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2016年度 第1回フォーラム開催記

■■2016年4月16forum2016-1.jpgのサムネイル画像日(土)13時50分,日本管理会計学会2016年度第1回フォーラムが,亜細亜大学において開催された(フォーラム準備委員長:亜細亜大学・大島正克氏)。今回のフォーラムは,「サービス・リエンジニアリング―わが国宿泊産業のインバウンド戦略にフォーカスをあてた考察―」という統一テーマに沿って,研究者と実務家が報告を行うというプログラムであった。
開会にあたり,フォーラム準備委員長である大島副会長から開会の挨拶とともに本フォーラムの統一テーマ決定の経緯の説明があった。引き続き,青木章通氏(専修大学)の司会のもと,伊藤嘉博forum2016-2.jpgのサムネイル画像氏(早稲田大学),庵谷治男氏(長崎大学),橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)の3氏の研究報告があり,最後に青木氏をディスカッサントとして,パネルディスカッションが行われた。
本フォーラムは,全国から40名を超える研究者・実務家の参加を得,各報告に対しフロアから活発な質問や意見が出るなど,熱のこもった議論が繰り広げられた。その後,場所を移して懇親会が行われ散会となった。
各先生方の報告の概要は以下のとおりである。

■フォーラム・スケジュール
開会挨拶(13:50-14:00)大島正克氏(フォーラム準備委員長:亜細亜大学)

第1報告 伊藤嘉博氏(早稲田大学)
報告(30分):「宿泊産業におけるサービス・リエンジニアリングの課題」

第2報告 庵谷治男氏(長崎大学)
報告(30分):「サービス・リエンジニアリングとアメーバ経営―宿泊産業の事例にもとづく考察―」

第3報告 橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)
報告(30分):「日本を好きになって頂くという使命を持って」

パネルディスカッション&ディスカッサント:青木章通氏(専修大学)
報告者によるDiscussionsおよびQ&A(60分)

■第1報告 伊藤嘉博氏(早稲田大学)
「宿泊産業におけるサービス・リエンジニアリングの課題」
伊藤氏は,日本宿泊産業,とりわけ中小規模の組織が積極的に取り組むべforum2016-3.jpgき課題として,インバウンド戦略の実施を識別したうえで,これを支援するアプローチとしてサービス・リエンジニアリング(SRE:Service Re-Engineering)の基本概念および具体的なサポートツールについて解説され,日本宿泊産業におけるSRE活用の重要性を提案された。
このなかで,伊藤氏は日本における宿泊産業の現状と課題について,中小のホテル・旅館では,特に経営のためのノウハウが欠如していると指摘し,この解決方法としてもSREの活用が有意義であると主張する。
さらに,SREの特徴の一つはサービタリティ(Servitality)であるとし,その概念を提起し,サービスという抽象的な概念を操作可能なものへと転換すべきであると述べ,具体的には,商品としてのサービスの構成要素(サービタリティの3要素)であるクオリティ(Quality),ホスピタリティ(Hospitality),アメニティ(Amenity)の関係において,「Q×H+A(プロセス)=ACbS(結果)」という「ACbS戦略等式」の有効性を提唱した。
このACbSは顧客満足(CF)と同義ではなく,ロイヤルティにつながる深い影響力を秘めたもので,Qの確保なしにHを設計開発しても効果は持続しない。また,Aは即効性があるが,その提供には慎重さが求められると述べた。
最後に,SREの実践をサポートするツールとして,原価企画(VE),BSC(バリュー・ドライバー分析ほか),コンペティターコスト分析,アメーバ経営,サービスABCD(Attribute-Based Cost Deployment)ほかを挙げた。今後の検討課題は「個々のサポートツール有効性の検討,組織の形態,規模などによるSRE実践プロセスの変化の検証,関連組織・団体とのコラボレーションの在り方をサービスサプライチェーンとして体系化するアプローチの探究にある」とし,こうした課題は「宿泊産業に限定されるものではなく,サービス産業全体に共通するものである」とした。

