2020年度第3回フォーラム・第1回九州部会 開催記

 日本管理会計学会2020年度第3回フォーラム兼第1回九州部会は、2020年11月14日(土)13:50~16:20に、長崎県立大学佐世保校にて、対面方式によって開催された。参加者・報告者は全員マスク着用で、適切な距離を確保して着席し、教室も窓やドアを開け放ってしっかり換気できる状態を保ったうえで実施された。研究者、実務家、および長崎県立大学の学部生・大学院生など、50名を超える参加があった。開始に先立ち、大会準備委員長の宮地晃輔氏(長崎県立大学)および伊藤和憲会長(専修大学)からご挨拶があった。

 

 

 

 

特別講演 北口功幸氏(株式会社亀山電機 代表取締役会長)
論題「株式会社亀山電機のバランスト・スコアカード(BSC)」
 社名のゆかりとなった坂本龍馬への熱い思いが語られたのち、亀山電機の概要、沿革、事業内容のご説明、および会社紹介ビデオの上映がなされた。同社は、1996年の創立以来、シーメンスとの取引などにより順調に業績を伸ばしていたが、リーマンショックを契機に、経営計画書(亀山道)やBSCへの取り組みを検討し始め、現在までV字回復を果たしている。2016年に導入されたBSCでは、事業計画や予算と連動させて全社BSCおよび部門BSCを運用している。BSCの狙いは、KPIを持たせ、毎月や四半期のPDCAで数値化した結果や差異を確認することなどにあり、結果は信号色を配したりグラフ化して見やすくし、銀行に提示する経営資料として信用を高めることにも活用されている。BSCを実施しての気づきとして、点でなく線で考えることができること、PDCAのPの力が弱いこと、コロナ禍で人財育成の重要性を再認識したことなどが紹介された。

 

 

 

 

第1報告 李会爽氏(福岡大学兼任講師)
論題「日本における統合報告の現状―インタビュー調査に基づいて―」
 大下丈平氏(九州大学名誉教授)の司会の下、第1報告では、統合報告におけるオクトパスモデルと戦略マップの融合可能性が提言され、統合報告の目的として情報開示だけでなく情報利用も実務において達成されているかどうかに関するインタビュー調査が報告された。統合報告フレームワークが概説されたのち、統合報告に関する先行研究が整理され、統合報告の目的が情報開示と情報利用の2つに集約できることが示された。情報開示に関しては、統合報告書は財務報告書をベースにしながら持続可能性報告書を包括する形で登場したことが指摘された。情報利用に関しては、ステークホルダー・エンゲージメントより得られた情報を経営者が利用し、戦略策定とマネジメントに役立てることが重要であることが指摘された。統合報告書を公表しているA社、DKS社、およびMUFG社に対するインタビュー調査の結果、3社ともステークホルダーへの情報開示目的は果たされていた。一方、情報利用目的では、A社およびMUFG社では情報利用は考慮されていなかったが、DKS社ではステークホルダー・エンゲージメントを通じてマテリアリティの特定に積極的に取り組んでおり、情報利用目的が考慮されていることが指摘された。統合報告における価値創造プロセスの可視化では、オクトパスモデルと戦略マップを融合することによって、使用資本を明示しプロセスの循環性を表現することが可能となるとの提言がなされ、DKS社のデータを用いてオクトパスモデルに戦略マップを組み込んだモデルの適用イメージが紹介された。

 

 

 

 

第2報告 水野真実氏(九州大学専門研究員)
論題「病院TDABCモデルの開発」
 田坂公氏(福岡大学)の司会の下、第2報告では、実在病院のデータを用いて、病院原価計算にTDABC(Time Driven Activity- Based Costing)のアイデアを試行的に適用したモデルの開発とシミュレーション結果が報告された。先行研究のレビューにより、ABC(Activity- Based Costing)の問題点、近年におけるTDABCの展開、および病院原価計算への適用状況が整理されたのち、診療情報が電子的に格納されているDPCデータと多様な時間情報が格納されている手術システムとを連携させて、コスト構成比の高い手術室の人件費を対象として構築されたTDABCの適用モデルが説明された。実在病院の人工膝置換術患者40名をサンプルとし、整形外科医師、麻酔科医師、および手術室看護師の給与の職種別キャパシティ・コスト・レートを算定し、整形外科医師には手術時間を、麻酔科医師には麻酔時間を、手術室看護師には手術室入退室時間を、それぞれ配賦基準として選択して適用した結果、患者別の手術麻酔人件費を測定できると当時に、職種別のキャパシティ利用度を可視化できることが示された。また手術麻酔人件費、手術麻酔差益、および手術麻酔差益率を検証した結果、患者別の収益性が可視化され、手術室を占有している入退室時間が長くなるほど採算性が悪化する傾向が確認されたと同時に、医師別の業務実績分析にも応用が可能であることが提言された。

