2024年度第3回フォーラム開催記

流通経済大学 味水佑毅

 日本管理会計学会2024年度第3回フォーラムが、流通経済大学新松戸キャンパスで開催されました。﨑章浩会長の挨拶のあと、特別講演、研究報告が行われました。30名を超える参加者が集まり、特別講演、研究報告ともに活発な質疑応答が行われました。

(﨑会長挨拶)

 はじめに、元味の素株式会社 上席理事 物流企画部長で、現在は公益財団法人流通経済研究所 特任研究員をつとめる堀尾 仁 氏から、「加工食品領域における物流改革」と題して特別講演が行われました。
 講演では、はじめに、加工食品領域の物流に関する課題として、長い労働時間、低い年間賃金による「担い手の数が減っていく」こと、自動車運送事業における時間外労働規制の見直しによる「働く時間が減る」こと、そして、短いリードタイム、長時間待機などによる「加工食品物流は嫌われている」こと、の3つの危機が示されました。それゆえ、従来の延長線上ではない改革が必須であり、“常識”の根本的な見直しが必要であると堀尾氏は指摘します。
 近年では、行政も取り組みを始めており、短期、中長期の両面から議論が進められてきました。そのターニングポイントとして、堀尾氏は2022年度に開催された、国交省・経産省・農水省の3省主催の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」、ならびにメーカー、卸、小売からなる「製配販連携協議会」を挙げています。その後、2023年には「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」における総理指示があり、2024年には改正物流2法が公布され、荷主、元請への監視体制が強化されていることを説明いただきました。
 そのうえで、「現場の危機、行政の動きを直視し、持続可能な加工食品物流を構築するために私たちは、何をすべきか、何をしてきたのか、そして、これから何をしなければならないか」という問いに関し、「個社ごとの改革」「同業他社との連携による改革」「サプライチェーン全体での改革」「行政や業界団体を巻き込んだ改革」のそれぞれの観点から、実体験にもとづく具体的な提言を示していただきました。
 会場からは複数の質問が寄せられたほか、講演後も堀尾氏を囲んでの議論が続くなど、参加者が刺激を受ける講演となりました。

(堀尾 仁 氏による特別講演) 

 特別講演の後、2件の研究報告が行われました。
 はじめに第1報告として、高橋 亮 氏・塘 誠 氏(成城大学)から「高度専門人材の業務委託における管理会計上の課題-IT・コンサル業を対象としたプリサーベイ-」と題して報告いただきました。
 本研究は、近年、専⾨スキルを持つ⼈材への需要の増加、副業・フリーランスの増加、フリーランスに対する指揮命令権の欠如などを背景として、外部委託の管理会計上の課題に関する仮説を設定することを目的として取り組まれています。本研究では、特に、IT/コンサル業を対象とした分析がおこなわれています。
 具体的には、組織間マネジメント・コントロール、フリーランス、業務委託先選定、委任契約と指揮命令権に関する先⾏研究のレビュー結果を示したうえで、インタビュー調査、質問紙調査にもとづく相関分析等を通じて導出、設定した仮説について説明されました。
 設定された仮説は、業務委託先の管理(3項目)、オンライン化と委託先の管理(2項目)、取引相⼿の選択(6項目)の計11項目であり、今後予定されている本調査での分析が期待されます。

(高橋 亮 氏による研究報告)

 つぎに第2報告として、小村 亜唯子 氏・平井 裕久 氏(神奈川大学)から「職場のダイバーシティがマネジャーの予算スラック創出行動に与える影響」と題して報告いただきました。
 本研究は、「マネジャーによる予算スラック創出額」の抑制に関する問題意識にもとづくもので、特に、「マネジャーと部下との関係が、マネジャーの予算スラック創出行動に及ぼす影響」について明らかにすることを目的として取り組まれています。
 具体的には、Church et al.(2012)、Beuren et al.(2015)などの先行研究がレビューされたのち、その成果と課題の整理から、上述した研究目的を導出するとともに、「予算スラックからの利益の、部下と共有の有無」「部下の性別による差異」に関する2つの仮説を設定したうえで、ケースシナリオによるオンライン実験に取り組まれています。
 分析結果からは、仮説のうち、「部下と共有の有無」に関して有意差が見られました。また、「部下の性別による差異」に関しては、追加分析も実施され、「部下の性別が職場におけるマイノリティである状況」の下で、有意差が見られました。
 今後の再実験、実験シナリオの修正をふまえた研究の発展が期待されます。

(小村 亜唯子 氏による研究報告) 

