2010年度 第1回フォーラム開催記

2010forum1_1.jpg■■ 日本管理会計学会2010年度第1回フォーラムは,4月17日(土)午後に横浜国立大学において開催された。
 本フォーラム実行委員長の溝口周二氏による開会挨拶に続き,同氏の司会により,古田清人氏(キヤノン株式会社 環境本部 環境企画センター),竹原正篤氏(マイクロソフト株式会社 環境・グリーンIT担当部長),河野正男氏(横浜国立大学名誉教授)の3名が報告をされた。次いで行われたパネルディスカッションでは,壇上の司会者及び報告者の4名とフロアーの参加者の間で活発な議論が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ散会となった。

統一テーマ : 「環境マネジメントと管理会計」

■■ 第1報告:古田清人氏

「キヤノンの環境経営について(管理会計手法の活用)」

2010forum1_2.jpg 古田氏は,最初に環境がもたらす企業活動への制約とインセンティブについて一般的な説明を行った上で,キヤノンの環境ビジョンについて述べた。そこで示されている具体的な考え方は,ライフサイクル全体の環境負荷を視野に入れて,豊かさ(製品の高機能化)と地球環境(環境負荷の最小化)を同時に実現することである。
 次に,製品における環境保証の3本柱が示された。それは「省エネルギー」「有害物質廃除」「省資源」からなり,製品ライフサイクルを通じて環境負荷を最小化し,法規制の先取りで製品競争力につなげるという考え方である。その具体的な取り組みとして,製品開発段階における二酸化炭素情報の把握と低環境負荷材料の採用が挙げられた。
前者においては,3次元CADでコストテーブルを使用したライフサイクルコストの集計が行われており,原価情報と二酸化炭素情報が連動していることが強調されていた。そこでは,エネルギー原単位の単価への換算における精度が低いことや二酸化炭素削減の要因の明確化が今後の課題として示された。  続いて,事業所(工場)活動における環境保証の3本柱が示された。それは「地球温暖化防止」「有害物質廃除」「省資源活動」からなり,ISO14001による環境管理と,ムダの排除という考え方が根幹にある。その具体的な取り組みとして,マテリアルフローコスト会計の分析結果からロスの改善への展開が挙げられた。ここでは,硝子レンズの研削工程において作業屑をマテリアルロスとして顕在化し,作業屑そのものを削減する改善案が検討されている。なお,マテリアルフローコスト会計はキヤノングループの主要生産拠点で導入され,億円単位の経済効果を挙げている。
 最後に,キヤノンが目指す環境経営が示された。それを要約すると「経営への貢献と,地球環境保護の両立」であり,換言すると「環境活動を進めることによって,収益を上げ成長する会社,会社も個人も尊敬される会社」を目指すということである。

■■ 第2報告 :竹原正篤氏

「グリーンITと環境管理会計」

2010forum1_3.jpg 竹原氏は,最初に世界及び日本の二酸化炭素排出量の統計情報を示した上で,情報化社会の進展がIT機器による消費電力の増大をもたらすことを特に問題視している。その一方で,IT技術の進展が電気機器の省エネをもたらすことを指摘し,ITによって社会全体の省エネを支えるという考え方を提示している。 論題である「グリーンIT」とは,増大するIT機器の省エネ(Green of IT)を推進するとともに,ITを活用して社会全体の省エネを推進(Green by IT)し,低炭素社会の実現を加速させようとする取り組みである。グリーンITの重要な課題の1つが効果測定であり,会計的手法を活用してその効果を「測定」「評価」するモデル開発へのニーズは高いことが強調された。
 Green of ITの事例として,クラウドコンピューティングが挙げられた。そこでは,大規模データセンターにリソースを集約することでエネルギー消費が最適化することにより,クラウド導入企業のエネルギー消費量は一般的に低下することが予想されると考えられるが,マクロレベルでエネルギー消費量が減少したかどうかを検証することは非常に難しいことが指摘された。また,Green by ITの事例として,ITを活用して供給側と需要側の電力のバランスを自動的に制御する次世代送電網であるスマートグリッドが挙げられた。これは,太陽光や風力等の再生可能エネルギーの導入拡大と電力品質の安定維持の両立に欠かせない技術といわれている。
 次に,グリーンITの測定・評価の問題が挙げられた。ITの環境負荷評価では,国際規格化された手法であるライフサイクルアセスメント(LCA)が活用されているが,管理会計の手法は援用されていないことが指摘された。次に,具体的な評価手法として「機能単位」と「システム境界」の設定が挙げられた。前者は評価する製品の主要な性能や機能を定量化することであり,後者は調査範囲を設定することである。これにより,従来のシステムと新しいシステムの比較を可能にしている。また,ITの環境効率は,「ITが提供する価値」を「ITの機能単位当たりの環境負荷」で除した値で定義される。  最後に,グリーンITへの貢献を評価する枠組みについて検討が行われ,生産から使用,更にはリサイクルに至るLCA全体で環境貢献を評価すべきであると結論づけている。