 

日本管理会計学会2020年度第1回関西・中部部会開催記

関西大学 大西 靖


 日本管理会計学会2020年度第1回関西・中部部会は、2020年11月21日(13:30~17:00)に、関西大学を主催校としてZoomを利用したオンライン形式で開催された。当日の参加者は42名であった。学会の開始にあたっては、全体司会の木村麻子準備委員から進行方法が説明された後で、水野一郎準備委員長及び皆川芳輝関西・中部部会長から開会の挨拶が行われた。
 第1部では、ゲスト・スピーカーの渡辺良機氏(東海バネ工業株式会社顧問)による、特別講演「『あばよ』の経営美学」が録画配信形式で実施された。


 特別講演では、渡辺氏はポーター賞を受賞されたときにマイケル・ポーター教授に声をかけられた時のエピソードから始まり、同社の創業者から入社を口説かれた理由、ドイツのバネ企業を視察したときのカルチャーショック、職人を重視する同社の人づくりなどの興味深いお話しをされた。さらに水野準備委員長からの質問に応える形で渡辺氏が2代目の社長として創業者の多品種微量の完全受注生産というビジネスモデルを忠実に継承するとともに、社員教育や価格決定方法などの改善を通じて、赤字を一度も出さず、売上高総利益率50%、2桁の営業利益率を34年間実現させてきた同社の付加価値を上げるという特徴的な取り組みが説明された。

 

 

 

 続いて第2部では、第1報告の徳崎進氏(関西学院大学)、および第2報告の皆川芳輝氏(名古屋学院大学)による報告が行われた。第1報告の司会は中嶌道靖氏(関西大学)、第2報告の司会は馬場英朗氏(関西大学)であった。いずれの報告においても参加者からの多くの質問があり、活発なディスカッションが行われた。

第1報告 徳崎 進氏(関西学院大学)
報告テーマ:創造性マネジメントの管理会計的展開-合理思考からの脱却がもたらす創造的意思決定と経営のイノベーション

 第1報告では、創造性マネジメントの方法論の体系化によるプロトタイプ及び汎用モデルの開発を目的として報告が行われた。その背景として、徳崎氏は伝統的な経済学における「利潤あるいは満足度を最大化するために合理的な行動をとる利己的で完全な個人」という仮定が限界に直面していることを指摘する。そこで、非合理的な行動を直視しながらも、企業の競争力の源泉となる創造性をどのようにマネジメントするのかという課題にこたえるための方法論が必要とされる。このような課題に対して、徳崎氏は創造性に関する心理学、教育学および経営学を中心とした先行研究に関する文献レビューを通じて、創造性の側面として、(1)創造的思考と創造的技能にもとづく創造的能力、および(2)創造的性格及び創造的態度にもとづく創造的人格の重要性を指摘した。さらに、このような創造性を引き出すための方法論として、ブレインストーミング法やKJ法などを提示するとともに、創造的人格の形成を支援する方法としてロールプレイ(演劇)の重要性などが提示された。

第2報告 皆川芳輝氏(名古屋学院大学)
報告テーマ:デジタル技術の特徴と管理会計の課題

 第2報告では、デジタル技術における急激な進化、およびそれに伴うイノベーションと混乱が、どのような管理会計問題を生み出すかについて明らかにすることを目的として報告が行われた。デジタル製品などのデジタル生成物の開発では、急激な革新が繰り返し引き起こされるという特徴がある。そのため、デジタル生成物の開発では、新機能による追加的な収益をもたらす可能性が高いといえるが、他方で経営計画が不安定化する可能性がある。したがって、デジタル生成物の製品開発プロセスにおいて、より製品価値を明確に把握する必要性が高いことが指摘される。そこで皆川氏は、この問題に対応するための方策として、顧客価値基準の価格決定プロセスを提示した。このプロセスでは、新しい顧客経験が没入感やコンテンツの魅力などの価値ドライバーを向上することを通じて、その価値が顧客の支払意思額に反映されるという関係が明確に説明されており、企業がこのような関係を製品開発において把握する重要性が指摘された。

