■■ 日 時・場 所
2011年6月25日(土)
近畿大学東大阪キャンパス21号館203教室
■■2011年6月25日(土)午後1時30分から,近畿大学東大阪キャンパス21号館203教室にて,日本管理会計学会2011年度第1回関西・中部部会が開催された。今回の部会は,Asia-Pacific Management Accounting Association(APMAA)との共同企画をプログラムの一部で取り入れて行われた。部会の前半は,APMAAとのジョイント・プログラムであり,東北大学の青木雅明氏と?長谷部会計マネジメンツの長谷部光哉氏との共同報告,マレーシアよりWEE,Shu Hui氏の報告が,司会の上埜進氏(甲南大学)の下で英語によって行われた。ジョイント・プログラムの終了後,休憩をはさんで,関西・中部部会の研究報告が行われた。いずれの報告も管理会計研究上の最先端のトピックに関する内容であり,それぞれの報告の後,フロアにおいて活発な質疑応答がなされた。40名を超す参加者の熱のこもった議論が行われ,有意義な関西・中部部会であった。
■■第1報告 AOKI, Masaaki.(Tohoku University) and HASEBE, Mitsuya (Hasebe Managements)
“The Significance of Learning Process in BSC Introducing Process”
本報告では、BSCを中小企業へ導入するプロセスが事例に基づいて検討された。中小企業の場合、大企業に比べ経営資源・資金・時間といった制約が大きいことが指摘され、中小企業へBSCを導入する際の学習プロセスに焦点を当てる必要性が議論された。
■■ 第2報告 WEE, Shu Hui (UiTM, Malaysia)
“Management Accounting Information: Its Use by Top Management Team in Transforming A Company”
トップ・マネジメントが管理会計情報をどのように用いてコントロールを行ったり、外部環境に関する情報を認知したりするのかという研究が報告された。特に、組織学習における管理会計システム、管理会計情報の役割について論じられた。
■■ 第3報告 坂戸 英樹 氏 (愛媛大学大学院連合農学研究科博士課程, ?天王寺ステーションビルディング)
「ショッピングセンターの会計におけるテナントとの接点」
本報告では、ショッピングセンターの利益構造の特徴が議論された。ショッピングセンターの財務・管理会計の構造に関して、施設の改装、販売促進活動、テナント会を主な切り口として、テナントとの接点が分析された。
■■ 第4報告 高田 富明 氏(神戸大学MBA修了生)・梶原 武久 氏(神戸大学大学院経営学研究科)
「部門管理者の利益操作に関する探索的研究:インタビュー調査より」
部門管理者による利益操作行動に関して実施した探索的インタビュー調査の結果が報告された。インタビューデータの分析の結果、(1)部門管理者レベルにおいて利益操作が観察されること、(2)これまで認識されてきた利益操作方法以外に部門管理者レベルに固有な利益操作方法や行動が存在すること、(3)利益操作が多様な動機で行われること、(4)部門管理者が直面するコンテクストにより、利益操作方法や動機が異なることなどが明らかにされた。
■■ 第5報告 福嶋 誠宣 氏(神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程)、米満 洋己 氏(エスペック株式会社経営企画本部 経営戦略部 経営戦略グループ 主事)、 新井 康平 氏(甲南大学マネジメント創造学部講師) 、梶原 武久 氏(神戸大学大学院経営学研究科)
「日本企業の経営計画:探索的分析」
日本企業の経営計画に関する実態調査の結果が報告された。記述統計だけではなく、過去の研究との経年変化を明らかにするメタ分析、経営計画の構成要素間の関連性の分析、組織成果への影響の分析などの統計的な分析が行われ、結論として、経営計画の策定目的には内部管理目的と外部報告目的があり、内部管理目的が主観的成果と正の関係を、外部報告目的がROAと負の関係を有していたことが報告された。
■■パナソニックの経営概念、経営理念の説明から,パナソニックの経営管理制度、資金管理制度,業績評価制度,グローバル経営管理,経理社員制度まで詳しく語られた。パナソニックの経営管理制度は,事業部による自主責任経営を基本理念に利益責任と資金責任を併せもつことが最大の特徴である。事業計画制度,月次決算制度、内部資本金制度は,この経営管理制度の骨子であり,独特のものである。事業計画制度は,社長の経営基本要綱とその目標心達を事業場長が契約したものである。経営基本要綱にはCO2削減量がふくまれる。また、内部資本金制度は,自主責任経営を裏付ける必要にして適切な資金を委ねるもので,事業場長は自己の責任において自由奔放にして独創的な経営を行うとされる。目的は,財務責任を実態づける,内部留保の明確化を通じ,経営のヨロコビを知る,借入金・内部留保など資金の源泉をハッキリさせる,ことである。業績評価制度は,CCM(パナソニック版EVA),成長性,環境を合計100点とし,報酬制度と連動させる仕組みとなっている。CCMは,資本コスト重視の経営であり,原価の計算の中にも資本コストを取り入れることも肝要とつけくわえられた。グローバル経営管理については,海外事業投資には本社から100%出資を基本としているなど詳細に説明された。 以上,貴重なお話にフロアからの質問が絶えず,退場後もいくつかの意見交換がもたれた。