■■ 第3報告: 河野正男氏

「環境マネジメントの進展と管理会計」

 河野氏は,最初に環境マネジメントの内部化について言及している。その一つは「質の内部化」であり,環境問題への対応に当たっての経営環境の革新,換言すると環境保全活動を評価の対象とすることである。もう一つは「量の内部化」であり,環境マネジメントの結果を貨幣単位及び物量単位で把握することである。そして,質の内部化の進展が量の内部化を促進するとしている。
 次に,環境マネジメントの内容の変化について,リコー,グリーンマネジメントプログラム・ガイドライン,國部委員会の各ケースを挙げながら説明している。そして,環境マネジメントシステムの役割が廃棄物,エネルギー使用量,水使用量等の削減からより広範かつ経営の根幹に関わる内容に変化していることを指摘している。
環境マネジメントの意図が環境負荷物質の削減にあることから,その排出量及び削減量等の物量情報によって評価されることが不可欠である。また,環境マネジメントの費用対効果の把握の視点からは,環境関連のコストや収益等の貨幣情報も必要である。そして,環境マネジメントでは,ISO14000シリーズ関係,環境会計,環境報告書,カーボンオフセット,カーボンフットプリントなどの手法が用いられる。
 環境会計はミクロ環境会計とマクロ環境会計に大別され,前者はさらに外部環境会計と環境管理会計に分類される。環境管理会計の手法を対象別に分類すると,企業サイトを対象とした手法と製品を対象とした手法に分類される。前者の例として,マテリアルフローコスト会計,環境配慮型投資決定法,環境予算マトリックス,環境配慮型業績評価が挙げられる。また後者の例として,ライフサイクルコスティング,環境配慮型原価企画,環境品質原価計算が挙げられる。 環境マネジメントは,環境対応,環境保全,環境経営という3段階で進展してきた。その中でも最上位のレベルである環境経営の段階は,製品のエコ化から産業のエコ化への段階であり,環境管理会計の本格的取組がされていると指摘している。
 最後に,リトルトンの会計進化説を引用し,その本質はイタリア式資本利益会計に秘められた会計職能(測定,保全,伝達)の再発見であるとし,管理職能の発展なくして伝達機能の発展はないと論じている。そして,環境管理会計の発展が外部環境会計の発展を促進すると結論づけている。

2010forum1_4.jpg■■ パネルディスカッション
 最初に挙げられた議論は,情報量の増大とそれに伴うコスト負担の問題である。古田氏は外部報告書で想定される読者に着目している。すなわち,有価証券報告書は株主や投資家,環境報告書は環境関連の専門家である。また,溝口氏は人的コストと社会コストに着目し,その効果はエコファンド及びCSRファンドへの投資や市場の評価であると述べている。
次の議論は,本フォーラムのテーマである環境会計と,河野氏の研究テーマである生態会計との関連性に関するものである。河野氏は,生態会計は水・森林・エネルギー資源,CSR,環境会計をすべて含むものであり,そこでは企業以外もすべてシステムであると述べている。
 最後に,外部から環境情報を利用する立場から,比較可能性と正確性に関する議論が行われた。有価証券報告書に環境報告書が含まれると利便性が増すが,その方向性についてどう考えるかという質問に対して,3人の報告者から次のような見解が示された。河野氏は,企業は比較可能性について考えていないとしている。それに対して竹原氏は,比較可能な資料が存在しないために困ったことがあると述べている。また古田氏は,環境情報の利用者が専門家から一般へと広がってきていると指摘している。  ここで所定の時刻になったため,この議論をもってパネルディスカッションを終了することとなった。

2010年4月30日|山下功氏 (新潟国際情報大学)

