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2016年度第3回(第50回記念大会)九州部会 開催記

■■ 日本管理会計学会2016年度第3回九州部会(第50回記念大会)が、2016年11月19日(土)に九州大学(福岡市東区)にて開催された(準備委員長:大下丈平氏(九州大学))。今回の九州部会では、関西・九州以外に関東からもご参加をいただくなど、総計20名を超える研究者や実務家、大学院生・学部学生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。
本大会では統一論題のテーマとして、「グローバリゼーションの下での管理会計の課題と展望―不確実性・モノづくり・CSR―」を掲げ、不確実性の高い情勢下での企業経営の土台をなす管理会計やマネジメント・コントロールのあるべき姿を追究する形で報告がなされた。

■■  第1報告は、今井範行氏(名城大学)氏より、「管理会計はどこまで企業現場の競争力を練磨し得るか?―実務視点からの考察―」と題する研究報告がなされた。本報告は、上記の統一論題の趣旨を踏まえ、「管理会計はどこまで企業現場の競争力を練磨し得るか?」という点について、企業経営の視点、とりわけトヨタの実務的視点から考察したものである。
報告では、近年のトヨタの動きとして、大規模な組織改編が行われたことや、ハイブリッド車の販売台数の伸び悩み、それにカーシェア・ライドシェアの勃興などの概略が説明され、企業経営の現場ではグローバリゼーションの意味を広く捉えて、市場統合の深化、金融資本の蓄積、先進国成長率の下方屈折、人の価値観の成熟化、これら4つの特性を意識して経営を行わなければならないと結論付けている。そして、試論として、「潜在利益」と「顕在利益」および「想定内リスク」と「想定外リスク」の概念を提唱された。

■■ 第2報告は、西村明氏(別府大学客員教授、九州大学名誉教授)より、「不確実性・リスクの中で管理会計を考える」と題する研究報告がなされた。本報告は、管理会計の基礎概念として、「もの作り」・「科学的管理」・「調和」の3つに着目して、20世紀初頭に提唱された企業理論や企業家理論のなかでの経営管理と管理会計について考察を加えたものである。
報告者は、「不確実性」は企業経営に強い影響を与えているばかりか、スパイラル現象を強めていることに言及し、「管理」や「会計」、それに「管理会計」もまたその中で成長しており、その運用を誤るとスパイラル現象を助長してしまうことを指摘する。報告では、当該状況下においても、「環境やサプライチェーン、安心安全、リスクに配慮した原価企画」や「社会関連的な管理会計」が企業界からも生まれていることに着目して、理論の垣根を超えた「調和に向かう管理会計システム」を構築し、またその意味の重要性を認識すべきであると結論付けている。

■■ 第3報告は、田中雅康氏(広島都市学園大学、東京理科大学名誉教授)より、「日本の主要企業の節目管理」と題する研究報告がなされた。節目管理とは、開発設計の主要な区切り(節目)において、原価企画の責任者が開発設計諸目標の達成可能性を評価し、「製造活動に入る前に開発設計諸目標を達成させる管理」のことを意味する。
報告者によれば、原価企画における節目管理はフィード・フォワード・コントロール(FFC)であっても、日本の主要な企業でも十分に行われているとはいえない。しかし、報告者の研究チームが2012年に実施したアンケート調査によれば、原価企画を長期間導入してきた企業では、FFCの充実度は高まっていることが判明している。その上で報告者は、望ましい節目管理を行うためには、開発設計者と原価企画推進チームの有機的な活動や技術、それに原価に関する新しい情報の入手と共有が不可欠であると結論付けている。

■■ 各報告者の報告の後、3人の報告者を座長が囲む形で円卓討論が行われた(座長:大下丈平氏)。円卓討論では、座長やフロアからの質問について報告者がそれぞれの立場から意見が述べられ、統一論題のテーマを再考する形で討論は締めくくられた。
また研究報告会の後、大学近くのホテル(福岡リーセントホテル)にて懇親会が行われ、実りある交流の場となった。懇親会では、50回大会を記念して野瀬誠一先生(元日本経済大学)からご祝儀をいただき、最後は記念撮影をして和やかな雰囲気で記念大会は終了した。
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足立俊輔 (下関市立大学)

