2021年12月18日
神奈川大学 平井裕久,小村亜唯子
2021年度第3回フォーラムは、2021年12月18日(土)13時30分~16時05分にZoomを用い、オンラインで開催されました。当日は、30名前後の先生方のご参加をいただきました。日本管理会計学会・副会長の椎葉淳氏(大阪大学)に開催の挨拶をしていただきました。
水口剛氏(高崎経済大学)による特別講演、北田真紀氏(滋賀大学)による研究報告(第1報告)、北田皓嗣氏(法政大学)・北田智久氏(近畿大学)・木村麻子氏(関西大学)による研究報告(第2報告)がありました。いずれの報告においても、フロアから質問やコメントがあり、活発な議論が行われました。
特別講演 水口剛氏(高崎経済大学)
講演論題 タクソノミーとトランジションファイナンス
特別講演では、気候変動問題がなぜ企業価値に影響を与えると考えられているのかについて、脱炭素社会の実現に向けた昨今の世界情勢や基準の整備状況を踏まえながら、解説されました。
企業が脱炭素を行うに当たり資金調達をするための手段として、グリーンボンドの発行がありますが、どのような活動(あるいは事業)であればグリーン、すなわち気候変動問題の解決に資する活動(あるいは事業)であると判断するか、その基準が曖昧であるという問題が指摘されていました。この問題に対し、欧州委員会がEUタクソノミーを制定しました。EUタクソノミーでは、複数の分野(業界)に対し、どのような技術・活動が気候変動の緩和に資するかについて、その基準(数値)を定めており、EUタクソノミーに合致すれば、それはグリーンな技術・活動として認められ、グリーンボンドを発行することが可能になると説明がありました。反対に、EUタクソノミーに合致しない場合にはグリーンボンドの発行が制限されるだけではなく、石油や石炭については、将来的に使用できなくなることから座礁資産と呼ばれ、石油産業や石炭産業に属している企業の企業価値は低下します。
次に、金融機関や株主・投資家が脱炭素社会を実現するため、投資先を選定する(例えば、石油産業に属している企業を投資対象から外す等:ダイベストメント)、あるいは、株主・投資家の立場から経営陣と脱炭素に向けて対話する(エンゲージメント)の2つの手法があると示されました。ただし、この2つの手法では今すぐに脱炭素を実現することは難しいが、中長期的に脱炭素することが可能になると考えられる企業に対して投資ができないという問題があり、これに対応するためにトランジションファイナンスが提案されることとなったとの説明がありました。
最後に、脱炭素を実現するためには、技術革新を企業に強いる(そのための投資やコストがかかってしまう)ことや、経済力の疲弊、石油・石炭産業等にこれまで従事していた従業員のリストラクチャリング等、様々な問題が絡むために、社会全体のトランジション戦略の策定が求められているとして、特別講演を結ばれました。
第1報告 北田真紀氏(滋賀大学)
報告論題 日本の製造業における環境配慮型活動の実態と成果に関する研究-質問票調査と聞き取り調査に基づいて-
第1報告では、質問票調査と聞き取り調査による、日本の製造業を対象とした環境保全活動の実態とその取り組みの成果に関する調査結果が示されました。
質問票調査からは、環境配慮型製品を製造していたり、事業所全体の環境負荷の計測・評価を行っていたり、CSR報告書・環境報告書を毎年作成し、公表している企業が多数存在していることが明らかにされました。ただし、同業種・異業種の企業と環境問題解決に向けた実用技術や基礎研究を共同で進めているか、という業務提携の程度は、低水準であることが示されました。
聞き取り調査からは、上記の業務提携の程度が現状では低水準であることに対し、将来的には可能になるだろうとの見込みがあり、問題視していないことがわかりました。これに対し、社内における環境・CSR担当の人員不足や、従業員環境教育の体制整備、環境会計についての社内での理解が不十分であるといった、質問票調査では明らかにできなかった具体的な課題が、聞き取り調査によって明らかにされたと報告がされました。
第2報告 北田皓嗣氏(法政大学)・北田智久氏(近畿大学)・木村麻子氏(関西大学)
報告論題 個人の資質が業績評価に及ぼす影響-Sustainable Balanced Scorecardsの利用-
第2報告では、個人レベルのCSRに関する規範(norm)や信念(belief)が、サステナブルバランスドスコアカードおよび戦略マップの表示形式を通じて、サステナビリティ業績評価の意思決定に与える影響について、実験室実験によって検討されました。
「CSRに対する規範(個人の資質・選好)とBSC等のフォーマットの表示形式の相互作用が、業績評価の意思決定にどのような影響を与えるのか」というリサーチ・クエスチョンを検討するにあたり、理論的枠組みの検討を踏まえ、CSRに関する規範がサステナビリティ指標への意思決定のウェイトを高める、その関係をSBSCフォーマットの利用が調整すると操作化されました。
実験室実験の結果、SBSCフォーマットを提示された被験者のほうが、サステナビリティ指標へのウェイトを大きくするという傾向があることが示されました。ただし、CSRに関する規範がサステナビリティ指標のウェイトに与える影響と、CSRに関する規範とSBSCフォーマットの利用の交互作用がサステナビリティ指標のウェイトに与える影響は確認されませんでした。今後の課題として、実験室実験において、CSRに関する規範をどのように測定するかがあると指摘をされました。