関西大学 大西 靖
日本管理会計学会2020年度第1回関西・中部部会は、2020年11月21日(13:30~17:00)に、関西大学を主催校としてZoomを利用したオンライン形式で開催された。当日の参加者は42名であった。学会の開始にあたっては、全体司会の木村麻子準備委員から進行方法が説明された後で、水野一郎準備委員長及び皆川芳輝関西・中部部会長から開会の挨拶が行われた。
第1部では、ゲスト・スピーカーの渡辺良機氏(東海バネ工業株式会社顧問)による、特別講演「『あばよ』の経営美学」が録画配信形式で実施された。
特別講演では、渡辺氏はポーター賞を受賞されたときにマイケル・ポーター教授に声をかけられた時のエピソードから始まり、同社の創業者から入社を口説かれた理由、ドイツのバネ企業を視察したときのカルチャーショック、職人を重視する同社の人づくりなどの興味深いお話しをされた。さらに水野準備委員長からの質問に応える形で渡辺氏が2代目の社長として創業者の多品種微量の完全受注生産というビジネスモデルを忠実に継承するとともに、社員教育や価格決定方法などの改善を通じて、赤字を一度も出さず、売上高総利益率50%、2桁の営業利益率を34年間実現させてきた同社の付加価値を上げるという特徴的な取り組みが説明された。
続いて第2部では、第1報告の徳崎進氏(関西学院大学)、および第2報告の皆川芳輝氏(名古屋学院大学)による報告が行われた。第1報告の司会は中嶌道靖氏(関西大学)、第2報告の司会は馬場英朗氏(関西大学)であった。いずれの報告においても参加者からの多くの質問があり、活発なディスカッションが行われた。
第1報告 徳崎 進氏(関西学院大学)
報告テーマ:創造性マネジメントの管理会計的展開-合理思考からの脱却がもたらす創造的意思決定と経営のイノベーション
第1報告では、創造性マネジメントの方法論の体系化によるプロトタイプ及び汎用モデルの開発を目的として報告が行われた。その背景として、徳崎氏は伝統的な経済学における「利潤あるいは満足度を最大化するために合理的な行動をとる利己的で完全な個人」という仮定が限界に直面していることを指摘する。そこで、非合理的な行動を直視しながらも、企業の競争力の源泉となる創造性をどのようにマネジメントするのかという課題にこたえるための方法論が必要とされる。このような課題に対して、徳崎氏は創造性に関する心理学、教育学および経営学を中心とした先行研究に関する文献レビューを通じて、創造性の側面として、(1)創造的思考と創造的技能にもとづく創造的能力、および(2)創造的性格及び創造的態度にもとづく創造的人格の重要性を指摘した。さらに、このような創造性を引き出すための方法論として、ブレインストーミング法やKJ法などを提示するとともに、創造的人格の形成を支援する方法としてロールプレイ(演劇)の重要性などが提示された。
第2報告 皆川芳輝氏(名古屋学院大学)
報告テーマ:デジタル技術の特徴と管理会計の課題
第2報告では、デジタル技術における急激な進化、およびそれに伴うイノベーションと混乱が、どのような管理会計問題を生み出すかについて明らかにすることを目的として報告が行われた。デジタル製品などのデジタル生成物の開発では、急激な革新が繰り返し引き起こされるという特徴がある。そのため、デジタル生成物の開発では、新機能による追加的な収益をもたらす可能性が高いといえるが、他方で経営計画が不安定化する可能性がある。したがって、デジタル生成物の製品開発プロセスにおいて、より製品価値を明確に把握する必要性が高いことが指摘される。そこで皆川氏は、この問題に対応するための方策として、顧客価値基準の価格決定プロセスを提示した。このプロセスでは、新しい顧客経験が没入感やコンテンツの魅力などの価値ドライバーを向上することを通じて、その価値が顧客の支払意思額に反映されるという関係が明確に説明されており、企業がこのような関係を製品開発において把握する重要性が指摘された。