2023年度 第2回フォーラム 開催記

文責:愛知工業大学  柊 紫乃

 2023年度第2回フォーラムは,2023年7月29日(土)14時から16時45分まで,愛知学院大学 名城公園キャンパス(開催校委員長 飯島 康道氏)にて対面形式で開催されました。記録的猛暑が続く中での開催でしたが,当日は日本全国から35名の方々が参加されました。名古屋城を正面に見るアガルスタワー10階において,本学会学会長の﨑 章浩氏(明治大学)のご挨拶の後,フォーラムが開始されました。


 

 

 

 

 本フォーラムでは,基調講演に日産自動車執行役員,横浜マリノス代表取締役,Jリーグ理事などを歴任されました嘉悦 朗(かえつ あきら)氏をお迎えし,多様性を活かした企業変革についてお話をいただきました。また,第1報告として名古屋大学の坂口 順也氏,第2報告として名古屋外国語大学の原 慎之介氏からご報告いただきました。以下,基調講演と第1報告,第2報告の概要となります。

基調講演 嘉悦 朗氏(日産自動車㈱元執行役員・横浜マリノス㈱元代表取締役・元Jリーグ理事)
講演論題 「多様性を活かした企業変革:日産と横浜マリノスの再生」
司会:渡辺 岳夫氏(中央大学)

 基調講演では,日産自動車株式会社(以下,日産)における嘉悦氏の豊富なご経験をもとに,特に,変革推進のメイン・エンジンとなったCross Functional Team(以下,CFT)が紹介された。日産のV字回復に寄与したしくみの総称を”Nissan Way“と呼ぶが,それは土台となったCFTのほかに,CFTのミニ版ともいえるV-up Program(V-up),さらにこれらの活動を通して蓄積された新しいマネジメントの標準=Nissan Management Wayの3層構造を成していた。中でもCFT(日本語に訳せば「部門横断チーム」)は,日産リバイバルプラン,さらにその後のV字回復のカギであったと嘉悦氏はいわれる。
 CFTは,担当課題に関連するすべての部門から中堅層のエース級の人材を集結する。各チームは,経営トップに直結し,定期的なミーティングを通じて動機付けやアドバイスを得る一方,日常的な活動はファシリテーターとして機能するパイロットと,メンターの役割を担うリーダー(役員)によって,活動が支障なく,円滑に進むよう配慮された構造になっている。CFTと従来型チームの違いは,課題の主たる責任部門だけでなく,関連するすべての部門から派遣される「異質で多様なメンバー構成」にある。そのため,議論に時間はかかる(熟議)が,視点や発想が拡がる(多様性)という特徴をもっている。昨今,Diversity(多様性)& Inclusion(包摂)を多くの企業が掲げるようになったが,日産は,それを単なるスローガンではなく,ビジネスプロセスに落とし込んだという点で他社とは一線を画すと嘉悦氏は強調される。その運営の肝は「異質な意見も受け入れる」「妥協しない」こと。この2つを徹底することで,ブレークスルーや全体最適解にたどり着く確率が高くなるという。
 しかし,このようなCFTの仕組みだけではチームが迷走し,空中分解するおそれがある上,萎縮によって「期待値未満」の提案や,逆に忖度による「実現不可能」な提案が出てくるリスクもあるため,経営トップの関与の仕方が活動の成否に大きな影響を与える。例えば日産のCFTでは,発足直後に9人のパイロットが集められ,トップから,競争力の源(財産)とそうでないものを識別することや,社員の中に眠っている問題意識やアイデアを発掘すること,さらにしがらみを乗り越え,正しい優先順位をつけることが検討のポイントであることが示された。さらにCFTの提案に関するすべての責任はトップにあることが明言され,最後に「日産の未来を創るのは君たちだ!」と強烈な動機付けを受けたことで,メンバーの中に眠っていた潜在能力が溢れるように表に出てきたという。
 嘉悦氏はさらに,このCFTを横浜マリノスの経営に応用された。親会社である日産の支援なしでも会社として自立できることを目指した改革だったが,4年間の活動で,すべての分野における史上最高の成果をあげ,大成功を収めた。この経験を通して,ものづくり企業とスポーツチームの違いはあっても,CFTは有効であること,すなわち,CFTは変革に極めて有効かつ汎用性の高いツールであるという確信を深めた。最後に,まとめとして,「どんな企業にも,志が高く,変革のアイデアを持った社員はおり,それらの社員を広く発掘し,活用するのがリーダーのミッションである」という示唆により本基調講演は締めくくられた。

第1報告 坂口 順也氏(名古屋大学)
報告論題 「組織間での結果・行動・社会コントロール:加工組立型企業の実態調査」
司会:窪田 祐一氏(南山大学)

