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2014年度 第2回 フォーラム開催記

■■ 日本管理会計学会2014年度第2回フォーラムが、2014年7月26日(土曜日)に首都大学東京南大沢キャンパス国際交流会館において開催された。細海昌一郎氏(首都大学東京)の司会のもと、濱村純平氏(神戸大学大学院博士後期課程)、山本宗一郎氏(首都大学東京大学院博士後期課程)、伊藤武志氏(株式会社価値共創)、奥村雅史氏(早稲田大学商学学術院)の各氏から報告が行われた。いずれの報告もフロアから活発な質問や意見があり、有意義な議論がなされた。その後、国際交流会館内のレストランに場所を移して懇親会が行われ、盛況のうちに散会となった。各氏の報告の概要は以下のとおりである。

■■ 第一報告 濱村純平氏(神戸大学大学院博士後期課程)
論題:Subsidiary management using multinational transfer pricing

 最初に、国際移転価格に関する先行研究を紹介した上で、この研究領域に関する課題を挙げて本研究の発展的意義を述べている。本研究では、特に、生産ラインが重なっている場合に市場で競争を行う企業がどのような国際移転価格を選択し、それ通じて在外子会社の戦略をコントロールするかについて、モデル分析を行っている。本研究では、最適反応関数を得るようなモデルを採用しているが、バックワードインダクションという手法を用いて、第3段階から遡ってモデル分析を行い、第1 段階の両企業の意思決定について考察している。モデル分析の結果、まず、海外市場を同時手番にした場合に非対称均衡が存在し、異なる国際移転価格、数量を選択するという命題が得られたと報告している。また、国内市場と海外市場で競争を行っている企業が混雑コストを考慮すると、両社が棲み分けを狙うような国際移転価格をつけ在外子会社の戦略を間接的にコントロールすることが示された。すなわち、企業が市場で数量競争を行っている際に、国内市場と海外市場で棲み分けを狙うような国際移転価格をつけ、在外子会社をコントロールすることが示された。 今後の研究課題として、逐次手番の分析と税金も考慮した分析を行うとしている。

■■ 第二報告 山本宗一郎氏(首都大学東京大学院博士後期課程)
論題:国際比較による会計情報の価値関連性に関する研究

 国際的なIFRS導入の流れに従って、わが国でも包括利益が採用されたが、本研究は、包括利益と純利益の価値関連性について研究を行っている。最初に、価値関連性に関する先行研究を紹介した上で、本研究では、先行研究を発展させ、時系列データを用いたパネルデータ分析を行っている点、北米、ヨーロッパ、オセアニア、日本、アジアにおける上場企業の国際比較を行っている点が特徴であることが示された。パネルデータ分析の結果、純利益と包括利益の説明力は、北米、ヨーロッパ、オセアニア、日本、アジアの各地域で有意な結果を示している。国際比較の結果、仮説の通り、欧米では包括利益の方が説明力が高くなった。また、日本においては、純利益の方が説明力が高かったが、Wald検定を用いたBSS testの結果、純利益と包括利益のBSS統計量の値との間に大きな差異は見られなかった。加えて、日本では「その他包括利益」に関する増分情報が、有意な結果であったことが示された。本研究の分析結果は、包括利益の一本化が叫ばれる中で、包括利益の有用性だけでなく、純利益の有用性も示しており、国際的な流れに一つの疑問を投げかけることになると主張した。

