日本管理会計学会 会員各位
JAMA2021年度第3回フォーラム実行委員
平井 裕久(神奈川大学)
小村 亜唯子(神奈川大学)
会員各位におかれましては益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。
このたび、日本管理会計学会2021年度第3回フォーラムを下記の通り開催の運びとなりました。
皆様におかれましては万障お繰り合わせの上、何卒ご出席賜りますよう、ご案内申し上げます。
ご参加につきましては、以下よりお申し込みください。
記
開 催 日 :2021年12月18日(土)
会 場 :zoomでの開催(神奈川大学主催)
参加申込:参加希望者は以下より申し込みください。追って、参加に係るzoomの情報をお送りさせて頂きます。
【申込〆切:12/15】 https://forms.gle/rfNhg1XWVyTF4Hqz9
テーマ:「 ESG重視の経営 」
13:30 開会の挨拶
13:35-14:35 特別講演 「タクソノミーとトランジションファイナンス(仮)」
水口 剛 先生(高崎経済大学)
14:40-15:20 第1報告 「日本の製造業における環境配慮型活動の実態と成果に関する研究
―質問票調査と聞き取り調査に基づいて―(仮)」
北田 真紀 先生(滋賀大学)
15:20-16:00 第2報告 「BSCにおけるサステナビリティ情報の利用に関する実験研究(仮)」
北田 皓嗣 先生(法政大学)
(連絡先)
神奈川大学 工学部経営工学科 管理会計研究室
平 井 裕 久 hirai[at]kanagawa-u.ac.jp
小村 亜唯子 komura-a[at]kanagawa-u.ac.jp
([at]を半角の@に変更してください.)
「フォーラム」カテゴリーアーカイブ
2021年度第2回フォーラム開催記
2021年7月17日
2021年度第2回フォーラムは、2021年7月17日(土)14時から16時まで専修大学と大阪大学の共催で、オンラインで開催されました。当日は、伊藤和憲氏(専修大学)の司会により進められました。まず、日本管理会計学会・会長の伊藤和憲氏の開会の挨拶により開始されました。2つの特別講演が行われました。特別講演(1)は丹羽修二氏(日本経営 副社長)、特別講演(2)は橋本竜也氏(日本経営 取締役)でした。いずれの講演も質問が多くあり、活発な議論が交わされました。
特別講演(1) 丹羽修二氏(日本経営 副社長)
報告論題 : 一人別損益計算書の背景と実用
第1報告では、日本経営の管理会計を取り上げられました。まず、日本経営の管理会計の特徴は、月次決算、一人別損益計算書、グループ代表による月次予算事績会議を取り上げられました。これはシンプルな管理会計と継続・徹底した活用をしているという。
1.月次決算では、毎月1日にB/SとP/Lおよび予測数値についての月次財務報告を平成8年から継続している。
2.一人別損益計算書は、本日のテーマであるが、平成2年よりスタートしている。
3.グループ代表による月次予算事績会議は、毎月第1週に2日間かけてグループ代表と全事業部が検討を行っている。
また、日本経営では給与を自ら算出するシステムを導入しているという興味深い説明がまずあり、その上で一人別損益計算書についての説明が行われました。
一人別損益計算書については、導入のポイント、作成のポイント、実用のポイントに分けて説明していただきました。
導入のポイントは、創業時から事業を大きく成長させたいという願望があり、社員全員が経営の主人公にさせるため給与を自己申告制にしたとのことでした。そのために、工場別・現場別損益計算書をヒントにして一人別損益計算書を作成したとのことでした。
作成のポイントは、役職者もパートもすべての社員が月次損益計算書を作成しているとの報告でした。この一人別損益計算書は完全なる正確性を求めるものではなく、一定の人為的な基準と作成によるものであり、単年度を見ると正確とは言えないものと理解していました。単年度で見るものではなく、時系列で活用することで、個人やチームの業績の実態が把握できるという利点があるとのことでした。
実用のポイントは、プロフェッショナル的な業務、成長期における経営者意識の鍛錬に効果があること、また、自分で給与を決めるので経営者の意識と感覚が養われたとその効果を披露していただきました。
特別講演(2) 橋本竜也氏(日本経営 取締役)
第2報告では、日本経営の人事管理について報告していただきました。