■第2報告 庵谷治男氏(長崎大学)
「サービス・リエンジニアリングとアメーバ経営
―宿泊産業の事例にもとづく考察―」
庵谷氏は,サービス・リエンジforum2016-4.jpgニアリング(SRE)と京セラのアメーバ経営についてレビューを行い,アメーバ経営を「人的・物的および情報面のインフラの整備」をサポートする経営管理システムとして位置づけ,宿泊産業におけるアメーバ経営導入事例に基づき,本研究の目的を,SREの情報インフラとしてアメーバ経営がいかなる役割を果たしうるかを明らかにすることとした。
続いて,2004年にアメーバ経営を導入した「ホテル日航プリンセス京都」における2010ー2014年の5年間に及ぶ調査(早稲田大学清水孝教授との共同調査)に基づき,同社のアメーバ経営が,なぜ京セラのアメーバ経営とは異なる方法を採用しているかついて,組織構造と管理会計の視点から4つの論点を導き出した。
論点1  採算単位の「下位展開」の非採用(組織構造)
論点2 「時間当り採算」の非採用(管理会計)
論点3 「週日次展開」の非採用(管理会計)
論点4 「社内売買」の異なる形式(管理会計)
以上の論点から,「ホテル日航プリンセス京都」では,現場の責任者がサービス提供活動に専念できるようにするために,「価値付加的時間(サービス提供時間)」の安易な削減を回避し,かつ最小限の採算管理実務(事務処理時間など)による採算管理の実現を意図し,京セラアメーバ経営を修正して利用していると考えられると結論づけた。
アメーバ経営は「有する機能を効果的に用いることによって,目標の進捗管理を通じ現場の責任者が『最小コスト』によるサービス提供を意識できるようになる。京セラアメーバ経営を全く同様に導入可能かどうかは導入組織の事業特性に依存する」と指摘し,さらに「アメーバ経営は京セラの事業特性をベースに生成された管理手法であり,事業特性が異なる場合はプロトタイプ(京セラアメーバ経営)からの修正が必要な可能性が高い」と指摘した。
最後に「『サービスコンテンツを最小のコストで作りこむ』ことに対して,アメーバ経営がいかなる役割を果たすかは今回の調査では対象としていない」ので,これについては今後の課題にしたいと述べた。

■第3報告 橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)
「日本を好きになって頂くという使命を持って」
橋本氏は,最近,急forum2016-5.jpg成長しているビジネスホテル「道頓堀ホテル」の役員として”おもてなし”の徹底についてのこれまでの経験が語られ,今後のサービス価値の維持・向上を図るためには継続的改善が必要であり,さらに,これまでのホテル業界の固定概念を覆すなどの戦略も必要であると述べた。
日本におけるホテル業界では,海外の旅行会社が日本の仲介代理店を通じて日本のホテルに顧客を紹介し,ホテル側が日本の仲介代理店に手数料を支払うという仕組みになっている。橋本氏は「明確な料金を設定し,安易な値引きはしない」と述べ,他社との差別化を図り,模倣ではなく,自社のオリジナリティを追求することの重要性を強調した。
売上高拡大のための効果的コストの源流管理が必要であるとし,仲介代理店からの価格競争から脱出し,新たな販路の開拓が不可欠であり,異なる商品やサービスを提供することが極めて重要となるが,その役割を従業員が喜んで担うところに当ホテルの成功の鍵があるとした。橋本氏は客層を主に台湾,香港,韓国およびシンガポールなどの東アジアの20歳代後半の女性個人客に絞り込み,販売ルートを海外の旅行会社に特化した。橋本氏は言葉の壁を越え,自分の足で各国の旅行代理店を一軒一軒歩いて交渉し,競合の少ない海外販売ルートを手に入れたことで,国内旅行代理店への支払う手数料を削減させたとした。
また,宿泊客の9割超が外国人であるが,日本では,海外のお客様に特化したサービスを提供するビジネスホテルが無い点に着目し,「ホテルには,宿泊客の思い出作りに徹して日本を好きになってもらう使命がある」とし,効率的サービス価値を明確に識別し,徹底的サービスを提案し続けているとしている。
具体策の一つが19に及ぶ無料サービスの提供である。たとえば,フロントでのおしぼりサービス,飲み物や化粧品の提供,アジア諸国を中心とした外国語対応の観光案内,無料国際電話サービスなどを実施する他,おもてなしとしてラゲッジチェッカーの設置,30ヶ国超の通貨両替手数料無料サービス,ハラールフードの用意など徹底的サービスを実施している。また,海外のお客様に,日本のおもてなしを体験・体感してもらうために,「心に残る想い出」を提供するとともに,平日は着物体験などの日替わりイベントを開催し,日本の伝統文化を味わうことができるようにしている。
その結果,2007年時点では2割であった外国人宿泊率が,2013年には9割超になり,年間客室稼働率は2007年の7割台から9割を超え,3年間で売上高も大幅に増大した。
サービス産業のコストマネジメントの困難性はサービスコストの大半は人件費であることに起因する。コスト削減は直ちにサービスの低下に繋がる恐れがある。橋本氏は「1:1.6,1:1.62,1:1.63」の法則にて人事理念に基づく社員教育と従業員満足を向上させている。全社員に年間20万円の決裁権を委譲,自らが企画段階から参画した時に,2.56倍の効果があるとし,自主性を尊重する経営を図る。この上に自ら共感し共鳴して参画すると4.1倍の効果があると考え,権限委譲の効果による社員のやりがいは企業を超え業界全体の向上という使命感を持つに至るとしている。転職率の高いホテル業界において,当ホテルはこの数年離職はゼロということである。
聴いている側も,橋本氏の熱のこもった話の内容から大いに感激し思わず落涙するほどであった。