2009年度第2回リサーチセミナー開催報告記

■■ 2010年3月13日午後2時より,筑波大学東京キャンパスにて,日本管理会計学会2009年度第2回リサーチセミナーが開催された。今回のフォーラムは,小倉昇氏(筑波大学)の司会のもと,若手研究者の特徴ある2つの実証研究が紹介された。当日の参加者は各大学の研究者及び企業の経理および管理会計担当者等18名で,活発に質問・意見交換等が行われ非常に内容のあるリサーチセミナーとなった。

■■ 最初の報告は,吉井貴充氏(筑波大学大学院)より「研究開発投資の会計処理に関する一考察」というテーマで報告がなされた。わが国の研究開発費の会計処理に関しては2000年度以降,FASB基準同様に支出があった決算期に費用計上されている。吉井氏は,わが国でもIFRSへの適用が検討されるなか,IFRS基準では開発費においては一部資産化が盛り込まれていることに着目する。もちろん,研究開発費に対する資産計上に関しては,研究開発投資(R&D)と将来利益との関係が不明瞭な上,不確実性が存在する。吉井氏はここで,わが国において2000年以降,R&Dについて,注記計上及び販管費計上する企業が増加し,繰延資産計上する企業が減少している点に着目する。そして,わが国の会計基準変更後のR&Dを対象に業種毎の適切な会計処理と業種間の相違について研究を展開した。
発表においては,先行研究にもとづき(1) R&Dと将来利益との関連性をR&Dと将来利益のタイムラグを検出できるかどうかで検証する研究と,(2) R&Dが将来利益の不確実性(5年間の経常利益の標準偏差)に与える影響を設備投資の投資リスクと比較することにより検証するという2つの視点から会計処理を実証的に評価している。
実証分析の結果,サンプル産業の全業種で3年以上のラグ期間が存在することが確認され,R&Dと報告利益の間の関連性が示唆された。また,サンプル企業のうち化学,医薬品,精密機械の各産業については投資リスクへの正の影響が確認されたが電気機械・自動車については確認ができなかった。結論として吉井氏は,化学,医薬品,機械,精密機械などの産業では開発費の費用処理が支持されるが,電気機械産業と自動車産業は開発費の資産化が示唆されると考察した。
報告の後,質疑応答では,吉井氏の今後の課題としてはモデルの精緻化やサンプルデータの拡張,最近のM&A事例の増加でサンプル企業のグループの課題などいくつかの意見が出された。また,提示したモデルの独立変数のあてはまり具合の検討など出席者から非常に有益な意見が出され活発な議論が行われた。

■■ 次に,鈴木竜児氏(公認会計士・早稲田大学大学院)より「多角化経営におけるシナジー効果の評価と分析」のテーマで報告が行われた。鈴木氏は (1) シナジー効果の評価 (2) シナジー効果に基づく企業価値の実証分析について報告を行った。そのなかで,研究方法として,(1)については,セグメント報告書のセグメント間取引の割合に着目して多角化企業を関連多角化・非関連多角化に分類する方法を試行し,また,(2)については,「超過価値アプローチ」(株価リターンの業界平均からの超過)によって企業価値を評価する方法を採用した。
仮説の設定にあたり鈴木氏は,シナジー効果の評価については,多角化企業は,業種を意識した事業展開よりも,事業間のビジネス上のつながりや事業相互間のシナジー効果を期待して事業を展開していると考えられ(事業実態面),また,事業間のつながりやシナジー効果が経済活動に現れるものと想定すると,「事業の種類別セグメント情報」に財務数値として反映される(財務数値面)と想定している。次に,シナジー効果に基づく企業価値の実証分析について鈴木氏は,非関連多角化企業や専業企業に比べて,セグメント間取引の比率が高い関連多角化企業は,高い水準の超過価値で評価されているとの実証結果を導いた。
鈴木氏の報告後,星野優太氏(名古屋市立大学)がコメンテーターとして詳細なコメントおよび提言を述べた後に,質疑応答及び議論が行われた。なかでも多く議論されたのが,「シナジー効果」についてであった。この,シナジーの定義,分析モデルについて各参加者の様々な考え方や研究方法の提言については多くの議論があった。そして,議論途中で質疑時間終了となったが,司会者の判断で任意の議論に切り替えたが,多くの参加者が最後まで残り,様々な意見が交わされた後に今回のリサーチセミナーは終了となった。

加藤惠吉氏 (弘前大学)

