2011年度 第1回フォーラム開催記

2011forum1_1.jpg■■ 日本管理会計学会2011年度第1回フォーラムが,2011年4月23日(土)に大阪大学において開催された(実行委員長:大阪大学准教授・椎葉淳氏)。今回のフォーラムでは,実行委員長の椎葉淳氏から開催に際して挨拶があり,園田智昭副会長(慶應義塾大学)の司会のもと,三浦徹志氏 (大阪成蹊短期大学教授)と内山哲彦氏(千葉大学法経学部准教授),そして伊藤和憲氏(専修大学)の司会のもと,芝尾芳昭氏(イノベーションマネジメント株式会社パートナー )と中嶌道靖氏(関西大学商学部教授)の計4名から報告がおこなわれ,それに対するフロアからの活発な質問や意見もあり有意義な議論がなされた。その後,待兼山会館(大阪大学)にて懇親会が行われ,散会となった。

■■ 第1報告:三浦徹志氏(大阪成蹊短期大学教授)

「協調戦略による事業価値と管理会計の論点 -合弁設立のケースから-」

2011forum1_2.jpg 三浦氏は,戦略的な意図から組織間で取り組まれる協調行動について,そのモニター,業績評価などに関する管理会計の役割・意義を報告された。仮説として「合弁などの戦略的アライアンスによる事業価値育成には管理会計固有の支援・貢献が求められる」,「アライアンスの要素である組織間学習を促進・継続するためにはパートナーとの会計的信頼が重要である(失敗例も多いため)」,「業種・成熟度などの企業の非対称性,業界の水平・垂直関係などの条件と提携の効率には個別の特徴(相関等)が予測される」等を挙げ,有効性や安定性に対し管理会計のロジックを検討し,これをIBM他のケースにより検証された。

■■ 第2報告: 内山哲彦氏(千葉大学法経学部准教授)

「人的資産と管理会計」

2011forum1_3.jpg 内山氏は,「統合的業績管理システム」の深化と拡張に向けた課題を提示された。まずインタンジブルズとしての人的資産について,企業の戦略に対して整合的な構築が必要であることが説明された。これには,特に採用や能力開発といった人材育成と業績評価の問題が重要で一層の柔軟的対応や,報酬付与と業績管理,そしてその下での人材育成について,戦略・業績への貢献にリンクした人材育成と人的資産の貢献性の細分化が必要であることが報告された。質疑においては,成果主義の捉え方やERPとの関連といったことまで討議された。

■■ 第3報告: 芝尾芳昭氏(イノベーションマネジメント株式会社パートナー)

「プロジェクトベース予算によるイノベーションの推進」

2011forum1_5.jpg 芝尾氏は,まず製薬企業の事例により,予算制度の抱える問題について報告された。ここでは,従来の予算制度の限界として,プロジェクトに対する予算の柔軟性について部門で予算を守ろうとするために生じる問題や,予算費目の弊害として戦略費と組織維持費の混在により戦略費を組織維持費が浸食し予算が硬直化していることが説明された。次に変化への対応力について,外部環境への対応力を上げるためにコントロールサイクルの強化やイノベーション予算の分離が必要であることを指摘された。その上で,三段階予算制度の導入やプロジェクト予算と組織予算の連携,そしてポートフォリオマネジメントによる投資配分などの必要性を明示された。

■■ 第4報告: 中嶌道靖氏(関西大学商学部教授)

「マテリアルフローコスト会計の管理会計手法としての有用性の再検討について」

2011forum1_6.jpg 中嶌氏は,マテリアルフローコスト会計(MFCA)に関して,特に原価計算制度との関係について焦点をあて実務的な課題を明らかにされた。報告では,まずMFCAのこれまでの展開について説明され,MFCAによるコスト削減をもたらす情報に関して,マテリアルロスの分類や材料歩留まりと差異について報告された。またオムロン倉吉の事例により標準原価による原価管理プロセスに関して検討された。
最後に標準原価情報では,材料の余裕率の設定により,MFCAよりもマテリアルロスの全体が把握できないこと,マテリアルロス(物量)の削減が一義的であるので,技術的なコミュニケーションをMFCAは予定しているとまとめられた。

平井裕久 (高崎経済大学)