■パネルディスカッション
forum2016-6.jpg青木章通氏,伊藤嘉博氏,庵谷治男氏,橋本明元氏
パネルディスカッションは,青木氏の司会とディスカサントの2役によって,進められた。各報告者が発表の要点を述べたあと,青木氏から各報告者に対し,2問ずつ質問が出された。そのあと,フロアから自由に質問を受け,活発なディスカッションが展開された。

■懇親会
17時40分,場所を同会場の2階上の多目的室に移して,懇親会が開催された。30名を超える参加者を前に原田昇会長の挨拶があり,引き続き櫻井通晴専修大学名誉教授による乾杯のご発声ののち,懇談に入った。和やかな歓談ののち,19時15分頃,散会となった。

仲 伯維(亜細亜大学・非常勤講師)

2015年度第3回管理会計フォーラムのお知らせ

日本管理会計学会会員各位

晩秋の候、皆様におかれましてはますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、2015年度第3回フォーラムは下記の要領で同志社大学において開催致します。今回ご報告をいただく方は、大学院生と大学に勤務されてから数年という若手研究者の方々で、いずれも将来有望な研究者です。皆様と一緒に活発な議論ができれば、と考えています。
また、フォーラム終了後、懇親会も予定しております。こちらの方にもご参加いただくようよろしくお願いいたします。

■日時・会場
日時:2015年12月5日(土)13:00-17:00
会場:同志社大学今出川キャンパス(〒602-8580 京都市上京区今出川通烏丸東入)
至誠館2番教室(S2)

■交通アクセス・キャンパスマップ
アクセス:地下鉄烏丸線 今出川駅下車すぐ
http://www.doshisha.ac.jp/information/campus/access/imadegawa.html

キャンパスマップ
http://www.doshisha.ac.jp/attach/page/OFFICIAL-PAGE-JA-42/55135/file/campusmap_imadegawa.pdf

■参加費:1,000円(会場受付で当日払い)

■フォーラム・スケジュール(敬称略)
・13:30-13:35 会長挨拶
・13:40-14:15 第1報告
「ストックオプションの付与と経営者の機会主義的行動」
報告者:遠谷 貴裕(明星大学)
コメンテーター:細海昌一郎(首都大学東京)
・14:15-14:50 第2報告
「中国における中小企業管理会計の現状と課題-大連での調査を中心にして-」
張宏武(関西大学商学研究科博士後期課程2年)
コメンテーター:大島正克(亜細亜大学)
・14:50-15:25 第3報告
「防衛調達に関する契約時概算原価と実際原価の差異に関する考察:利益調整研究手法の応用」
報告者:尻無濱 芳崇(山形大学人文学部)・森光 高大(日本経済大学経営学部)
コメンテーター:威知謙豪(中部大学)
・15:25-15:35 休憩
・15:35-16:10 第4報告
「アメーバ経営が有するPDCAサイクルの分析」
報告者:大西智之(早稲田大学大学院博士後期課程1年)・町田遼太(早稲田大学大学院博士後期課程2年)
コメンテーター:潮清孝(中央大学)
・16:10-16:45 第5報告
「業績評価と業績指標の操作:主観的業績評価の役割」
報告者:北田智久(神戸大学大学院博士後期課程2年)
コメンテーター:中川優(同志社大学)