2009年度 第2回関西・中部部会開催報告

■■日 時
2010年2月27日(土)13:20~19:30

■■場 所
同志社大学室町キャンパス寒梅館

■■第1報告:「階層的会計コントロールによる水平的相互作用の促進:ケーススタディ研究からの知見」
李 燕氏(立命館大学博士課程)
2009kansai2_1.jpg 企業における階層的会計コントロールのもとで,どのように水平的相互作用が行われるのかを,外食産業の企業の事例により,明らかにしている。報告では,水平的相互作用および階層的会計コントロールに対する批判などの先行研究をレビューした後に,アカウンタビリティの概念を導入した先行研究や様々な関連する経験的研究方法論に基づく先行研究を概観している。そこで,外食産業であるチタカインターナショナル社に対するインタビュー調査に基づいたケース研究の結果が報告された。事例研究からの発見事項として,水平的相互作用を阻害すると言われてきた階層的会計コントロールが,事例研究においては,逆に階層的会計コントロールにより,社内カンパニー間の相互作用を促進したという結果が報告された。

■■第2報告:「地方自治体へのバランスト・スコアカード適用に関する諸問題」
佐藤 幹氏(広島大学大学院博士課程)
自治体マネジメントの向上・改善に貢献すると考えられていた行政評価がほとんど機能していない現状を踏まえて,財政難等の自治体が抱える問題を解決する手法としてのバランスト・スコアカードの可能性について検討を加えている。そこで,日本や米国の自治体へのバランスト・スコアカードの適用事例を検討した後に,適用が広がらない理由として,行政評価がマネジメントツールとして機能不全のまま適用されており,行政評価をバランスト・スコアカードにより行おうとすることは,本末転倒であると指摘した。さらに,BSCを普及させるためには,これまでに導入されたツールとの比較や,自治体の特性を十分に理解する必要があると主張した。

■■第3報告:「人的資源コストのマネジメント・システム」
山下千丈氏(関西学院大学博士課程)
2009kansai2_2.jpg 企業において,非正規社員の増加などの労働力の多様化が進むとともに,ビジネスプロセスのアウトソーシングが活発に展開されている。従来の人員数と給与・福利厚生費による人件費の管理では,多様なビジネスプロセスで発生する人的資源に係わるコストをマネジメントすることは極めて困難である。本報告は,人的資源のポートフォリオ・マネジメントをベースにして,人的資源コストを効果的にマネジメントするためのフレームワークを提唱した。まず,戦略に対する「人的資源の価値」と「人的資源の企業特殊性」の二要素から人的資源を,四つに類型化し,各類型の人的資源に関する特徴を明らかにした。
人的資源コストを構成する要素は「所要量計画」,「調達計画」,「調達コスト」であり,各要素別に四つの類型に有効なマネジメント手法を,現在の企業で実践されている具体例の紹介をまじえながら考察をおこなった。さらにABCなどの管理会計ツールを適用することにより,マネジメント・システムを進化させることが可能となるとした。

■■ 第4報告:「日本のDPC導入病院のコスト・マネジメントの実態」
栗栖千幸氏(近畿大学大学院博士課程)
本研究は,診断群分類(Diagnosis Procedure Combination:以下DPC)定額支払い制度を導入している病院のコスト・マネジメントの実態を明らかにすることを目的としている。今回の報告では,全国の2008年度DPC対象病院(717病院)におけるコスト情報の利用状況を提示した。
調査結果(回収数77病院、回収率10.7%)から以下のことが判明した。第1に,DPC導入病院の約半数が原価集計を定期的に実施しているが,診療科・部門別集計が9割である一方,DPC別の集計は約2割にとどまっており,DPCを単位とした原価管理・利益管理はあまり実践されていないと考えられる。第2に,病院単位での利益計算では広く実施されているが,診療科・部門別単位の利益計算は約5割であり,そのうち約2割でしか目標値が設定されていないことから,内部組織を単位とした利益管理が定着していないと考えられる。第3に,DPC対応のクリティカルパス開発チームは,医師,看護師,経理スタッフを含めた多様な職種で構成されており,経理スタッフは財務・非財務の情報をパス開発チームに提供していたが,多様なパス開発チーム構成が医業成果(在院日数と病床稼働率)に与える影響は有意に示されなかった。以上のことから,DPC導入病院ではコスト・マネジメントの実践が現状において普及していないことが推測される。

