遼太氏

2022年度第2回フォーラムの案内

日本管理会計学会会員 各位

謹啓 時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 さて、日本管理会計学会2022年度第2回フォーラムを、7月16日(土)に、専修大学神田校舎を会場に下記の要領にて開催致します。懇親会も準備してお待ちしておりますので、ご出席を賜りますようお願い申し上げます。
 なお、ご出席予定の先生におかれましては、準備の都合上、お手数をおかけいたしますが、7月1日(金)までに、メールにて伊藤宛itoh[at]isc.senshu-u.ac.jp ([at]→半角の@)にご連絡頂きますようお願い申し上げます。

謹白

開催日: 2022(令和4)年7月16日(土)
会場:  専修大学神田校舎 10061教室 

〒101-8425 東京都千代田区神田神保町3-8 TEL03-3265-6677 
交通案内 https://www.senshu-u.ac.jp/about/campus/

13::55~14:00 学会長の挨拶
 ※ 報告30分 質疑10分 合計40分

第1報告 14:00~14:30
「COVID-19のもとのBSC運用企業における情報システムの利用」
           商 哲 氏「弘前大学人文社会科学部」

第2報告 14:40~15:10
「BSCを活用した組織風土改革の取組~小規模病院のベクトル合わせ~ 」 
           菊池 誠  氏(ベトレヘムの園病院事務部長)

第3報告 15:20~15:50
「中堅総合建設会社におけるバランスト・スコアカード構築~南海辰村建設株式会社の事例に基づいて~」
           片岡健治 氏(サザントランスポートサービス㈱)
           菅本栄造 氏(青山学院大学経営学部)

15:50~15:55      閉会ご挨拶

16:30~18:30  懇親会(会費3,000円,釣銭がでないようにお願いします。)

2022年度第2回フォーラム開催校委員長 伊藤和憲

第1回リサーチセミナーの案内について

日本管理会計学会 会員各位

日本管理会計学会第1回リサーチセミナーについて,下記のとおりのプログラムで開催することになりましたので,再度ご案内申し上げます。
感染症予防のための対面参加の定員(約80名)にご注意ください。もしも定員の超過があった場合は先着順とし,定員外の方はZOOMでの参加をお願い致します。ただし,ZOOMの中継については,低品質であったり中断の可能性がございます。

6月6日までに申込みをされた方には,論文ファイルなどをダウンロードできるドロップボックスのアドレスを6月11日までに順次,案内する予定です。もし,開催日の前日までに連絡がない場合,お手数ですが新井までご一報ください。6月7日以降の申込みの場合,案内が直前になる予定です。ご容赦ください。
なお,セミナー前日までに,関連資料はこちらのドロップボックスに順次アップロードされる予定です。感染症対策のため,紙資料の配布を控えるように大学側から指示されておりますので,こちらのデータを利用されますよう,ご注意ください。

開催日時:2022年6月18日(土)13時30分開始 17時00分終了
開催方法:対面
(ZOOMによる中継も予定。ただし,質疑などは対面が優先されます。また,中継は低品質であったり中断の可能性があります。)※1
場 所:大阪公立大学なかもずキャンパス(https://www.osakafu-u.ac.jp/info/campus/nakamozu/)
B1棟 第2講義室(予定)※2
※1 新型コロナの感染状況によっては,全面的にZOOMなどに移行する可能性があります。
※2 大阪公立大学は,2022年4月に大阪市立大学と大阪府立大学の合併により誕生する新大学です。
学会会場は,商学部がある旧大阪市立大学のキャンパスではなく,旧大阪府立大学のキャンパスです。

<概要>
【第1報告】13:35-14:20(報告時間20分,討論25分)
報告タイトル:予算参加が業績予想におよぼす影響
概要:本研究の目的は,企業内の予算管理実践,中でも多くの企業で採用されている予算参加が,企業外部者に向けて公表される業績予想にどのような影響を及ぼすかを解明することにある。データは日本の上場企業を対象とした郵送質問票調査とアーカイバルデータを活用している。分析の結果,(1)ミドルマネジャーの予算参加の程度が高いほど業績予想は悲観的になること,(2)従業員の金銭的報酬と企業業績の関係が強い企業ほど予算参加と業績予想の関係性が強まることなどを明らかにした。
氏名:岩澤佳太・石田惣平(東京理科大学経営学部・立教大学経済学部)

討論者:佐久間智広先生(神戸大学大学院経営学研究科)