■■つぎに,横山俊宏氏(株式会社竹中工務店、常勤監査役)より「建設業におけるプロジェクトをベースとした経営管理」という論題で報告がなされた。竹中工務店の紹介,建設業における「プロジェクト」,プロジェクトの採算管理,経営理念について順次説明された。上場していない数少ない大手企業で,建設業では受注高がきわめて大きな要素となり,社員一人当たり年1億円の受注高を目指している。プロジェクトの決定は,進行基準決算がとられており,工事価格と利益の推定が鍵となる。企業の継続・安定・成長は次の100年というごとくレンジが長いのが建設業の特徴などなどが力説された。
企業における階層的会計コントロールのもとで,どのように水平的相互作用が行われるのかを,外食産業の企業の事例により,明らかにしている。報告では,水平的相互作用および階層的会計コントロールに対する批判などの先行研究をレビューした後に,アカウンタビリティの概念を導入した先行研究や様々な関連する経験的研究方法論に基づく先行研究を概観している。そこで,外食産業であるチタカインターナショナル社に対するインタビュー調査に基づいたケース研究の結果が報告された。事例研究からの発見事項として,水平的相互作用を阻害すると言われてきた階層的会計コントロールが,事例研究においては,逆に階層的会計コントロールにより,社内カンパニー間の相互作用を促進したという結果が報告された。
企業において,非正規社員の増加などの労働力の多様化が進むとともに,ビジネスプロセスのアウトソーシングが活発に展開されている。従来の人員数と給与・福利厚生費による人件費の管理では,多様なビジネスプロセスで発生する人的資源に係わるコストをマネジメントすることは極めて困難である。本報告は,人的資源のポートフォリオ・マネジメントをベースにして,人的資源コストを効果的にマネジメントするためのフレームワークを提唱した。まず,戦略に対する「人的資源の価値」と「人的資源の企業特殊性」の二要素から人的資源を,四つに類型化し,各類型の人的資源に関する特徴を明らかにした。
■■2009年6月6日(土)午後1時55分から、名古屋市立大学経済学部棟(3号館)にて、日本管理会計学会2009年度第1回関西・中部部会が開催された。今回の部会は、星野優太(名古屋市立大学)と斉藤孝一氏(南山大学)の司会により、院生と研究者とがそれぞれ日頃取り組んでいるテーマに沿って報告が行われ、テーマ的にも興味深い研究会となった。
■■まず、中富香苗氏(名古屋市立大学大学院生)が、「移転価格の設定とその比較可能性」というテーマで報告された。移転価格税制は、1995年のOECD移転価格ガイドラインが国際規範となっており、移転価格の設定には、同業他社との比較に基づいて独立企業間価格を算定する方法が採用されているという。この比較に基づく独立企業原則には、二重課税の危険性などのいくつかの問題点が挙げられ、一方、比較可能性を困難にする原因として、無形資産価値の算定の困難性、為替変動の影響、多国籍企業の組織形態の多様化、経済環境の急激な変化などが考えられることが指摘された。中富氏は、その上で、最近のOECDによる比較可能性の議論やEUの税制統合の動向を紹介しながら、現行の独立企業原則に基づく制度から定式による分配を活用する方法の可能性についての議論をした。
■■次に、木下徹弘氏(龍谷大学)により「Cost structure changes of Japanese man‐ufacturers amidst global competition」と題するテーマで報告があった。本報告は、日本製造業企業がグローバリゼーションの影響をうけてコスト構造をどのように変化させたかについて、上場企業746社の1980年から2006年の財務データを用いて分析した研究報告であった。グローバリゼーションが日本の製造業企業に与える影響は、世界中からの競合者の市場参入と加速度的なイノベーションによってもたらされる市場の縮小とデフレ圧力と定義される。こうした圧力をうけて、1990年代央以降、売上を頻々に減少させた企業は売上に対する原価の弾力性を高めたが、売上を順調に増加させた企業は原価の弾力性を緩和して規模の経済の利益を獲得しようとした傾向が強いことが実証された。
■■最後に、河田信氏(名城大学大学院教授)による、「「利益」から「利益ポテンシャル」概念へ- 財務分析の新たな可能性を探る」というテーマで報告があった。従来の経営理論は、投資家のために利益を拡大することを基礎としてきたが、今後は社会全体に利益をもたらすための理論を構築すべきであるという。このパラダイムシフトを考えたとき、従来のマネジメントの手法では無意識に部分最適化を選択してしまい、全体最適化に結びつかない場合も多い。TPSの導入は全体最適化に有効であるが、TPSの導入は容易ではない。そこでTPSとリンクした指標として、[売上総利益/棚卸資産]として表される「利益ポテンシャル」を提案する。これは利益率要素である[売上総利益/売上原価]とリードタイム要素である[売上原価/棚卸資産]を掛け合わせたものである。河田氏は、この指標ならば、TPSとリンクした業績評価が可能であり、財務分析の新たな視点として有用であるとする。