■懇親会
時間:17:30-19:00
会費:3,000円(予定)、当日会場にて支払い
場所:京都ガーデンパレス
〒602-0912 京都市上京区烏丸通下長者町上ル龍前町605
(当日会場からご案内します。徒歩15分程度)
TEL: 075-411-0111  FAX: 075-411-0403
※懇親会は事前にお申し込み下さい。会場の都合上、当日に申し出られまして受付できない場合があります。
※懇親会についてのお問い合わせを直接、ホテルにはなさらないようにお願いします。お問い合わせは、準備委員までお願いします。

参加の申込はe-mailにて中川優(mnakagaw”あっと”mail.doshisha.ac.jp)宛に11月22日(日)までにお願いします。なお、メールに、1.ご氏名、2.ご所属、3.電話番号および4.懇親会の出欠、をお知らせ下さるようお願い致します。

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2015年第3回管理会計フォーラム実施委員会
委員長  中川優(同志社大学)
委員  青木雅明(東北大学)

管理会計フォーラム担当 青木雅明(東北大学)

2015年度 第2回フォーラム開催記

■■ 2015年7月25日、東北大学片平キャンパスにおいて行われた。鎌田宣俊氏(株式会社エスネットワークス)、内出琢也氏(税理士法人青木&パートナーズ)、長谷部光哉氏(アーセプトコンサルティング)の3名の実務家から報告が行われ、最後にパネルディスカッションが行われた。

■第1報告 鎌田宣俊氏(株式会社エスネットワークス)
「中小企業における管理会計の運用状況及び事例について」
第1報告ではまず、破綻寸前の企業の再生について、運送業者に対するコンサルティング業務の事例等を採り上げて管理会計の役割を描いた。中小企業では、多くの場合社長ひとりで構成される経営陣は管理会計の役割や重要性を認識していない。こうした状況では、経営状態が悪化して経営を建て直す必要があるときでも、セグメント別の収益性を把握できないために事業再編がうまくいかないケースが多いことを鎌田氏は指摘した。また、中小企業の経営者は資金繰りには注目しているものの、計画策定の段階に問題があることが多いとの指摘もなされた。最後に、鎌田氏が関わった中小企業の多くで、社長がPDCAサイクルを強く意識して管理会計を理解・導入させ、また導入に強くコミットさせることが必要であったという見解が示された。

■第2報告 内出琢也氏(税理士法人青木&パートナーズ)
「中小企業のTKC管理会計ツールと活用事例」
第2報告は中小企業の全国的な経営状態の現状についての説明から始まり、コンサルティング業務を行う際に用いる戦略財務管理ツールについての紹介がなされた。我が国の中小企業の現状は年々厳しくなっており、以前は「黒字と赤字を交互に繰り返している」企業が6割であったのに対し、平成26年度末時点では「過去10年間継続的に赤字」の企業が6割になっていまっている。これらの赤字企業を内出氏は「構造的不況型企業」と呼び、構造的不況型企業の経営改善が重要な課題であることを強調した。こうした現状を踏まえ、内出氏が中小企業に対してコンサルティング業務を行う際、財務会計の仕組みを整備させることから始め、経営者が管理会計を導入・運用するための支援を行っていることを説明した。内出氏は中小企業では日々の経理業務を徹底して行わせることを強調した。これにより従業員による不正を発見・防止に役立てることもできる。さらに、不採算事業からの撤退、限界利益率の改善、固定費の削減といった意思決定や活動を行うにあたって、中小企業の経営者の管理会計の理解が不足しているために問題が生じていることが示された。また、経営者にとって利便性の高い業績評価システムが管理会計の利用を促進することも指摘した。最後に、経営計画の策定も含めた支援業務には、コンサルティング会社のコミットメントが必要であるという指摘をした。