■■ 第三報告 伊藤武志氏(株式会社価値共創)
論題:顧客価値ベースの人間尊重経営の実現に向けて

 最初に、伊藤氏は、顧客に対して価値があることとは何かを問いかけた。それに関連して、定量的・定性的な組織目標を組み込むことで、顧客価値を伴った財務価値を生み出すことが重要であると指摘した。その上で、ビジョン・戦略としての顧客価値として、顧客価値の雛形、戦略キャンバスによる価値曲線を図示し、視覚化することを提案している。また、顧客価値が作られる体験のストーリーにより、具体的な顧客に価値が生まれるシーンを疑似体験することによって、顧客価値の創造を理解し改善しやすくなるとしている。さらに、定性的表現を伴う相対的目標を設定することにより、達成したい重要な内容を表現でき、目標が明確化することで、環境変化への対応、戦略的な優位性を示せるとしている。顧客価値のビジョンは、具体的な顧客価値とその裏づけを作ることであり、もし素晴らしい顧客価値のビジョンができれば、財務的な成功と人間を尊重できる経営を維持できる裏付けとなるとしている。以上から、継続的に向上しつづける顧客価値を創造し提供することが、企業の組織成員にとって自信となり、誇りとなり、モチベーションとなる。これが企業におけるより高次の顧客価値ベースの人間尊重経営の実現の姿となると結論付けた。今後の研究課題として、具体的な実証研究による企業事例研究、アクションリサーチによる研究の必要性を挙げている。

■■ 第四報告 奥村雅史氏(早稲田大学商学学術院)
論題:利益情報の訂正と会計情報の信頼性

  本研究は、わが国における利益情報の訂正実態と株式市場に対する利益訂正情報の影響ついて報告している。まず、利益情報の訂正実態については、経常的な企業業績に関連する訂正が多いことを指摘している。次に、利益訂正企業の株価反応に関する分析では、利益訂正額が大きく、訂正対象の範囲が広いほど、株価へのマイナスの反応が大きいこと、意図的な虚偽記載、証券取引等委員会の指摘による場合、マイナスの反応を示すことを明らかにした。また、利益訂正の情報移転分析では、利益の質は運転資本発生項目額が大きいほど伝播効果が強く、投資発生項目額が大きいほど伝播効果が弱いこと、その他、新興市場の場合は伝播効果が強いこと等を明らかにした。最後に、原因別分析では、意図的な虚偽表示であったかによって、結果が大きく異なっていると報告している。特に、意図的な虚偽表示のケースでは、それを原因とした利益訂正が会計情報の信頼性へ影響を与えており、市場が意図的な虚偽記載の発生可能性を評価しているのではないかと述べている。以上から、(1)情報移転は、競争効果ではなく伝播効果が支配的である。(2)利益の質が低い(会計利益とキャッシュフローの差が大きい)場合、市場による利益計上のプレッシャーが強い場合、新興市場の上場企業である場合、競合企業における株価への伝播効果が強い。(3)伝播効果は、主に、意図的な虚偽記載を原因とする利益訂正において生じると結論付けた。

フォーラム実行委員会委員長  細海昌一郎(首都大学東京)

2014年度年次全国大会開催記

統一論題「環境、社会およびガバナンスに対して管理会計はどう向き合うか?」

■■日本管理会計学会2014年度全国大会は、平成26年9月11日(木)から13日(土)の3日間、青山学院大学青山キャンパスにおいて開催された(実行委員長:小倉昇氏)。11日には、学会賞審査委員会、常務理事会、理事会、理事懇親会が開催された。12日は、午前9時30分から6会場に分かれ、計22の自由論題報告が行われた。午後には、会員総会、特別講演に続き、統一論題報告が行われた。統一論題報告終了後、午後6時すぎより、アイビーホールにて会員懇親会が開催された。翌13日は、午前9時30分から5会場に分かれ、計19の自由論題報告が行われ、これと並行して、スタディ・グループと産学共同研究グループによる中間報告が行われた。午後には、統一論題の討論が行われた。

■■プログラム 2014年度 年次全国大会プログラム(PDF形式)

■■学会賞
■特別賞 上埜進氏
■文献賞 諸藤裕美氏『自律的組織の管理会計:原価企画の進化』
■論文賞 鈴木研一氏・松岡孝介氏「従業員満足度、顧客満足度、財務業績の関係-ホスピタリティ産業における検証-」『管理会計学』2014年、第22巻第1号。