2016年度 第2回フォーラム(第49回九州部会共催)開催記

forum2016-2-1.jpg 2016年7月30日、福岡大学において「管理会計の実務に与えるインパクト」というテーマのもと九州部会との共催で行われた。結城秀彦氏(監査法人トーマツ)、吉原清嗣氏(Development Academy of the Philippines Visiting Fellow,The Vietnam National University Visiting Fellow,京都大学大学院)、宮地晃輔氏(長崎県立大学)の3名から報告が行われ、最後に大下丈平氏(九州大学)を座長にパネルディスカッションが行われた。

■第1報告 結城秀彦氏(監査法人トーマツ)
「管理会計の財務諸表監査に与えるインパクト-管理会計が関連する監査の諸側面-」
第1報告ではまずforum2016-2-2.jpg、管理会計が財務諸表監査においてどのようなインパクトを持っているのかという点について報告された。財務諸表監査にとって管理会計は、会計処理・開示基準としての側面、監査手続における手法の活用としての側面、そしてリスク・アプローチにおける業績評価会計の勘案としての側面があるとし、それぞれについて説明がなされた。
会計処理・開示基準については原価計算基準の実態主義と会計ビッグバン以降のルール主義とで乖離が起こっているが、実態主義で妥当性が判断されていることにより、基準の見直しに対するインセンティブが働かず、GAAPの一部を構成しているとの認知の低下をもたらしているのではないかとの懸念が示された。手法の活用としては重要な虚偽表示を発見する際に、伝統的財務比率分析、キャッシュ・コンバージョン・サイクル、損益分岐点分析・投資の経済性計算などが行なわれていることが説明された。リスク・アプローチにおける業績評価会計の勘案では監査における虚偽表示リスク要因・統制環境としての管理会計のインパクトについてまとめられた。管理会計は虚偽表示リスクを評価する際の統制環境として捉えられ業績評価制度によってインセンティブが発生するために注目する必要があるとした。

■第2報告 吉原清嗣氏(Development Academy of the Philippines Visiting Fellow,The Vietnam National University Visiting Fellow,京都大学大学院)
「日本の地域金融システムの他国への運用可能性について-中小企業の育成と管理会計の視点から-」forum2016-2-3.jpg
第2報告では、中小企業の育成を担ってきた地域金融システムの他国で運用可能性についての研究が報告された。他国への適用可能性を検討するために、日本的金融構造の性質が歴史的に整理され、その後にフィリピン、ベトナムの状況と比較され、日本的金融システムの可能性について発表された。
?日本の金融実務は1997年から2006年ほどまでの間に転換点を迎えたとし、近年では「長期継続する関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て、融資を実行するビジネスモデル」であるリレーションシップバンキングの推進が金融庁主導のもと行われている。しかしながら、京都の地域金融機関ではかねてよりリレーションシップバンキングに取り組んでいた。地域金融機関の幹部によると日本独自の型があり、それは顧客が発展するために援助することであり、信用をつける術を教えたり、顧客に不足するものを教えたりして最終的な行為として貸出があるというようなものであった。そして、そのような金融システムこそ、発展途上のベトナム、フィリピンの発展に寄与する可能性があると主張された。

■第3報告 宮地晃輔氏(長崎県立大学)
「中小製造企業における管理会計の導入実態に関する研究-長崎県佐世保地域での調査を基礎として-」forum2016-2-4.jpg
第3報告では、長崎県佐世保地域に所在する中小製造企業における管理会計の導入実態についての調査研究が報告された。本調査においては、「長期経営計画・中期経営計画・短期利益計画から接続する予算編成が、中小製造企業において実際にどのレベルで行われているのかという点」と「予算管理の中で見られる管理会計とリンクした原価計算が実態としてどのレベルで行われているかという点」を意識して行われた。またデータは九州北部税理士会に所属する税理士法人一法人への訪問調査と佐世保市に所在する機械器具製造企業へのインタビュー調査によって得られたものを用いている。
税理士法人への調査の結果、中小製造業の管理会計導入は実態として脆弱なものであることが示された。中長期の経営計画や短期利益計画を作成している企業は稀であり、製品ごとの原価計算も難しく、目標値を設定したり業績指標を利用したりする経営者も稀であるとの結果であった。一方で、機械器具製造企業への聞き取り調査では社員全員で会計情報を共有し社員のモチベーションを高めたり、予算管理制度を導入していたりと高度な管理会計が導入されていたことが示された。中小企業であっても管理会計能力が高まるパターンとして、代表取締役の会計教育歴や職歴が挙げられた。またこのような好例を地域的に伝播させることの可能性が論じられた。