■第3報告 長谷部光哉氏(アーセプトコンサルティング(株))
「戦略と業務の新PDCAサイクル – 中小企業へのBSCの導入 – 」
長谷部氏はバランスト・スコアカードを用いて中小企業のコンサルティングを数多く行ってきた。長谷部氏の報告では、バランスト・スコアカードを適用する方法と問題点について説明がなされた。長谷部氏は、最近のバランスト・スコアカードの議論では戦略策定がクローズアップされている点に注目している。中小企業の経営者は、様々な活動をしている。長谷部氏は1活動にかかる時間の中央値が9分であることを指摘し、戦略の実行に際しては経営者のフォローアップをこまめにしないと事前に描いた戦略マップ通りに行かない点を強調した。次に中小企業におけるBSC導入の阻害要因について、中小企業に固有の条件を考慮して整理した。固有の条件とは、人的資本、組織資本、情報資本といったインタンジブルズの不足である。こうした状況から、中小企業ではPDCAサイクルの前段階にLearningの段階があると長谷部氏は提唱し、中小企業にBSCをより効果的に導入する方法をまとめた。

■パネルディスカッション 青木雅明(東北大学)、鎌田宣俊氏、内出琢也氏、長谷部光哉氏
青木雅明氏(東北大学)の司会でパネルディスカッションが行われた。まず、コンサルティング会社が経営支援を行うにあたって、何がキーとなるのかが議論され、報告者たちからは経営者のコミットメントの強さ、PDCAサイクルへの注目、財務状態を考慮に入れた利益計画といったポイントが示された。次に、どういった業績指標に注目すべきか、あるいは経営者が注目しやすいかが議論された。やはり中小企業では借入金返済に対する意識が非常に強く、損益分岐点分析や限界利益概念、キャッシュフロー関連の業績評価が重要であることが議論された。根本的な問題点として、中小企業はマネジメントを事実上経営者ひとりだけが行っている場合が多く、コンサルティング会社と税理士だけが経営者に相談・指導を行うことができることが指摘された。その他様々な議論が1時間以上にわたって行われた。中小企業のコンサルティングにテーマを絞った本フォーラムのパネルディスカッションでは、問題点が明確であったため非常に活発な議論が行われた。

東北大学 松田康弘

2015年度 第1回 フォーラム開催記

■■ 2015年4月19日(土)、2015年度第1回フォーラムが早稲田大学において開催された。今回のフォーラムでは、昨年発刊された創設20周年記念英文学会誌の共同編集者としてご尽力頂いたElla Mae Matsumura氏(Wisconsin大学)をお迎えし、基調講演が行われた。続いて、統一論題では、『価値創造経営の管理会計』として、伊藤和憲氏(専修大学)、挽文子氏(一橋大学)、安酸建二氏(近畿大学)より報告が行われた。いずれの報告も、会場から活発な質問や建設的な意見があり、有意義な議論となった。

■■ 基調講演
■ Ella Mae Matsumura氏(Wisconsin大学)
“What is good management accounting research and how do we get it done?”

管理会計研究のトピックスと目的を提示した後、研究ジャーナルで発表するという観点から、管理会計研究に必要な要素が提示された。まず、先行研究の紹介を交えながら、管理会計研究を行うために必要な条件が述べられた。次に、実際に研究ジャーナルで発表までの手順や査読期間など、米国の事例が紹介された。そして、査読の手順を管理する視点から、提出した論文が掲載不可、再提出または掲載許可などとなった場合に分類して、それぞれの場合で、研究者が論文の掲載に向けて、論文や査読者に対して行うべきことが提案された。最後に、今後の管理会計研究のトピックスについて、新たに注目されてきたものや、未解決な問題を具体的に提示された。

■■ 統一論題
■ 第一報告 伊藤和憲氏(専修大学)
価値創造のメカニズムと新たな理論的モデルの提示

まず、インタンジブルズを経営学、財務会計、業績管理、BSCの各観点から整理を行った。次に、コーポレート・レピュテーションの定義を確認した。続いて、レピュテーションと財務業績の関係に関する研究、レピュテーションの媒介変数、および永続性に関する研究を整理した。特に、永続性に関する研究において、財務業績が現在のコーポレート・レピュテーションに影響を及ぼすこと、現在のコーポレート・レピュテーションが将来の財務業績に影響を及ぼすことを確認した。さらに、Surroca et al.(2010)の研究に基づいて、好循環の理論的フレームワークを紹介した。これらの文献研究の整理を行った後、インタンジブルズと企業価値の創造を結び付ける新たなフレームワークを提示した。