■■特別講演
11日午後2時30分より、玉川基行(株式会社玉川堂(ぎょくせんどう)代表取締役社長)氏による特別講演が行われた。演題は「伝統とは革新の連続-変わらないために変わり続ける-」である。
玉川氏は、まず、玉川堂が手掛ける鎚起銅器(ついきどうき)について説明された。鎚紀銅器とは、銅を金槌で打ちおこしながら作り上げていく器であり、1816年の創業以来、約200年にわたって伝統技術を受け継ぎ、優れた製品を生産している。玉川堂の鎚起銅器は、国内外で高い評価を受けており、文化庁より「無形文化財」に、経済産業大臣より「伝統工芸品」に指定されている。
次に、玉川氏が入社してから取り組んでこられた経営改革について説明された。玉川氏が1995年に入社したとき、玉川堂は、バブル経済崩壊により、売り上げが最盛期の3分の1にまで減少していた。そこで、従業員を半分解雇するとともに、経営改革に着手した。贈答品や記念品に依存した商品構成を見直し、付加価値の高い製品の生産に注力するとともに,流通改革に着手した。
玉川氏は、最後に、「伝承」と「伝統」の違いについて述べ、講演を締めくくった。「伝承」とは先代の技を受け継ぐことであるのに対し、「伝統」とは、先代の技を受け継ぎ、最新のマネジメントによって革新を連続させていくことである。そして、変えるべきもの(経営)と変えるべきでないもの(技術,精神)を明確にすることが重要であるとのことであった。
玉川氏による経営改革は、まさに「伝統とは革新の連続」を体現したものであると、講演を拝聴して実感した。

■■統一論題報告
特別講演終了後、大下丈平氏(九州大学)を座長として統一論題報告が行われた。テーマは、「環境、社会およびガバナンスに対して管理会計はどう向き合うか?」である。報告は、地域産業の競争力向上に向けた管理会計の取り組み、資本市場との関わりを重視した管理会計のアプローチ、企業の社会性・人間性を重視したガバナンスの下での統合報告と管理会計の役割についてのものであった。なお、報告の概要は報告者から頂いたものである。

■統一論題報告(1):宮地晃輔氏(長崎県立大学)
「地域造船企業における戦略的原価管理による採算性改善・競争優位に関する研究―国内A社造船所の実践と日本・韓国造船業の動向の視点から―」

本報告では、国内造船の準大手であるA社造船所(以下、A社と称す)が取り組んできた戦略的原価管理としての原価企画および日本・韓国造船業の動向の視点から地域造船企業の採算性改善・競争優位に関する論究が展開された。
新造船事業はたとえば造船企業としてのA社1社で成り立つものではなく,具体的には鉄鋼メーカー(原材料の供給者)-造船企業(A社など)-地元協力先企業(鋼材の切断、溶接、塗装などを担う地元の製造業)のサプライチェーンで成り立っている。このことから地域造船企業の新造船事業の競争力を高めるためには、当該サプライチェーン全体の観点から中国・韓国に対する競争力向上の視野を持たなければならないことが指摘された。
本報告における研究目的を達成するための研究方法として当該サプライチェーンの参加者に対するインタビュー調査が用いられ、当該調査の結果およびそれに対する分析を基礎にして論究が行われた。具体的には、鉄鋼メーカーに対する調査は、国内大手鉄鋼メーカーの海外営業担当者に行われている。造船企業に対しては、A社および有力造船企業B社に対して調査が行われている。地元協力先企業に対しては、A社の地元協力先企業の経営者に対する調査が行われている。一方、日本の造船業の競争国である韓国造船業の動向に関しては、韓国造船関連企業2社に対して調査が行われている。