日本経営グループで一人別損益計算書が導入できたのは、導入当時、会計事務所が主体で基本的に1件の顧問先を1人の担当者が担当していたことがあるとのことでした。したがって、間接費が非常に少なく、ほとんどが直接費という特徴があったために導入しやすかったそうです。また、一人別損益計算書は財務数値への意識づけであり、入社後何年で黒字化できるかという育成のツールであった。興味深いのは、賞与として成果配分制度が一人別損益計算書と連動している点でした。これが企業成長に大きく貢献したとのことでした。
ところが、一人別損益計算書は個人主義に陥ったり、事業部間の壁ができそうになってしまいます。そうならなかったのは、理念・哲学の共有、社風醸成があったとのことでした。たとえば自利利他が徹底されていたようで、個人主義を抑える役割があったそうです。
その後企業成長とともにビジネス・スキームが変化して、チームで仕事を担当するようになり、一人別損益計算書を作成するには売上高や固定費の配分問題や成果配分の制度的疲労が発生するようになったようです。同時に、経営陣にも一人別損益計算書に対して疑義が生じ始めたようです。そこで、一人別損益計算書を改定して、なんでも数値ができるわけではなく、一人別損益計算書で表せないことを無理に反映される必要はないという方向に向かっている。つまり、成果配分制度をなくして、別建てで、様々な業績を評価する方向になったそうである。具体的には、人事評価としては行動評価(職責評価)と目標達成度評価を基本として、業績については一人別損益計算書の利益だけでなく、サービス開発や出版なども大きな成果として認め、特別賞与として支給するようになったとのことでした。
一人別損益計算書は、個人からチームへと舵を切ってきましたが、活用方法や位置づけを変えてきており、さらにいいものを構築していくことと思われます。ところが、一人別損益計算書は、今後も日本経営グループにとっては重要なマネジメント・システムであり続けると指摘されました。
(フォーラム後半の質疑応答)
2021年度第1回フォーラム開催記
2021年4月17日
2021年度第1回フォーラムは、2021年4月17日(土)14時から17時に成蹊大学において開催されました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、検温、マスク着用、ソーシャルディスタンスの確保といった十分な対策を行ったうえで、対面形式にて開催され、当日の参加者は40名程度でした。伊藤克容氏(成蹊大学)の司会により進められ、日本管理会計学会・副会長の﨑 章浩氏(明治大学)の開会の挨拶により開始されました。2つの特別講演と1つの研究報告が行われました。特別講演(1)は弘子ラザヴィ氏(サクセスラボ株式会社代表取締役)、研究報告は飯塚隼光氏(一橋大学商学博士)、特別講演(2)は小川康氏(インテグラート株式会社 代表取締役社長)でした。特別講演(1)につきまして、弘子ラザヴィ氏は昨年より対面でのご講演および活発な議論の実施を望んでいらっしゃいましたが、新型コロナウイルス感染拡大による渡航制限期間のため、録画講演となりました。いずれの講演および研究報告におきましても、フロアからもコメント・質問が多くあり、活発な議論が行われました。
特別講演(1) 弘子ラザヴィ氏(サクセスラボ株式会社代表取締役)
報告論題:カスタマーサクセスとは何か:日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」
第1報告では、デジタル時代に求められるカスタマーサクセス視点のPL(損益計算書)について、まず「デジタル化の本当の意味」として、モノ売り切りモデルからリテンションモデルへのシフトが不可逆的に生じていることについて説明されました。リテンションモデルの定義として以下の4点が挙げられました。
1.利用者が日常的・継続的にそのプロダクトを利用し、モノの所有に対して
ではなく成果に対して対価を払う。
2.利用者が、いつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少
なくてすむ。
3.利用者が、それ無しでは生活や仕事ができない・使い続けたいと断言でき
るほど明らかにプロダクトが常に最新・最適化され続ける。
4.利用者が、自分が嬉しい成果を得られるならば、自分の個人データをプロ
バイダーが取得することを許す。
