日本管理会計学会2022年度第1回関西・中部部会開催記

2022年5月30日 森本和義(羽衣国際大学)

 日本管理会計学会2022年度第1回関西・中部部会が、2022年5月21日(土)に、羽衣国際大学(大阪府堺市)を主催校として開催された。部会の開催にあたり、部会準備委員長から部会の進行方法の説明があり、続いて皆川芳輝関西・中部部会長から開会の挨拶が行われた。
 今回の部会は、対面(来会)とWeb(Zoom)との併用での開催であった。対面での参加者は16名で、Webでの参加者は18名であった。特別講演と2つの研究報告が行われたが、いずれの報告者も壇上から生き生きとした表情での発表であった。また、活発な質疑応答が行われた。

第一部〔特別講演〕 司会:森本和義氏(羽衣国際大学)
講演者:木原久友氏(南海電気鉄道株式会社まち共創本部グレーターなんば創造部長)
講演テーマ:「グレーターなんばのまちづくり」
 特別講演では、大阪ミナミの中心地なんばのまちづくりが講演のテーマであった。大阪ミナミの中心地なんばは南海なんば駅を中心に都市機能を発展させてきたが、講演者の木原氏は、新たな取り組みとして、従来のなんばを越える「グレーターなんば」のまちづくりについて講演された。木原氏によると、人を惹き付けるなんばの強みや特徴は、道頓堀の水辺と看板にある。また、「グレーターなんば」を創造するための2つのちからは、なんばの特別な期待感を楽しむ「エンタメのちから」となんばの日常の期待感を支える「ステイのちから」であると語られた。戦略上のターゲットとなるのは、なんばを選んでわざわざ訪れる人となんばの滞在者・居住者であり、「グレーターなんば」の創造を加速させる要因としては、都市機能の多様化、ダイバーシティおよび新規事業創出などが指摘された。
 さらに、なんば駅前広場空間再編事業の話では、車両中心の駅前空間を人中心の空間に再編するプロジェクトについて講演された。なんば駅前広場を人中心の空間に再編し、大阪ミナミの新たなシンボル空間を生み出すために、社会実験が実施されていることもお話になった。
 講演後には、大阪キタの梅田に対する大阪ミナミのなんばの強み、都市開発を行う上での鉄道業の強みや特徴、なんばの戦略上のポジショニングなどについての質問があり、活発な質疑応答が行われた。

第二部〔研究報告〕 司会:徳崎進氏(関西学院大学)
第1報告 
報告者:玉川絵美氏(関西学院大学)
論題:「企業価値評価においてインプット情報となる公正価値の概念に関する一考察-『予備的見解:
金融商品および特定の関連資産、負債の公正価値での報告』を中心に据えて-」

 報告者の玉川氏は、まず、公正価値の問題点として、公正価値の概念が広義であるため、立場により公正価値概念の捉え方が異なる可能性があることを指摘した。そして、その問題点を解決するために着目したのが、FASBが1999年12月に公表した「予備的見解:金融商品および特定の関連資産、負債の公正価値での報告」であった。現行の公正価値測定の会計基準を構成するSFAS第157号は2006年9月に公表されているが、玉川氏の研究はSFAS第157号より過去に遡って公正価値概念を探究する試みであった。
 玉川氏の報告では、まず、FASBの予備的見解における公正価値の概念が明確にされた。そして、予備的見解に対して寄せられたコメントをもとに、コメント回答者が抱く公正価値の概念も検討の対象であった。コメントレターの分析からは、次の4点が明らかにされていた。第一に、予備的見解は、財務諸表作成者や監査人、金融商品を取り扱う団体の関心が高い。第二に、すべての金融商品に公正価値測定を適用するという提案には66%以上のコメント回答者が反対している。第三に、金融商品の全面公正価値測定に反対している場合、コメントレターではその反対理由を説明するに留まる傾向にある。第四に、予備的見解で示された定義には50%以上の反対があり、賛成よりも反対の立場のコメント回答者が多い。さらに、予備的見解で示された定義に反対する理由としては、公正価値の定義の実行・適用の難しさ、測定値の客観性・一貫性の欠如、公正価値が継続企業に適さない清算価値であること、恣意性の介入が指摘された。そして、結論として、予備的見解が公表された当時におけるコメント回答者の考える公正価値とは、見積りの要素を極力取り除いた実現可能性を重視した価額ではないか、という見解が主張された。

