■■ 2010年3月13日午後2時より,筑波大学東京キャンパスにて,日本管理会計学会2009年度第2回リサーチセミナーが開催された。今回のフォーラムは,小倉昇氏(筑波大学)の司会のもと,若手研究者の特徴ある2つの実証研究が紹介された。当日の参加者は各大学の研究者及び企業の経理および管理会計担当者等18名で,活発に質問・意見交換等が行われ非常に内容のあるリサーチセミナーとなった。
■■ 最初の報告は,吉井貴充氏(筑波大学大学院)より「研究開発投資の会計処理に関する一考察」というテーマで報告がなされた。わが国の研究開発費の会計処理に関しては2000年度以降,FASB基準同様に支出があった決算期に費用計上されている。吉井氏は,わが国でもIFRSへの適用が検討されるなか,IFRS基準では開発費においては一部資産化が盛り込まれていることに着目する。もちろん,研究開発費に対する資産計上に関しては,研究開発投資(R&D)と将来利益との関係が不明瞭な上,不確実性が存在する。吉井氏はここで,わが国において2000年以降,R&Dについて,注記計上及び販管費計上する企業が増加し,繰延資産計上する企業が減少している点に着目する。そして,わが国の会計基準変更後のR&Dを対象に業種毎の適切な会計処理と業種間の相違について研究を展開した。
発表においては,先行研究にもとづき(1) R&Dと将来利益との関連性をR&Dと将来利益のタイムラグを検出できるかどうかで検証する研究と,(2) R&Dが将来利益の不確実性(5年間の経常利益の標準偏差)に与える影響を設備投資の投資リスクと比較することにより検証するという2つの視点から会計処理を実証的に評価している。
実証分析の結果,サンプル産業の全業種で3年以上のラグ期間が存在することが確認され,R&Dと報告利益の間の関連性が示唆された。また,サンプル企業のうち化学,医薬品,精密機械の各産業については投資リスクへの正の影響が確認されたが電気機械・自動車については確認ができなかった。結論として吉井氏は,化学,医薬品,機械,精密機械などの産業では開発費の費用処理が支持されるが,電気機械産業と自動車産業は開発費の資産化が示唆されると考察した。
報告の後,質疑応答では,吉井氏の今後の課題としてはモデルの精緻化やサンプルデータの拡張,最近のM&A事例の増加でサンプル企業のグループの課題などいくつかの意見が出された。また,提示したモデルの独立変数のあてはまり具合の検討など出席者から非常に有益な意見が出され活発な議論が行われた。
■■ 次に,鈴木竜児氏(公認会計士・早稲田大学大学院)より「多角化経営におけるシナジー効果の評価と分析」のテーマで報告が行われた。鈴木氏は (1) シナジー効果の評価 (2) シナジー効果に基づく企業価値の実証分析について報告を行った。そのなかで,研究方法として,(1)については,セグメント報告書のセグメント間取引の割合に着目して多角化企業を関連多角化・非関連多角化に分類する方法を試行し,また,(2)については,「超過価値アプローチ」(株価リターンの業界平均からの超過)によって企業価値を評価する方法を採用した。
仮説の設定にあたり鈴木氏は,シナジー効果の評価については,多角化企業は,業種を意識した事業展開よりも,事業間のビジネス上のつながりや事業相互間のシナジー効果を期待して事業を展開していると考えられ(事業実態面),また,事業間のつながりやシナジー効果が経済活動に現れるものと想定すると,「事業の種類別セグメント情報」に財務数値として反映される(財務数値面)と想定している。次に,シナジー効果に基づく企業価値の実証分析について鈴木氏は,非関連多角化企業や専業企業に比べて,セグメント間取引の比率が高い関連多角化企業は,高い水準の超過価値で評価されているとの実証結果を導いた。
鈴木氏の報告後,星野優太氏(名古屋市立大学)がコメンテーターとして詳細なコメントおよび提言を述べた後に,質疑応答及び議論が行われた。なかでも多く議論されたのが,「シナジー効果」についてであった。この,シナジーの定義,分析モデルについて各参加者の様々な考え方や研究方法の提言については多くの議論があった。そして,議論途中で質疑時間終了となったが,司会者の判断で任意の議論に切り替えたが,多くの参加者が最後まで残り,様々な意見が交わされた後に今回のリサーチセミナーは終了となった。
加藤惠吉氏 (弘前大学)