音楽ストリーミングサービスを例に挙げ、従来のモデルとリテンションモデルの違いを説明しています。次に「リテンションモデルの本質」として、カスタマーサクセスに焦点を当て、その本質について、従来の「何を/what起点」からリテンションモデルとしての「誰に/who起点」にシフトしたことを解説しています。続いて、本題の「カスタマーサクセス視点のPL」について、リテンションモデル事業の典型的な収支構造を取り上げ、その要諦を3点にまとめています。
1.成長の基盤が見える。
2.成長の方程式が見える。
3.利益ある成長が見通せる。
総括として、現行のPLとカスタマーサクセス視点のPLを比較して議論を展開し、カスタマーサクセス視点のPLでは、将来の成長を重視し、カスタマーに成功を届けるための目的別コストを集計し、カスタマー軸の収支に重点を置くといった要点が整理されました。以上の議論により、カスタマーサクセス、すなわちWho起点の経営が必須であるとの指摘のもと、デジタル時代に求められるカスタマーサクセス視点のPLについての要点から、現行のPLがいかに有用性を喪失しているかという点について警鐘をならしています。
研究報告 飯塚隼光氏(一橋大学商学博士)
報告論題:シンプル管理会計の研究
第2報告では、中小製造業に属するX社に対するインタビュー調査の結果を出発点とし、事例研究により、同社における管理会計実践の特徴に焦点を当て、シンプル管理会計の意義について明らかにしています。X社は厳しい市場環境の中で生き残り続けており、数々の賞を受賞するほど、安全性の面で品質が高く評価されています。日本の一部の地域で製造が集約されているものの、世界的に販売され、売上の6割を海外への輸出が占めているという特徴を持つ企業であると紹介しました。またX社は、高品質の製品を製造しているにもかかわらず、安全性能の追究において、理想実現のためコストをかけることを惜しまず、製品の価格設定において一定の原価率を設けているという特徴があり、販売子会社における予算編成についても特徴があります。このようなX社における非常に単純な管理会計手法を「シンプル管理会計」と称することにより、シンプル管理会計という視座に立って研究をすることの意義として、つぎの2点を明らかにしています。つまり、飯塚氏は、管理会計に本当に求められているものは何か、ということにくわえ、今まで切り捨てられてしまったような事例にも着目することができるといった点を指摘しています。本研究の貢献として、シンプル管理会計を、企業にとって必要な管理会計をシンプルに表現したものと捉えたうえで、事例の解釈により、シンプル管理会計の視点を示せたこと、および管理会計に対して本質的に何が求められているかという考察に対する糸口を示すことができたと説明されました。
特別講演(2) 小川康氏(インテグラート株式会社 代表取締役社長)
報告論題:DDP仮説指向計画法の意義
第3報告では、不確実な事業から高いリターンを得ることを目的とする経営管理手法である仮説指向計画法(DDP: Discovery-Driven Planning)を取り上げています。具体的には、小川氏のMBA海外留学の経験談も添えながら、DDPの活用実績およびインテグラ―トにおける普及に関する取り組みについて紹介し、DDPの意義について議論を展開しています。DDPの概念について、事業開始前から完了までの計画を練り上げ、その通りの実行を目指すといった従来のマネジメントではなく、まずゴールを設定し、変化に対応しながら軌道修正を繰り返すことによりゴールを目指すという手法であると説明しています。また、事業計画は仮説で構成されていることを確認し、ゴールの達成に必要な条件は外れるものであると受けとめ、その外れに対応して事業計画を柔軟に修正する必要があることを明確にしました。このように、予測の根拠は外れるという現実的な問題を解決するために、DDPは企業内部・外部の変化に迅速に対応する組織プロセスの運用を支援する働きをもつことが紹介されました。DDPは仮説(予測の前提)を外れていくものと考えて、仮説の修正を継続することによって、事業の成功確率を高める手法であるという認識のもと、DDPはインテグラ―トが提供するソフトウェア、コンサルティング、人材育成プログラム等により、多くの日本企業で活用されていることが紹介されました。具体的には、仮説を可視化し、情報共有し、かつ時系列に履歴を取ることによって仮説の変化を示すソフトウェアはマネジメントコントロールやリアルオプションの実践と親和性が高いとしたうえで、ソフトウェアを補完する形でコンサルティングと人材育成研修が行われていると紹介されました。報告の総括として、DDPの意義について、以下の3点がまとめられました。