2020年度第1回関西・中部部会のご案内

日本管理会計学会会員 各位

                        2020年11月14日

 日本管理会計学会2020年度第1回関西・中部部会(開催校:関西大学)が近づいてまいりましたので再送させていただきます。また申込み締切日を11月18日(水)に延長させていただきました。今回のゲスト・スピーカーとしてお招きした日本のバネ業界では著名な東海バネ工業の渡辺良機氏の講演も11月9日に録画致しました。
 講演では、テーマと少し離れて、ポーター賞を受賞されたときにマイケル・ポーター教授に声をかけられた時のエピソードから始まり、同社の創業者から入社を口説かれた理由、ドイツのバネ企業を視察したときのカルチャーショック、職人を重視する同社の人づくり、多品種微量の完全受注生産モデルを完成させ、赤字を一度も出さず、売上高総利益率50%、2桁の営業利益率を34年間実現させてきた同社のビジネスモデルなどについて興味深いお話しをされています。

部会はZoomによるWeb開催となりましたので多数のご参加をお待ちしております。

1.開催日時:20201121日(土)13:3017:00

2.開催方法:オンライン(Zoomミーティング)
  参加申し込みいただいた方にZoom情報をお伝えします。

3.参加費:無料

4.プログラム
13:30~13:35 司会(準備委員)より部会の進行方法の説明
13:35~13:45 部会準備委員長、関西・中部部会長挨拶

第1部(録画配信)

13:45~14:45 ゲスト・スピーカーによる特別講演

講演者:渡辺良機氏(東海バネ工業株式会社 顧問)
講演テーマ:「『あばよ』の経営美学」
 このテーマの「あばよ」は、渡辺氏が2018年に社長を退任される際、さよならの気持ちを込めて社員に送った言葉だそうで、その挨拶は社員に感銘を与えたとのことです。

【講演者プロフィール】

渡辺 良機(わたなべ よしき)

東海バネ工業株式会社 顧問

1945年    大阪府生まれ

1984年    社長就任

2012年    「藍綬褒章」 授章

2018年    社長退任後、現職

2019年    財界「経営者賞」受賞

 

【会社プロフィール】(https://www.tokaibane.com/

1944年  会社設立

ISO9001・14001・AS/EN/JISQ9100 認証企業

2001年~ 関経連 関西IT活用企業百撰 3年連続優秀賞受賞

2004年  経産省 全国IT活用企業百選 最優秀賞受賞

2006年  経産省 「元気なもの作り中小企業300社」認定

2008年  ポーター賞受賞

2009年  「中小企業IT経営力大賞2009」大賞(経済産業大臣賞)受賞

2010年  「日本マーケティング大賞」奨励賞受賞

2015年  「第6回ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞受賞

 

14:45~15:15 講演への質疑応答(質問者:水野一郎氏)

第2部(オンライン報告)

15:20~16:10 第1報告 (報告30分 質疑10分)
 報告者:徳崎 進氏(関西学院大学)
 報告テーマ:「創造性マネジメントの管理会計的展開-合理思考からの脱却がもたらす創造的意思決定と経営のイノベーション」

16:15~16:55 第2報告 (報告30分 質疑10分)
 報告者:皆川芳輝氏(名古屋学院大学)
 報告テーマ:「デジタル技術の特徴と管理会計の課題」

16:55~17:00 部会準備委員長より閉会挨拶

5.参加申込方法・問い合わせ先
(1)締切日:2020年11月18日(水)
(2)関西・中部部会にご参加希望の方は標題に「関西・中部部会参加希望」、本文中に「氏名」「所属機関」「連絡先電子メールアドレス」を明記のうえ,締切日までに下記電子メールアドレスまでご連絡ください。

連絡・問い合わせ先:関西大学商学部 水野一郎

  jamabukai2020ku[at]gmail.com ([at]@)

(3)参加のご連絡をいただいた方に、参加申込締切日以降に、ZoomのURL、ミーティングID、パスコードをお送り致します。 

 

2020年度第1回関西・中部部会 準備委員会
準備委員長: 水野一郎(関西大学)
北島  治(関西大学)
中嶌道靖(関西大学)
馬場英朗(関西大学)
大西 靖(関西大学)
木村麻子(関西大学)
岡 照二(関西大学)