■統一論題報告(2):今井範行氏(名城大学)
「「デュアル・モード管理会計」と資本市場―利益管理の「短期化」に関する一考察―」

本報告では、近年の企業経営における「中長期」と「短期」の視点の対立関係をマネジメント・コントロールのパラドックスの一側面として捉え、「中長期」と「短期」の視点のパラドックスをバランス化させる方策について考察した。TPS(トヨタ生産システム)に代表される製造業の経営システムが、「中長期」視点の重視によりその優位性を実現する一方、前世紀末の株主価値経営の登場と興隆を契機に、企業経営における利益管理の「短期化」が進行している。株主価値経営が利益管理の「短期化」に繋がる背景の一つとして、資本市場における株式価値評価の理論と実務がある。すなわち、割安株(低PER株)やサプライズ効果(好決算)が期待される株式を探求する機関投資家の日常的な投資行動が、当該投資家と企業との相互作用としてのインベスター・リレーションズ(IR)活動を媒介として、企業経営における利益管理の「短期化」に繋がる。このような「中長期」と「短期」の視点の対立関係(逆機能)を経営システムにおいていかに統合関係(順機能)に導くかは、現代の企業経営とりわけ製造業のマネジメントにとっての重要課題の一つであり、そのためのアプローチとして、?新たな株式価値評価指標としての「潜在株価収益率(Potential PER)」の導入、?「デュアル・モード管理会計」の2点が展望される。

■統一論題報告(3):内山哲彦(千葉大学)
「企業の社会性・人間性と企業価値―統合報告と管理会計の役割―」

本報告では、持続可能な企業価値創造に向けた、多様なステークホルダーを前提としたコーポレート・ガバナンスにおける統合報告ならびに管理会計の役割と課題について検討した。近年、企業活動におけるESG要素や、経済価値だけでない企業価値(社会性・人間性)が強調される。コーポレート・ガバナンスは、株主によるガバナンスを通じて経済価値(株主価値)を追求する「古典的モデル」と、多様なステークホルダーによるガバナンスを通じて多元的な価値を追求する「多元主義モデル」を対極とする。統合報告は、投資家を中心としたガバナンスにより、持続可能な企業価値創造のために広く社会価値(他者にとっての価値)も考慮した企業価値を追求する「洗練された株主価値モデル」に向けた運動と位置づけられる。したがって、現行のコーポレート・ガバナンスの類型が異なることで、統合報告の役割や課題の内容・大きさが異なる可能性が指摘できる。他方で、統合報告には、経済価値につながらない社会価値などが考慮から除外される可能性などに課題が見出される。また、統合報告の実施にかかわりの深い管理会計として、BSCやバリューチェーン、インタンジブルズ、環境会計(MFCA)などがあげられ、管理会計にも、外部報告と内部報告の整合化・一体化や、統合思考の醸成といった課題が指摘できる。

■なお、次回の日本管理会計学会年次全国大会は、近畿大学にて開催される予定である。

青山学院大学 山口直也

2014年度 年次全国大会プログラム(改訂版)

会員各位

会員の皆様にはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
日本管理会計学会の2014年度全国大会まであと3週間を数えるばかりになりました。皆様をお迎えする準備も着々と進んでおります。
7月末にWEB上と郵送とでお知らせしましたものから、プログラムに一部変更がありますので、改訂版を上げさせていただきます。
また,公認会計士協会からCPE研修の単位授与の認定をいただきました。自由論題の研究報告については、9月12日・13日それぞれに3単位、統一論題の研究報告には2単位、討論会には2単位をCPEの単位とすることができます。

多数の皆様が参加していただけますようお待ちいたしております。

■■プログラム(改訂版)
2014年度 年次全国大会プログラム(PDF形式)

日本管理会計学会2014年度全国大会実行委員会 委員長 小倉 昇

2014年度 第2回(第43回)九州部会 開催記

kyushu2-0.JPG■■ 日本管理会計学会2014年度第43回九州部会が、2014年7月26日(土)に九州大学(福岡市箱崎)にて開催された(準備委員長:大下丈平氏(九州大学教授))。今回の部会では、九州以外に関西・中部・関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。