 第1報告では,名古屋大学の坂口氏により,組織間マネジメント・コントロールに関する実態調査結果が報告された。組織間マネジメント・コントロール研究では,組織間における管理の仕組みとして,取引相手の選択,取引相手との契約,取引相手との協働などが取り上げられてきた。一方で,従来のマネジメント・コントロール研究では,管理する対象や方法に応じた概念が利用されてきた。そこで,坂口氏は,従来のマネジメント・コントロールの概念(結果コントロール,行動コントロール,社会コントロール)を利用しながら,日本企業の実態を把握することを目的とし,質問票を基礎とした調査結果が報告された。
質問票調査は,加工組立型企業(機械,電気機器,輸送用機器,精密機器)383社を対象に,2022年2月から2023年3月にかけて実施された。各コントロールは3つの質問項目があり,回答方法は5点リッカート・スケールであった。回答を整理した結果,①結果コントロールと社会コントロールについては予想通り高かったが,行動コントロールも高かった。次に,②各コントロールにおける内訳項目について,結果コントロールでは,目標の設定と結果の評価が高く,行動コントロールでは,手続きの設定と手続きの修正が高く,社会コントロールでは,変化の共有が最も高い結果となった。
さらに,業界による回答の違いについても分析された。分析の結果,①結果コントロールは,電気機器において活発に行われており,最も低い機械と有意に差があった。②行動コントロールでは,輸送用機器と電気機器で活発に行われており,電気機器と機械の間に有意に差があった。③社会コントロールでは,機械,輸送用機器,電気機器において活発に行われていた。これらについては,Anderson et al.(2015)による解釈(戦略リスクが高いと行動コントロールが盛んに実施され,業務リスクが高いと結果コントロールが盛んに実施される)を適用して検討され,業種により重点を置くコントロールが異なることが説明された。
最後に,今後の課題として,3つのコントロールを利用したさらなる統計的実証分析とともに,重点の差に関する原因解明のためのケース分析が提示された。

第2報告:原 慎之介氏(名古屋外国語大学)
報告論題 「コロナ禍における航空業界の現状と課題-レベニューマネジメントの視点から」
司会:窪田祐一氏(南山大学)

 第2報告では,名古屋外国語大学の原氏より,コロナ禍により甚大な被害を受けた航空業界のクライシスとリスクマネジメントについて,全日本空輸株式会社(以下,ANA)と日本航空株式会社(以下,JAL)という日本の大手航空2社に注目した考察が報告された。前者は事業部制組織,後者は職能別組織という違いがあり,また,JALについては経営危機をきっかけとしたアメーバ経営(部門別採算制度)が導入されている。
 レベニューマネジメント(以下,RM)は,イールドマネジメントに比べて包括的な定義とも考えられるが,先行研究によって,区別しているもの,ほぼ同義に扱っているものもある。航空業界はRMが適用される典型的な業界である。RMの先行文献においては,伝統的なRMプロセスは,需要予測→収益の最適化→予約成立となるが,その中の収益最大化のアプローチには,価格ベースとしての「ダイナミックプライシング」や,数量ベースとしての「Littlewood’s Law」や「EMSRモデル」などがある。また,リスクと不確実性については,航空業界のリスクマネジメントに特化した先行研究のほか,レジリエンス(自然災害やテロなどの外乱への対応能力)についての研究がある。ただし,コロナ禍の場合は,長期にわたる不透明性(いつ収束するか不明)という点があり,従来のレジリエンス研究とは異なる特徴をもっている。
 日本の航空業界の取組みとしては,コロナ禍以前の段階で,GDS(Global Distribution System)からNDC(New Distribution Capability)へとシステムが変更され,ダイナミックプライシングが可能になったという前提がある。一方で,ANAとJALのリスクマネジメントについては,従前から各社の規程はあったものの,感染症リスクについては対応しきれなかった点もあった。
 航空業界におけるRMのKPIとして,以前から次の式が利用されている。UR(座席キロ当たり収入単価)=収入÷座席キロ=イールド(収入÷旅客キロ)×座席利用率(旅客キロ÷座席キロ)。RMに対するコロナ禍の影響を見るために,ANAとJALについて数値比較を行った。収益については両社の違いはあまり見られなかったが,ユニットレベニュー比較では,ANAの方が,国内旅客UR・イールドが大幅に上回っており,収入(需要)の減少に対する供給量の調整がされたことがわかった。一方で,需要回復・増加に対しては,JALの方がうまく調整できたと考えられる。
 本報告では,イールドを中心としてRM分析を試みたが,対象としたANA,JALの2社について,結果数値の違いをもたらした要因についても検討が必要である。さらに,コスト・利益への影響や,旅客以外の貨物事業,機材の小型化・削減などの意思決定プロセスについての検討などが今後の課題となる。

 最後に,開催校の飯島 康道氏からのご挨拶と夕映えの名古屋城の景色で,本フォーラムは終了しました。
 フォーラム終了後は,愛知学院大学キャンパス内のくすのきテラス「猿カフェ」に場を移して懇親会が開催され,29名の方が参加されました。本学会学会長 﨑 章浩氏(明治大学)のご挨拶の後,前学会長 伊藤 和憲氏(専修大学)による乾杯のご発声で始まり,会員各位の懇親とファーラムでの議論が続きました。懇親会の最後には,夏の年次全国大会主催校である東北工業大学の川島 和浩氏より仙台でお待ちしていますとのメッセージがあり,また,横浜国立大学の中村 博之氏による一本締めで,真夏の熱い研究議論は終了しました。