2023年度第1回リサーチセミナーは,近畿大学を開催準備校(準備委員長:近畿大学 島吉伸氏)として,2023年6月24日(土)13時30分~16時10分に近畿大学およびZoomを用いたハイブリッド形式で開催されました。当日の参加者は対面およびzoomを合わせて約30名でした。開会の挨拶,司会,閉会の挨拶については,日本管理会計学会・副会長の島吉伸氏(近畿大学)により行われました。第1報告は北田皓嗣氏(法政大学)・北田智久氏(近畿大学)・木村麻子氏(関西大学),第2報告は吉田政之氏(尾道市立大学)・井上謙仁氏(近畿大学)・濵村純平氏(桃山学院大学)・早川翔氏(流通科学大学),第3報告は張蘊涵氏(近畿大学商学研究科博士後期課程)でした。また討論者として,第1報告に対しては吉田政之氏(尾道市立大学),第2報告に対しては北田智久氏(近畿大学),第3報告に対しては島吉伸氏(近畿大学)から,研究内容の講評と今後の研究の改善に役立つ質問やコメントがなされました。また,フロアからも質問やコメントなされ,活発な議論が行われました。
第1報告
報告者:北田皓嗣氏(法政大学)
北田智久氏(近畿大学)
木村麻子氏(関西大学)
討論者:吉田政之氏(尾道市立大学)
報告タイトル:戦略レベルでの統合思考の推移とその規定要因
第1報告では,日本企業の統合報告書およびサステナビリティ報告書に開示されている経営トップメッセージのテキストデータを対象にトピックモデリングによって統合思考を評価し,その規定要因を分析した結果が報告されました。北田氏らの研究では,機械学習による自然言語処理のアプローチを用いて,経営トップのビジネス思考・統合思考・サステナビリティ思考が測定されていました。分析の結果,まず,環境に対してセンシティブな産業に属する企業は,戦略レベルでの統合思考は高まるものの,サステナビリティ思考やビジネス思考は低下することが示されました。また,株主の構成は企業のサステナビリティ思考に正の影響を与えるものの,統合思考に対しては負の影響を与えていました。さらに,統合報告書を発行することは企業のビジネス思考を強めるものの,統合思考は弱めることが示されました。
第2報告
報告者: 吉田政之氏(尾道市立大学)
井上謙仁氏(近畿大学)
濵村純平氏(桃山学院大学)
早川翔氏(流通科学大学)
討論者: 北田智久氏(近畿大学)
報告タイトル:日本企業における役員の兼任と機密コスト
第2報告の目的は,日本企業での兼任役員と機密情報との関係性を検証することにありました。先行研究から,兼任役員は企業業績に正の影響も負の影響も及ぼすことが指摘されています。本報告では,とくにこれまで見過ごされてきた負の影響について,日本企業のアーカイバルデータを用いて分析が行われました。吉田氏らの分析結果では,機密情報の高い企業グループにおいては同産業内での兼任役員を有することは,将来業績が低下することにつながることが示されました。このことは,兼任役員によって社会的ネットワークが形成され,情報流出によって競争優位の源泉が毀損し,将来業績に負の影響を与えることを示唆しています。
第3報告
報告者:張蘊涵氏(近畿大学商学研究科博士後期課程)
討論者:島吉伸氏(近畿大学)
報告タイトル:中期経営計画での経営目標がコスト変動に与える影響に関する実証研究
第3報告では,中長期経営計画における経営目標がコスト変動に与える影響を分析することによって,中期経営計画の経営目標が経営者の資源調整の意思決定に与える影響が検証されました。中期経営計画に関しては,日経500社を対象として情報の収集・整理が行われました。分析の結果,中期経営計画の初年度の売上高が前年度の売上高より増大(減少)する場合,それに伴う当該事業年度のコスト増加率の絶対値(コスト減少率の絶対値)は,中期経営計画で設定される売上高目標の達成に必要な年平均変化率が大きいほど上昇する(低下する)ことが示されました。さらに,中期経営計画で設定された営業利益目標が前年度の利益実績値より大きいほど,当該事業年度の売上高増大(減少)に伴うコストの増加率の絶対値(減少率の絶対値)は平均的に低下(上昇)する傾向が観察されました。
文責:北田智久(近畿大学)