■■ 第5報告:「VBM環境下における事業のライフサイクル・ステージと業績評価システムの関係性に関する経験的研究」
徳崎 進氏(関西学院大学 経営戦略研究科)
実態調査研究に基づき,事業のライフサイクル・ステージがVBM(value based management;価値創造経営)を推進する事業単位の利益管理や原価管理への取組みに及ぼす影響を経験的に明らかにすることを目的に,先行研究の検討を踏まえて,「業績評価システムの設計・運用の適否が組織のパフォーマンスに影響を与える」という基本的な枠組みのもとで2つの仮説から成る因果連鎖を想定し,企業への質問調査から得られたデータを共分散構造分析の手法を用いて検証した。
「事業単位の業績評価システムの設計・運用の適否が会社の財務パフォーマンスに影響を与える」という基本的な枠組みの下で,作業仮説の検証を行った。仮説1では,モデルIの確認的因子分析の結果,適合度指標はいずれも所定の条件を満たし,事業のライフサイクル・ステージの特性を考慮した業績尺度の選定が事業単位の適切な管理会計ツールの採用に正の影響を与えるという検証結果が得られた。仮説2では,モデルIIの確認的因子分析の結果,適合度指標はいずれも所定の条件を満たし,ライフサイクル・ステージに対応する測定尺度を組み込み設計・運用されている業績評価システムは事業単位および会社の財務パフォーマンスに正の効果をもたらすという検証結果が得られた。

2009年度第2回大会準備委員会 中川優

2009年度第1回リサーチセミナー開催報告記

■■ 2009年10月10日,午後,大阪大学豊中キャンパス,待兼山会館において, 2009年度第1回リサーチセミナーを開催した。当日は,討議者:加登豊先生(神戸大学), 武富為嗣先生(日本工業大学),それに,司会として,中川優先生(同志社大学) の下に,2名の方(山根里香先生,キムジェウク氏)が報告を行い,それについ て,順次,2名の討議者ならびに,司会による補足質問について,報告者から回答を得た。

■■当日の参加者数は,時期的な問題もあり,少数であったが,上埜進先生(甲南 大学),大鹿智基先生(早稲田大学)から当日の報告者である,山根里香先生(東京理科大学) ならびに,キムジェウク氏(大阪大学大学院博士後期課程)に質問があり,活発な討議をおこ なった。最後に,閉めとして,加登豊先生より,外国雑誌(アカデミックジャー ナルに限定)に投稿する上での注意事項や知っておくべき基礎的な項目について, 説明があった。院生諸氏にとってはとりわけ意義ある内容であったと思われる。

■■会議の閉会後に,同じ建物内のレストランにおいて,懇親会を開催し,7時すぎにお開きとなった。なお,報告者のテーマならびに,セミナー・スケジュールは,以下のとお りである。

■ 第1報告 : 山根里香氏(東京理科大学) 14:00~14:55
“The Functions of Strategic Management Control for NPD Performance Enhancement”

■ 第2報告 : Kim Jae Wook氏(大阪大学大学院経済学研究科後期課程) 15:10~16:05
“The Relationship between Program Management Control and Product Development Management Control: The Case of Japanese Manufacturing Industry”

リサーチセミナー責任者 淺田 孝幸氏(常務理事・大阪大学大学院経済学研究科教授)

2009年度 年次全国大会の大会記

統一論題 「インタンジブルズと管理会計」

■■■日本管理会計学会(会長:辻正雄氏,早稲田大学)2009年度全国大会(大会準備委員会長:安國一氏)が,2009年8月28日(金)-30日(日)の日程で,亜細亜大学を会場として開催された。大会の構成は自由論題報告,特別講演,基調講演,統一論題報告,および統一論題シンポジウムであった。また,大会参加者数は210人,報告数は24組であった。
1日目は学会賞審査委員会,常務理事会および理事会がそれぞれ開催された。学会賞審査委員会の厳正な審議の結果,2009年度の学会賞は下記の受賞者の方々に贈られることとなった。

■■ 特別賞
西村明氏(別府大学)

■■ 功績賞
中根滋氏,倉重秀樹氏

■■ 論文賞
山本達司氏(名古屋大学)
受賞業績:「株式所有構造と利益マネジメント」,管理会計学,第17巻,第2号,2009年

■■ 文献賞
■ 荒井耕氏(一橋大学)
受賞業績:『病院原価会計:医療制度適応への経営改革』,中央経済社,2009年
■ 松尾貴巳氏(神戸大学)
受賞業績:『自治体の業績管理システム』,中央経済社,2009年