2020年度第2回リサーチセミナー開催記

2020年10月31日
大阪大学 椎葉 淳

 2020年度第2回リサーチセミナーは,日本原価計算学会および京都大学との共催で,2020年10月31日(土)13時30分~17時にZoomを用いたオンラインで開催されました。当日の参加者は50名程度であり,澤邉紀生氏(京都大学)の司会により進められ,日本管理会計学会・副会長の椎葉淳氏(大阪大学)より開会の挨拶が,日本原価計算研究学会・副会長の中川優氏(同志社大学)より閉会挨拶がありました。第1報告は古井健太郎氏(松山大学)・飯塚隼光氏(一橋大学大学院生),第2報告は小山真実氏(神戸大学大学院生),第3報告は若林利明氏(上智大学)でした。また,ディスカッサントとして,第1報告に対しては篠田朝也氏(北海道大学),第2報告に対しては妹尾剛好氏(中央大学),第3報告に対しては森光高広氏(西南学院大学)から,それぞれ研究内容の要約と研究の改善に役立つコメントが数多くなされました。フロアからもコメント・質問が多くあり,活発な議論が行われました。
 なお,リサーチセミナーは例年6-7月に1回,10-11月に1回の開催を予定していますが,2020年度は新型コロナウィルスの感染拡大を受けて,第1回は中止となりました。このため,2020年度は第2回のみとなりました。

第1報告 古井健太郎氏(松山大学)・飯塚隼光氏(一橋大学大学院生)
報告論題:「シンプル」管理会計の探究−医療機関における設備投資の事例から−

 第1報告では,医療機関での設備投資の意思決定の事例をもとに,「シンプル」管理会計について提案しています。本研究ではまず,2つの病院における設備投資の意思決定の事例を詳細に紹介しています。これらの事例の共通点として,管理会計の実施そのものが未成熟であり,原価計算は実施しておらず,予算編成を実施しているのみであることを指摘しています。また,両事例ともに,設備投資の意思決定においては,回収期間を参考までに算出する程度で,洗練された経済性評価の方法を用いているとは言えないと指摘しています。
 そして,このように必ずしも洗練された意思決定を⾏なっているとは⾔えない医療機関の事例に基づき,洗練された投資意思決定について理解し活⽤できるようになるためのコストを⽀払うことよりも,理論的とは言い難いが簡単に理解・算出できる経済性評価と管理会計以外の要素を組み合わせる「シンプル」な管理会計が有用であることを主張しています。そして,このような「シンプル」管理会計の運⽤から,投資意思決定に有⽤な豊かな情報を得るとともに,医療機関での管理会計の普及やマネジメントに対する意識向上を⽬指していることを指摘しています。

第2報告 小山真実氏(神戸大学大学院生)
報告論題:チームにおけるラチェット効果に関する実験研究

 第2報告では,チーム生産という環境下におけるラチェット効果の理論予想を実験研究によって検証しています。ここでラチェット効果とは,今期良い成果を残すと次期目標はより達成困難な水準に改定されることを予想して,将来の目標を達成容易な水準に据え置くために,従業員がその能力を最大には発揮せず今期の成果を低める動機を持つことと説明しています。また,本研究のもう一つの特徴であるチーム生産とは,複数の従業員が相互依存的に仕事を行なう環境のことです。従来のラチェット効果に関する研究では,従業員がそれぞれ独立的に仕事を行なう環境を考察しており,この点で本研究は独自性のある状況を分析していると指摘しています。
 本研究の主たる結果としては,第1にチームにおいては,ラチェット効果のメカニズムが異なることを理論と実験の双方から示したことにあり,チームとして働く従業員の不平等回避が強い場合,経営者が特別なことをせずとも,ラチェット効果が生じないことを明らかにしていると指摘しています。また第2に,熟練者と未熟練者がチームを組むときに,未熟練者の能力が伸びる効果と熟練者が手を抜くことを抑制する効果があることを示しています。このことは,従業員の教育研修制度に関する研究・実務に新たな知見を提示しています。

第3報告 若林利明氏(上智大学)
報告論題:ITによる業務プロセスの効率化投資とインセンティブ契約

 第3報告では,ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)のようなITを利用した業務プロセス効率化の投資・支出は,どの程度の金額で,組織のどのレベルが投資意思決定権を有するべきであり,それに伴い業績評価はどうあるべきかを,事業リスクと組織成員のITリテラシーの観点から,契約理論に依拠した数理モデルを用いて明らかにしています。
 本研究の主たる結論として,第1にITリテラシーがある閾値より大きいのであれば最適なRPA等の導入水準が決まり,そのもとでの報酬契約が提示されるから,RPA等の導入と業績評価システムを統合的に,かつ業務や事業特性に応じて考えるべきであることを指摘しています。また,第2に人工知能(AI)とRPAには相補性があること,第3にITリテラシーが高いほど,組織内のIT教育は有意義であることを主張しています。また第4に本部の方がエイジェント(事業部)よりもITリテラシーが低かったとしても,RPA等の導入の決定権を本部が留保した方が良いケースが存在し,その傾向は事業リスクが高いほど高まることを指摘しています。

The Japanese Association of Management Accounting