■パネルディスカッション 大下丈平氏(九州大学)、結城秀彦氏、吉原清嗣氏、宮地晃輔氏
大下丈平氏の司会でパネルディスカッシforum2016-2-5.jpgョンが行われた。まず、大下氏より3報告の総括が行われ、その後にフロアーからの質疑応答を受け付ける方式で進められた。3報告とも、バックグラウンドの違う立場であったが、日本経済の大きなトレンドのもとで、どのような課題があるのかという点で共通しており、このディスカッションでも、管理会計に限定せず、現状の課題に対して我々管理会計研究者はどのように考えるのかという視点から議論をしていきたいとの座長の宣言のもとディスカッションが進められた。3報告とも企業実務の具体的事例が多かったため、フロアーからの質問も多く非常に活発な議論が行われた。

なお、本フォーラムの参加者数は43名であった。

篠原巨司馬 (福岡大学)

2016年度 第1回(第48回) 九州部会開催記

■■ 日本管理会計学会2016年度第1回(第48回)九州部会が、2016年5月14日(土)に下関市立大学(下関市大学町)にて開催された(準備委員長:島田美智子氏(下関市立大学))。今回の九州部会では、関西・九州以外に関東からもご参加をいただくなど、10名近くの研究者や大学院生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■  第1報告は、高梠真一氏2016kyuusyu1-1.jpg(久留米大学)より、「管理会計の生成・発展における投資利益率の役割」と題する研究報告がなされた。本報告は、19世紀中期の鉄道会社であるウェスタン鉄道、19世紀後期の鉄鋼会社であるカーネギー・スティール社、20世紀初期の火薬会社であるデュポン火薬会社、および20世紀中期の化学会社であるデュポン社を事例として取り上げ、各企業において投資利益率がどのように利用され、いかなる内容・意義をもっていたかを検証・考察したものである。
報告者は検証・考察の結果、投資利益率概念については、その分母と分子の構成要因が企業環境や利用目的に適合して変化してきたこと、および、その投資利益率は元来、株式投資ではなく、意思決定と業績評価という経営管理のために管理会計の技法・概念として利用されてきたと結論づけている。

■■ 第2報告は、足立俊輔氏2016kyuusyu1-2.jpg(下関市立大学)より、「クリニカルパスを介した病院TDABCの有用性について」と題する研究報告がなされた。本報告は、キャプラン=ポーター(Kaplan, R. S. & Porter, M. E. (2011))が、”How to solve the cost crisis in health care”をHBRで発表して以来、多くの病院でTDABCが試験的に導入されていることや、病院で標準診療計画を意味する「クリニカルパス」を活用することで病院TDABC導入の適切性確保や負担軽減できると指摘されていることに着目して、病院TDABCとクリニカルパスの関連性を文献レビューを通じて整理したものである。
報告者はレビューの結果、クリニカルパスは、病院TDABCのプロセスマップ作成時や、調査対象となる診療行為を選別する場合に用いられていることを指摘し、その背景にはコスト・ベネフィットの観点から病院全体にTDABCを導入することが困難となっていることに言及している。

