令和元年5月26日 足立俊輔 (下関市立大学)
■■ 日本管理会計学会2019年度第1回(第56回)九州部会が、2019年5 月25 日(土)に九州産業大学(福岡市東区)にて開催された(準備委員長:浅川哲郎氏)。今回の九州部会では、関東・関西・中国・九州からご参加をいただき、18名の研究者、実務家、および院生の参加を得て、いずれの報告においても活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1 報告は、水野真実氏(医療法人社団寿量会 熊本機能病院)により、「患者別手術室人件費管理のためのABCモデルとTDABCモデルの開発と比較」と題する報告が行われた。本報告は、Kaplan & Andersonが提唱するTDABC(時間主導型活動基準原価計算)の手法を用いて、整形外科医師・麻酔科医師・看護師の手術室人件費を「麻酔時間」で配賦する方法を開発・検証することを目的としたものである(対象病院:A病院(410床)、対象疾患:人工膝関節置換術を実施した患者40名、集計期間:2017年4月〜6月)。
報告者によれば、電子カルテのEFファイルに記載している「麻酔時間(全身麻酔)」を手術室人件費の配賦に用いることで、報告者が本研究以前に開発した診療行為回数を用いて配賦計算を行うABCモデルに比べて、資源消費の実態をより反映した配賦計算が可能となる。当該配賦計算結果は、対象病院の医師に提示しており、そのコメントも紹介された。
■■ 第2報告は、水島多美也氏(中村学園大学)より、「スループット会計における時間に関する一考察」と題する報告が行われた。本報告は、制約理論やスループット会計に関する時間を検証するために、(1)スループット会計においてはどのような時間が使われているのか、(2)TBC(Time Based Costing)にみる時間単位あたりという概念の意味、(3)スループット会計における「Rate」の意味、以上の3点を考察の目的としている。
報告者によれば、制約工程における時間当たりのスループットという指標は、時間やその短縮の問題を考える上において重要な指標であり、これらは製品のプロダクトミックスの決定にも利用されている。報告者は、Corbett [1998]やPreiss and Ray[2000]の理論を用いて、制約理論やスループット会計に関する時間概念に考察を加えている。報告者は、これら先行研究を検証した結果、スループット会計では、制約工程での時間が重要となり、TBCの計算モデルにおいても「時間」概念がプロダクトミックスに有用な情報として用いられていることを言及している。
■■ 第3報告は、西村明氏(九州大学名誉教授・別府大学客員教授)より、「スラックと会計統制モデル―日本製造企業の実態を踏まえて―」と題する報告が行われた。本報告は、報告者の著書『Management, Uncertainty, and Accounting: Case Studies, Theoretical Models, and Useful Strategies』(Macmillan, 2018)のうち、議論の余地が残されていると捉えている「スラック概念」を検討することを目的としたものである。
報告者は、当該スラック概念を考察するにあたって、日本製造企業5社の財務データを用いて、報告者が著書で提案しているCOLCモデル(Comprehensive Opportunity and Lost opportunity Control Model:包括的機会・逸失機会統制モデル)と企業の戦略計画との関連性を分析している。報告では、COLCモデルにおける「機会・リスクを巡るスラックの位置づけ」が示されており、「資金の調達及び運用面」の裏付けを前提とした企業スラックが、持続的成長(長期計画)を行う「探索投資」と、市場競争力(短期的計画)を高める「活用投資」をバランスさせる役割を果たしていることが指摘されている。
■■ 研究報告会終了後、九州部会の総会が行われた。総会では前年度の会計報告、今後の部会運営、今年度の九州部会開催の議題が出され、双方とも承認を得た。
第57回大会は九州大学伊都キャンパスにて11月に開催予定である。
■■ 日本管理会計学会2018年度第2回(第55回)九州部会が、2018年10 月20 日(土)に長崎県立大学佐世保校(佐世保市)にて開催された(準備委員長:宮地晃輔氏)。今回の九州部会では、関西・中国・九州からご参加をいただき、15名近くの研究者及び学生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また、管理会計のほかに財務会計の分野の研究者の参加によって、分野横断的な議論が研究会や懇親会で交わされた。
■■ 第1 報告は、吉川晃史氏(熊本学園大学)・吉本政和氏(株式会社ヒライ)により、「アメーバ経営システムの向上と現場情報との接続―株式会社ヒライの事例―」と題する報告が行われた。本報告は、京セラ・アメーバ経営をはじめミニプロフィットセンターを採用した企業が、現場レベルでの生産管理・営業管理などの「行動コントロール」と、会計情報を用いた「結果コントロール」がどのような関係を有しているのか、さらにリーン生産方式を導入した場合に両者はどのような関係を有するのかについて、株式会社ヒライ(弁当・惣菜製造)のアメーバ経営の導入事例を用いて明らかにしようとしたものである。
■■ 第2報告は、庵谷治男氏(長崎大学)より、「アメーバ経営の部門別採算制度と利益配分」と題する報告が行われた。本報告は、アメーバ経営導入に関する研究の増加を背景に、京セラとアメーバ経営導入組織ではアメーバ経営の仕組みに相違が見られることに着目して、社内売買の仕組みがアメーバ経営に与える影響を「(仕事の)相互依存性」の視座に基づき探求したものである。なお本報告は、報告者の著書『事例研究 アメーバ経営と管理会計』2018年3月(中央経済社)に関連させたものである。
■■ 第3報告は、黒岩美翔氏(長崎県立大学)より、「全社的リスク・マネジメントの展開についての一考察―WBCSDの報告書を中心として―」と題する報告が行われた。本報告は、マネジメント・コントロール及びガバナンスの要素を包含するCOSO「内部統制」やCOSO・ERMが、多様なステークホルダーを巻き込み「持続可能な組織」を実現するためにどのように発展するべきなのかについて、COSOとWBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)の共同ガイダンスが2018年に公表された意義から明らかにしようとしたものである。
■■ 第4報告は、水野一郎氏(関西大学、日本管理会計学会長)より、「CSVと付加価値概念の再考―人本主義管理会計の展開を目指して―」と題する報告が行われた。本報告は、ポーター=クラマーのCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)の概念の提案を受け、ネスレやキリンビールなどのグローバルビジネスを展開する企業がCSVを意識した経営を実践していることをあげ、CSV経営は魅力的な提案であるものの、その測定や尺度も問題については議論していないことに着目し、CSVに相応しい価値尺度として付加価値概念を用いたCAV(Creating Added Value:付加価値創造)の必要性を指摘したものである。
■■ 報告会終了後、開催校の事務局の計らいにより、横断幕を用いた記念撮影を行った。その後、開催校のご厚意により、大学生協にて懇親会が開催された。研究会を含め、懇親会においても実りある研究交流の場となった。