■ 第二報告 挽文子氏(一橋大学)
価値創造とアメーバ経営 – 医療・介護組織を対象として –

医療・介護組織における価値とは、価値創造とは何かを定義してすること。そして、アメーバ経営は、医療・介護組織の価値創造に貢献するのかというリサーチ・クエスチョンを提起した。まず、価値創造について、患者にとっての価値を高めるというポーターの提案を紹介した。次に、アメーバ経営の定義を提示して、時間当たり採算の特徴、および時間概念の導入のメリットについて説明した。そして、ポーターの提案との相違点を示し、アメーバ経営の意義を考察した。最後に、好循環を持続させるためには、経営理念とフィロソフィーが不可欠であるが、医療・介護組織はアメーバ経営と親和性が高く、管理会計は医療・介護組織などでも機能すると結論付けた。

■ 第三報告 安酸 建二(近畿大学)
企業価値経営・企業価値評価におけるCVP分析

先行研究を紹介して、CVP関係に基づく収益構造の把握と利益管理は、企業価値の向上に貢献する可能性があることを示し、回帰分析により、変動費率を推定した。公表データを用いて分析した結果、短期間で変動費率と固定費が変化している可能性があることが示唆された。また、内部データを用いて分析した場合、教科書が想定するほど、CVP関係は単純ではないことが明らかとなった。そして、CVP関係の解明に向けた管理会計研究は、企業価値評価や企業価値経営に対して重要な貢献をなし得る可能性を持つことを説明した。また、変動費と固定費を再検討する動きもあり、CVP分析は重要な研究対象となりつつあると述べられた。

2015年第1回フォーラム実行委員会

2014年度 第3回 フォーラム開催記

■■ 師走の第一土曜日、12月6日に日本2015管理会計学会2014年度第3回フォーラムを甲南大学で開催した。お忙しい時節にもかかわらず、万障繰り合わせ全国から50名強にのぼる方々にご参加頂いた。フォーラムならびに懇親会にご出席頂いた皆様方に心からのお礼を申し上げたい。ちなみに、同フォーラムは2つのセッションでもって構成し、第一セッションを「統合報告の管理会計へのインプリケーションズ」と題し、第二セッションは「管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応」と題してセッションを進めた。なお、本大会記掲載の原稿は個々の報告者にご執筆頂いており、当日のスケジュールに沿って掲載している。

■■ フォーラム・スケジュール
開会挨拶 (13:00-13:10)  上埜 進(フォーラム実行委員長、甲南大学)

■ 第一セッション: 統合報告の管理会計へのインプリケーションズ (13:10-14:50)
開題(15分): 統合報告の歩みと現況
上埜 進 (甲南大学大学院社会科学研究科)
報告(30分): 管理会計実践にとっての統合報告の意義
伊藤嘉博 (早稲田大学商学学術院)
報告(30分): 統合報告をめぐる実証研究
-長寿企業データを用いたパイロット・テストの紹介-
大鹿智基 (早稲田大学商学学術院)
報告者によるDiscussions(10分)
Q&A(15分)

■ 第二セッション: 管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応 (15:10-16:50)
開題(10分): グローバル環境下の日本の会計・経営教育
原田 昇 (目白大学経営学部)
報告(20分): 専門教育へのアクティブ・ラーニングの適用可能性
島 吉伸 (近畿大学経営学部)
報告(20分): 一橋大学の職業人養成教育
古賀健太郎 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
報告(20分): 実務への適合性と研究の厳格性の調和に向けて:
神戸大学における研究者養成教育
梶原武久 (神戸大学大学院経営学研究科)
Discussions(10分):大島正克 (亜細亜大学経営学部)
Q&A(20分)

■■ 第一セッション: 統合報告の管理会計へのインプリケーションズ
■開題 : 統合報告とは -その歩みと現況-
上埜進 (甲南大学大学院社会科学研究科)
Accounting Disclosure, Investors Relations, Stakeholder Management といった脈絡でとらえられている統合報告が、どのようにして生まれ、発展し、その存在感を増し、今日、制度化に向かって進んでいるのかを私どもは理解しておきたい。また、統合報告がどのように実践されており、そのアウトプットである統合報告書がどのような様式・内容をなしているかを確認しておきたい。このことを開題で比較的丁寧に論じ、より特化した報告をされる伊藤先生と大鹿先生の前座を果たせるように心がけた。また、統合報告という開示にかかわる実務プロセスを、管理会計というパースペクティブから捉え、経営管理の改善にinternalize(内部化)することの大切さを強調した。