【第2報告】14:30-15:15(報告時間20分,討論25分)
報告タイトル:中小企業における資本予算の採用―QDAによる中小企業へのインタビュー調査の分析―
概要:従来の大企業の資本予算を対象とした研究では,経済性評価技法やマネジメント・プロセスに着目し,採用要因やパフォーマンスへの影響が質問票調査によって検証されてきた。一方で,中小企業がどのようなマネジメント・プロセスを経て,投資を実行しているのかは,ほとんど調査されていない。そこで,本研究は中小企業の資本予算実務をインタビュー調査によって,記述することを目的とする。そして,インタビュー調査の結果について,質的データ分析(Qualitative Data Analysis)を実施し,中小企業における資本予算の採用の決定要因を探求する。
氏名:牧野功樹(拓殖大学商学部)

討論者:庵谷治男先生(東洋大学経営学部)


【チュートリアル・セミナー1】15:30-16:05
担当:井上謙仁先生(近畿大学経営学部),濵村純平先生(桃山学院大学経営学部)
セミナータイトル:管理会計研究における日経NEEDSデータの利用入門
概要:第1報告の岩澤・石田報告にあるように,近年,管理会計分野でも財務諸表データを利用した研究が増加している。本セミナーでは,これまで日経NEEDSデータを利用したことがない研究者へ向けて,
・質問票と財務諸表データを利用した論文の事例紹介
・日経NEEDSによるデータ取得の解説・実演
を行う。


【チュートリアル・セミナー2】16:15-16:50
担当:町田遼太先生(東京都立大学経済経営学部),荻原啓佑先生(早稲田大学商学学術院)
セミナータイトル:管理会計研究におけるインタビューデータのQDA入門
概要:第2報告の牧野報告にあるように,近年,管理会計分野でもインタビューデータをQDAソフトウェアにより分析するというアプローチが増加している。本セミナーでは,これまでQDAを利用したことがない研究者へ向けて,
・QDAを利用した論文の事例紹介
・Nvivoによるデータ取得の解説・実演
を行う。なお,Nvivoは14日間無料トライアルが可能なので,インストールしたPCを持参すると,より理解が深まるものと思われる。


参加申込:新井康平(旧所属:大阪府立大学経済学研究科,新所属:大阪公立大学商学部)
件名を「リサーチセミナー参加希望(対面 or ZOOM)」として,下記の内容をメール本文に記載の上,お申し込みください。
arai[at]omu.ac.jp,[at]を@に変更のこと。
(新井の旧大阪府立大学のアドレスは,近日中に連絡が出来なくなる予定ですので,使用しないでください。)
・お名前
・ご所属
・連絡先メールアドレス
・対面 or ZOOMでのどちらの参加希望か

日本管理会計学会2022年度第1回関西・中部部会開催記

2022年5月30日 森本和義(羽衣国際大学)

 日本管理会計学会2022年度第1回関西・中部部会が、2022年5月21日(土)に、羽衣国際大学(大阪府堺市)を主催校として開催された。部会の開催にあたり、部会準備委員長から部会の進行方法の説明があり、続いて皆川芳輝関西・中部部会長から開会の挨拶が行われた。
 今回の部会は、対面(来会)とWeb(Zoom)との併用での開催であった。対面での参加者は16名で、Webでの参加者は18名であった。特別講演と2つの研究報告が行われたが、いずれの報告者も壇上から生き生きとした表情での発表であった。また、活発な質疑応答が行われた。

第一部〔特別講演〕 司会:森本和義氏(羽衣国際大学)
講演者:木原久友氏(南海電気鉄道株式会社まち共創本部グレーターなんば創造部長)
講演テーマ:「グレーターなんばのまちづくり」
 特別講演では、大阪ミナミの中心地なんばのまちづくりが講演のテーマであった。大阪ミナミの中心地なんばは南海なんば駅を中心に都市機能を発展させてきたが、講演者の木原氏は、新たな取り組みとして、従来のなんばを越える「グレーターなんば」のまちづくりについて講演された。木原氏によると、人を惹き付けるなんばの強みや特徴は、道頓堀の水辺と看板にある。また、「グレーターなんば」を創造するための2つのちからは、なんばの特別な期待感を楽しむ「エンタメのちから」となんばの日常の期待感を支える「ステイのちから」であると語られた。戦略上のターゲットとなるのは、なんばを選んでわざわざ訪れる人となんばの滞在者・居住者であり、「グレーターなんば」の創造を加速させる要因としては、都市機能の多様化、ダイバーシティおよび新規事業創出などが指摘された。
 さらに、なんば駅前広場空間再編事業の話では、車両中心の駅前空間を人中心の空間に再編するプロジェクトについて講演された。なんば駅前広場を人中心の空間に再編し、大阪ミナミの新たなシンボル空間を生み出すために、社会実験が実施されていることもお話になった。
 講演後には、大阪キタの梅田に対する大阪ミナミのなんばの強み、都市開発を行う上での鉄道業の強みや特徴、なんばの戦略上のポジショニングなどについての質問があり、活発な質疑応答が行われた。