■■ 第3報告は、水島多美也氏(中2016kyuusyu1-3.jpg村学園大学)より、「時間管理会計論とその発展」と題する研究報告がなされた。本報告は、管理会計や原価計算の個々のケースでは「時間」について一定の議論がされているとはいえ、どの時間の、どの管理会計技法を問題にしているかについては共通認識がないことに着目し、時間と管理会計・原価計算の関係性について体系的な整理を試みたものである。なお当該報告は、報告者が昨年度出版した『時間管理会計論』の成果に基づいたものである。
報告では、時間の視点からみた管理会計・原価計算の先行研究を、ビジネスプロセス、組織単位、期間、頻度の4つから分類整理を行った結果や(第2章)、標準原価の能率向上による過剰在庫の発生といった「時間からみた伝統的会計の問題点」(第4章)、業績評価会計と意思決定会計における時間概念の体系的な整理(第10章)などが、トヨタ生産システムやアメーバ経営と関連させながら紹介された。

■■ 研究報告会の後、臨時総会が開催された。臨時総会では、前年度の会計監査報告と今年度の九州部会開催が情宣された。今年度は、第2回の九州部会(第49回大会)を7月30日(土)に福岡大学で管理会計フォーラムと共同開催し、第3回の九州部会(第50回記念大会)を11月19日(土)に九州大学で開催する予定である。また、第50回記念大会にあたって部会開催補助を増額することとなった。
臨時総会後、大学生協にて懇親会が開催され、実りある交流の場となった。

足立俊輔 (下関市立大学)

2015年度第3回(第47回)九州部会 開催記

2015kyushu3.png■■ 日本管理会計学会2015年度第3回(第47回)九州部会が、2015年11月7日(土)に福岡大学(福岡市城南区)にて開催された(準備委員長:飛田努氏(福岡大学))。今回の部会では、九州以外に中部・関東からもご参加をいただくなど、15名近くの研究者や大学院生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■ 第1報告は、黒岩美翔氏(九州大学大学院博士課程)より、「社会責任戦略コントロールに関する一考察:全社的リスクマネジメントERMの可能性」と題する研究報告がなされた。本報告は、財務的コントロールと社会的コントロールの比較考察を通して、マネジメントコントロールやガバナンスシステム、また全社的リスクマネジメントがどこへ向かうのかについて、その手掛りを得ることを目的としている。
報告では、Moquet(2010)に基づいて、社会的責任戦略コントロールを行っているフランスのダノン社の事例を通じて、社会的責任の4つの特徴を分析しながら理論的提案を行っている。報告者は、Moquet(2010)を踏まえた理論的提案を踏まえて、企業が社会的責任戦略のコントロールを実現する方策として「CSRを考慮したERM」を提案している。

■■ 第2報告は、木村眞実氏(沖縄国際大学)より、「自動車解体業への試案MFCAー樹脂を対象としてー」と題する研究報告がなされた。本報告は、MFCAを使用し、静脈産業の生産プロセスには改善の可能性があることを示すことを目的としたものである。
報告では、静脈産業である自動車解体業A社を対象にして、安城・下垣(2011)に基づいて作成された「試案のMFCAバランス集計表」のエクセルの計算例や、リサイクルフロー図が示された。A社では従来、使用済自動車由来の樹脂部品(バンパーなど)は代替加炭材の原料として処理されていたが、この樹脂部品を樹脂ペレットという形でマテリアルリサイクルを行うという生産プロセスの改善がされている。報告者は、試案のMFCAバランス集計表を作成した結果、こうした生産プロセスの改善の効果が金額や物量ベースで「見える化」できたことを示している。

■■ 第3報告は、新茂則氏(中村学園大学)より、「日本版スチュワードシップ・コードとROE投資」と題する研究報告がなされた。本報告は、企業の収益向上に向けた政策と株価動向の実証分析を行うことを目的としている。
報告者は、日本の株式市場の最大の投資家は外国人投資家であること、ROEについて経営者と投資家の意識のズレがあること、JPX日経インデックス400(JPX400)の創設により企業経営者の意識にROE経営に重きをおく環境が整ったことなどを問題意識に置いている。報告では、quickやヤフーファイナンスのデータの分析結果が示され、東証時価総額上位企業のROEとPBRには正の相関(0.68)がみられること、JPX400と為替レートは強い正の相関(0.88)があること、JPX400の投資収益率のパフォーマンスはベンチマーク(TOPIX)よりも高いことが示された。