■ 第一報告要旨: 管理会計実践にとっての統合報告の意義
伊藤嘉博 (早稲田大学商学学術院)
統合報告が管理会計研究ならびに実践に与える2つの影響に関して報告を行った。第一に、統合報告に不可避な財務情報と非財務情報との統合のためのプロトタイプモデルとしてバランストスコアカード(BSC)の貢献が期待されているが、こうした期待に応えていくためには、BSC自身にも変革が必要であると論じ、その方向性の一端を示した。また第二の影響として、統合報告の進展が予算制度の在り方にも変容をもたらす可能性に触れ、結果において脱予算経営への傾斜が促進されるという展望を示した。

■ 第二報告要旨: 統合報告をめぐる実証研究
-長寿企業データを用いたパイロット・テストの紹介-
大鹿智基 (早稲田大学商学学術院)
統合報告をめぐる実証研究について報告をおこなった。まず、先行研究を確認し、強制適用されている南アフリカに着目した研究があり、統合報告書の開示項目についてGRI3.1に準拠している企業が多いこと、しかしそれでもなお、開示情報の「統合の程度」は不十分であること、などが明らかにされていることを紹介した。また、それ以外の国において任意適用をしている企業の特徴に関する実証分析を紹介した。
その上で、今後、統合報告そのものの有用性について株式市場の反応を観察する研究や、具体的な開示項目を検討するための実証研究が必要になることを指摘した。さらに、パイロット・テストとして報告者らがおこなった、長寿企業に着目した実証分析を紹介した。長寿企業は、統合報告の目指す「サステナビリティ」を達成した企業である。分析結果は、長寿企業において、株主以外のステークホルダー(従業員、債権者、国)に対する価値分配が大きいこと、その前提として収益性が高く安定していることなどを明らかにしている。

■ 報告者によるDiscussion、およびQ&A
Discussionの冒頭、伊藤嘉博先生と大鹿智基先生が、相手の報告の中で関心をひいた事項に焦点を当て、さらに敷衍するように求められた。その後のQ&Aでは、会場の2名の先生からご質問があった。統合報告が管理会計研究者のコンベンショナル・ウィズダムになっていないこともあり、いずれの質問者も、統合報告が財務会計、管理会計といかなる位置関係にあるのかに関心を寄せられていた。

■■第二セッション: 管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応
■ 開題: グローバル環境下の日本の会計・経営教育
原田 昇 (目白大学経営学部)
「管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応」という統一論題のもとで、グローバルに対応して質的転換をなして世界に通用する会計・経営教育に係る論点を開題として提起した。
まず第1の論点は「会計教育の内容」については、Relevance Lostの観点から会計教育の実務からの乖離をどう解決するか、実践科学であることから会計や経営の普遍的な原理と原則をどう教育するか、さらにそれらの関係をどう合理的に解決するかなどにある。また第2の論点は「会計教育の方法」に関して、「主体的に学ぶ力」(学士力)を養成する教育方法の1つとしてアクティブ・ラーニングを検討することにある。第3の論点は「会計教育の目的や対象」について、研究者、専門職、会計マインドをもった管理者、会計経営教育者などの養成目的に応じてそれぞれの会計教育に必要な知識の体系を明らかにすることにある。
これらの論点を踏まえると、大学における教育の原点はグローバル化に対応する「研究に基づく教育」にあり、会計・経営教員や大学院生に研究とディスカッションの場を提供し、学問の現状(state of the art)を知らせ相互に切磋琢磨できる「セミナー」や「ワークショップ」が極めて重要な位置を占めることを主張した。

■ 第一報告: 専門教育へのアクティブ・ラーニングの適用可能性
島 吉伸 (近畿大学経営学部)
管理会計は実務から生成し、実践を通じ発展してきたマネジメント手法である。その性質上、教科書の解説だけではなく、ケースを通じて実務における管理会計の活用方法を学ぶことが効果的である。しかし、実務経験や知識の乏しい初学者にとって、ケースから管理会計手法を理解することはやはり難しい。そこで本報告では、現在様々な教育領域で注目されているアクティブ・ラーニングをとりあげ、学生に対して専門教育への興味を抱かせ、主体的・能動的に学習させる仕組みとして、会計領域において既に実践されているアクティブ・ラーニングを活用した教育手法を紹介した。最後に、私がこれまで実践してきた「折り鶴」から学ぶコスト・マネジメント教育の概要とその教育効果について報告した。

