令和元年11月11日 足立俊輔 (下関市立大学)
■■ 日本管理会計学会2019年度第2回(第57回)九州部会が、2019年11月9 日(土)に九州大学(福岡市西区)にて開催された(準備委員長:大下丈平氏)。今回の九州部会では、関東・中国・九州からご参加をいただき、15名の研究者および院生の参加を得て、いずれの報告においても活発な質疑応答が展開された。
■■ 第1 報告は、田尻敬昌氏(九州国際大学准教授)により、「就労継続支援B型事業所における取り組み」と題する報告が行われた。本報告は、障がい者の就労継続支援事業所であるユーアイキッチン(茨城県水戸市)にインタビュー調査を行い、当該事業所で使われている「タスカルカード(作業内容カード)」が、Enablingに利用されているのかを考察することを目的としている。
報告者は、Enablingには、①修復性、②透明性(内部透明性・全体透明性)、③柔軟性の4つの設計原理があることを指摘しており、それぞれの設計原理に、ユーアイキッチンの組織目的やタスカルカードの内容を当てはめて整理している。例えば、タスカルカードが貼られているホワイトボードは1日の業務全体が事業所内で把握でき、また、障がい者間でカードの交換ができる点において、全体透明性や柔軟性が確保されていることが明らかにされている。
■■ 第2報告は、足立俊輔氏(下関市立大学准教授)より、「タスク・シフティングに病院原価計算が果たす役割」と題する報告が行われた。本報告は、厚生労働省で議論されている「医師の働き方改革」におけるタスク・シフティング(TS)の推進と病院原価計算の関係性を、病院TDABC(時間主導型活動基準原価計算)の文献レビューから整理することを目的としたものである。
報告者によれば、キャプラン=ポーターが2011年にTDABCに関する論文を発表して以来、TDABCを試験的に導入した病院を紹介した論文では、resource substitutionやreassingmentの観点からTSに関する考察が指摘されている。例えば、医師や看護師が行う業務を移管する場合には、代わりに医療補助者(Physician Assistant)、患者搬送専門者、遺伝診断士など、当該業務を行う専門スタッフを雇用することになる。報告者は、当該スタッフに支払われる診療報酬は減額されることが多いことや、キャパシティ費用率と作業時間にトレードオフが発生することに触れ、病院TDABCを実施してコストを認識する必要性を指摘している。
■■ 第3報告は、大下丈平氏(九州大学教授)より、「現代フランスコントロール論の系譜」と題する報告が行われた。本報告は、企業の不祥事や会計不正を契機として生じた「内部統制」やERM(全社的リスク・マネジメント)という企業の内部システムから提起された問題と、「持続的発展」といった言説のもとに進められる「社会的共創戦略コントロール論」といった企業の外部から提起されてきた問題を受け、ビジネス・モデルをベースに「ガバナンス・コントロール」という構想の緊要性を提示することを目的としたものである。
企業の内部と外部からの問題提起や「ガバナンス・コントロール」概念の発案は、報告者のフランス管理会計研究を通じたコントロール論のパラドックス概念の認識が出発点となっている。そして報告者は、フランス管理会計研究の第一人者であるアンリ・ブッカンが、マネジメント・コントロールの前提としてビジネス・モデルを構築したという事実を強調し、当該事実が、企業経営を経済的にモデル化することや、企業内外の協同を維持する能力を高めるために必要とされていることを指摘している。
■■ 研究報告会終了後、開催校のご好意により、学内のカフェにて懇親会が行われた。来年度の九州部会は、熊本学園大学と福岡大学にて開催予定である。