■■ 第4報告は、西村明氏(九州大学名誉教授)より、「管理会計におけるデリバティブとものづくり」と題する研究報告がなされた。本報告は、リスク一般ではなく、最も現実的で企業経営に影響するリスクと管理会計との関係を明らかにすることで、現代における管理会計の特徴と問題点の解明を目的としている。
報告者は、Nishimura(2015)で提案したCOLCモデル(Comprehensive Opportunity and Lost Opportunity Control Model)は強い金融経済の中で、リスク管理や持続的な収益性に確報する方法であるとしても、デリバティブの投機性を処理することはできないため、企業経営と管理方法がその社会的な運用において、社会との対話や批判を組み入れ、公正かつ客観的なものでなければならないとしている。その意味での管理会計は、国際会計基準、とりわけコーポレートガバナンスや内部統制と強い連携を持つと共に、公開制・透明性・管理責任制をより強く意識し、システムとしてそれらを確立しなければならないと結論づけている。

■■ 報告会終了後には開催校のご厚意で、大学周辺の居酒屋で懇親会も開催され,実りある交流の場となった。

足立俊輔 (下関市立大学)

2015年度 第2回(第46回) 九州部会 開催記

■■ 日本管理会計学会2015年度第2回(第46回)九州部会が、2015年7月25日(土)に九州産業大学(福岡市東区)にて開催された(準備委員長:浅川哲朗氏(九州産業大学))。今回の部会では、九州以外に関西・中部からもご参加をいただくなど、10名近くの研究者や実務家、大学院生の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■  第1報告は、田尻敬昌氏(九州国際大学)より、「組織スラックとフィードフォワード・コントロール―スラック形成とその戦略的展開」と題する研究報告がなされた。本報告は、組織スラックをフィードフォワード・コントロールの観点から再検討することを目的としたものである。
組織スラックの機能には、戦略的行動やイノベーションを促す機能があり、例えば、組織が利害対立関係下にあっても、組織スラックを利用することでイノベーションが起こる可能性がある。報告者は、フィードフォワード・コントロールにおいては見積値と目標値の差異を解消することに焦点があてられているものの、組織スラックの機能に焦点をあてた場合には、当該差異は解消するのではなく、「合意形成が得られるであろう次善的に適切な値」に設定すべきとして、会計情報の指標間において対立関係が生じていることに言及している。

■■ 第2報告は、緒方光行氏(福岡常葉高等学校)より、「キャリア教育の視点に立った管理会計の指導法について」と題する研究報告がなされた。本報告は、平成25年度の高等学校学習指導要領の改訂により、新たに導入された「管理会計」の現場での現状と課題を説明した上で、キャリア教育で重視されるようになった観点別評価の実態を紹介したものである。
観点別評価の導入背景には、検定試験合格の勉強に偏重しすぎている現状が問題視されていることがあり、観点別評価を導入することにより、会計指標の理解力や表現力が求められるようになっている。報告では、話し合い活動としてKJ法や、発表方法としてワールドカフェ方式など、様々な取り組みが紹介されているものの、管理会計では、高校生を対象にした管理会計の教材が不足している現状から、高大接続などによる指導の充実が求められていることがあげられている。

■■ 第3報告は、招聘講演として、今井範行氏(名城大学)より、「デュアルモード管理会計とプロアクティブスラック―予算スラックの順機能性に関する一考察―」と題する研究報告がなされた。本報告は、逆機能的な予算スラックとは異質の順機能的な予算スラックとして、トヨタ的業績管理会計の事例を取り上げ、その要諦について「プロアクティブスラック」として概念化をはかるとともに、その管理会計的意義について考察を加えたものである。
トヨタなどグローバルに事業展開する企業では、企業外部の想定2015kyusyu2-1.jpg外の潜在リスクを予見することが難しい。そのためトヨタでは、為替レートや販売数量など収益ドライバーの前提を「保守的」な水準に置き換えた利益計画を提示して、その保守的に置き換えた分の利益減少分を、追加的なコスト低減策の策定でカバーすることが求められている。報告では、当該コスト低減策により、順機能的な予算スラックとしてプロアクティブスラックが形成されていることが、設例や図表を用いて紹介されている。

足立俊輔 (下関市立大学)