■■ 奨励賞
■ 潘健民氏(早稲田大学)
受賞業績:「日本企業の実質活動による報告利益管理」,管理会計学,第17巻,第1号,2009年
■ 丹生谷晋氏(筑波大学)
受賞業績:「分権型組織における業績評価システムに関する実証研究」,管理会計学,第17巻,第1号,2009年

■■■ 自由論題報告
2009zenkoku_1.jpg 2日目と3日目の午前中には,自由論題報告が行われた。自由論題では,総勢29名からからなる24組の報告が行われた。報告者とフロアの間で活発な討論が行われ,報告者に対して建設的な研究コメントが提案された。それらの報告内容は,管理会計分野における重要なテーマである原価計算や原価企画から,財務会計や知的財産などの分野を管理会計に融合したものまで,多岐にわたる内容となっていた。研究手法もケース・スタディ,実証や分析モデルなど,多様な手法が用いられていた。また,24組の自由論題のうち,日本とニュージーランドの研究者と院生で構成される研究チームから2組の発表が行われ,それらは,日本管理会計学会が掲げた研究の国際化を象徴するものであった。

2009zenkoku_2.jpg■■■ 特別講演
2日目の午後には,平田正之氏(株式会社情報通信総合研究所 代表取締社長)を迎え,「ICT産業の発展と今後の展望‐情報通信サービスの社会的役割の拡大‐」というテーマで,特別講演が行われた。
特別講演において平田氏は,NTTグループの収入構造に焦点を絞り,豊富な資料とデータを示され,ICT産業(Information and Communication Technology,情報通信技術)の構造的な変革を説明された。
平田氏によると,日本においてICT産業の規模はすでに自動車産業を超えており,ICT産業は市場規模にして約95兆円で,日本の全産業の1割を占めており,GDP成長に対する寄与率が高いことから経済動向に与える影響が大きい産業であるということ2009zenkoku_3.jpgである。また,20年来,ICT産業は劇的な進化を遂げており,ICT産業が提供しているモバイル化,IP化,ブロードバンド化に進展し,通信形態において,固定通信から携帯通信へ,音声通信からデータ通信へとシフトしていったということである。
講演において平田氏は,データを用い,ICT産業の規模の推移,構成,およびNTTグループの売上規模を紹介された。そして,情報通信サービスの契約数の推移,NTTグループの収入構造の変化,固定ブロードバンドサービスおよび携帯電話サービスの動向,携帯電話の通信方式の進展を通して,ICT消費の動向を説明された。なかでも,日本の携帯電話環境はしばしば世界から孤立した「ガラパゴス状態」といわれていることを指摘された。
そして,固定サービス,携帯サービス,融合サービス,MVNO(Mobile Virtual 2009zenkoku_5.jpgNetwork Operator,仮想移動通信事業者),および地域ローカルなどの分野の新しい動向をまとめられ,ICT産業に対する提言を行われた。現状では,日本のICT産業は,インフラと技術は世界において一流と認められつつも,その活用は世界の中でも遅れていると指摘されており,特に,民間企業と比べ,行政・医療・教育機関など公的セクションでの活用が進んでいないといわれているということである。
このような現状に鑑み,平田氏は,(1)CIO(最高情報責任者,Chief Information Officer)の役割の普及・強化およびあらゆる機関・組織に配置・普及,(2)CIOからCICO(最高情報通信責任者,Chief Information and Communication Officer)への進展は不可欠であるということを強調された。