第二部〔研究報告〕 司会:徳崎進氏(関西学院大学)
第1報告 
報告者:玉川絵美氏(関西学院大学)
論題:「企業価値評価においてインプット情報となる公正価値の概念に関する一考察-『予備的見解:
金融商品および特定の関連資産、負債の公正価値での報告』を中心に据えて-」

 報告者の玉川氏は、まず、公正価値の問題点として、公正価値の概念が広義であるため、立場により公正価値概念の捉え方が異なる可能性があることを指摘した。そして、その問題点を解決するために着目したのが、FASBが1999年12月に公表した「予備的見解:金融商品および特定の関連資産、負債の公正価値での報告」であった。現行の公正価値測定の会計基準を構成するSFAS第157号は2006年9月に公表されているが、玉川氏の研究はSFAS第157号より過去に遡って公正価値概念を探究する試みであった。
 玉川氏の報告では、まず、FASBの予備的見解における公正価値の概念が明確にされた。そして、予備的見解に対して寄せられたコメントをもとに、コメント回答者が抱く公正価値の概念も検討の対象であった。コメントレターの分析からは、次の4点が明らかにされていた。第一に、予備的見解は、財務諸表作成者や監査人、金融商品を取り扱う団体の関心が高い。第二に、すべての金融商品に公正価値測定を適用するという提案には66%以上のコメント回答者が反対している。第三に、金融商品の全面公正価値測定に反対している場合、コメントレターではその反対理由を説明するに留まる傾向にある。第四に、予備的見解で示された定義には50%以上の反対があり、賛成よりも反対の立場のコメント回答者が多い。さらに、予備的見解で示された定義に反対する理由としては、公正価値の定義の実行・適用の難しさ、測定値の客観性・一貫性の欠如、公正価値が継続企業に適さない清算価値であること、恣意性の介入が指摘された。そして、結論として、予備的見解が公表された当時におけるコメント回答者の考える公正価値とは、見積りの要素を極力取り除いた実現可能性を重視した価額ではないか、という見解が主張された。

第2報告 
報告者:卜志強氏(大阪公立大学)
論題:「マネジメント・コントロール・システムの理論的基礎としての企業理論」
 
 報告者の卜氏は、サステナビリティ経営やパーパス経営を念頭に置きながら、新たなマネジメント・コントロール・システム理論(MCS理論)とMCS理論の基礎としての現代企業理論の双方を構築する必要性を主張した。アンソニーのMCS理論、マーチャントのMCS理論、サイモンズのレバー・オブ・コントロール理論、マルミとブラウンのMCSパッケージが説明されるとともに、「管理会計の適合性喪失」や「予算管理無用論」といった欧米の学界での議論も取り上げられた。そして、従来から新たなMCS理論を構築する試みが継続的に行われてきたことが指摘された。
 他方で、伝統的企業理論は、株主第一主義や株主価値最大化目標を基本的前提としている。しかし、卜氏によると、近年の経営環境の変化によって、企業経営に関する基本的な考え方を転換する必要に迫られている。企業経営に関する新しい考え方としては、主に次の3点が指摘された。第一に、株主第一主義から多様な利害関係者に経営の基軸を移すべきである。第二に、環境重視の視点から事業を見直すべきである。第三に、企業の社会的責任(CSR)をより重視すべきである。そして、こうした考え方に立脚する経営手法が、サステナビリティ経営やパーパス経営であると主張された。
 卜氏の報告では、伝統的企業理論に対する修正として、人本主義企業理論や利害関係者理論が取り上げられていた。卜氏の定義では、現代企業とはすべての利害関係者のために価値の創造と分配を行う組織である。卜氏が構想する現代企業理論では、経営者と社員と株主が主権者であり、企業が創出した共通価値(経常利益+人件費)が経営者と社員と株主の三者の協議によって分配されることになる。そして、最後に、このような現代企業理論に依拠しながら、新たなMCS理論を構築する必要性が主張された。