■■  第1報告は、角田幸太郎氏(別府大学講師)より、「英国プロサッカークラブにおける人的資源の会計と管理の事例研究」と題する研究報告がなされた。報告は、プロサッカークラブの人的資源の測定・評価の先行研究(Morrow(1992)、Risaliti and Verona(2013)など)が財務会計の分野が中心であることを指摘した上で、人的資源に関する管理会計/マネジメント・コントロールの側面からの分析を目的としたものである。報告は文献研究のほか、英国・日本のプロサッカークラブへのヒアリング調査に基づいたものである。2014kyushu2-1.JPG
報告では、(1)英国プロサッカークラブでは、企業外部に向けて積極的に選手価値の会計と開示を行っており、選手の移籍金を巡る1995年のボスマン判決以降、その評価方法に変遷が見られること、(2)Oxford United FC Ltdや(株)大分フットボールクラブへのヒアリング調査から、選手の業績評価システムと給与査定システムの実態や相互関係の情報を得ることができたことが明らかにされた。

■■ 第2報告は、黒瀬浩希氏(九州大学大学院博士後期課程)より、「グループ子会社におけるCSRマネジメント・コントロールの事例研究」と題する研究報告がなされた。本報告は、グループ子会社(飲料製造・販売グループの物流子会社X社)におけるCSRマネジメント・コントロールについての事例研究である。具体的には、Epstein and Roy(2001)やDurden(2008)、細田・松岡・鈴木(2013)の先行研究をグループ子会社に適応した場合、フォーマル・コントロールシステム(FCS)やインフォーマル・コントロール・システム(ICS)にどのような影kyushu2-2.JPG響が生じるかを明らかにしたものである。
報告では、(1) Epstein and Roy(2001)のSLiM(サステナビリティ・リンケージ・マップ)分析は、グループ子会社においてもサステナビリティ業績と財務業績の双方を向上させる有効な手段となりうること、(2)FCSにおいて指標化が困難な「コンプライアンス」や「リスク管理」といったCSR業績は、研修や人権学習などのICSを通じて補完されていることが明らかにされた。

■■ 第3報告は、木村眞実氏(沖縄国際大学准教授)より、「自動車静脈系サプライチェーンへの試案MFCA」と題する研究報告がなされた。本報告は、自動車の静脈産業(使用済自動車の解体・製錬を行う業者)に試案MFCA(マテリアルフローコスト会計)を適応することで、廃棄物の削減と資源の有効利用につなげる生産プロセスの検討を目的としたものである。具体的には、使用済自動車の付着物ワイヤーハーネスに解体加工を施すプロセスに試案MFCAを適応し、そのプロセスの「見える化」を図ろうとしたものである。kyushu2-3.JPG
報告では、(1)使用済自動車(ELV)の組成データは自動車メーカーからは開示されていないため、静脈産業にインプットされる製品が資源として有効利用できるかどうかは実証試験を実施しないと判断は難しいこと、(2)しかしながら、静脈産業にとって、生産プロセスにおける物量情報と金額情報が提供できるMFCAは有用なツールとなり得ることが明らかにされた。

■■  第4報告は、西村明氏(九州大学名誉教授)より、「企業経営戦略とリスクマネジメント」と題する研究報告がなされた。報告は、企業が抱える様々なリスクの態様を、経営活動全体の中に位置づけて管理するために、管理会計がどのように貢献することができるかを明らかにしようとしたものである。
報告では、リスク管理の手順と構造を、フィードバック統制とフィードフォワード統制の側面で分析することで、利益機会kyushu2-4.JPGの開発・実現から企業価値創造に向かうプロセスが明らかにされた。その上で、リスクを経営管理全体の中に位置づけるためには、戦略リスク・経営財務リスク・業務リスクそれぞれに対応したリスク対応が必要であり、そのためにはリスク尤度と期待損失額の関係でリスク態様を描き、そのリスクの経営対応を具体的に検討する。報告者は以上のプロセスを、企業が実際に抱えるリスク問題と関連させながら明らかにしている。

■■ 研究報告会の後、総会が行われた。総会では、前年度の会計報告と今年度の九州部会開催の議題が出され、双方とも承認を得た。また、次回の九州部会は、11月22日に西南学院大学にて行われることが情宣された。