1.予測に基づく、新たな意思決定を促進する。
2.財務数値の結果報告を待つよりも、対策行動が早くなる。
3.透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みの充実。
以上の議論により、DDPの意義をふまえたうえで、経営管理の範囲を、実績だけでなく予測を含む未来方向に拡張し、不確実な時代に企業の中長期の成長を支援することにあると総括しています。
2021年度第1回フォラームのご案内
日本管理会計学会会員各位
会員各位におかれましては益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。このたび、日本管理会計学会2021年度第1回フォーラムを下記の通り開催の運びとなりました。 皆様におかれましては万障お繰り合わせの上、何卒ご出席賜りますよう、ご案内申し上げます。なお、参加の際は、本フォーラムの感染対策ガイドラインを御遵守頂ければ幸いです。また、準備の都合上、成蹊大学、伊藤克容(jama.forum.2021[at]gmail.com([at]を半角の@に変更してください))までメールで連絡頂けますよう御願い致します。
記
開催日 :2021年度4月17日(土)
会場 :成蹊大学4号館ホール
フォーラム・テーマ:「管理会計研究・実務の新動向」
14:00~ 学会長挨拶
特別講演(1) 14:10~15:00 「カスタマーサクセスとは何か:日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」
弘子ラザヴィ先生(サクセスラボ株式会社代表取締役)
*渡航制限期間のため、録画講演となる可能性があります。
【要旨】
デジタル化時代は、モノ売り切りモデルからリテンションモデルへのシフトが不可逆的に生じます。それにともない「カスタマーサクセス」、すなわち、Who起点の経営が必須となります。今回は、デジタル時代に求められるカスタマーサクセス視点のPL(損益計算書)についての要点をひも解くとともに、現行PLがいかに「有用性喪失」しているかについて、警鐘を鳴らします。
研究報告 15:10~16:00 「シンプル管理会計の研究」
飯塚隼光先生(一橋大学大学商学博士)
【要旨】
本研究では,中小製造業に属する1社の管理会計実践に焦点を当てます。同社は非常に単純な管理会計手法を用いているにも関わらず,厳しい市場環境の中で生き残り続けており,このことがどのように解釈できるのかを検討します。その解として,当該企業においては単純な管理会計こそが最適である,つまり管理会計はシンプルであってもいいという「シンプル管理会計」の概念を提示し,その意義や実践について考察します。
特別講演(2) 16:10~17:00 「DDP仮説指向計画法の意義」
小川康先生(インテグラート代表取締役社長)
【要旨】
DDP(Discovery-Driven Planning)は、不確実な事業から高いリターンを得ることを目的とする経営管理手法です。予測の根拠は外れる、という現実的な問題を解決するために、DDPは企業内部・外部の変化に迅速に対応する組織プロセスの運用を支援します。DDP運用の秘訣は、企画・管理部門と事業部門が質問と説明のエンゲージメントを反復・継続することにあります。経営管理の基礎である予実管理が、「両利きの経営」や「イノベーションのジレンマ」で指摘されている合理的な結果主義をもたらしている状況に対して、DDPを活用した予測管理を重視し、リスク対応力を強化する意義について考えます。
フォーラム参加費1,000円
御問合せ先
jama.forum.2021[at]gmail.com([at]を半角の@に変更してください)
日本管理会計学会事務局
午前中開催予定の諸会議について |
https://www.seikei.ac.jp/university/aboutus/campus_uni/
本案内のPDFファイルは、こちら
2020年度第3回フォーラム・第1回九州部会 開催記
日本管理会計学会2020年度第3回フォーラム兼第1回九州部会は、2020年11月14日(土)13:50~16:20に、長崎県立大学佐世保校にて、対面方式によって開催された。参加者・報告者は全員マスク着用で、適切な距離を確保して着席し、教室も窓やドアを開け放ってしっかり換気できる状態を保ったうえで実施された。研究者、実務家、および長崎県立大学の学部生・大学院生など、50名を超える参加があった。開始に先立ち、大会準備委員長の宮地晃輔氏(長崎県立大学)および伊藤和憲会長(専修大学)からご挨拶があった。