■ 第二報告要旨: 一橋大学の職業人養成教育
古賀健太郎 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科の国際経営戦略(International Business Strategy、 IBS)コースについて報告した。60名ほどの学生の平均像は30才、就労経験7.5年、7割が海外留学生で、職を離れて学業に専念する。一般に、経営全般を志向し、会計のような特定の分野への興味は薄い。また、卒業後の就職が最大の関心事である。こうした学生の志向に応えるため、IBSでは科目を統合する学習の機会を作り、実務家と協働する教育に力を入れている。Deep Dive Dayでは学生がローソンの店舗を観察して、新しい業態を、同社の経営幹部の前で提案する。

■ 第三報告要旨: 実務への適合性と研究の厳格性の調和に向けて:
神戸大学における研究者養成教育
梶原武久 (神戸大学大学院経営学研究科)
神戸大学大学院経営学研究科における管理会計研究者養成教育に関する最近の取り組みについて報告を行った。まず、「管理会計の適合性喪失」の認識のもと、日本企業の革新的管理会計実務の解明を主目的として展開されてきた従来型の管理会計研究者養成プログラムの問題点として、社会科学の基礎理論の軽視、研究の厳格性の欠如、研究者による特定の手法への偏った関心などの点を指摘した。次に、上記の問題点の解決を目指して、神戸大学が近年行っている研究者養成の取り組みをいくつか紹介した。近年の取り組みの成果として、基礎理論としての経済学の学習や研究方法の体系的な習得の面で改善がみられる一方で、心理学や社会学の体系的な教育の困難であることや、理論を重視した結果として学生の実務への関心が低下しており、「実務への適合性」と「研究の厳格性」のバランスを図ることが困難であることなどの課題があることを指摘した。最後に、管理会計研究者の養成に向けて、特定の大学を超えた、学会レベルでの取り組みが必要であることを主張した。

■ Discussions:大島正克 (亜細亜大学経営学部)
4名の各先生からのご報告に対して、以下のような点を中心に討論した。開題の原田昇先生には、「管理会計・原価計算の教育に関するテーマは、これまでも多く論じられてきましたが、再度今回、当フォーラムで取り上げる意味について、グローバル化を強調されています。グローバル化に関しても以前もありましたが、今回は特にどのような点に着目されたのでしょうか。」第一報告の島吉伸先生には、学部学生の専門教育について「アクティブ・ラーニングの有効性を向上させるためには事前的な知識の付け方が重要といわれていますが、その点はどのようにしておられるのでしょうか。」第二報告の古賀健太郎先生には、専門職大学院における職業人養成教育において「アメリカのビジネス・スクールでは入学すると直ちに会計を学び、その上で経営戦略などを学ぶのが一般的であるのに日本のMBAでは、そこまで会計を重視していないのはなぜでしょうか。また最近のアメリカ文献では、管理会計担当者の地位が単に意思決定者に対して有用な情報提供のみならず意思決定者の一員となっていますが、実際はどうなのでしょうか。」第三報告の梶原武久先生には、大学院における研究者養成教育おいて「管理会計を研究したいという院生は増えているのでしょうか。教える側も学部、MBA、Ph.D.の両立が難しく、私立ではそれが一層難しい現状において、質の保証からみて我々が取り組まねばならない問題で重要なものは何でしょうか。」などをDiscussionsした。

■■ 懇親会
フォーラム終了後に甲南大学生協のレストラン、Favorite Hallで懇親会を催した。気温が上がらず、大変に寒い日であったが、東北、九州、関東の先生方なども残って下さり、30名あまりで懇親会をスタートできた。挨拶、乾杯のあと、多少のアルコールも入り、話題が大いに盛り上がり、賑やか、かつ和やかな雰囲気の中に会を終えた。ご出席頂いた方々に、改めてお礼を申し上げたい。

上埜 進(フォーラム実行委員長、甲南大学)