■■ 日本管理会計学会2023年度第1回(第64回)九州部会が、2023年5月20日(土)13:50~16:30に、下関市立大学(下関市)によってハイブリッド方式(対面参加+オンライン参加)で開催された(準備委員長:足立俊輔氏)。今回の九州部会では、40名近い研究者・実務家・大学院生の参加を得て、いずれの報告においても活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1報告は、⿊岩美翔氏(⻑崎県立大学准教授) により、「フランスにおける『使命を果たす会社(société à mission)』導入についての一考察−Moquet(2010)の視点から−」と題する報告が行われた。本報告は、フランスにおけるコーポレート・ガバナンスに関する動きについて、近年の法制度の変更の状況を明らかにしつつ、それらに関するダノン社の対応とMoquet(2010)のフレームワークの位置づけについて明らかにすることを目的としていた。報告者は、Moquet(2010)のフレームワークとダノン社の事例を取り上げ、PACTE法の制定により、ダノン社はメゾレベルでの「ダノンのビジネスモデル」の一部として「使命を果たす会社」が含まれ、具体的な取り組みとして、定款にミッションが含められたことと、「ミッション委員会」が設置されたことを示した。このミッション委員会は、全社レベルの実施であることからメゾレベルに位置づけられるとし、ミッション遂行に対するモニタリング結果を毎年報告することで、社内外でダノン社のミッションが定着し、共通のビジョンが形成されていくことを考察された。このような取り組みにより、社会的価値を重視するビジネスモデルが、より確固たるものへと変化するのではないかと提言された。
写真:⿊岩美翔氏
■■ 第2報告は、足立俊輔氏(下関市立大学教授)により、「医療資源と鉱物資源の測定と管理―社会的重要資源を対象にした原価計算システム―」と題する報告が行われた。本報告は、病院原価計算で活用されているTDABCと温室効果ガス測定のための鉱物原価計算の計算プロセスを明らかにして、2つの原価計算システムを比較し、医療資源と鉱物資源という社会的重要資源の原価計算に考察を加えることを目的としていた。報告者は、病院原価計算ではDPCデータ(特にEF統合ファイル)に記録された膨大な患者データを原価計算システムに援用することで、計算システムの導入運用に係る労力やコストを抑えることができるとした。鉱物原価計算では企業の諸活動に対するGHG排出量の測定データを併用することで、製品原価計算の勘定に対応させたE負債勘定を記録することが可能になると提言された。これらの原価計算システムでは、病院原価計算の場合、医師の協力が必要となり、鉱物原価計算の場合、CO2排出量を計算するシステム・データを統合化するために、環境省や経産省、研究所のサポートが重要となるため、当該システム・データ構築に対する協力者の視点も加えることを今後の課題として示された。
写真:足立俊輔氏
■■ 研究報告会終了後、九州部会総会が開催された。次回の九州部会は、2023年11月25日(鹿児島国際大学:準備委員長 福田正彦氏)にフォーラムと合同で開催予定である。
水野真実(熊本学園大学)