■■■ 基調講演および統一論題報告

特別講演に続き,2日目の午後には,浅田孝幸氏(大阪大学)を座長として,「インタンジブルズと管理会計」というテーマのもとで基調講演と統一論題報告が行われた。

■■ 基調講演
基調講演では,「インタンジブルズと管理会計‐レピュテーション・マネジメントを中心にして‐」というテーマで,櫻井通晴氏(城西国際大学)による基調講演が行われた。 櫻井氏はまず,「インタンジブルズがなぜ管理会計の研究対象として必要なのか」について説明された。具体的に,管理会計の研究対象としてのインタンジブルズの必要性の理由として,(1)企業価値を創造する商品が高い企業価値を創造する無形物の複合体となったこと,(2)インタンジブルズの創造が経営戦略によって決定されること,および?戦略マップなどのツールが用意されてきたことをあげられた。
次に,「管理会計の立場からのインタンジブルズ研究の方向性」について,(1)知的なインタンジブルズと(2)レピュテーションに関連するインタンジブルズの2つの範疇に区分する考察を示された。(1)としては,イノベーションと研究開発,知的資産,ソフトウェア,人的資産・情報資産・組織資産が示され,?としては,ブランド,コーポレート・レピュテーションが示された。また,超過収益力の会計学における扱いが,1980年代までの「のれん」から1990年代の「知的財産」を経て,21世紀には「インタンジブルズ」と変化してきたことが示された。
櫻井氏はまた,コーポレート・レピュテーションの定義として,「経営者および従業員による過去の行為の結果,および現在と将来の予測情報をもとに,企業をとりまくさまざまなステークホルダーから導かれる競争優位」を提示され,その特徴として,(1)ステークホルダーによる評価,(2)経営者と従業員の行為,(3)過去,現在の行為と将来の予測情報,および(4)企業価値を創造するインタンジブルズを提示された。そして,競争優位をもたらすためには,コーポレート・レピュテーションを企業価値を高めるインタンジブルズとして認識し測定することが必要であることを主張された。
さらに,櫻井氏は,「レピュテーション・マネジメントの領域と方法」として,BSC+戦略マップ,内部統制,リスクマネジメント(全社的リスクマネジメント:ERP),CSR,レピュテーション評価と順位づけ,およびレピュテーション監査をあげられた。最後に,インタンジブルズ研究のキッカケや今後の研究について述べられ,報告を終了された。