特別講演 北口功幸氏(株式会社亀山電機 代表取締役会長)
論題「株式会社亀山電機のバランスト・スコアカード(BSC)」
社名のゆかりとなった坂本龍馬への熱い思いが語られたのち、亀山電機の概要、沿革、事業内容のご説明、および会社紹介ビデオの上映がなされた。同社は、1996年の創立以来、シーメンスとの取引などにより順調に業績を伸ばしていたが、リーマンショックを契機に、経営計画書(亀山道)やBSCへの取り組みを検討し始め、現在までV字回復を果たしている。2016年に導入されたBSCでは、事業計画や予算と連動させて全社BSCおよび部門BSCを運用している。BSCの狙いは、KPIを持たせ、毎月や四半期のPDCAで数値化した結果や差異を確認することなどにあり、結果は信号色を配したりグラフ化して見やすくし、銀行に提示する経営資料として信用を高めることにも活用されている。BSCを実施しての気づきとして、点でなく線で考えることができること、PDCAのPの力が弱いこと、コロナ禍で人財育成の重要性を再認識したことなどが紹介された。
第1報告 李会爽氏(福岡大学兼任講師)
論題「日本における統合報告の現状―インタビュー調査に基づいて―」
大下丈平氏(九州大学名誉教授)の司会の下、第1報告では、統合報告におけるオクトパスモデルと戦略マップの融合可能性が提言され、統合報告の目的として情報開示だけでなく情報利用も実務において達成されているかどうかに関するインタビュー調査が報告された。統合報告フレームワークが概説されたのち、統合報告に関する先行研究が整理され、統合報告の目的が情報開示と情報利用の2つに集約できることが示された。情報開示に関しては、統合報告書は財務報告書をベースにしながら持続可能性報告書を包括する形で登場したことが指摘された。情報利用に関しては、ステークホルダー・エンゲージメントより得られた情報を経営者が利用し、戦略策定とマネジメントに役立てることが重要であることが指摘された。統合報告書を公表しているA社、DKS社、およびMUFG社に対するインタビュー調査の結果、3社ともステークホルダーへの情報開示目的は果たされていた。一方、情報利用目的では、A社およびMUFG社では情報利用は考慮されていなかったが、DKS社ではステークホルダー・エンゲージメントを通じてマテリアリティの特定に積極的に取り組んでおり、情報利用目的が考慮されていることが指摘された。統合報告における価値創造プロセスの可視化では、オクトパスモデルと戦略マップを融合することによって、使用資本を明示しプロセスの循環性を表現することが可能となるとの提言がなされ、DKS社のデータを用いてオクトパスモデルに戦略マップを組み込んだモデルの適用イメージが紹介された。
第2報告 水野真実氏(九州大学専門研究員)
論題「病院TDABCモデルの開発」
田坂公氏(福岡大学)の司会の下、第2報告では、実在病院のデータを用いて、病院原価計算にTDABC(Time Driven Activity- Based Costing)のアイデアを試行的に適用したモデルの開発とシミュレーション結果が報告された。先行研究のレビューにより、ABC(Activity- Based Costing)の問題点、近年におけるTDABCの展開、および病院原価計算への適用状況が整理されたのち、診療情報が電子的に格納されているDPCデータと多様な時間情報が格納されている手術システムとを連携させて、コスト構成比の高い手術室の人件費を対象として構築されたTDABCの適用モデルが説明された。実在病院の人工膝置換術患者40名をサンプルとし、整形外科医師、麻酔科医師、および手術室看護師の給与の職種別キャパシティ・コスト・レートを算定し、整形外科医師には手術時間を、麻酔科医師には麻酔時間を、手術室看護師には手術室入退室時間を、それぞれ配賦基準として選択して適用した結果、患者別の手術麻酔人件費を測定できると当時に、職種別のキャパシティ利用度を可視化できることが示された。また手術麻酔人件費、手術麻酔差益、および手術麻酔差益率を検証した結果、患者別の収益性が可視化され、手術室を占有している入退室時間が長くなるほど採算性が悪化する傾向が確認されたと同時に、医師別の業務実績分析にも応用が可能であることが提言された。