2024年度第2回関西・中部部会 開催記

2024年12月1日 藤原靖也(和歌山大学)

 日本管理会計学会2024年度第2回関西・中部部会が、2024年11月23日(土・祝)に和歌山大学(栄谷キャンパス)を主催校として開催された(準備委員長:藤原靖也)。今回の部会も、対面とWeb(Zoom)を活用したハイブリッド開催となった。
 部会の開催にあたり、まず、部会準備委員長から部会当日のプログラムや進行方法に関する説明があり、続いて、徳崎進関西・中部部会長から初めての和歌山県での開催となり喜ばしく思うというお気持ちを含め、開会のご挨拶をいただいた。
 その後、プログラムにしたがって、特別講演1件および自由論題報告2件の発表がなされ、活発な質疑応答が行われた。参加者は40名(対面12名、オンライン28名)であった。以下、特別講演、各報告の概要を簡単に紹介する。

※会員の皆様へのご案内から部会開催までの間において、第一部【特別講演】における安本卓史氏がINAC神戸レオネッサを正式に退団されたとの報告がありました。そのため、講演者欄のINAC神戸レオネッサに関する役職欄を前代表取締役社長と訂正させて頂いております。

第一部〔特別講演〕司会:藤原靖也(和歌山大学経済学部 准教授)
講演者:安本卓史 氏(ヴィッセル神戸元常務取締役・INAC神戸レオネッサ前代表取締役社長・日本女子プロサッカーWEリーグ初代理事)
講演テーマ:「前例がないことをやってみる」

 特別講演では、ヴィッセル神戸元常務取締役・INAC神戸レオネッサ前代表取締役社長・日本女子プロサッカーWEリーグ初代理事の安本卓史氏より、特に発展途上であった女子サッカークラブ業界の現状とクラブ経営における諸課題を克服するための様々な取り組みを中心としてお話を頂いた。
 安本氏は女子サッカークラブINAC神戸レオネッサの運営において①メディアへの訴求、②ビジョンと目標の共有・浸透、③多様性を重視するための施策等に関して様々な問題意識を有しており、代表取締役就任後はそれぞれの課題について、「前例がないこと」を積極的に行いつつ、クラブ改革に着手した経緯と具体的な施策およびその効果につき講演された。

 まず、安本氏はとりわけスポーツの発展を考えたとき「メディアに発信し続けてもらえないスポーツは関心事にならず当該スポーツ業界の発展に寄与できない」という点が課題であると強く認識されていると述べられた。そのために安本氏自身も積極的にメディアに関与しつつ、「前例がないこと」として、例えば、著名なデザイナーを起用したチーム・ユニフォームの変更、チーム・フラッグへのこだわり、資金調達を通じたわが国有数の競技場である国立競技場での女子サッカー初の決勝戦の実現など、メディアへの関心を引く様々な取り組みを積極的に行ってきた旨お話があった。
 次に、チーム内のビジョンと目標をいかにプレーする選手たちに共有・浸透するかというマネジメントにおいて重要な点についても詳細にお話がなされた。「ビジョンを示すだけではチームは動かない」との認識のもと、例えばチーム発展の先行指標となりうるメディアへの訴求効果を独自の方法を用いて測定され、結果指標として入場者数や収益・費用額の推移などを把握し、どちらも全選手に共有していたことも説明された。また、「全選手に現状を伝えるとともに、今後の方針を選手にも考えてもらう」ことも重視されており、上述の各指標等をもとに、INAC神戸レオネッサの体制強化と改善の方策につき選手も巻き込んで検討されていたことも述べられた。それらの成果として、チームの運営体制も強固となり選手のエンパワメントの向上につながったと述べられた。
 また、「サッカーといえば男子サッカーが先行していた状況下において、女子サッカーの発展にとって多様性の重視は不可欠である」、との認識のもと、それを達成するための取り組みも紹介された。例えば刺激に対して過敏なファンに配慮するための「センサリー・ルーム」を日本で初めてスタジアムに設置するなどの取り組みも紹介がなされた。
 講演後は、ビジョンの共有・浸透に対して、各種の先行指標・結果指標のサッカー選手に対する活用方法―具体的には共有する情報の範囲、また責任を持たせる範囲についての質問や、国立競技場での資金調達が可能であった要因、数値による管理に反発を生まない形で組織構成員に経営管理上の課題を共有しエンパワメントを促すための仕組みをどのように構築したのかどに関する質問があり、時間を余すことなく、活発な質疑応答が行われた。

第二部〔研究報告〕司会:井上秀一(追手門学院大学経営学部 准教授)
第1報告
報告者:下田卓治 氏(旭川市立大学経済学部 准教授)
論 題:「えるぼし認定と企業特性および企業価値の関係」