下関市立大学 足立俊輔

2014年度 第1回 フォーラム開催記

■■ 日本管理会計学会2014年度第1回フォーラムが2014年4月26日土曜日に早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて開催された。今回のフォーラムでは『日本企業における企業価値創造経営』というテーマで研究報告が行われた。辻正雄氏(早稲田大学)司会のもと、第1部では佐藤克宏氏(McKinsey&Companyプリンシパル)、花村信也(みずほ証券執行役員)、柳良平(エーザイ執行役員)の3組が講演され、第2部では淺田孝幸氏(立命館大学)をディスカッサントに佐藤克宏氏、花村信也氏、柳良平氏の3名によるディスカッションが行われた。いずれの報告およびディスカッションもフロアから活発な質問や意見があり、有意義な議論がなされた。その後、場所を移して懇親会が行われ、散会となった。各先生方の報告の概要は以下のとおりである。

■■ 第一報告 佐藤克宏
「企業価値創造の理論と経営における実践の融合
ー企業オペレーションとM&Aにおける最近のトピックを中心にー」2014forum1-1.JPG

佐藤氏は企業価値がROICとキャッシュフロー成長率のバランスにより異なることを示された。そして、ROICと売上高成長率の傾向を観察し、売上高成長率に比べてROICの方が長期にわたり持続性がみられることを指摘された。このことから、企業経営の現場でも企業のオペレーションによる企業価値向上が重要であることを示された。次に佐藤氏は、M&Aによる企業価値創造について論ぜられた。M&Aによる買収価格は、理論的には、将来創造されると考えられる価値を売り手と買い手に分けた後、その売り手側の取り分に現状の延長線上の企業価値を加えたものである。そのため、買収を通じて企業価値を創造する場合、業績改善を通じた被買収企業側の大幅な価値向上が必須となる。しかし、そもそも日経企業は、M&A検討段階からの詰めが甘いことにより、買収後のマネジメントよりも以前に、買収価格の「払いすぎ」という落とし穴に陥っていると指摘された。

■■ 第二報告 柳 良平
「企業と市場のダイコトミー緩和に向けた処方箋の理論と実践
ー「企業価値評価」にフォーカスしたアプローチー」2014forum1-1.JPG
柳氏は、日本の株式市場の長期低迷の原因は企業と投資家との間のダイコトミーにあると指摘し、日本企業の長期株主価値向上への指針を提示された。柳氏は、日本の株式市場の長期低迷は、世界的にみても低いROEに加え、ガバナンスの不備やディスクロージャーの質・量を原因とした資本コストに起因していると述べられた。そして、これらの本質的な原因には、日本企業の経営者と投資家との間の意識の違いがあり、日本の経営者が安定配当思考なのに対して、投資家は資本効率を重視していると指摘された。柳氏は、この解決策として、エーザイを例に長期的な企業価値創造の財務戦略を述べられた。同社はROE経営を前提に配当政策を立案し、積極的な戦略投資にVCIC(Value-Creative Investment Criteria)を導入することで常に株主価値創造を担保した企業運営を行っている。柳氏は長期的株主価値の向上のためには、VCICのような株主価値を担保する基準による積極的な戦略投資が重要であると述べられた。

■■ 第三報告 花村信也
「M&Aによる企業価値創造とのれんの償却問題」
日本の会計基準では、のれんは20年以内で均等償却さ2014forum1-1.JPGれる。一方、IFRSや米国会計基準では、のれんは償却されないこととなっている。そのため、日本基準の下でのれんを償却した場合にM&Aの効果が減少することもあり、日本企業の経営者にとってはIFRSを採用した方が大型M&Aに踏み切りやすい。花村氏は、のれんの会計規則がM&A促進に資するかという問題意識のもと、理論と実証の先行研究を概括し、それらの先行研究に実務の視点から検討を加えられた。花村氏はのれんの処理に関する多くの先行研究を概括されたが、ここでは特にのれんの減損による報告利益管理について取り上げる。IFRS3号では減損テストの単位が資金生成単位であり、それが事業セグメント以下の単位であることが規定されている。実務の立場からは、資金生成単位を増減させることで減損処理の実行もしくは回避することは十分考えられる。減損による報告利益管理の研究は解明の余地が残されている。

辻 正雄(早稲田大学)