榎本哲也(南山大学大学院 博士後期課程)
日本管理会計学会2024年度第1回関西・中部部会が、2024年5月25日(土)に南山大学で行われた(準備委員長:南山大学経営学部 教授 窪田祐一)。
関西・中部部会長 徳崎 進 氏(関西学院大学大学院経営戦略研究科 教授)のご挨拶の後、特別講演および研究報告がおこなわれた。ハイブリッド方式(対面+オンライン)により50名近い研究者や実務家の参加を得て活発な質疑応答が行われた。
(関西・中部部会長 徳崎 進 氏によるご挨拶)
第1部は、丹羽哲也 氏(大同特殊鋼株式会社 執行役員 ESG推進統括部長)による「環境価値と管理会計-鉄鋼業を題材として―」と題した特別講演が行われた。鉄鋼業界を取り巻くさまざまな状況を踏まえ、その中でも環境課題に着目した取り組みとして大同特殊鋼の管理会計制度と原価システムに機能追加されている製品別のCO2排出量(CFP カーボンフットプリント)算定システムをご紹介いただいた。カーボンニュートラル達成への仕組みづくり、ルール形成へ同社が参画・貢献するためには、サプライチェーンの上流域で同社が生産する環境配慮型鋼材が持つ環境価値の正確性、公平性を確保することが必要であるという考えのもと、その実現のために管理会計が活用されている貴重な実践の内容をわかりやすくご説明いただいた。
(大同特殊鋼株式会社 執行役員 ESG推進統括部長 丹羽哲也 氏による特別講演)
(特別講演の際の質疑応答の様子)
第2部は、3件の研究報告が行われた。第1報告として、今井範行 氏(名古屋国際工科専門職大学工科学部 教授)による「レベニュー・マネジメントのフロント・ローディング―キーエンスとトヨタにみる戦略的レベニュー・マネジメント―」と題した研究報告が行われた。高業績を達成するキーエンスとトヨタが、企画・開発段階におけるレベニュー・マネジメントに注力している点に注目し、企業の企画・開発段階における戦略的レベニュー・マネジメントを意味する新たな管理会計概念として「収益企画」の概念が提唱された。
(名古屋国際工科専門職大学工科学部 教授 今井範行 氏による研究報告)
第2報告として、野瀬康晃 氏(名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程)による「製造現場における生産の柔軟性の評価指標と評価の事例」と題した研究報告が行われた。製造現場の業績評価が効率性指標に偏重しているという問題意識から、効率性に加えて応答性を考慮した総合力の試験的評価結果を示したうえで、それら全体のバランスを踏まえて改善活動に繋げる必要があることが指摘された。
(名古屋大学大学院経済学研究科 野瀬康晃 氏による研究報告)
第3報告として、平山睦喜 氏(広島大学大学院人間社会科学研究科博士後期課程)による「企業内部からのガバナンスとパフォーマンスの関係について―長期的視点としての投資行動に着目して―」と題した研究報告が行われた。部下取締役によりCEOをモニターする内部ガバナンスモデルは、日本の主要企業においても、CGコードをはじめとする施策の導入により、一定程度の機能が発揮されていることが実証研究により示された。また、内部取締役の性別・国籍多様性の内部ガバナンス機能が、CEOと部下取締役との年齢差に起因する内部ガバナンス機能を高める効果が示された。
(広島大学大学院人間社会科学研究科 平山睦喜 氏による研究報告)
なお、当日午前には同会場において牧誠財団の研究助成を受けた査読セミナーも実施された。