2022年11月21日 篠田朝也(岐阜大学)
日本管理会計学会2022年度第2回関西・中部部会が、2022年11月19日(土)に岐阜大学を主催校として開催された。今回の部会は、Web(Zoom)を活用したオンライン開催となった。
部会の開催にあたり、まず、部会準備委員長から部会当日のプログラムや進行方法に関する説明があり、続いて、皆川芳輝関西・中部部会長から開会のご挨拶をいただいた。
その後、プログラムにしたがって、特別講演1件および自由論題報告3件の発表がなされ、いずれにおいても活発な質疑応答が行われた。参加者は42名であった。以下、講演、各報告の概要を簡単に紹介する。
第一部〔特別講演〕 司会:篠田朝也(岐阜大学)
講演者:平工忠史氏(川崎重工業株式会社)
講演テーマ:「川崎重工業におけるエンジニアから見たROIC経営の現状について」
平工氏の講演の概要は、以下のとおりである。
まず、講演の前半では、川崎重工業における事業の歴史的経緯について紹介いただいた。同社が多角化経営を推進しながらも、2000年前後に連続赤字に直面した際に、経営の立て直しを図るためROICを導入しこと、また、その後さらにD/Eレシオの目標を打ち出したことなどが功を奏し、財務体質の改善が実現できたことなどについて説明いただいた。
講演の後半では、前半の話を踏まえたうえで、航空機製造のような長期スパンの製造業態では、長期を見据えた戦略的ビジネスモデルが要求されるという点を強調され、技術の優位性だけでなく、ビジネスとしての優位性の構築を目指すべきであり、そのためにはエンジニアも巻き込んだ、ビジネス・会計教育の重要であると主張された。実際に、航空機製造に関わる海外メーカーは、グローバルな規模でサプライチェーン全体に目を向け、キャッシュフローの最適化を図りながら、効率的に稼ぐ戦略的なビジネスモデルを構築していることを、いくつかの事例を交えながら紹介された。さらに、平工氏自身が岐阜大学航空宇宙生産技術開発センターで携わられているビジネスの視点を盛り込んだエンジニア向けの教育実践ついて言及されながら、わが国の製造業においても、ビジネス感覚を併せ持つエンジニアを育成することが急務となっている点について指摘された。
第二部〔自由論題報告〕 司会:篠田朝也(岐阜大学)
第1報告
報告者:野瀬康晃氏(名古屋大学大学院経済学研究科・大学院生)
論題:「工場の改善活動とその評価について」
野瀬氏の報告は、工場における業績管理指標が効率性に偏重していることにより、余力創出の効果が適切に評価されていないことに注目したものであった。そもそも、生産現場では、不確実性に対応しながら生産量の変動に対応することが求められているため、余力創出活動に注目する意義がある。そこで野瀬氏は、不確実性の拡大に素早く対応するための応答能力に焦点をあてる必要性について言及するとともに、量的な余力の把握だけではなく、従業員の技能向上や工程の平易化のような質的な余力創出の把握の重要性について検討を深めた。
検討の結果、野瀬氏は、創出された余力が活用されなければ効率性の向上には寄与しないが、固定資源の増加の抑制には寄与することから、余力の創出にはコストビヘイビアの下方硬直性を克服する可能性があると指摘した。あわせて、応答能力の測定や経済性効果の実証を試みることが将来の研究課題であることにも言及した。
第2報告
報告者:横田遼太朗氏(名古屋大学大学院経済学研究科・大学院生)
論題:「フロントローディングが原価企画に及ぼす影響~自動車部品サプライヤーのA社を例に挙げて~」
横田氏は、ある自動車部品サプライヤー(以下A社)を調査対象とし、A社で実施された原価企画制度(A社では、商品企画制度と呼ばれている)の見直しが、原価企画の逆機能に対して与えた影響について、A社の各部署の関係者7名に対するアンケート調査の内容を分析することで明らかにしようと試みた。
A社の制度の見直しは、目標設定や部門間協業の強化や早期化、情報共有のための社内の透明性の向上などを伴うものであった。横田氏は、このようなA社の制度の変化を原価企画のフロントローリングと位置づけた。アンケート調査の分析結果から、このようなフロントローリングを伴う変化を受けて、生産技術部門や調達部門など、原価企画の後工程を中心に会社全体としては逆機能が減少した一方で、技術部門や原価部門のような原価企画の前工程では制度変化以前より疲弊が強まったことなどを明らかにした。
第3報告
報告者:大浦啓輔氏(立命館大学)
論題:「バイヤー・サプライヤー間における整合的なMCSの設計」
大浦氏は、近年注目を集める、組織間管理会計に関連するトピックとして、バイヤー・サプライヤー間における整合的なMCS(マネジメント・コントロール・システム)の設計について報告をされた。この報告の主な課題は、企業間取引において、サプライヤーはいかに自社のMCSを適応的に設計しているのかというものであった。
大浦氏は、先行研究のレビューを踏まえ、取引コスト理論と社会的交換理論に基づいて、特定のバイヤーに対する依存度、SCM(サプライチェーン・マネジメント)の実践、および、MCSの適応的な設計のあいだの関係性をとらえた分析フレームワークを提示した。そのうえで、日本の上場製造業の事業部長向けに実施した郵送質問票調査の結果に基づく定量的な分析結果から、特定のバイヤーに強く依存しているサプライヤーほどMCSを適応的に設計して依存度を強める傾向にあること、さらに、バイヤーによるSCM実践がその影響を媒介していることなどを明らかにした。
なお、大浦氏には、在外研究先のベルギーから報告いただいた。このような報告が可能となったこともオンライン開催の利点であった。
以上のように、自由論題では、製造業が強い東海地区らしい「製造業の管理会計」に関連する研究報告が3件発表され、各報告において質疑応答なども活発に行われた。