 本研究報告では、職場におけるダイバーシティの重要性を背景としつつ、とりわけ女性活躍促進のための施策の実効性が十分に検討されていないことを問題意識とした研究結果が報告された。

 本研究では、女性活躍推進のための施策は組織としても成長を促す要因であると認識され、組織を取り巻くステークホルダーも着目していることをまず指摘した。一方で各種の施策の実効性に研究の余地があることを問題とし、女性活躍促進の証として厚生労働省が認定する「えるぼし認定」の効果を例に取り、先行研究のレビューを踏まえ2つの仮説が提示された。
 報告者は、第1に女性登用とその開示に関する先行研究のレビューの結果を踏まえ「えるぼし認定と企業特性の間には有意な関係性は見られない」との帰無仮説を設定した。第2に、企業価値との関係においては女性従業員の活躍による効果を先行研究のレビューにより整理したうえで、女性の活躍促進が企業価値の向上に正の影響を与える可能性が提起され、「えるぼし認定を取得した企業の企業価値は取得していない企業の企業価値よりも高くなる」との仮説が設定された。
仮説検証に用いられるデータは東京証券取引所に上場している企業のアーカイバル・データが用いられ、仮説1の検証に関してはロジスティック回帰分析により行われた。仮説2の検証に関してはえるぼし認定の前後で企業価値に変化が生じるかにつき、企業価値の代理変数としてトービンのQを用いたDID(Difference-in-Differences Analysis)により検証がなされた。
 統計分析の結果、①規模が大きく、独立社外取締役比率が高い企業はえるぼし認定を取得する傾向が高いこと、②えるぼし認定の取得と企業の企業価値の間には正の関係にあることが確認された一方、その効果は長期にわたって継続するものではなく一過性であることが確認されたことが報告された。
 質疑応答では、仮説1と仮説2の連関性や仮説2の検証における推定式の妥当性などについて活発な議論がなされた。

第2報告
報告者:中島宏記 氏(京都大学経営管理大学院 大学院生)
論 題:「ガバナンスの変更を前提とした企業再生下で適用されるMCSを検討する上で有効なフレームワーク」

 本研究報告では、企業再生の場面においてはガバナンス体制の変更が多く見られる中でマネジメント・コントロール・システム(以下、MCS)がいかなる役割を果たすかを検討する重要性に触れたうえで、その端緒としていかなるフレームワークを用いることが有益であるかを議論した理論的検討の成果が報告された。

 報告者は、まず事業再生およびガバナンス変更の範囲について触れたうえで、管理会計研究において提唱されてきたフレームワークを分析する前提として3つの要因を指摘した。それらは、①経営環境の不確実性が増大すること、②組織構造の変化を伴うこと、③旧経営者・新経営者の利害関係者としての位置づけが変化することの3点である。
 次に、本研究はそれらに基づきAnthony(1965)のフレームワーク、Simons(1995)のフレームワーク、およびMalmi and Brown(2008)のコントロール・パッケージ論が事業再生とどの程度の親和性を有するかを検討した結果が報告された。
 具体的には、第1にAnthony(1965)のフレームワークには組織階層に関する前提や変化の激しい環境への適応性を検討するためには不十分な点が多いものの、企業再生の場面を想定すると、目標整合性の観点からは企業再生計画の遂行に資する示唆は大きいのではないかという提言がなされた。第2にSimons(1995)のフレームワークには創発戦略およびダブル・ループ学習の概念が内包されている点、また、双方向型のコントロール・レバーは不確実性や組織構造の変化への対処および戦略変更を伴う企業再生を検討するための適用可能性を有している点から、Simons(1995)を用いて検討すると得られる示唆は大きいのではないかという指摘がなされた。第3にMalmi and Brown(2008)のコントロール・パッケージ論はMCSのデザインを主な問題としているものであり、企業再生という場面においてはそれらが変わりゆく点において不確実性への対応を検討するための分析枠組みとしては適していない可能性があることが指摘された。
 報告者は、以上検討の結果としてガバナンス体制の変更を伴う事業再生を検討する際は、不確実性・組織構造の変化等を内包しているSimons(1995)のフレームワークを用いることが適しているのではないかと結論付けた。
 質疑応答においては、事業再生の場面においては管理会計ツールの変更・刷新が企図される場面が多く、フレームワークの検討以前にそれらのツールの効果性を検討する有用性に関する言及とそれへの応答など、活発な質疑応答が行われた。