第2報告 
報告者:卜志強氏(大阪公立大学)
論題:「マネジメント・コントロール・システムの理論的基礎としての企業理論」
 
 報告者の卜氏は、サステナビリティ経営やパーパス経営を念頭に置きながら、新たなマネジメント・コントロール・システム理論(MCS理論)とMCS理論の基礎としての現代企業理論の双方を構築する必要性を主張した。アンソニーのMCS理論、マーチャントのMCS理論、サイモンズのレバー・オブ・コントロール理論、マルミとブラウンのMCSパッケージが説明されるとともに、「管理会計の適合性喪失」や「予算管理無用論」といった欧米の学界での議論も取り上げられた。そして、従来から新たなMCS理論を構築する試みが継続的に行われてきたことが指摘された。
 他方で、伝統的企業理論は、株主第一主義や株主価値最大化目標を基本的前提としている。しかし、卜氏によると、近年の経営環境の変化によって、企業経営に関する基本的な考え方を転換する必要に迫られている。企業経営に関する新しい考え方としては、主に次の3点が指摘された。第一に、株主第一主義から多様な利害関係者に経営の基軸を移すべきである。第二に、環境重視の視点から事業を見直すべきである。第三に、企業の社会的責任(CSR)をより重視すべきである。そして、こうした考え方に立脚する経営手法が、サステナビリティ経営やパーパス経営であると主張された。
 卜氏の報告では、伝統的企業理論に対する修正として、人本主義企業理論や利害関係者理論が取り上げられていた。卜氏の定義では、現代企業とはすべての利害関係者のために価値の創造と分配を行う組織である。卜氏が構想する現代企業理論では、経営者と社員と株主が主権者であり、企業が創出した共通価値(経常利益+人件費)が経営者と社員と株主の三者の協議によって分配されることになる。そして、最後に、このような現代企業理論に依拠しながら、新たなMCS理論を構築する必要性が主張された。

2022年度第1回(第62回)九州部会開催記

2022年5月28日(土)13:55~17:00

■■ 日本管理会計学会2022年度第1回(第62回)九州部会が、2022年5月28日(土)13:55~17:00に、開催校の中村学園大学(福岡市)によってハイブリッド方式(対面参加+オンライン参加)で開催された(準備委員長:水島多美也氏)。今回の九州部会では、ハイブリッド方式ということもあり、全国から50名(うち対面出席25名)を超える研究者・学生の参加を得て、いずれの報告においても活発な質疑応答が展開された。

水島氏

■■ 第1部の特別講演では、小湊真美氏(⻄日本シティ銀⾏執⾏役員広報⽂化部⻑)により、「⻄日本シティ銀⾏が取り組む地方創⽣ SDGs」と題する講演が行われた。本講演では、西日本シティ銀行が地域活性化に取り組む理由と、地域創生が叫ばれる現代において、地域金融機関の果たすべき役割とは何か、について紹介された。
小湊氏は、地方創生SDGsとは、地域の課題をSDGsという「共通のものさし」で解決することであると述べ、西日本シティ銀行の2020~2023年の中期経営計画では「地域の元気を創造する」をキャッチフレーズとして、経営戦略が掲げられている。その中でも「地域経済の活性化」について特に重要視されており、①創業支援、②地域開発、③課題解決支援、④社会貢献の視点で、地域の発展をサポートしている。小湊氏はこれまでの経験の中で、「銀行の役割とは何か」という視点から、銀行業務だけではなく、幅広く地域の課題を解決することによって、地域発展につながった事例などを紹介され、地方創生SDGsの必要性を提示された。講演後の質疑応答では、フロアやオンライン上から活発なディスカッションが行われ、盛況のうちに終了した。

小湊氏

■■ 第2部の研究報告では、田坂公氏(福岡大学)の司会のもと、宮地晃輔氏(長崎県立大学)より、「税理士事務所の中小企業への事業再構築支援に関する事例研究 ―茨城県 K 社の事例を用いて―」と題する報告が行われた。本報告は、新型コロナウイルス感染症の拡大下において、中小企業等事業再構築促進事業を活用する中小企業への税理士事務所の支援の在り方について考察することを目的としている。
 報告者は、茨城県内にある税理士事務所と、その関与先である食品加工業を営む株式会社を対象に、事業再構築補助金活用における税理士事務所の関与について、事例研究を報告された。その中で、税理士事務所の強みとして、会計業務や税務申告業務は関与先との継続性ある接触機会であり、月次訪問の際に経営者とともに計画を点検し、PDCAを回していくような経営支援の在り方が有力であると提言された。課題として、顧客企業の事業再構築計画のサポートには、税理士事務所および職員の管理会計能力が必要とされると示された。しかし、税理士業界の環境が厳しさを増している現状、顧客企業に必要とされる税理士事務所であり続けるためには、これらの課題を克服し、経営支援サービスを提供できることが重要であると提言された。

宮地氏

■■ 特別講演と研究報告終了後、九州部会総会が開催された。次回の九州部会は、2022年11月(開催校未定)に開催予定である。

水野真実(熊本学園大学)

2022年度第1回(第62回)九州部会のご案内

2022年4月吉日

日本管理会計学会会員各位

日本管理会計学会
2022年度第1回(第62回)九州部会のご案内

拝啓 
春風の頃、会員の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
下記の要領にて、日本管理会計学会九州部会2022年度第1回(第62回)大会を、中村学園大学(福岡市、準備委員長:水島多美也氏 mizusima[at]nakamura-u.ac.jp)を開催校として、ハイブリッド方式(対面参加+オンライン参加)にて開催いたします。参加費は無料です。万障お繰り合わせのうえ、ご参加賜りますようご案内申し上げます。
参加をご希望の方は、準備の都合上、5月20日(金)までに、九州部会事務局宛に、e-mail(maruta[at]econ.kyushu-u.ac.jp)にてご連絡ください。対面参加・オンライン参加のいずれでの参加を希望されるかもお知らせください。お申込みいただいた方全員に、5月26日(木)頃に、ZoomのURLをメールでお知らせいたします。

