■■ 日本管理会計学会2014年度第1回フォーラムが2014年4月26日土曜日に早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて開催された。今回のフォーラムでは『日本企業における企業価値創造経営』というテーマで研究報告が行われた。辻正雄氏(早稲田大学)司会のもと、第1部では佐藤克宏氏(McKinsey&Companyプリンシパル)、花村信也(みずほ証券執行役員)、柳良平(エーザイ執行役員)の3組が講演され、第2部では淺田孝幸氏(立命館大学)をディスカッサントに佐藤克宏氏、花村信也氏、柳良平氏の3名によるディスカッションが行われた。いずれの報告およびディスカッションもフロアから活発な質問や意見があり、有意義な議論がなされた。その後、場所を移して懇親会が行われ、散会となった。各先生方の報告の概要は以下のとおりである。
■■ 第一報告 佐藤克宏
「企業価値創造の理論と経営における実践の融合
ー企業オペレーションとM&Aにおける最近のトピックを中心にー」
佐藤氏は企業価値がROICとキャッシュフロー成長率のバランスにより異なることを示された。そして、ROICと売上高成長率の傾向を観察し、売上高成長率に比べてROICの方が長期にわたり持続性がみられることを指摘された。このことから、企業経営の現場でも企業のオペレーションによる企業価値向上が重要であることを示された。次に佐藤氏は、M&Aによる企業価値創造について論ぜられた。M&Aによる買収価格は、理論的には、将来創造されると考えられる価値を売り手と買い手に分けた後、その売り手側の取り分に現状の延長線上の企業価値を加えたものである。そのため、買収を通じて企業価値を創造する場合、業績改善を通じた被買収企業側の大幅な価値向上が必須となる。しかし、そもそも日経企業は、M&A検討段階からの詰めが甘いことにより、買収後のマネジメントよりも以前に、買収価格の「払いすぎ」という落とし穴に陥っていると指摘された。
■■ 第二報告 柳 良平
「企業と市場のダイコトミー緩和に向けた処方箋の理論と実践
ー「企業価値評価」にフォーカスしたアプローチー」
柳氏は、日本の株式市場の長期低迷の原因は企業と投資家との間のダイコトミーにあると指摘し、日本企業の長期株主価値向上への指針を提示された。柳氏は、日本の株式市場の長期低迷は、世界的にみても低いROEに加え、ガバナンスの不備やディスクロージャーの質・量を原因とした資本コストに起因していると述べられた。そして、これらの本質的な原因には、日本企業の経営者と投資家との間の意識の違いがあり、日本の経営者が安定配当思考なのに対して、投資家は資本効率を重視していると指摘された。柳氏は、この解決策として、エーザイを例に長期的な企業価値創造の財務戦略を述べられた。同社はROE経営を前提に配当政策を立案し、積極的な戦略投資にVCIC(Value-Creative Investment Criteria)を導入することで常に株主価値創造を担保した企業運営を行っている。柳氏は長期的株主価値の向上のためには、VCICのような株主価値を担保する基準による積極的な戦略投資が重要であると述べられた。
■■ 第三報告 花村信也
「M&Aによる企業価値創造とのれんの償却問題」
日本の会計基準では、のれんは20年以内で均等償却される。一方、IFRSや米国会計基準では、のれんは償却されないこととなっている。そのため、日本基準の下でのれんを償却した場合にM&Aの効果が減少することもあり、日本企業の経営者にとってはIFRSを採用した方が大型M&Aに踏み切りやすい。花村氏は、のれんの会計規則がM&A促進に資するかという問題意識のもと、理論と実証の先行研究を概括し、それらの先行研究に実務の視点から検討を加えられた。花村氏はのれんの処理に関する多くの先行研究を概括されたが、ここでは特にのれんの減損による報告利益管理について取り上げる。IFRS3号では減損テストの単位が資金生成単位であり、それが事業セグメント以下の単位であることが規定されている。実務の立場からは、資金生成単位を増減させることで減損処理の実行もしくは回避することは十分考えられる。減損による報告利益管理の研究は解明の余地が残されている。
辻 正雄(早稲田大学)