CIMA会長(Simon Bittlestone氏)との会談について

日本管理会計学会会員の皆様へ

 2024年11月14日(木)、京都アカデミアフォーラム in 丸の内(京都大学東京オフィス)にて、CIMA(Chartered Institute of Management Accountants)の会長であるSimon Bittlestone氏(CIMA会長兼協会議長)、Vicky Li氏(副会長、北アジア担当)、Sue Zhang氏(戦略的パートナーシップ、日本及び北アジア担当)と会談の機会を設け、当学会の﨑章浩会長(東京国際大学)と今後の協力関係について意見交換を実施したことをお知らせいたします。

 当日の会談には、﨑会長に加えて、日本原価計算研究学会会長澤邉紀生氏(京都大学)、当学会伊藤克容副会長(成蹊大学)も参加されました。日本国内における、管理会計、原価計算関連の主要な学会の活動状況を確認するとともに、CIMAとの協力関係の在り方について議論がなされました。

 今回の会談を契機に、当学会の活動がさらに活発化し、会員の皆様が一層の成果をあげられますよう、引き続き努力してまいります。

2024年度第2回(第67回)九州部会開催記

2024年10月26日(土)13:50~17:00

■■ 日本管理会計学会2024年度第2回(第67回)九州部会が、2024年10月26日(土)に、佐賀大学本庄キャンパス(佐賀市)にてハイブリッド方式で開催された(準備委員長:佐賀大学教授・⻆田幸太郎氏)。準備委員長のご挨拶の後、特別講演および研究報告がおこなわれた。対面参加・オンライン参加合わせて40名を超える研究者や実務家の参加を得て活発な質疑応答がおこなわれた。

⻆田氏

 

■■ 特別講演は、岐阜麦酒醸造合同会社社長の平塚悟氏により、「ゆっくりつながるクラフトビール醸造所とTap Room YOROCA創業」と題しておこなわれた。平塚氏は、準備委員長の角田氏と北海道大学の同期で、製薬会社の営業職として勤務する傍ら、兼業として、郷里である岐阜でクラフトビール醸造所兼バー(https://gifubeer.com/)を起業された。岐阜の観光名所にちなんだ各種の定番ビールや岐阜大学などとの共同開発のコラボボールなどが人気を博している。その動機は地元岐阜の地域とつながり地域に根差す事業を起こしたかったこと、岐阜で最も人が集まる神社の参道に立地して地域経済の活性化や地域人材の活用・育成に貢献していること、起業にあたり会計関連では苦労したので素人にも分かりやすい会計の開発を期待していること、などをお話しされた。

平塚氏

 

■■ 研究報告の第1報告は、加藤典生氏(大分大学教授)・小林英幸氏(SBI大学院大学教授)により、「トヨタ自動車における原価企画の現状と課題―行動的原価企画の視点から―」と題する報告が行われた。従来の会計主導の原価企画研究ではブラックボックスとなっていたエンジニアの原価低減活動に焦点を当てた行動的原価企画研究の必要性を主張され、トヨタ自動車へのインタビューの結果、「面戦略」への移行により先頭車でじっくり時間をかけて後続車では開発負荷が軽減してきていること、従来の設計室別・部品別の目標原価割付から2段階前の「領域別目標割付」に移行することで、領域内での原価割付に設計室が参加できることの動機付け効果が発揮されていること、設計者個々人が出し惜しみするスラックをコストエンジニアが見抜くために原価見積の精度をより高めることが課題となっていること、などを論じられた。

小林氏(左)・加藤氏(右)

 

■■ 研究報告の第2報告は、宮地晃輔氏(長崎県立大学教授)により、「中小企業者に対する伴走型支援による管理会計能力の定着に向けた実践」と題する報告が行われた。中小企業庁等が2023年に公表した経営力再構築伴走支援ガイドラインを受けて、中小企業の経営者・管理者・従業員の管理会計能力の定着に、大学等の管理会計研究者が伴走者としてどのように貢献できるかという課題に対するアクションリサーチの成果を報告された。リサーチサイトとなった製造業A社に、宮地氏が顧問として就任し、経営会議や社長会などの場で、月次の予算差異分析を指導した結果、差異分析結果にもとづいてPDCAサイクルを回せる管理者が徐々に増えていったプロセスが紹介された。今後の課題として、管理会計能力が定着した管理者が、経営会議等には出席しない一般従業員に対して管理会計能力を伝承していく風土作りを挙げられた。

宮地氏

 

■■ 次回の九州部会は2025年5月に開催予定である。

 

文:丸田(九州大学)、写真:⻆田(佐賀大学)