敬具

1.日時:2022年5月28日(土) 13:55~17:00

2.対面開催場所:中村学園大学 4号館 2階 4201教室
アクセスとキャンパス案内については、下記のホームページでご確認ください。
https://www.nakamura-u.ac.jp/outline/access.html
https://www.nakamura-u.ac.jp/outline/map.html

3.プログラムは裏面の通り

【日本管理会計学会九州部会事務局】  
〒819-0395 福岡市西区元岡744 イーストゾーン
                                 九州大学経済学研究院 丸田起大研究室内
                             TEL:092-802-5454
email: maruta[at]econ.kyushu-u.ac.jp

メールアドレスの[at]を半角の@に変更してください。

 

日本管理会計学会
2022年度第1回(第62回)九州部会プログラム

2022年4月26日 修正版

1.開催日時:2022年5月28日(土)13時55分~17時00分
2.開催方法:対面およびオンライン(ハイブリッド方式)
3.対面参加:中村学園大学 4号館 2階 4201教室
4.オンライン参加URL:(参加申込者に後日通知)

■13:55~14:00 開会挨拶 大会準備委員長 水島多美也氏

第一部〔特別講演〕

■14:00~15:30
 講演者:小湊真美氏(西日本シティ銀行執行役員広報文化部長)
 講演テーマ:「西日本シティ銀行が取り組む地方創生SDGs」

(15:30~15:45 休憩)

第二部〔研究報告〕

■15:45~16:30(報告30分、質疑15分)
 報告者:宮地晃輔氏(長崎県立大学教授)
 論題:「税理士事務所の中小企業への事業再構築支援に関する事例研究
     ―茨城県K社の事例を用いて―」

(16:30~16:45 休憩)

第三部〔部会総会〕

16:45~17:00 九州部会総会

■閉会挨拶 大会準備委員長 水島多美也氏

以上

日本管理会計学会2022年度年次全国大会開催と自由論題報告者募集のお知らせ

拝啓 春暖の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
 さて、日本管理会計学会2022年度年次全国大会を明治大学駿河台キャンパスで開催いたします。つきましては、自由論題の報告者を募集いたします。報告をご希望の方は、下記3.の事項を記載の上、期日までにお申し込みください。ただし、会場等の都合上、ご希望に添えないこともございます。また、大会は対面方式で準備を進めておりますが、オンライン形式になることもございます。これらの点、予めご了承ください。    

敬具

1.開催期間:2022年8月29日(月)~31日(水)
  ※自由論題報告は、8月30日(火)と31日(水)となります。
2.会場:明治大学駿河台キャンパス
  統一論題  (座長:田坂 公先生)
   「わが国におけるコスト・マネジメントの現状と課題」
3.自由論題申込(締切 2022年5月16日(月))
 ⑴ E-mail件名「自由論題申込(応募者氏名)」
 ⑵ ご氏名・ご所属・職位・E-mailアドレス・電話番号
 ⑶ 報告論題・報告要旨(200字程度)・キーワード5つ程度
 ⑷ 利用機器、ソフトウェアなど発表の方法
 これらを明記のうえ、jama2022mu[at]gmail.comまでお申し込みくだ
 さい。([at]を半角@に変更してください。)
4.本大会では、自由論題報告活性化を目的に、8月10日(水)を締切と
 してフル・ペーパー(ワーキング・ペーパー)提出をお願いしており
 ます。ご応募いただいたフル・ペーパーは学会員に限定してウェブ上
 からダウンロードできるようにしますことをご了承ください。

          日本管理会計学会
          2022年度年次全国大会準備委員長  﨑 章浩
          〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1
          駿河台キャンパス研究棟620号室

2022年度スタディ・グループの公募について(2022年6月30日締切)

日本管理会計学会会員各位

今年度も「スタディ・グループ規程」に従いJAMAスタディ・グループを広く会員の皆様に募集いたします。
応募される会員は,規程にしたがって,「JAMAスタディ・グループ申請書」をjama-post[at]bunken.co.jp ([at]を半角@マークに変更してください)宛てまでメールでご応募ください。
申請期限は2022年6月30日(木)《期日厳守》です。
第2回常務理事会で審議し,選考の結果はグループ代表者に通知いたします。
なお、「スタディ・グループ規程」は、学会公式WEBサイト(https://sitejama.jp/?page_id=74 ) でご覧になることができます。

申請書の様式として,以下の内容を記載して下さい。

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JAMAスタディ・グループ申請書
  研究代表者の所属・氏名
  連絡先 (住所,電話番号,E-mail)
Ⅰ 研究課題
Ⅱ 研究目的(意義・概要・構想)
Ⅲ 研究計画(方法・実施状況・期待される成果など)
Ⅳ 本研究に関する国内外の研究の現状と本研究計画の特徴
Ⅴ 各共同研究者の所属と氏名,役割分担
Ⅵ 研究代表者および共同研究者の過去5年間の主な研究業績
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