■■統一論題報告
2009zenkoku_5.jpg統一論題報告では,浅田孝幸(大阪大学)を座長として,「インタンジブルズと管理会計」というテーマのもとで,馬渡一浩氏(株式会社電通総研),岩田弘尚氏(専修大学),および伊藤嘉博氏(早稲田大学)による報告が行なわれた。
第1報告は,馬渡一浩氏(株式会社電通総研)による「ブランド・マネジメント‐レピュテーション・マネジメントとの関係において‐」であった。馬渡氏はまず,ブランドの定義として,(1)商品・サービスの識別化・差別化を意図したシンボルの体系であり,(2)顧客を中心に人々の間で共有される記憶のセットで,人々の認識を肯定し,関連性や行動をドライブする機能を持つものであり,(3)ブランドが記憶のセットとなるためには,様々なコミュニケーションが必要であるということを提示された。そして,そのようなブランドが経営において持つ意味として,(1)有力な関係性資産(インタンジブルズ),(2)企業の中長期のポテ2009zenkoku_6.jpgンシャルであり,継続的な成長への潜在力,(3)継続的な企業価値の向上がブランド・マネジメントの目標という3点を示された。馬渡氏によると,シンボル的な体系を用いるコミュニケーション活動でつくり出される記憶のセットを資産として捉え価値評価したものがブランドエクイティ概念であり,マネジメントにおいてはそれが大変重要であるという。馬渡氏はさらに,ブランド・マネジメントの実際について,実例(企業の実際のウェブ)を用いた説明をされ,レピュテーション・マネジメントの重要性を主張された。馬渡氏によると,戦略レベルでコミュニケーションに係わる役割はこれまでほぼブランドのみが担ってきたが,コミュニケーション環境の変化に伴い,「社会的な共通認識」であり「記憶セットが形成されていくときの経過的な集合知」としてのレピュテーション概念を新たに取り入れ,ブランドとあわせて,より包括的で戦略的な管理を進める必要があるという。2009zenkoku_7.jpg
最後に,馬渡氏はレピュテーション・スコアカード化が目指すべきひとつのゴールであるということを主張され,その例を示された。
第2報告は,岩田弘尚氏(専修大学)による「コーポレート・レピュテーションの測定とマネジメント」であった。岩田氏はまず,コーポレート・レピュテーションに関心が高まりつつあ る理由として,多発する企業不祥事を背景とするリスクマネジメントの重視,コーポレート・ ガバナンスの変化,および純資産と株式時価総額の乖離の説明要因の3点からの説明をされた。次に,コーポレート・レピュテーションの意義について,様々な先行研究を示されたうえで,その定義として,上記の櫻井氏の定義「経営者および従業員による過去の行為の結果,および現在と将来の予測情報をもとに,企業をとりまく
さまざまなステークホルダーから導かれる競争優位」を示された。岩田氏はさらに,コーポレート・レピュテーションの測定手法として,「レピュテーション指数(reputation quotient; RQ)」調査を紹介された。RQ調査は,(1)指名フェーズと(2)評価フェーズから構成されること,RQには6つの領域と20の属性があることが説明され,Fortuneにおける2007年調査の結果が紹介された。その上で,わが国におけるRQの実証分析の結果について説明された。また,岩田氏は,バランスト・スコアカードのレピュテーション・マネジメントに対する役立ちについても言及された。最後にまとめとして,レピュテーション・マネジメントの2面性(1.コーポレート・レピュテーションの測定と2.レピュテーション・ドライバーの管理),本格的な実証分析の必要性,BSCによるレピュテーション・ドライバーの管理,およびインタンジブルズ(管理会計情報)の開示可能性の検討が示され,報告を終了された。
第3報告は,伊藤嘉博氏(早稲田大学)による「CSR活動の経済的価値-マテリアルフローコスト会計革新の可能性-」であった。伊藤氏はまず,問題意識として,CSRが将来の企業価値と社会的価値を生む元になる広い意味での「資本」である一方で,個々のCSR活動と経済的成果(価値)との因果関係を明確に掴むことができないため,それはいわゆる「見えざる資本」であるところのインタンジブルの範疇に属すること,そのようなインタンジブルである以上,CSR活動の経済性評価が避けて通れない課題であることを提示された。伊藤氏は,CSRの主要なファクターのひとつである環境保全の活動の経済的評価のための手法として管理会計手法(マテリアルフロー会計:MFCA)を紹介された。伊藤氏によるとMFCAとは,原材料やエネルギーなどが製造工程のどの段階でどれだけ消費され,また廃棄されているかを物量データと原価データの双方から追跡し,両社の有機的な統合を図ろうとする原価計算手続きであり,廃棄部材のコスト(損失)を分離して把握するものであるという。  伊藤氏は,MFCA導入により期待される経済的効果として,直接的効果,間接的効果,およびマイナス効果を提示された上で,MFCAの課題として,環境管理会計的特徴の強化を図る必要性を主張された。MFCA情報にCO2換算のデータをリンクさせることができれば,企業が推進する環境保全対策の経済的価値と,当該対策がもたらすであろう社会的価値を統合的に斟酌することが可能になるという。そして,実際のケースとして,日本ユニシスにおけるCFP(カーボンフットプリント)情報を統合したMFCA分析の資料とともに,同社のケースを紹介された。
最後に,システムコストの取り扱い方法,物量センターが分割困難なマテリアルコストやエネルギーコストの算定の精密化といった「データ収集・分析にかかわる課題」,ならびに具体的な改善施策の識別にいかにつなげるかという「さらなるシステム拡張への模索」を示され,報告を終了された。

■■■ 統一論題シンポジウム
2009zenkoku_8.jpg3日目の午後は,櫻井通晴氏(城西国際大学)をコメンテータとして迎え,統一論題シンポジウムが行われた。櫻井氏は,2日目の報告者の役割について,平田正之氏(通信産業における無形の資産の増加・無形資産から企業価値),櫻井通晴氏(インタンジブルズとレピュテーションの研究を鳥瞰・統一論題における3先生の報告の意味づけ),馬渡一浩氏(ブランド・マネジメントの立場からするコーポレート・レピュテーション),岩田弘尚氏(コーポレート・レピュテーションの深堀り・今後の実証研究の筋),伊藤嘉博氏(CSRとマテリアルフローコスト会計・原価計算が関与して,多くの研究者はホッとする)の順で整理された。
さらに,詳細な資料とともに,各先生に対して,「ブランドの発展プロセス」,「ブランドやコーポレート・レピュテーションは知的資産か」,「知的資産とレピュテーションの区分」,「認知,イメージ,CR,BE,業績」,および「CSRと財務業績」に関するコメントを求められ,フロア参加者も交えての活発な討議が行なわれた。

■ なお,次回の日本管理会計学会全国大会は,早稲田大学にて開催される予定である。

※本学会レポートは,「日本管理会計学会2009年度全国大会」の研究報告要旨集,各報告の当日配布レジュメ,および当日の各報告を元に作成しております。

潘健民氏 ( 早稲田大学 )

The Japanese Association of Management Accounting